きょうの社説 2009年10月22日

◎次期郵政社長内定 釈然とせぬ元官僚の起用
 辞任を表明した日本郵政の西川善文社長の後任に、かつて「十年に一人の大物次官」と 呼ばれた斎藤次郎・元大蔵省(財務省)事務次官が内定した。

 民主党は、昨年の日銀総裁人事で、あれほど財務省出身者の起用に反対し、天下り批判 をしていただけに、釈然とせぬ人事である。小沢一郎民主党幹事長との関係が深い点もあらぬ憶測を呼ぶのは間違いなく、「官から民へ」の流れにも逆行しよう。

 政権交代に伴って、民営化方針を見直すためとはいえ、三顧の礼で迎えた民間出身の社 長をあからさまな政治的圧力で辞任に追い込んだことから、後継を民間に求めるのは難しいとの見方があった。大物官僚OBを後釜に据える人事は、そんな台所事情もあったのかもしれないが、「脱官僚」を掲げる鳩山政権の方針にそぐわず、国民の多くは首をかしげるだろう。

 私たちは、日銀総裁人事の折、民主党が財務省出身という理由で、武藤敏郎副総裁(当 時)の昇格に反対したことを批判した。総裁は何より能力最優先で選ばれるべきと思ったからであり、西川社長の後継者についても、基本的な考え方は変わらない。

 斎藤元事務次官は、1994年2月、当時の非自民連立の細川政権下で、新生党代表幹 事だった小沢幹事長とともに「国民福祉税」の導入を目指した。小沢幹事長とサシで構想を練ったとされるだけに、両者の関係の深さが気になるが、財務官僚として有能だったのは疑いないところだ。

 だが、巨大企業グループのトップとして適任かどうかは別問題である。斎藤元事務次官 の起用によって、組織も人事も「官」依存へ逆戻りしていく懸念は一層高まったと言わざるを得ない。

 国が関与を強め、全国一律のサービスを要求すればするほど、事業コストは膨らみ、収 益は減る。西川社長の下で、ゆうちょ銀行は2008年度に3800億円の黒字を計上したが、国が100%の株を持ち、トップ人事に口を挟む状況で、効率的な経営が続けられるだろうか。国民に不利益を強いる「官営化」が進まぬようしっかり監視していく必要がある。

◎加賀野菜の登録店 金沢の食文化の魅力高めて
 良質な加賀野菜を安心して購入し、味わえる目印ができた。加賀野菜の小売店や料理提 供店を対象とした取扱店登録事業である。金沢市農産物ブランド協会が店を募集し、仕入れルートやメニューを審査、年度末までに85店舗前後を認定する予定である。

 県内では地元の食材にこだわった「能登丼」や「白山百膳(ひゃくぜん)」などが地域 の食のブランド化に取り組み、注目を集めている。全国的に知名度が高まっている加賀野菜の場合は、今回の登録店を核にして、これまで以上に郷土の食材のよさを発信していけば、地域おこしにつながる効果は大きいだろう。各登録店は競い合って品質の保持や味に磨きをかけ、金沢の食文化の魅力を高めてほしい。

 全国各地で伝統野菜のブランド化が進み、京野菜も取扱店や提供店を登録して紹介して いる。今回の加賀野菜の制度は、登録店を協会ホームページや冊子などで消費者にPRする予定であるが、一層の浸透を図るためにイベントなど各種の機会を通じて登録店の存在をより広く知らせる工夫が求められる。

 青果店やスーパーマーケットの登録店は、新たな購買層を掘り起こす販売拠点の役割を 担うことになる。野菜の販売はもちろん、料理方法や品種の特性などの各種情報を分かりやすく伝えて、一般家庭での消費拡大を促したい。

 料理提供店には伝統の加賀料理や各種ジャンルのメニューづくりをはじめ、「健康野菜 」の効用など、食材の特長を存分に引き出した料理を期待したい。菓子やデザートからも新たな特産品が生み出される可能性を秘めている。加賀野菜のよさを追求する料理店が増える分、金沢の食の彩りが増すといえる。

 北陸新幹線金沢開業に向けても、食を通じた誘客促進は大きな課題の一つになっている 。加賀野菜は貴重な地域の資源であり、登録店が豊かな食文化に出合える場になるように努めてほしい。販路拡大の積み重ねが、収量の確保や後継者の育成にもつながっていくだろう。