最新記事へリンク

所長
神浦元彰
軍事ジャーナリスト
Director
Kamimura Motoaki
Military Analyst

English Column of This Month!VOICE OF Mr.KAMIURA

What's new

日本や世界で現在進行形の最新の軍事情報を選別して、誰にでもわかるような文章で解説します。ホットな事件や紛争の背景や、将来の展開を予測したり、その問題の重要性を指摘します。J-rcomでは、日本で最も熱い軍事情報の発信基地にしたいと頑張ります。(1999年11月)

2009.10.22

 普天間移設 「米大統領訪日が期限」 国防長官、決着要求 

カテゴリ米軍再編出典 読売新聞 10月22日 朝刊 
記事の概要
岡田外相が20日にゲーツ長官と会談した際、沖縄の米海兵隊普天間飛行場の移設問題について、ゲーツ長官が11月12〜13日のオバマ米大統領訪日までに結論を出すように求めていたことがわかった。

岡田外相は「出来るだけ早期に結論を得たい」と述べるにとどまり、会談はすれ違いに終わった。

米側は、ゲーツ長官が訪日して行った対日調整が事実上不調に終わり、普天間問題が長期化することで、大統領訪日に悪影響が出ることへの警戒を強めている。

日米関係は緊迫した局面を迎えている。

鳩山首相は現行計画の移転先である名護市で来年1月に行われる同市長選後まで判断を先送りする方針を示した。
コメント
なんともサービス過剰な対米配慮の記事である。鳩山新政権は今までの自民党政権の「アメとムチ」の基地対策と、防衛利権だらけの普天間移設問題を見直したいと言っただけで、もう明日には日米関係が絶望的に悪化するというような記事である。これではアメリカと組んで鳩山政権を脅すようなものである。

日米間で両国の関係を強化しなければならないことは、日米軍事同盟だけではない。長期間の自民党支配に嫌悪した日本国民が、新たな政権に期待して鳩山政権を発足させると、それがまさに反米であるように報じる姿勢に問題がある。

それから変だと思わないか。急にゲーツ長官が1ヶ月もない限定期間をつげて、それで辺野古沿岸基地の建設を決めろと迫る態度である。そんな簡単に決められる問題ではないことを、今までの経緯から日米双方が知っているはずだ。

私は昨夜出演したラジオ番組で、「ゲーツ長官は怒ったフリをしているだけだ」と話した。瞬間湯沸かし器ではあるまいに、急に日本政府の防衛首脳に向かい「辺野古沿岸基地を決めろ」と強要する姿勢に疑問と違和感を持ったからだ。

相手が辺野古沿岸への移転を決めた自民党政権なら理解できるが、辺野古沿岸への移転に反対した政党に対して、政権樹立直後に前政権の悪策を強要するという話ではないか。

そこで、ゲーツ長官がなりふり構わず辺野古沿岸案で決着させたい理由を考えた。まず浮かんだのは、今年6月4日に米上院軍事委員会で米海兵隊のトップであるコンウェン総司令官(大将)の発言である。コンウェン司令官は在沖海兵隊のグアム移転を見直したいと述べている。(後日、発言を撤回)
しかしグアム移転を嫌う詳しい説明は報じられなかった。

そのことが気になって、私は先月末にグアムに行った。セスナ機をチャーターして在沖米海兵隊が移設してくる予定のアンダーソン空軍基地の一部を空から見た。そしてあまりの狭さにあ然としたのだ。これでは米海兵隊がグアムに行きたくない理由がわかる気がした。即応、即戦の米海兵隊にとって、グアムでは実戦に近い訓練を行う演習場が確保できないのだ。

だからグアムに移転した海兵隊は、訓練のたびに島外にでて行う必要がある。それでは即応部隊の海兵隊はグアムの新基地で大きな欠陥を抱えることになる。

その上、米海兵隊がグアム移転の理由とした東南アジアのイスラム原理主義過激派(ジャマー・イスラミアなど)は、意外なほど弱い組織の戦闘集団であることがわかった。これもグアム移転の大義名分は半減する。」

こうして米国防省は、沖縄の海兵隊を再び沖縄に居座ることを密かに決めたのではないか。そのための新基地として辺野古沿岸の新基地建設を急ぐ理由が生まれた。

日本政府や沖縄住民には、海兵隊のグアムに移転は沖縄の負担を減らすためと説明しておきながら、実は沖縄からグアムに移転することは形式だけにして、実働部隊の大部分を沖縄に残す戦略に変更を行ったのではないか。

今回のゲーツ長官の訪日で、辺野古沿岸基地建設を急ぐ理由はそれ以外に考えられない。だからゲーツ長官は日本政府に圧力を加えるために、わざと「怒ったふり」をしたのだと思った。

しかし日米同盟の重要性を認識し、強固な日米関係を築くために、沖縄の基地負担を軽減しようと頑張ってきた人たちを裏切ったことになる。

いつか機会があれば、ゲーツ長官にそのあたりの話を質問してみたい。
BACK