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大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

VAIO X/Lに予約殺到。Windows 7時代のPC事業戦略とは
〜ソニーVAIO事業本部・赤羽副本部長に聞く



 ソニーは10月19日から、ソニースタイルでプレミアムボードPC「VAIO L」シリーズの予約販売を開始。さらに、20日からはモバイルノートPC「VAIO X」シリーズの予約販売を開始した。事前の反響の高さを裏付けるように予約が殺到。この2日間は、何度かサーバーがダウンする状態が続いたという。

 Media Galleryの操作性や、Xシリーズの薄型・軽量に注目が集まっているほか、Windows 7を搭載したPシリーズの発売を待っていたユーザーも多かったようだ。Windows 7時代におけるVAIO事業はどうなるのか。そして、今年4月に全社規模で実施された体制変更によって、VAIO事業はどう変化するのか。ソニー VAIO事業本部・赤羽良介副本部長に話を聞いた。

VAIO L VAIO X ソニースタイルにはアクセスが集中している旨の掲示がある

――Windows 7の発売にあわせて投入されるモバイルノートPC「VAIO X」シリーズ、プレミアムボードPC「VAIO L」シリーズへの注目が集まっています。予想以上の反響ですか?

ソニー VAIO事業本部・赤羽良介副本部長

赤羽:ソニーは常に、驚きと感動をお客様に提供したいと考えています。今年前半に発売したVAIO type Pでは、ライフスタイルを変えるという「驚き」を提案することができた。見ただけで「おっ」と思っていただける製品だったと思います。

 そして、VAIO Xシリーズでは、type Pと同様に、見ただけでやはり「おっ」と思っていただける薄さを実現し、手に持ってもらえばその軽さに「ワォ!」という驚きがある。さらに、Xバッテリを接続して約20.5時間のバッテリ駆動が可能なことを知ると、「フムフム」という感動がある。驚きと感動が3段階でやってくる製品です(笑)。私も、半月ほどVAIO Xシリーズを使っているのですが、朝から夜まで1日中会議室のなかで、バッテリだけで動作させたが、夜にはまだ3分の1ほど残っている。電源を気にしなくていいというのは仕事の仕方そのものを大きく変えますね。

――これ1台ですべて済んでしまう?

赤羽:そうです、と言いたいところですが、私はtype Zと、type Pも使っていまして、それぞれにいいところがある。type Pは、会議室から食堂にいった場合にも、ポケットに入れられますから、食器を乗せるトレイを取るのに両手が使えるようになる。これは大きいんですよ(笑)。電車の中でも立ったままでも広げて操作できますし、この利便性は高い。また、type Zは、PowerPointの作成など、大きな画面サイズが必要で、パフォーマンスや操作性が求められる場合には最適ですからね。しばらくはこの3台を使いわけようと思っています。

――先日の発表会では、VAIO Xシリーズの開発が始まったきっかけとして、設計部門とスタッフ部門の若手有志による提案があった、というエピソードが披露されました。

赤羽:周辺機器やソフトではこうした提案例はあるのですが、PC本体における製品企画の提案が、通常の企画以外の形で採用されたことは、ソニーの中でも異例のことです。最初にモックアップを見たときには、「本当にできるのか」と念を押しましたよ。

――この製品企画を進めた理由は?

赤羽:確かに、過去にも提案があったことはあったのですが、棚上げされることが多かった。しかし、この製品企画には、見た目に大きなインパクトがあった。私自身、一目みて感じたのは、薄さに関しては構造上、いけるだろう。だが、これを高いレベルでバランスできるのかという点では、ハードルがあるだろうな、ということでした。最初に掲げた目標は、重さが630g(実際には最軽量モデルで655g、店頭モデルでは約765g)、Lバッテリ(4セル)での連続駆動時間が13時間(同10時間)、コストももう少し戦略的なものでした。正直なところ、目標には到達しませんでしたが、それでも満足していただける高いレベルでバランスが取れたと考えています。

 どれかを犠牲にするという逃げ道は認めませんでした。ただ、高いバランスを達成するために徹底したのは、「パフォーマンスよりも、モビリティを重視する」ということ。モビリティを重視したのは、Xシリーズを利用する環境を想定すると、メールやネット接続、オフィスアプリケーションの利用が中心となり、パフォーマンスを求めるよりも、長時間駆動や軽量化が重視されることが多いからです。また、近い将来に訪れるクラウド環境を想定すると、やはりパフォーマンスよりもモビリティということになる。24時間ネットワークにつないで利用するということも想定したものになっています。

 一方で懸念したのは、Atomを搭載する時点で、それでは駄目だという先入観があることです。とくに、営業部門やマーケティング部門ではそういう傾向が強い。そうではなく、Atom ZとWindows 7の組み合わせであれば、必要十分といえるだけのパフォーマンスが実現できるということを証明する必要があった。パフォーマンスについては、ある程度いけるという読みはあったのですが、実際に動かしてみて、それが正しいことがわかった。それ以降、この製品は行けるぞという手応えを強く感じるようになりました。

――ソニーには、ネットワークサービスを全社規模で見直す動きが出ています。Xシリーズのコンセプトもそれを視野に入れていますか?

赤羽:広い意味で捉えれば、そういった観点も一部にはあると考えてもらっていいでしょう。今年4月からスタートした、VAIO事業本部が属するネットワークプロダクツ&サービスグループ(NPSG)では、PlayStaion Networkサービスを核にして、ソニーグループが提供するネットワークサービスの全体像をどうするかといったことを検討しています。BRAVIAやウォークマン、そしてVAIOといったデバイスと、サービスがシームレスにつながるなかで、どんなことが実現できるのか、これはぜひ楽しみにしていてください。Playstation NetworkにVAIOがつながるといった使い方も、可能性の1つとしてあるかもしれません。

ソニー VAIO事業本部・赤羽良介副本部長

――プレミアムボードPC「VAIO L」シリーズで実現したMedia Galleryは、Windows 7のタッチ機能を使い、ソニーらしい新たな提案を行なっています。

赤羽:直感的な操作性を実現するMedia Galleryは、その操作性だけではなく、PCの収納されている懐かしい写真や動画、好みの音楽を、VAIO自身が探し出してくれるという、インテリジェンス性を備えています。これまでのPCでは実現できなかったライフスタイルを提案することができる。そして、Media Galleryの機能は、PC本体に用意されたVAIOボタンから一発で起動するように設定しています。

――「VAIO」という製品名を、PC本体にボタンとして搭載した点で、'96年にVAIOの第1号製品を発売して以来踏襲し続けてきたコンセプトを、このボタンに集約したという考え方もできそうです。

赤羽:2004年のDO VAIOの提案のときに、リモコンにVAIOボタンを用意したことはありましたが、PC本体にVAIOボタンを用意したのは今回が初めてです。VAIOボタンを押したときに、Media Galleryを起動させるという使い方提案を前提として用意しました。VAIOボタンで目指したのは、生活の中で、VAIOをもっと身近に使ってもらおうということです。

 例えば、家に帰ると、何の気なしにTVのスイッチを入れますよね。とくにどの番組が見たいというわけではなく、チャンネルを変えていって、なんとなく見たい番組が映って、それでそのチャンネルにしておくという使い方が一般的ではないでしょうか。それと同じように、家に帰ったら、まずはVAIOボタンを押してもらう。そうすると、1年前の同じ日の写真がVAIOの画面に映り、「ああ、1年前はこんなことをしていたか」と思う。また、最近気になる音楽のミュージッククリップがYouTubeに上がっていて、それを見ることができるように準備されている。こんな風に、生活の中に自然にVAIOが入り込むといった使い方を提案するものなんです。

――VAIOボタンは今後、搭載機種を増やしますか?

赤羽:その予定です。なるべく多くの機種に広げていきたい。ビジネス向けモデルについては、VAIOボタンは必要ないという見方があるかもしれませんが、だからといって搭載しないと判断するのではなく、なにか提案ができないかということを前向きに考えていきたい。ネットブックも同様で、Media Galleryをストレスなく利用できるパフォーマンスが実現できるようになれば、VAIOボタンを搭載したいと考えています。

――ソニーは、2009年度のVAIOの出荷計画として、全世界で前年比6.9%増の620万台(前年度実績は580万台)を掲げています。折り返し点を迎え、上期の成果はどうですか?

赤羽:上期は想定通りに厳しい状況でした。そうした中で、ネットブックのVAIO Wシリーズを投入し、日本では予想を上回る実績をあげた。また、4月の組織改革によって、NPSGのなかにVAIO事業本部が含まれたことで、これまでにはない連携ができるようになった。来年度以降のネットワークサービスに広がりに向けた準備を、着実に進めることができたと考えています。

――NPSGのなかに、VAIO事業本部が含まれたことによる具体的な成果はすでに出ていますか?

赤羽:一例をあげるとすると、NPSGには、PlayStation事業を行なっている別会社のソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が含まれていますが、これまでには会話すらなかったSCEとの連携が急速に進んでいます。例えば、VAIOの周辺機器の中には、Bluetoothに対応したマウスやキーボードがありますが、これらが高い親和性を持って、PlayStationで利用できるような改良が始まったり、Windows 7搭載のLシリーズでは、HDMIでPlayStation 3と接続して、ビクチャー・イン・ピクチャーでゲームをしながら、同時にインターネットのサイトを表示できるようにした。ゲームをしながら、ゲームの攻略法を紹介しているサイトを表示できるといった使い方もできる。これは便利ですよ。

 また、11月1日から日本で発売される予定のPSP goでは、ゲームをダウンロードするためのPC用ソフトウェアを同梱して、VAIOでゲームをダウンロードして管理し、それをPSP goで利用するという使い方もできる。ネットブックのWシリーズでは、光学ドライブがありませんから、サイトからも管理用ソフトをダウンロードするといった仕掛けも用意しました。このように、1年前には考えられなかったような連携が始まっています。お互いに情報交換する場が増え、相互に提案する風土ができたことが大きいといえます。

――2009年度下期のVAIO事業の取り組みは?

赤羽:上期は勝負を仕掛けるというタイミングではありませんでしたが、下期は積極的に仕掛けていきたい。Windows 7の発売にあわせて投入した新製品に続き、年明けにも引き続き新製品を投入していくつもりです。また、ビジネス向けPCについても、すでに他社で出ている分野で競合するというものではなく、新たな市場を創出するという観点から製品を投入する考えであり、それに向けた準備を本腰を入れて進めている段階です。

――VAIO事業は、付加価値戦略とボリューム戦略の2本立ての戦略を明確化しています。下期のバランスはどうなりますか?

赤羽:日本や中国、ロシア、中近東といった国では、VAIOの付加価値を理解してもらいやすい。しかし、北米や欧州の主要国では、価格に対する要求が高い。国や地域によって、どこにポイントを置くかを捉えて展開していく必要があります。

 現在、ボリュームゾーン向けの代表的製品として、Nシリーズを用意しています。日本でもソニースタイルを通じて販売しており、最下位モデルでは59,800円からという設定にしています。欧米では、価格先行型のメーカーに比べると、VAIOの価格設定は1割程度高いものとなっていますが、低価格競争に追随するつもりはありません。見た目にはVAIOらしいデザインを採用し、天板1つにもこだわっている。また、画面の表示能力などでも差別化している。ボリュームゾーンの製品は、出荷計画全体の約6割を占めることになるでしょうが、ソニーならではのこだわりを必ず加えていくつもりです。

 とにかく、VAIOである以上、格好いいものを作り続けたい。持つことが楽しいと思ってもらえる製品を提供し続けていく。今後は、パフォーマンス重視のモバイルPCの開発や、新たなアフターサービスの仕組みを導入して、次もVAIOを購入してもらえるという取り組みも加速していきたい。来年春ぐらいには、これらが形になるでしょう。下期から来年にはかけては、経済環境の変化も見えてくるでしょうから、ますます積極的に仕掛けていきたいと考えています。

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