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■自著を語る

2009/10/06
北村毅さん

死者たちの戦後誌

北村毅さん

(早稲田大学高等研究所准教授)

きたむら・つよし 1973年北海道生まれ。早稲田大学人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。文化人類学、民俗学、近現代日本社会論。沖縄や旅順の戦跡を対象に日本の近代化や戦後について考えている。


■『戦死後』の痛みを知って

 沖縄戦の戦場となったガマ(自然洞窟(どうくつ))の中に初めて入ったときのことは忘れられない。その完全な暗闇の中で、私が考えていたことは、この中で死に場所さえ伝えられず死んでいった人びとのことであった。そこから本書の研究は始まった。

 研究を進めていくうえで、次第に私は、戦場で戦死した人びとがどうなってしまったのかが気になってきた。人びとが戦場へと動員されていった過程に関する研究は多い。戦場で死んでいった人びとの様子を克明に伝える体験記録も数多く存在する。しかし、戦場で死んでいった戦死者の<その後>を教えてくれる研究や記録は少なかったので、自分で一つずつ調べていくよりほかなかった。

 彼らは、その死後、どのように扱われ、埋葬され、悼まれ、記憶され、語られてきたのか。これらの問いかけを出発点として、全国各地で沖縄戦体験者や遺族から話を聞き、沖縄の戦跡を歩き回り、戦死の<その後>、すなわち「戦死後」をたどったのが本書である。

 多くの人びとが戦死者を抱えながら生きてきたという意味で、戦後とは「戦死後」の時代だった。「戦死後」とは、戦争で身近な存在を喪(うしな)った人びとの痛みでもある。これまでの思想家や政治家を主役とする戦後史においては、この痛みが置き去りにされることが多かったように思う。本書を通して、戦死者を抱えて生きてきた人びとの戦後の歩みについて多くの方々に知っていただきたい。

 住民を巻き込んだ地上戦が展開された沖縄の島々では、戦跡は人びとの生活圏と重なっている。決して無人の荒野が戦場になったわけではない。人びとが暮らしている場所が戦場となって、命を落としていった者がいるということである。そして、戦後も、遺骨や不発弾が埋没した地に人びとは暮らし続けた。

 遺骨収集の現場では、地下の暗闇の中に埋もれた骨片に触れる機会が何度もあった。こうした名も知れぬ骨の持ち主が、人知れずどんなふうに死んでいったのか、私はそこから自分の死へと思いいたる想像力を読者と分かち合いたいと思う。

( 御茶の水書房 ・ 四二〇〇円 )

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