トップ頁 > WEB連載 > WEB連載 情報産業に明日はあるか > 第2回 大手新聞社が倒産する日

WEB連載

WEB連載

WEB連載

WEB連載 バックナンバー

情報産業に明日はあるか 山本一郎 (イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役)

第2回 大手新聞社が倒産する日
欧米の新聞社は死屍累々の事態に

 日本より一足先に、欧米の新聞業界は再編の渦中に突入した。彼らの悪戦苦闘の経営史は、本当に歴史に残る凄惨な状況である。

 マスメディアとしての資本蓄積が進まなかった欧米の新聞社の事例では、日本の数年後を予見させる倒産劇が相次いでおり、もはや死屍累々といった事態になっている。アメリカでは地域ペーパーも含めて140近い新聞社、出版グループが参入しているが、21世紀に入ってから発行部数を伸ばした企業は事情が共通している。他新聞社を買収したか、通販事業など別事業から参入を受けて新聞という形態をとらない部数を増やしたか、フリーペーパーのような安価な情報提供手段を並存させ見た目の発行部数を出しているかである。純粋に新聞事業を拡大して発行部数を増やし、経営状態を改善させている新聞社は1社もない。

 そして、ABC(Audit Bureau of Circulations)によると、米主要新聞の発行部数は前年に比べ7%も減った〈80ページの図表2参照〉。同様に、新聞業界全体の広告受注金額は、08年通年で前年比17%の減少とされる。これには、自社広告や自社の通販事業のグループ内広告出稿が含まれており、実際の真水部分の広告売上はもっと減少していると思われる。

LBOの危険なシナリオ

 個別の新聞社の経営状態でいうと、08年12月に米大手紙『シカゴ・トリビューン』を傘下に持つトリビューン社が経営破綻に追い込まれ、1兆2000億円の負債を残して「チャプター11」入りした。日本でいう民事再生法であるが、これは07年にサミュエル・ゼルがトリビューン社の持つ資産を担保にして7000億円の資金を借りて企業買収を行った、いわゆるLBO(レバレッジド・バイアウト)という手法の一番危険なシナリオが実現してしまったパターンだ。当時の『シカゴ・トリビューン』の発行部数は公称44万部、新聞外収入も合わせると日本の全国紙でたとえるならば毎日新聞の売上規模に相当する。

 このLBO、すなわち企業買収側にキャッシュが乏しくても相手企業を買収することのできる便利な手法は、逆説的に資金的な支えは買収された側の経営状態が健全であり恒常的にキャッシュが生み出せる利益体質があることが枢要なポイントである。

 利益率の高い企業をLBOで買収すると、元手の資金が少なくても多くの利益を稼ぎ出すことができるため、非常に高利回りの投資案件に化けることになる。だが、逆に金利負担も満足にできないような低利益率の企業や赤字に転落した企業をLBOすると、資金的なバッファが持てず、あっという間に破綻に追い込まれるわけだ。トリビューン社の場合は、買収提案を受けた時点ですでに経営的には新聞紙の販売部数や広告売上の減少、販路である新聞スタンドの組織率の低下などの経営的な課題が山積していた状況で、仮にここを買収して経営をてこ入れしようと考えた場合にはそれなりの金額を追加投資して経営を改善させる必要があった。

 経営権を買い取るために借入金を起こしておきながら、その経営を改善させるために追加で資金を投じる事業計画には無理があったが、LBOによる買収ではこのような考え方は一般的で、事業を買収した当時はそれほど計画が困難だという声は上がらなかったという。当時、アメリカ経済は好況のただ中で、この手の事業で投資資金を集めるのにそれほどの苦労はなかったからだ。

 実際に、トリビューン社を買収したときの事業計画は、新聞事業における売上規模は最低限維持し、物販売上や不動産情報を扱う情報売上のような異業種への進出が低下した新聞事業での売上を補填する形で事業を拡大する前提で組まれていた。

 新聞事業を中核とした情報産業をコアに、生活情報から通販、不動産事業が展開されるというその計画は、特に売上の不振で半年も経たず実際の経営内容から乖離していったため、後付的にネットへの進出や契約記者の解雇など経営の再建に乗り出さざるをえなくなった。

 事業は当初から計画どおりにいかなかったが、その主たる理由は、想像を上回る新聞事業の不振にあった。経営の最適化による再建のスピードを売上の不振が拡大するペースが上回り、買収から2年程度であっという間に経営破綻に追い込まれたわけである。

 後述する他の新聞社の経営再建のあり方と同じように、トリビューン社も経営の観点からすれば打てる手はすべて打ったが、そこで浮上し経営的に離陸するために充分な体力を残していなかった。新聞社の経営再建において、同様のケースは全米各地で起こっており、意地の悪い見方をすれば、新聞社はすでに独自で経営再建を果たすだけの資本力や経営リソースを失っている、とも言える。

WEB連載 バックナンバー

WEB特別企画

サーティファイの検定試験は、企業単位で受験されるケースも少なくないとのことですが、どのような局面で活用されているのでしょうか。

ビジネスパーソンにコンプライアンス・センスが必要な理由”

夢の自動車「燃料電池車」が一般家庭に普及するのはもうしばらく先になるようだが、「燃料電池」自体は家庭に導入される日が近づいてきている。いよいよ「燃料電池時代」の幕が開こうとしているのだ。

燃料電池の家は“世界一”

質の高い眠りを得るためには、どのような寝具を選ぶのがよいのでしょうか。そのポイントを伺いました。

開発のプロに聞く『シニアのための寝具選び』

地球環境問題は一国や一地域、一個人の努力だけでは「どうにもならない」が、さりとて悪化し続ける地球環境を座して見ているわけには行かない。

[日本のエネルギーを考える]建物の管理ドクター

WEB連載

野口悠紀雄(早稲田大学教授)

「オフショア」「タックスヘイブン」の姿を知ることで、日本経済の問題点と進むべき道が見えてくる!
第2回 タックスヘイブンは存在悪か?

『現代版宝島物語――「オフショア」の秘密』

斎藤 環(精神科医)

フィクションとリアルの混同とは何か。サブカルチャーに精通する精神科医が、映画、漫画、小説などから読み解く現代世相
第2回 あらゆる関係はS−Mである

「虚構」は「現実」である

八木秀次(高崎経済大学教授)/
三橋貴明(評論家、作家)

本当は恐ろしい外国人参政権問題、人権擁護法案問題……。うっかり政権を任せてしまった日本国民の暮らしは、未来は、どうなる!
第1回 日教組の「悪法支配」を許すな

民主党政権の化けの皮を剥ぐ

山本一郎(イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役)

激減する広告出稿、止まらない無料化の潮流……。岐路に立つメディアの未来をネット界のカリスマが一刀両断!
第2回 大手新聞社が倒産する日

情報産業に明日はあるか

通販のユーコー

ビットウェイ・ブックス

ビデオ アーカイブズ プラス

トップ頁 > WEB連載 > WEB連載 情報産業に明日はあるか > 第2回 大手新聞社が倒産する日