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社説

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郵政見直し―民営化の本旨を忘れるな

 郵政民営化を見直す基本方針を鳩山政権が閣議決定した。小泉政権が4年前の郵政選挙後に成立させた郵政民営化法を廃止する大転換だ。

 株式会社の形は残すが、持ち株会社の下に郵便局、郵便事業、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険という4子会社がぶらさがる今の体制を根本から変えることになりそうだ。

 閣議決定では、ゆうちょ銀行、かんぽ生命に対し、銀行法や保険業法以外の規制を設ける。そのうえで、郵便に課している「全国一律サービス」の義務を預貯金と生命保険にも広げ、郵便局で一体的に提供する。

 地域格差を是正し、生活弱者の権利を守る役割を郵便局に持たせ、地域行政の拠点にもするという。

 郵政事業の将来を考えるうえでもっとも重要なのは何か。この事業が国民の生活を支えると同時に、自立した事業として存続することだ。民間と対等な競争が確保されることも大事だ。

 現行の持ち株会社と4子会社の体制は、多様な事業の経営に規律をもたらし、「丼勘定」を排して経営改革を進めるうえで一定の合理性があるものと考えられてきた。

 政権交代により、公約に基づいて民営化の方針が変わるのはやむを得ない。だが、国民への甘えや非効率をなくす、という民営化の大原則までゆがめてはならない。

 新たな「郵政改革の基本方針」が郵便局ネットワークの公共性を重視するのは分かるが、経営の効率性や民間との対等な競争をどう考えるかが不透明だ。明確な理念と全体像が早急に示される必要がある。

 格好は株式会社だが、中身は郵政公社以前の「親方日の丸」体質に戻る、というようなことにならない保証はあるのだろうか。

 民営会社の衣をかぶっていれば、旧特定郵便局長の政治活動も自由だ。そういうところだけつまみ食いして、本当に守らなければいけない「民営化の本旨」がなおざりにされはしないか。今後の制度や組織の設計次第の面はあるにせよ、政府は国民に対して将来にわたって責任が負える事業モデルを示す責務がある。

 日本郵政持ち株会社の西川善文社長はきのう記者会見し、辞意を表明した。政府の方針転換という事態を考えれば、他に道はなかろう。

 西川氏は金融を肥大させる一方、本業である郵便事業の回復には成功していない。古い官業体質に民間の理念や手法を根付かせようとしたが、果たせないままの退陣となる。

 社長以下の経営陣を代えればそれで済む話ではない。後継者が官業の論理に流されず、民営化の精神を貫く人々でなければ、日本郵政の改革は行き詰まり、経営は漂流しかねない。

核廃絶への道―賢人会議案よりも前へ

 核廃絶への具体的な道筋を検討してきた国際賢人会議(共同議長・エバンズ元豪外相、川口順子元外相)が最終会合を広島で開き、来年1月に発表する報告書の最終原案をまとめた。

 昨年6月に広島を訪れたラッド豪首相の呼びかけに日本が応じ、国際賢人会議が設置された。07年に米紙に小論「核のない世界」を発表した米国の「四賢人」のうち、ペリー元国防長官が会議のメンバーとなった。あとの3人のキッシンジャー元国務長官、シュルツ元国務長官、ナン元上院軍事委員長も諮問委員として加わり、世界の知恵を結集してきた。

 世界ではこれまで官民から多くの核廃絶構想が出されてきたが、際立った政策にはつながらなかった。そこで国際賢人会議は、主要国の立場の数歩先を見据えて、核廃絶に向けて実際に世界が動くような行動計画を目指した。

 広島でまとまった廃絶への道筋は次のようなものだ。

 2012年までに包括的核実験禁止条約を発効させる。核を持つすべての国が軍縮交渉の準備に入る。核の役割を核攻撃の抑止に限定し、非核国には使用しない。25年までに核兵器ゼロに手が届くような状態へと進む。核保有国同士の先制不使用にも合意する。核兵器禁止条約作成の準備も進める。その後、核抑止が不要になるような国際環境をつくって、廃絶する。

 核をなくす目標年は明示していない。核実験した北朝鮮や、核開発疑惑のあるイランへの対応に妙案を示しているわけでもない。それでも核依存の安全保障を改め、核を非合法化していく道筋を示した重要な行動指針である。集中的な外交努力で、次々と実行に移したい。

 日豪の連携が今後とも鍵となる。鳩山由紀夫首相とラッド首相は、提言を踏まえて核問題で協力していくことで一致している。両国がオバマ米大統領の核軍縮外交を後押しし、共感する国を広げていけば、今回の提言を政策に結実させる大きな力となろう。

 来年5月には、核不拡散条約(NPT)の再検討会議がある。核兵器国が軍縮を進め、それがテコになって不拡散体制も強化されるという好循環を、米国と日豪でつくっていきたい。

 もちろん、提言の想定より早く実行できるものは、どんどん先行させていくべきだ。たとえば核の役割を低め数を減らしていくうえで、先制不使用が重要な転換点となる。

 外務省、防衛省内では「核の傘」の力が弱まるとして慎重論が根強い。しかし岡田克也外相は18日の講演で、核先制不使用の方向が大きな流れであり、具体的に何ができるかを議論すべきだとの考えを示している。

 この論議を被爆国から発信し、一刻も早く世界の主流としたい。

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