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難問山積「圧勝民主党」よろめきながらの船出

2009年10月19日 フォーサイト
 民主、社民、国民新の三党は九月四日、東京・赤坂の「ANAインターコンチネンタルホテル東京」の一室で衆院選後初めての幹事長級会談を開いた。議題はもちろん、三党連立政権樹立に向けての意見調整である。
 この会合への出席にあたって、社民党の重野安正幹事長には、ぜひ民主党の岡田克也幹事長に問い質しておきたい点があった。それは、民主党の鳩山由紀夫代表が、政府内に新設すると提唱した「国家戦略局」についてである。
 マスメディアでは、国家戦略局の設置が既定事実のように報じられている。だが、民主党から社民党に対して、それまでこの組織についての説明は一切なかった。席上、重野氏は尋ねた。
「ところで、岡田さん。国家戦略局というのは一体何なのですか。連立政権の政策を話し合う前に、まず、それを説明してほしい。政権の土台がわからなければ、政策だけ合意しても意味がない」
「いや、実はですね。この国家戦略局については、うちの党の中でも、よく理解している人間は五、六人しかおりません。ちょっと今ここで説明することはできません」
 岡田氏の煙に巻くような返答を聞いて、重野氏は釈然としないものを感じながらも言った。
「では、後日、戦略局についての資料をいただきたい」
「わかりました」

誰もわからぬ「国家戦略局」

 民主党の衆院選マニフェストによると、国家戦略局とは、「総理直属」の機関であり、「官民の優秀な人材を結集して、新時代の国家ビジョンを創り、政治主導で予算の骨格を策定する」ためのものである。どうやら、鳩山政権の中核を担う組織のようではある。
 しかし、どんなメンバーで構成され、いかなる権限を持ち、どのような政策決定を行なうのか、法的な位置づけはどうなっているのか――。
 重野氏の言う通り、たしかにこの文章だけでは、さっぱりわからない。しかも、民主党内でも五、六人しか理解していないとは……。重野氏は「五、六人って。冗談なのか、本気なのか」と困惑した。
 数日が経過した。だが、待てど暮らせど、社民党のもとには民主党からの資料は届かない。そうこうするうちに、新聞各紙が社民党の福島瑞穂党首が入閣する見通しだ、と一斉に報じ始めた。九月七日には鳩山氏自身が社民、国民新両党の党首クラスの入閣に言及した。
 三党間で、国家戦略局をはじめとする政権の骨組すら合意に達していない段階、まして連立を組むかどうかも正式に決まっていない時点で、党首の入閣が報じられたことに、社民党は憤慨した。
 こんな調子で、すべて民主党の言いなりに物事が決まっていけば、与党における社民党の存在意義は希薄になる。重野氏は同日、記者団にこう語った。
「物には順序がある。閣僚人事のことは新聞で読んで、『何だ、これは』と思った。国家戦略局なるものも独り歩きしている。こちらは何も知らないんでね」
 この日の夜、重野氏は岡田氏に電話で抗議した。
「連立協議、連立協議と言いながら、求めておいた戦略局の資料がいつまでたっても届かない」
 なぜ、民主党は国家戦略局に関する資料を社民党に渡さなかったのか。その答えは簡単だ。そんな資料はどこにも存在しなかったからである。九月上旬、民主党の直嶋正行政調会長は親しい関係者に、ぼやいた。
「国家戦略局については何も決まっていない。私も途方に暮れて困っている」
 岡田氏が図らずも語ったように、この時点では、ごく少数の人間を除いて民主党幹部さえ、その実態を知らなかったのだ。
 だが、国家戦略局は、鳩山氏の頭の中だけにあった構想というわけではないし、単なる思いつきでもなかった。
 もともとこの構想が、マスコミに報じられたのは、今年五月のことである。政治資金規正法違反で公設秘書が逮捕されたことをきっかけとして、小沢一郎前代表が辞任、鳩山氏は後任代表就任時の記者会見で、こんなふうに高らかに宣言したのだ。
「国家戦略局というところを(新設し)、総理直属で国家ビジョンというものを作り、政治主導で予算編成などもしっかり行なっていく」
 さらにさかのぼると、岡田氏が代表を務めていた二〇〇五年九月の衆院選マニフェストで、首相を議長として予算編成を担当する「国家経済会議」設置構想を掲げている。どうやらこれが国家戦略局のルーツのようだ。
 鳩山氏周辺によると、この岡田代表時代の構想に、鳩山氏の側近や親しい学者が肉付けしたり、磨き込んだりした結果、完成したのが国家戦略局構想だという。ただ、その検討過程は一部の関係者以外には知らされていなかった。
 鳩山氏は決して党内の多くの議員や連立相手の社民、国民新両党に黙って、独断で構想を進めようと思っていたわけではない。だが、当然行なうべき党内外への「根回し」を怠っていたのだ。
 初めて政権を担当するという高揚感と重圧に加え、不慣れな政権準備に忙殺され、鳩山氏をはじめとする民主党幹部は冷静さを失い、不必要な軋轢が生まれている。

失言癖おさまらぬ鳩山氏

 本来、王者の風格をたたえていてもいいはずの民主党幹部たちが心の余裕を失っていることは、マスメディアへの対応にも表れている。
 衆院選に勝利した翌日の八月三十一日に開かれた民主党三役会では、今後の会議開催を取りやめようという意見が相次いだ。
「記者が取り囲むので、もう開かない方がいい」
 政権が誕生すれば、民主党議員たちは閣僚や与党幹部として、記者団に日常的にまとわりつかれる日々が続く。もう野党ではないのだ。記者団に会議室を取り囲まれる程度のことを忌避しているようでは、先が思いやられる。
 もう一つ思いやられるのは、鳩山氏自身の言動である。鳩山氏の失言癖はよく知られているが、新聞報道では、鳩山氏も政権担当の責任をひしひしと感じて、発言に注意するようになってきたという。だが、実際はそうでもなく、依然として軽はずみな発言を繰り返している。
 緻密なタイプの岡田氏には、それが耐えられない。岡田氏は九月八日、記者団に次のように言った。
「鳩山さんの言葉を(マスコミが)引用すると……、鳩山さんはいろいろなことを言われているので、あまり引用しない方がいいと思います」
 この岡田氏の発言は、社民党が要求していた与党政策責任者会議の設置について、鳩山氏が九月七日に記者団に「そういった場も当然、つくりますよ」と口走ったことを全面否定したものだ。民主党は政策決定システムを政府に一元化する方針だったのだから、閣外に別の責任者会議をつくるのは矛盾する。岡田氏の論理の方が筋が通っている。
 鳩山氏の軽はずみな言動は、これまでも民主党内で問題視されてきた。衆院選期間中の八月二十三日には民放のテレビ番組に出演して、核持ち込みに関する日米間の密約に関連して、「持ち込ませないようにする。(米側が)OKするまでがんばる」と述べた。鳩山氏は首相就任直後の九月二十一日ごろから訪米する予定だが、司会者がその点に触れて、「オバマ大統領が核を持ち込まないと約束するまでは、鳩山さんは日本に帰って来ないか」と突っ込むと、鳩山氏はこう答えた。
「いいじゃないですか。やりましょう。わかりました」
 鳩山氏に何らかの勝算があるのかどうか不明だが、仮にオバマ氏から「核持ち込まず」の言質を取れなかったらどうするつもりなのか。首相が日本に帰国しないということはあり得ないだけに、鳩山氏は国民に嘘をついたことになってしまう。
 売り言葉に買い言葉という感じのやりとりではあったが、首相に就任する人物が、こんな安請け合いをしてはいけない。鳩山氏周辺は頭を抱えた。
 鳩山氏の「根回し欠如」「軽すぎる発言」を示す逸話は、政治家としての鳩山氏の未熟さを浮き彫りにしたと言っていい。だが、未熟なのは鳩山氏ばかりではない。
 今回の衆院選で民主党が獲得した三百八議席のうち、初当選組は半数に近い百四十三人もいる。なかには、高学歴を誇る学界出身の新人や官僚出身者もいるが、多くは政治の素人である。民主党入りした田中真紀子元外相は、この事態を以前から予測して、こんな心配を口にしていた。
「小泉チルドレンに翻弄されたように、今度はひょっとすると民主党チルドレンがいっぱい出てきて、訳の分かんないことが起こるということが非常に危惧される。量も大事ですけども、質がやっぱり大事」
 民主党は官僚主導を廃して、政治家主導を確立するために、大臣、副大臣、政務官などのほか、さまざまな形で約百人の議員を政府内の役職に置くと公言している。だが、田中氏の言う「質」の問題点が百人の政治家にも当てはまる。
「百人の政治家が内閣にいても、官僚に取り込まれる政治家が百人になるだけかもしれない」と自民党若手議員は指摘する。要は百人の質によるわけだ。
 しかし、こんなことを言っては失礼かもしれないが、そんなに有能な人材が民主党に百人もいるとは思えない。実際、鳩山氏側近議員の一人は、親しい記者にこんなふうに漏らしている。
「小沢一郎や鳩山由紀夫が百人いるのならいいけど……」

再生への道見えぬ自民党

 内閣の構成だけでなく、肝心の政策面でも鳩山内閣は最初から課題山積だ。とくに衆院選マニフェストで打ち出した数々の大胆な目玉政策を実現する必要がある。そのための最初の難関は予算編成だ。
 ところが、民主党政権の誕生で来年度予算の編成作業は明らかに遅れ始めている。官僚たちは、これまで自民党政権の下で、今年も例年通りに淡々と編成作業を進めてきた。七月に概算要求基準(シーリング)を決め、八月末までに各省庁は概算要求を提示。通常なら十二月末には予算案が閣議決定される運びだった。
 しかし、民主党政権の誕生で、これをすべてひっくり返すことになるわけだから、大変な作業だ。
 九月七日、民主党の直嶋政調会長は財務省の丹呉泰健事務次官を国会内に呼んだ。民主党はあくまでも来年度予算編成を例年と同様、年内に終える方針だ。そこで、丹呉氏は予算編成の現状を説明しつつ釘を刺した。
「できるだけ早く鳩山政権の基準、考え方を提案していただけませんか。そうでないと、あとの日程が苦しくなる」
 自民党寄りと言われる政府高官は「民主党から言われた通りに、こっちは年末に間に合うように予算を作る。だが、どこをどう直し、どの無駄をどれだけ削るのか。それは民主党が決めなければならない」と言う。それこそが民主党の言う政治主導の姿でもある。
 だが、通常はシーリング決定から五カ月以上かかる予算編成を三カ月程度で仕上げるのは、かなり難しい作業であることは間違いない。
 鳩山政権をめぐっては、このほかにも日米関係や環境政策などが問題化するだろうし、鳩山氏個人について言えば、「故人献金」スキャンダルが完全に決着していないことも気がかりだ。さらに党内的には鳩山氏と小沢一郎・新幹事長による、いわゆる「権力の二重構造」の問題も懸念される。
 ただ、いずれにしても衆院で圧倒的多数を占めていることは、鳩山政権にとっては相当な強みである。民主党は議会運営で主導権を握り、仮に鳩山首相がつまずいても、致命傷になる前に事態を収拾することが可能だからだ。万が一、鳩山首相がスキャンダルで倒れたとしても、菅直人氏や岡田氏らを後継とすれば、民主党政権そのものは継続することができる。三百八議席が持つ数の力はそれほど強い。
 極端に言えば、民主党が輩出する首相がこれから衆院の任期満了の四年後まで、どんなことが起きても解散しないという覚悟を固めれば、民主党政権は少なくとも四年間、ふらふらしながらも続けていけるのである。
 これに対して、衆院選で壊滅的敗北を喫した自民党の再生はかなり難しい。
 自民党議員たちは、選挙戦に入ったころにはすでに大敗を予感して浮き足だっていた。麻生太郎前首相自身もそうだった。そのことを示す象徴的な光景は、選挙戦最終日の八月二十九日夜、麻生氏の最後の街頭演説でみられた。
 東京・池袋駅で衆院東京十区の小池百合子元防衛相の応援に立った麻生氏は、いつものようにだみ声で、得意の景気対策や民主党批判を繰り返した。その主張はそれなりに説得力もあり、口調にも迫力があった。ところが、この演説には、肝心な部分が欠けていた。
 麻生氏は、候補者である小池氏の名前を挙げなかったのだ。候補者を持ち上げ、候補者の名を連呼して支持を訴える――。応援演説のイロハのイである。それを忘れてしまうほど、麻生氏は心理的に追い詰められていたのかもしれない。
 同様に、衆院選敗戦後の自民党は、痛々しいほどに追い詰められている。特別国会での首班指名選挙への対応でも、「ポスト麻生」を決める自民党総裁選への対応でも、議員たちは右往左往するばかり。
 自民党が落ち着きを取り戻し、民主党政権打倒に向けて態勢を立て直すには、もう少し時間がかかりそうだ。
フォーサイト2009年10月号「深層レポート 日本の政治 199」より
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。

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