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2009.10.16

 マレー半島〜スマトラ島 マラッカ架橋 再浮上 中国が建設費の85%を融資 

カテゴリ中国 台湾出典 朝日新聞 10月16日 朝刊 
記事の概要
マレーシアのマレー半島とインドネシアのスマトラ島を結ぶマラッカ海峡架橋計画が再浮上している。マレーシア側によると、両政府とも原則合意に達し、すでに中国企業が調査を始めた。

この架橋計画は90年代半ばにマハテール元首相が、両国の経済や信頼関係の強化を目指して提議したが、97年のアジア経済危機で中断した。その後、経済事情が改善したなどの理由で再び動き出した。

新たな計画は、マレー半島のマラッカ州と、インドネシアのスマトラ島のドゥマイを結ぶ全長127キロを、二つの橋でつなぐ案が有力とされ、マラッカ海峡をまたぐ部分は約48キロに及ぶ。

建設費は125億ドル(約1兆1300億円)にのぼるが、その85パーセントを中国輸出入銀行が融資。中国企業に調査や設計などを依頼し、マレーシアの建設会社と共同で進める計画。

両国を結ぶフェリーは片道2〜3時間かかっているが、橋が出来れば45分に短縮される。マレーシア側は1日1,5万台の車の利用を見込んでいる。

中間層や富裕層が増えつつあるインドネシアと陸路で結ばれれば、マレーシアにとって観光客増加や商圏拡大につながる。
コメント
確か世界で最も長い海上橋は中国の上海近くにあったように思う。それも最近完成したような記憶がある。(テレビのニュースで見た)

それにしても技術的なことより、建設費の安さと、中国の基本的な戦略思考に驚いた。

建設費が1兆1300億円といえば、普天間飛行場の代替基地として話題になっている名護市辺野古(キャンプ・シュワブ)沿岸に作る計画の基地建設と同額程度である。(すでに支払われた北部地域振興金を含む)

日米軍事関係者は北朝鮮が崩壊すれば、米海兵隊が使うことのない新基地(辺野古沿岸)を作る必要が本当にあると思っているのか。(米ソ冷戦時代に、米海兵隊の飛行場を佐渡島に作るというような馬鹿馬鹿しいアイディアは出なかった)。米海兵隊の意味が理解されていない。

このマラッカ橋の戦略性は、中国がメコン川の水路を整備して、各地に港と道路を建設し、東南アジアに経済進出したことと同程度の重要性がある。(メコン川は中国の雲南省から、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムを流れる)

今や東南アジアではメコン川で運ばれた安い中国製品があふれ、弱い産業基盤の国は悲鳴をあげている。

さらにである。中国で建造中の軽空母も、弱点の防空戦力(エアーカバー)を海南島の空軍機と組むことで、南シナ海でのプレザンスを飛躍的に高めることができる。(東シナ海や黄海では、日米韓の軍事力が強すぎて中国の軽空母はプレゼンスを発揮できない)

その上に、中国と陸路で繋がるマラッカ海峡大橋が、南シナ海の入り口にそびえ立つことになる。

これでは海軍力が圧倒的に優位なアメリカ海軍も、中国が支配を狙う南シナ海のプレゼンスが衰退することは必至である。

これが中国の覇権拡大のやり方なのである。まず軍事力を使うのではなく、経済発展、信頼向上、友好などの旗を掲げ、長い時間をかけて中国の勢力圏を拡大していくのだ。軍事力は最後の仕上げである。

そのうち韓国の釜山、対馬、壱岐、九州を結ぶ橋の建設を提案してくる可能性だってある。日本の工業製品が陸路(鉄路)で欧州や東南アジアに運ぶことが出来るという友好的な経済論理である。

今では夢としか思えないが、その大橋建設が提案される頃は、ロシアの極東・沿海州や朝鮮半島が中国の経済圏でしか生きられない環境が生まれているだろう。いつもいう軍事力を使わない中国の併呑戦略によってである。

私はこれを反中国の立場で話しているのではない。中国の近未来戦略を分析しただけである。好むと好まざるに関わらず、中国というグランド・パワー(大陸国家)が拡大すれば、日本のようなシーパワー(海洋国家)はその影響をまず半島国家から受けることになる。

中国のグランド・パワーが東南アジアに拡大し、マレー半島を伝わってシーパワー国家のインドネシアに拡大していくのと同じ構図だ。

そのような場合でも、日本の防衛力は自由な経済活動や国益を高める政治や外交を保障しなければならない。しかし日本が中国と軍事対決(競争)をするとか、中国の軍事侵攻に備えるという単純な考えでは通用しない。そんな考えが通用しないやり方で中国は進出してくる。

まずは近い将来、中国海軍の軽空母と海南島の空軍機が、南シナ海でプレゼンスを拡大するのをどう防ぐかである。そして東南アジアの国々が中国に対する警戒心を和らげることにつながる日本の対中戦略が必要になる。

東アジア共同体構想はやり方次第で面白い展開になる可能性がある。しかし確かな日米同盟があっての上の話である。
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