「ん、んんっ……それではこれより結婚式をおこなう」

村長が挨拶をおこない、あたりの騒ぎ声が収まる。

今僕がいるのは、クリーフ村で話し合いとか行われる時に使われる広場。
今日はクリーフ村に住んでいる村人達が総出でこの広場に集まっている。
それだけじゃなくて、昔僕が冒険している時に知り合った人たちの姿もある。

「新郎のエッジ君、ここに」
「はい」

人達の間を縫って歩いていき、広場の立ち台に立たされる。
ディナと護衛獣の契約の儀式をしたのもここだったけど、あの時よりもかなり雰囲気が違っている。
今着ている礼服も落ち着かず、意味もなく整えなおすような事を何度も繰り返してしまう。

教会ではなく、村にある広場を使って式を行う。
司会進行役は村長がやってくれている。

「それでは続いて新婦の入場」

待っていると、悪魔のディナが人の間を歩いてここまで歩いてくる。

「綺麗だよ、ディナ……」
「エッジ……これからもよろしくね」

ドレスを着たディナは、これまでとは違った印象だった。
スカートは短めで、その他にも動きやすそうなように作られている。
それでもむしろ普段よりも大人しくしているので少しギャップを感じる。

「続いて、新婦がもう一人……入場……」

村長もややためらいがちに言った。
同時にこの広場に集まった人達もざわめく。

そのざわめきもさほど気にとめず続いて天使のディナが歩いてきて、僕の左側にやってくる。

「エッジさま……どうですか」
「うん、かわいいよ」
「嬉しいですわ」

天使のディナは、スカートの長いスタンダードなドレスを着ていた。
こちらはスカートが地面ギリギリまで伸びていて少し歩きにくそうな様子だった。

「これからも仲良くしていきましょうね」
「そうだね」

出会ってから今日まで色々な事があった。
これまで歩んできた苦労や数々の思い出……
そういった記憶がふと脳裏によぎって、感慨深いものが湧き上がってきた。

「ぼんやりして、どうしたのよ?」
「あっと……ごめん。昔の事を思い出してた」
「晴れ舞台なんだからしっかりしてよ……あ、ちょっと動かないで」

悪魔のディナがハンカチを出して、目元をぬぐってきた。
いつの間にか涙ぐんでいたらしい。

「はい、終わったわよ……どうしたのよ、じっと見てて」
「いえ、出遅れて悔しかったと思ってるだけで……」
「やりたかったの?」
「もちろんですわ。でも今は式の最中ですから少しは慎みますわ」
「ああ、そう……何だったら後で好きなだけやればいいんじゃない?」

軽口を叩きながら、とにかく二人のディナは整列する。
僕を真ん中にして、3人が並ぶ。そして僕らの前に村長が立っている。

姿勢が整ったのを見て、村長がまた口を開き始めた。

「それでは、さっそく結婚式をはじめようと思う。まずはワシから祝辞を……」
「うええ……」

悪魔のディナはさっそく嫌そうな顔をしている。
天使のディナは……表情はニコニコしてはいるものの、あんまり嬉しそうではなさそうだった。

「まずは夫婦とはどのようなものであるか、それを話そうと思うが……」

まあ……ここは何とか割り切って我慢する事にしよう。
村長もめでたいから話したい事がいつもより増えている……のだと思うし。


(う……背中から嫌な感じが……)

しかし話し始めてすぐに視線が後ろから刺さってくるのを感じた。
それも一人ではなく、大勢が睨みつけているような、そんな雰囲気がある。
理由は大体分かっている……僕に花嫁が二人いるせいなんだろうと思う。

まあこれは一つの通過儀礼のようなものだと思って、何とか我慢をしよう。

「というわけで、今後すこやかなる時も病める時も……」

(……っ?)

我慢しようと思っているとそれらの視線とはまた違った、さらに鋭い特殊な気配が突然湧き上がって一瞬鳥肌が立つ。
多分、リンリさんが他のゲストをけん制してくれているのだと思う。
姿は見えなくても、際立って恐ろしいオーラが立ち込めている事だけは感じ取る事ができた。

「病める時と言えば、昔ワシが若い頃風邪で倒れた時には……」

リンリさんの睨みは僕に向けてのものではないけど、背後でそんなオーラを出されると落ち着かない。
ある種異様な空気に包まれ、一触即発と呼ぶにふさわしい雰囲気ができあがっている。見なくても鳥肌が立つ。

「そんなわけで、この話の教訓はつまり、カレーの香辛料に……」

この後ろの異様な空気に気付いていないのか無視しているのか、村長は話を延々を続けている。
目の前から村長の話を聞き、さらに後ろからは視線に晒されて、意識が遠のいてくる。

「エッジ……エッジさま……」

ここで気を失ってはいけないと思っていると、ディナの声が聞こえてきた。
僕の左右にいるディナを見てみてもじっとしていて、村長の話を聞いているフリだけはしている。
左右からではなく、それ以外のどこか別の場所から声が聞こえているような、そんな感じがする。

「エッジさま、エッジさま……」

何度か同じように声がかかり、そして……目の前の映像がぼやけて消える。
リンリさんやその他の人が出していた気配も消えて、五感に感じられるものがほとんど消えてなくなった。
さらにちょうど今まで立っていたはずなのに、身体が横たわっていたようだった。

「大丈夫ですか、エッジさま?」
「う、うん……えっと、ここは?」

まぶたを開けて身体を起こすと、目の前にディナがいた。
ウェディングドレスではなく、最近普段着として使っているワンピースを着ていた。

あたりを見渡すと……ここは家のすぐ脇だった。結婚式をあげた村の広場じゃない。

「ええと……これは……」
「エッジさまここで寝ていたんですよ」

頭を少しゆすってようやく理解した。僕はここで寝ていたらしい。

「そうか……夢か……」
「それもなんだかうなされてたみたいですが、どんな夢を見てたんですか?」
「ディナと結婚式を挙げた時の事を思い出して……」

ディナは昔、僕の住んでいた村に迷い込んできたはぐれ召喚獣。
村に迷い込んできた所を介抱して、そのまま成り行きで僕の鍛冶のパートナー兼護衛獣となった。

「ああ、あの時のですね……」

僕の横に座って、ディナも相槌を打つ。

そして護衛獣となってすぐに村で封印していたゴウラが復活するという騒ぎがあり、ディナと一緒にゴウラ封印のため各地を回った。
それから色々な事が分かって、結局ゴウラは再封印はしない事になった。

「それと、結婚式より前の事も色々思い出してた」
「ああ、そうですか……結婚する前も大変でしたからねぇ」

ゴウラの一件が解決した後も行くあても特にないディナは僕のパートナーを続けて、
それから気が付くと鍛冶のパートナーというのを越えた関係になっていた。
かなり色々な出来事があって毎日大変だったんだけど、その頃の事は最近はあまり思い出さなくなっていた。

「僕らが出会ってからどれくらいになるんだろう?」
「んー……5年くらいだったと思います」
「そうか、もうそれくらいになるんだっけ」

それだけの時間が経っているのだと、言われるまであまり気にしていなかった。
ディナも最初に会った頃よりも背も伸びたし他も成長したと思う。

「あ、すいません、替わります」

何かに気が付いたような素振りを見せた後、ディナの全身が光る。
例えるものが思いつかない不思議な『暗い光』で、その光が収まるとディナの身体の特徴が変化をする。
天使の輪っかや羽根がなくなり、代わりに悪魔の翼が背中についた。
顔の作りも微妙に変化する。そして髪型は下ろしたロングヘアからポニーへと変わった。

「ディナ、どうかした?」
「……いや、エッジと出会ってそんなになるんだ、って思っただけで別に言いたい事は……」

ディナは天使の人格と悪魔の人格の二つを持っていて、入れ替わった際に身体の特徴も一部変化する。
ディナは霊界サプレス出身で、その中でも悪魔と天使の混じった特殊な存在らしい。

「ちょっと昔の事を思い出してただけなのに、勝手に引っ込んじゃって……」
「どうせだから、このまま話をしていかない?」
「ま、まあ、いいけど……」

最初出会って間もない頃は悪魔のディナが出ている事が多かったのが、だんだんと変化が起こっていった。
天使のディナの方も自己主張をする事が多くなって、表に出てくる事が増えてきた。

「最初に会った頃は、こんな風にエッジに一生お世話になるなんて思わなかったわ」
「僕もここまでディナが大切な存在になるとは思わなかったよ」
「うぐ……よくそんな恥ずかしい事が言えるわね」

ただ、天使のディナが表によく出てくるようになって色々と問題が……

ディナと結ばれてから、ディナが二つの人格を持っているという事が問題になってきた。
それまではあまり気にしていなかったけど、一つの身体しか持っていないために二人同時に抱くしかなかった。

「昔は随分とアイツとケンカしていたものねぇ……エッジの事を取り合ってね」
「うん……そうだったね」

それが原因で仲が悪くなってきた時、偶然不思議な石のある場所にたどり着いた。
この場所はゴウラの騒動の時、各地を冒険した際に行った場所の一つの雪渓谷で、ここに不思議な石があった。
この石からグレンゴウラの力を弱める事ができる光る石を手に入れる事ができた。
この石の力のおかげでグレンゴウラを倒す事ができたようなもので、さらにその後に偶然訪れた時にはディナの身体を二つに分ける力も持っているという事も分かった。

「あの石を使って身体が二つに分かれた時は僕もびっくりしたよ」
「そうね、あたしも驚いたわ……でも生活してみたらあんまり変わらなかったから、このまま3人ずっと一緒にいようっていう事になったのよね」

身体が二つに分かれてしばらく生活していくうちに、僕も含めて色々な事が分かった。
もめたりもしたけど最後には仲直りをして、このままでいこうという事になった。

ゴウラの件もそうだし、3人の関係についてようやくまとまったのもこの石のおかげなので、かなりお世話になっている。

「あの石にどんなものが宿っているのかは分からないけど、かなり助けられたし」
「石だけじゃなくて、色々な人にもお世話になってたわよ」
「…………」

ディナの言葉を受けて言葉が詰まってしまい、ディナもそんな僕を見て逆に驚かされたみたいだった。

「どうしたのよ?」
「い、いや……ディナがそんな事を正直に言うとは思わなかったから」
「失礼ね……あたしだってそれくらいの事は気にかけるわよ」
「でもまあ、確かにお世話になったり迷惑かけた人はいっぱいいたね」

天使のディナと悪魔のディナが仲直りして、ドタバタした日々は一旦落ち着いたものになった。
だけどそれから先もまあ……とにかく色々あった。


しばらくして親方やオルカに僕らの関係の事を全部話した時は緊張した。
その時にもディナの身体の事が原因でまたもめたし……

(かなり前に話し合って解決したって言ってもなかなか信じてくれなかったし……)

ディナは二つの人格の問題があるから、真面目に付き合っているというのを信じてくれなかった。
信じてくれないのはしょうがないっていう気がするけど。
それにちゃんと僕らの事を心配しての事だったのだからそんなに不満があるという事もない。

でも根気強く話し続けて最後には親方も納得してくれて、僕らの事を認めてくれた。

「親方も話せば分かってくれたよね」
「というか、最後は決闘だったわよね?」
「そ、そうだっけ?」
「そうよ……本気だというのなら自分の武器に想いを乗せて示してみろ、って言われて」
「あ……ああ! そうだったそうだった!」

ディナに言われて思い出してきた。
ディナやタタンにオルカが見守る中、親方に一対一の決闘を挑んだ。

モノシフトの力まで駆使して何とか親方に勝つ事ができて、晴れて僕達の関係を認めてくれた。

「それでも、認めてくれたところで生活はあんまり変わらなかったんだけどね」
「まあ、それはそうだったけど……ディナが二人とも一緒に、っていう所以外は何となく気付いていたようだったしね」
「あ、あの時の声が聞こえないようにしていたのはずっと前からだったし」

親方達に自分達の関係を隠す必要がなくなったというだけで、他にはそれほど変わった事はなかった。
それより前にエッチの音や声が聞こえないように部屋を改造していたので、僕らの関係も普通にそのまま続けていた。

それが大きく変わるきっかけになったのは……

「リョウガとリンリさんが戻ってきた時は慌しかったわね」
「うん、あれで結婚しようっていう話に進んだんだよね」

それから1年か2年くらいして、リョウガとリンリさんが村の近くにまでやってきた。
近くを通ったのは偶然で、村に挨拶に来るつもりはなかったらしい。
そこを僕らが運良く出会って、しばらく泊まっていかないかと提案した。
本人達は遠慮して村に入ろうとしなかったが、僕とディナで強く勧めて家に泊める事にした。

「エッジ、プロポーズの言葉は何でしたっけ?」
「え、ええと……『君に一生鍛冶のパートナーを続けて欲しい』……だったよね」
「うん、忘れてたりはいないようね」

それで僕らの家に泊まっているある日、リンリさんが軽い雰囲気で『結婚したらどう?』と言い出して、家族の皆もそれですぐに承諾した。
その時に、なぜか僕らよりも回りが盛り上がって半ば強引にプロポーズをさせられた。
その場で返事をしなくてはいけないような雰囲気だったので、言葉も即興で考えるしかなかった。

「ごめん……あの時はちゃんとした言葉が出てこなくて」
「いいわよ、あたしも嬉しかったから」
「だけど、ディナはもっとロマンチックな所で言って欲しかった、とか思っていそうだったから」
「う……そう言われるとその通りなんだけど、まあ言われただけで十分だったっていうか……」

とにかく、そのままリンリさんの主導で話が進行していった。
基本的な作法から服の仕立てまでやってくれたし、招待状を書くのも手伝ってくれた。
……実はあの時一番乗り気だったのはリンリさんだったんじゃないかと思う。

「すごかったわよね、あの時のリンリさん」
「うん、あれだけ生き生きとしてたリンリさんは僕も初めて見た」


それから二人とも、それぞれ二つの身体で結婚式をしたいと言い出した。
そう思う気持ちも分かったので、その事は了承した。雪渓谷に行って、石の力を借りてそれは簡単に実現する。
ウェディングドレスをもう一着用意するのが大変ではあったけど。


それで、知り合いにも招待状を出したりして準備を進めていった。

順調に準備が進んでいるものと思いきや、実際の式が目前になって事件が立て続けに起こった。
まず村長に司会を頼もうとした時、僕らの関係や事情を説明した。

その時まで村長もこの話を知らずにいたらしく、事態を理解した。
何でも村長が言うには護衛獣との結婚などとんでもない、らしい。
それで関係を知った村長が説教をしに来て、僕らを弁護したベルグ親方も本気で応戦してしまって、丸々一晩かけた大舌戦が繰り広げられた。
結果は、夜が明けた頃には親方が何とか説得させる事ができて、フラフラの村長も司会を引き受けてくれた。
後で親方が言うには、その晩の話し合いは人生で二番目くらいの試練だったそうな。

(なんか村長は村長で村の歴史に記すだけの価値がある熱戦だったとか言ってたし)

「あの時、最後まで起きてたの親方と村長だけなのよね……」
「うん……オルカやタタンも居合わせたんだけど、途中で倒れて寝ちゃってて」

朝起きたら決着がついて、二人とも真っ白に燃え尽きていたようだった。
何を話していたのかは……怖くて聞けない。


しかし、村長が司会を引き受けた後、招待状を出した人が集まってきた頃にもまた問題が起こった。
少し早めにやってきたコヒナは二人との同時の結婚は認められないと言い出した。
そのコヒナとディナの事をかばうリンリさんとの間で、またちょっとした死闘が繰り広げられた。

「リンリさんが本気を出しそうになって、それを止めるのが大変だったわね」
「あれはもう果てしなく本気に近い状態であった気もするけど」

それも最終的には何とかなだめる事ができて、何とか無事に挙式する事ができた。
式の間は、直接手を出すトラブルがなかったのはせめてもの幸いだった。
左右に花嫁がいたせいで手こそ出されなかったものの、全ての方向から殺気が飛んできてかなりいたたまれなかった。
特にリンリさんは別格の恐ろしさを出していた。

「僕はかなり辛かったんだけど、二人ともよく平気だったよね」
「なんかあの時、視線のほとんどはエッジに集中していたからね」
「どうして僕ばかりが……」
「別にいいじゃないの、元々は役得なんだし……それに皆、本気で憎んでいたというわけでもなかったしね」
「うん、それは分かってる」

確かに最終的には皆祝福してくれた。
だからまあよかったかな、という風に思う。

「懐かしいわねぇ」
「……うん」

夢を見たり、ディナと話をしている内に色々と思い出してしまった。
もう一度やり直したいかというとかなり疑問を感じるけど。
最後には皆祝福してくれたとは言っても、あの時感じたプレッシャーはグレンゴウラに立ち向かっていく時にも匹敵した。

それから親方達と住んでいた家を離れて、家を新しく建てて二人だけで暮らしている。
とは言ってもここはクリーフ村からほどほどの場所で、帰ろうと思ったらすぐに帰れるくらいの場所にある。

クウヤさんは一夫多妻制のある場所を知っているという事だったけど、特に紹介してもらったりはしなかった。
ディナの場合は特殊であるし、身体が一つであれば表向き普通の夫婦として暮らせる。
という事で元の村に近いところに、森の中に一軒家を建ててそこに住んでいる。

「エッジ、あたしはこれで。アイツが話したいって」
「あ、うん……」

さっきまでの悪魔のディナがポニーだったのが、下ろした髪型に変わる。
そして入れ替わったディナが僕に話しかける。

「エッジさま、わたしも話を聞いてて懐かしくなってきちゃいました」


昔のディナは二人ともツインテールをしていた。
一度変えた事があるけど、人格が入れ替わるとまた元の髪型に戻ってしまっていた。
本人達が言うには、どうもツインテールが自分自身の髪型のイメージとして定着しているためじゃないか、との事だった。
……だけど、二人ともそれではあきらめなかった。

「今はツインが定着してるけど、他の髪型をずっと続けていればそっちが定着するかも」

そう言い出して、とにかく髪型を変えて、入れ替わって髪が元に戻ったらまた変えて……
……というのを延々と続けたら、本当に定着してしまった。
そのため、今は二人とも最初のツインテールとは違った髪形になっている。入れ替わっても髪型はツインテールにならない。


「エッジさま、またウェディングドレスを着てエッチしたいですね」
「そ、それは……それやると、またドレスが汚れそうだし」

結婚式を挙げたその日の夜、やっぱりというか何というかでドレスを着たままでなだれ込むように抱き合った。
……その次の日の朝見てみると、ドレスに染みが多くできていて大変だった。

「エッジさま……あの日のエッジさまはいつもよりも燃えていたんじゃないですか?」
「う……それは確かに」
「わたしもものすごく感じたんです……だからまたあれを着てエッチしたいです」
「あの時のディナは可愛かったから、また見てみたいんだけど……」
「はい、それではまた今度しましょうね」
「あはは……うん、分かった」

押し切られるように約束をさせられていた。
後々染みを取るのが大変だとは思うけど、それはそれで別にいいかなとも思う。


話をしていると、家の方から声が聞こえてきた。
この声の主は分かっている……子供だ。

「あっ、泣いてますね」
「そうだね、一度戻ろう」

ここの家に住み始めてすぐに妊娠して、それで今は数ヶ月くらいになるはず。
寝させていた部屋に急いで戻る。

「ごめんね、」

そして、生まれてきたのは……女の子と男の子の双子だった。
女の子の方はエルナ、男の子の方はソルと名前をつけた。
エルナは悪魔の尻尾と羽根を持ち、ソルは天使の輪っかと羽根を持ってる。

二人とも泣いていた。

「ああ、よしよし」

二人を同時に抱きかかえてあやして、そして母乳を与える。
ディナの方が僕よりずっとうまくなだめる事ができるのでディナにまかせっきりになる。
僕は……特に手伝える事はなくてじっと見ているしかない。

少ししてようやく泣き止んで、もう一度のゆりかごの中に戻す。

「ふう……」

二人ともすぐに目を閉じて、また静かに眠り始めた。

「子育てって思ってたよりも大変ですね」
「本当だね」

ディナは特に大変だと、見ていて思う。
僕にはできない事があるからディナには苦労をかけているという気持ちもある。

「でも……わたし達の身体が分かれれば、少しは忙しくなくなるかもしれませんね」
「まあ……それはあるかも」

暮らしていると忙しい日もあって、単純に人手が欲しい。身体が一つ分増えてくれれば、それだけでかなり楽になるような気はする。
親方達と一緒に暮らしていると一人増えた事の不便が大きかったけど、今は逆に増えると助かるかもしれない。

ただ、石のある場所は遠い。
元々村に住んでいる時からブルニードに転送してもらってからしばらく雪原を歩かないといけなかったので、すぐに行ける距離ではなかった。
今ではそれに加えてブルニードがいるクリーフ村との往復も考えなくてはならないのでさらに長くなった。
ディナが身ごもっていたり子供から目を離せない今はちょっとあの場所までは行けそうにない。

「何とかしてすぐにあの場所まで行けるようになればいいんだけど……」
「でも、それだとあまりエッジさまと激しいエッチはできなくなりますね」
「言うと思った……」

何となくそう言ってくると、すでに予想がついていた。

「むう……」

しかしあっさりと受け流した事が不満だったようで、ディナは表情を軽くとがらせた。

「はいはい、いつもの事なんだからエッジもあまり気にしなくていいわよ」
「あ、あはは……」

悪魔のディナにすぐに変わって、そして軽く笑い飛ばすような仕草をしてみせる。
こうやって簡単に受け流せるようになったのって、悪魔のディナが成長したんだなと思わせてくれる。
昔だったらこれで結構不機嫌になって……

「どうしたのよ? ニヤニヤしちゃったりして」
「あ、いや、何でも……ん……あれは?」

窓の外を見てみると人影が一つ、この家に向かってきている。
ある程度近付いてきて、その人影が誰であるか分かった。
僕らも玄関に回って出迎えの準備をする。

「久しぶり、顔を見に来たわよ」
「うん、久しぶりタタン」
「ええ、いらっしゃい」

タタンは親方の娘で、親方の家では家族のように暮らしていた。
昔はなかなか冒険に連れて行ってもらえずに不満な様子を見せる事が多かったのが、
今では近くの森を一人で歩き回るくらいはできる腕っぷしを身につけていた。

タタンは入ってくるなり袋を差し出してきた。

「あ、これお土産のクッキーよ」
「……作ったのは誰?」
「もちろんあたしよ」
「わ、分かった……明日にでもおいしくいただくよ」

タタンには悪いけど……これはちょっと食べる気にはしない。

「それで、ようやく子供が生まれたって聞いたから見に来たんだけど」
「うん、いいわよ。さっきあげたばかりで落ち着いて寝てるけど」

さっき寝かしつけたばかりではあるけど、もう一度寝室へと向かう。

「わぁ、可愛い!」
「寝たばっかりだから静かに」
「あっ、ごめん……」

姿を見るなり、タタンは声を上げた。それですぐに声をひそめて小声になった。
横で少し騒いでもエルナもソルも目を覚まさなかった。

「それでどうしてエルナが悪魔で、ソルは天使なの?」
「あたしにも分からないわ……双子なのに不思議よね」
「ふうん……まあ、どうして一人目が女の子で、二人目が男の子かって聞くようなものかもしれないけど」

それからしばらく、ほっぺを触ったりして楽しんでいた。
エルナ達も半分寝ぼけたまま、無邪気に手を伸ばして楽しんでいるようだった。


子供達とひとしきり遊んで、それからまたお茶の間に戻る。
終わった時には天使のディナと入れ替わって、今度は天使のディナが話し相手になってた。

「それでどうなの? 最近は鍛冶とかやってるの?」
「ディナがまだ調子が戻らないから、それがなかなか……」
「うん……まあそれはしょうがないと思うけど」

結婚してすぐにここの家を建てる準備を始めた。鍛冶の工房も用意してある。
けれどディナが妊娠したと分かったのは移ってきてしばらくの事で、それから鍛冶は休んでいる。
だからこの家に住んでからはほとんどやってない。

「それでも、もう1年近く鍛冶をやってないと腕がなまるんじゃない?」
「それは……そうかもしれない」

僕もそうだし、ディナもかなり鈍っていると思う。
一応僕は基礎訓練くらいはやってるけど、それでも勘は鈍くなっているはず。

「あたしやお兄ちゃんが、しばらくの間エッジの鍛冶師のパートナーやってもいいのよ? そりゃ、ディナほどは呼吸合わせられないかもしれないけど」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、僕はディナ以外は鍛冶のパートナーにするつもりはないから」
「ふう、これまで何度言っても返事は同じなのよね……」

何度か言われた事がある……オルカからも同じ事を。
皆心配してくれているのは分かっているけど、ディナ以外にはパートナーを任せようという気にはなれなかった。

「ディナとの約束があるし、他の人だと何となく落ち着かないし……」
「エッジさま……」

だからディナが復帰するまでは待とうと思ってる。

「武器の注文がいくつかあるから頼もうと思ったけど、それならいつも通りお父さんにやってもらうね」
「うん、そうしてくれると助かる」

注文をわざわざ持ってきてくれるのは嬉しいけど、今の僕には引き受けられない。

「ディナが落ち着いたらまた自分達で何とかするから、それまではのんびりするよ」
「うん、分かった。頑張りなさいよ」

それ以上は何も言わず、あっさりと引き下がった。
タタンだって、こう言われる事を覚悟した上で提案していたような気がする。

「何だか落ち着いたわね、二人とも」
「そうかな?」
「うん。こんなにすぐに断られるとは思わなかったしね」
「…………」

はっきり言われると何だか照れくさい。

「そ、そういえば、そっちの調子はどうなってるの?」
「こっちはそんなに変わりないわよ。お父さんはまだまだ元気だし。あ、そうそう手紙が来てたわよ」
「ええと……ああ、ニーニャさんからのようですね。近いうちにこの辺に用事ができたらしいです」
「ああ、そうなんだ。また迷わないように迎えに行かないといけないかもね」


それからしばらくの間、色々な話題について話し合った。
頃合を見て途中で話をさえぎって、自分の話を切り出す。

「ええと、ごめん、鍛冶の工房に行くから二人ともゆっくりしてて」
「どうしたの? 鍛冶はお休みしているんじゃなかったの?」
「実際に武器は作れないけど、なまらないように練習くらいはしているんだよ」
「ああ、そうなんだ……」

ここに来てからディナが身ごもったり育児に忙しかったり、使ってない日の方が多いかもしれない。
一人だけだとディナと一緒に作る時よりもいい武器はどうやってもできない。
そこで、せめて腕がなまらないようにと毎日素振りや練習くらいはしておくようにしている。

「……エッジ!」
「ディ、ディナ? どうかした?」

この部屋を出ようとした時、突然入れ替わった悪魔のディナに大声で呼び止められた。
あまり大声で呼びかけられるのに慣れていないから戸惑ってしまった。

「あたしももう落ち着いてきたから、そろそろ鍛冶師に戻る準備を始めるわ。だから久しぶりに何か作りましょう」
「え? えっと……」

まだもうしばらくは休むつもりでいると思っていたから、ディナのこの言葉は予想できなかった。

「それに、鍛冶のパートナーでいて欲しいって言ったのはエッジの方だし」
「ディナ……さっきの事……」

ディナの目つきは真剣で、引き下がるような様子はなかった。

「分かった……それなら久しぶりに何か作ろうか」
「うん!」
「でもタタンは……」
「いいわよ、あたしの事は気にしなくて。あ、でも見学くらいはさせてくれる?」
「うん、それくらいなら」

という事で、工房にやってきて久しぶりにタタラの前で並んだ。
ハンマーを握り、武器を睨んで構える。

「いつでもいいわよ。はじめて」
「うん……じゃあ、はじめるよ」

大きく息を吸って、これまでと同じように一心にハンマーを叩きつける。



「大丈夫?」
「う、うん……まあ何とか」
「どうだった? ちょっと見せて」

一つの武器を完成されたところでディナはハンマーを下ろし、休憩に入る。
確かに体力が落ちているようではあった。一つ武器を作り上げただけで息がかなりあがってる。
それでも久しぶりにハンマーを握ったというのに呼吸は問題なく合ったし、できた武器はかなりいいものに仕上がった。

「最初は足手まといかもしれないけど、すぐに前くらいの調子に戻してみせるわ」

息が上がっていても、気分がよさそうな表情をしていた。
お世辞とかではなく本当にすぐペース取り戻せそうだし、僕も手伝えるなら手伝ってあげたいと思う。

「この感じなら、すぐに元の調子を取り戻せると思うよ?」
「うん、ずっと休んでたとは思えないくらいいい出来の武器よ、これ」
「そう? そうなったらどんどん武器作って、これまでの分を取り返していくわよ」

こんなに気合いの入っているディナは珍しい。
むしろ入れ込みすぎる事が心配になってくるくらいに。

「僕も出来る限りの事はするけど、あまり無理はしないようにね」
「分かってるわ、子供達の事もあるからそんなに……えっ、どうしたの?」
「んー、でも……」

話をしているところ天使のディナと入れ替わった。

「もう少ししたら3人目の子供が欲しい、って思うんじゃありませんか?」
「…………」
「そう思わなくても、勝手にできちゃったりとか」

それは……すごく否定できない。

「うん、すごく考えそう。そしてありえそう」

タタンもそれには同意していた。

「そうなったら、またもうしばらく鍛冶はお休みしないといけませんよね?」
「うっ……」

軽く言われただけなのに、その情景が頭の中に簡単に浮かんできた。
十分にありえる話だというのが、考えてみてすぐに理解できた。

これ以上は鍛冶を休むのはできれば避けたいというか、あんまり休みすぎると家計も問題になってくる。

「や、やっぱりオルカかタタンに鍛冶のパートナー頼んで……」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」

悪魔のディナに変わって、慌てて制止してきた。

「エッジがパートナーでいてくれ、って言ったんだから浮気するような事はやめてよね」
「浮気って……」
「浮気でしょ?」

ディナはかなり本気で言ってきている。

「そうなってもまたすぐに復帰するから、他にパートナー作ったりしないでよ」
「わ、分かった分かった。絶対にディナ以外はパートナーにしないから」
「約束してよ……んむっ」

話をしている最中に唇をふさぐ。
ディナは最初驚いて、それからすぐに何があったのか受け入れたようだった。

「約束する……絶対に他の誰もパートナーにしないから」
「分かった……信じるわ」

唇を離すとディナはさっきみたく怒った様子ではなく、落ち着きを取り戻していた。

「ディナがそんなに嫌がるとは思わなくて……ごめん」
「ちゃんとプロポーズの言葉守ってくれようとしたのが嬉しくて……だからこれからもずっと約束を守って欲しかったのよ」
「そっか……分かった」
「それじゃ、約束の証にもう一度……」
「熱いわねぇ……」
「うわっ……ごめん、いたんだっけ」

タタンがいる事も忘れて、二人だけの世界に入りかけてしまった。

「いいわよ、後で好きなだけいちゃついてくれれば」

今度はむしろタタンの方が膨れていた。
タタンの言うとおり、続きはまた後でする事にした方がよさそう。

「だけど、本当にそうなったらどうしようか? 3人目が生まれたりしたら」
「うーん……」

ディナとの約束は守りたいけど、そうするとまたしばらくの間鍛冶を休まないとならなくなる。

「それだったらわたしが子供達の面倒見るから、あなたは鍛冶をやれば……ほら、石の力で二つの身体に分かれて」
「それってものすごく不平等な分担だと思うんだけど」

天使のディナと悪魔のディナで交互に入れ替わりながら、話を進めていく。

「そもそも二つの身体に分かれるためにあの雪渓谷に行くのだって遠いし……」
「ああ、そうそう例の石の事なんだけどね。
お兄ちゃんがブルニードのデータを見て、転送場所の設定を変えられるかもしれないだって。
もしかしたらすぐにあの石のある場所に行けるようにできるかもしれないって言ってたわよ」
「そ、そうなんだ……」
「あっ……」

タタンの一言で、悪魔のディナはますます追い詰められてしまった。

「そうなったら、二つの身体に分かれるのは簡単になりますね」
「…………」

タタンも今のをこのタイミングで言ってはまずかったと理解したのか、そこで黙りこくってしまった。
そこでまた天使のディナから悪魔のディナに替わる。

「ど、どうしよう……」
「どうしようと言われても……」
「…………」
「…………」

不思議な沈黙が訪れて、次の言葉が出てこない。
何でもいいから話そうと思い、出てきた言葉は……

「い、一度お茶の間に戻ろうか。まだ3人目の子供ができるって決まったわけじゃないんだし」
「そ、そうよね。絶対そうなると決まっているんじゃないわよね」
「あたしに言わせると、もう運命付けられてるようにしか見えないんだけど……」

タタンの一言は聞こえなかった事にして、とにかくここは一度お茶の間に戻る。


お茶の間に戻った時には、さっきの話はなかったかのように誰も触れないでいた。
知り合いの近況とか、子育てについて話を聞いたりとか……それはお父さんに相談しないと分からないって言われたけど。
とにかく他の話題について色々としばらく話をしていると、日が傾いてきた。

「うわ、もうこんなに……」
「そうですね、それではそろそろ料理の準備を始めます。タタンさん、食べていきませんか?」
「そうね、ごちそうになるわ」
「それなら僕も薪を割っておくよ」

という事で、夕食の準備をそれぞれ始める。
僕の方は明日使う分の薪をこの時間くらいにいつも割って準備している。

結婚してここに住むようになってからディナは料理を勉強し始めた。
最初はかなり苦労していたのが、毎日作っているうちに上達し、今ではそこそこの料理は作れるようになった。


「ディナ、こっちは終わったよ」
「はい、こっちももうすぐできますよ」

僕が薪割りを終えて家の中に帰ってきてすぐ、ディナの料理が完成する。


今日の料理担当は天使の方のディナで、出てきたのは野菜のスープなどさっぱりした料理だった。

「いただきます……んむ……」

タタンも料理を一口食べて、そして頬をほころばせた。

「やるわね……なかなかおいしくできてる」
「それはよかったですわ」
「でも、この前出てきた料理とかなり違っているような気がするんだけど」
「んんっ……なんか、あたしとアイツでクセが違うのよ」

悪魔のディナが出てきた。

最初オルカにここまで来てもらって作り方を聞いたり、レシピ通りに作っている内は二人とも同じようなものを作っていた。
それが、慣れてきて自分で味付けをするようになってから変化が現れた。

料理をするこうようになって、天使のディナと悪魔のディナで味付けの好みが違うという事が分かった。
天使のディナは甘味が強いか薄味のものが中心で、悪魔のディナはスパイスや塩を多めに使って濃い味になる事が多い。

毎日交代で作って、その日は作った本人が食べる、というのが基本なので文句は出ない。
最近は食べられない程失敗する事はまれだし、食べる時に入れ替わっても悪くは言わないだろうと思う。
僕としても日替わりで味付けが変わるので楽しい。

「何だったら、今度来た時にはあたしの料理食べる?」
「前にも食べたけど……あれはコショウが多すぎて……」
「あの時はまだ習い始めたばっかりで、そんなにうまくなかったのよ。今だったらもっとおいしく作れるわ」
「そうなの? それだったら次は頼むわ」
「タタンにだけは料理で負けたくないのよ……だからいいわ」

悪魔のディナもどこか意地になっているような感じがした。
まあ……タタンに負けるというのだけは嫌という気持ちはよく分かる。

「はい、ごちそう様」
「リベンジするから、また近いうちに食べに来てね」

そんな事を話しながら夕食を食べ終わる。
タタンも満足していたみたいだし、久しぶりに僕ら以外の人がやってきてくれてよかった。


「それじゃ、あたしはこの辺で帰るわね」
「もうじき暗くなるけど、泊まって行かなくて大丈夫?」
「何も見えなくなるまでもう少し時間あるから、それまでに帰れるわ」

食器を片付けたところで、タタンは帰り支度を始めた。
確かに薄暗くなり始めたところで、急いで帰れば間に合うという感じはするけど……

「別に一泊するくらいなら準備できるけど……」
「本当に大丈夫よ、これくらい薄暗い森は何度も歩いているし。それに、あたしがいると二人には邪魔でしょ?」
「ええ、これからエッジさまといちゃいちゃするから、確かに居心地悪いかもしれませんね」
「ディ、ディナ!」

天使のディナは割と容赦なく言ってくれる。

「別にいいわよ、昔からそのテンションに付き合わされてたんだし……それじゃあね、また遊びに来るから」

タタンはさほど気にせず、駆け出しながら帰っていった。

「大丈夫でしょうか……」
「タタンが平気って言ってるからとりあえず大丈夫だとは思うけど……」

方向音痴という話も聞いてないし、道に迷ったりはしないだろうけど。

「……ん? エルナ達泣いてる?」
「あっ、本当です! 早く戻りましょう」

また子供達が泣いているので、急いで家の中に戻る。

それから夜までまたあわただしい時間となった。
途中さらに何度か子供達が泣いたりして、その世話に追われたりした。


夜になって子供の世話も他の家事も終わって、ようやく落ち着く事ができた。

「……二人とも寝た?」
「はい、ぐっすり」

エルナとソルを寝かしつけて、寝室に向かう。
二人のゆりかごは別の部屋に置いて、これからしばらくは声が完全に聞こえないようにする。
寝室は防音にしてあって、扉を閉めると外の声は何も聞こえなくなる。

「それではエッジさま、また今日もいっぱい可愛がって下さいね」

この寝室の部屋の扉を閉めた瞬間、部屋の空気が変わったような気がした。
ディナも雰囲気が切り替わって、僕に向ける視線がほんの数秒前とは違うものとなった。

「エッジさま……早く」

ディナが口を上に突き出して、その体勢で催促をしてきた。

「分かった……んん……」
「んむぅ……」

僕もそれに応えて、ディナの口を塞ぐ。

「んくっ……んむむむぅぅ……」
「はむぅ……ちゅぱ……んむぅ……」

舌でディナの唇を開き、その隙間から舌を差し込む。ディナの舌が触れて、僕の舌を舐めまわしてきた。
唾液を流し込むと、すぐにディナの唾液が僕の口の中へと戻ってくる。

「ちゅくっ……んんむ……ぷあっ」

何度か唾液を行き来させた後口を離すと、舌先に糸が引いて、すぐに切れる。

「はむぅ……それでは一度替わりますね」

天使のディナが悪魔のディナに替わる。

「んっ……エッジ……今度はあたしにも……」

そしてまたさっきとほとんど同じ体勢で唇を近づけてきた。

「さっきの続きだね……んん……」

唇をつけると、また強く吸い付いてきた。むしろ天使のディナよりも吸い付いてくる力は強い。

「んぐっ……んんん……」

悪魔のディナも同じく唾液を舌に乗せて差し出してくる。

「んぐっ……んん」
「ちゅぷ……くちゅ……」

悪魔のディナの場合、流し込んでくる口に唾液の量がかなり多い。つられて僕も多くなってしまう。
そのせいで口の中に収まりきらずに口からこぼれてシーツを濡らしてもほとんど気にしない。

「は……ぁぁ……」

二度目のキスを済ませると、また天使のディナに戻った。
口元からこぼれた唾液が服の一部やシーツにまで垂れ落ちてきた。
目が潤んでいて、さっきよりかなり気分が高まってきているようであった。

「エッジさま……お風呂に行きませんか?」
「分かった、いいよ」

天使のディナの誘いのまま、この寝室から浴室へと場所を変える。
浴室に行く際、子供達の様子も一度確認するが特に異変はないようだった。


元々ディナは服を一着しか持っていなかった。
それからザーネさんやリンリさんから譲ってもらったりして、いつの間にか服は結構増えていた。
元々着ていたのがきわどい服だったけど、今は何の変哲もないワンピースを着ている。

「さ、エッジさま行きましょう」
「ディナ、それでいいの?」
「はい、今日はこのままで入りますわ」

僕は服を全部脱いで、ディナは下着だけ脱いでシャワールームに入る。

「それではエッジさま、お湯をかけますね……」

最初に僕に軽くお湯を当ててから、自分にもシャワーをかける。
ディナは服を着たままシャワーを浴びる。水が染み込んでいき、ワンピースが水のせいで変色していく。
しばらくすると服が肌に張り付いて、肌が透ける。

「もっと見てもいいんですよ?」

恥ずかしがって服を脱げないなんて事は今さらないと思っていたけど、ディナの考えている事はその反対のようだった。
水のせいで服が透けて、裸よりもいやらしく見える。

「ま、まずは髪の毛を先に洗おう」

シャワーの放水を止めて近付いてきたところで、一度ディナの事を制止する。
今の格好のディナを前にして、一度攻められ始めたらもう他の事は考えられなくなってしまうような気がしてきた。
その前にせめてディナの髪の毛くらいは洗ってあげたかった。

「分かりました、それではお願いしますわ」

ディナも理解してくれて、後ろを向いて腰掛けた。

「じっとしてて」

後ろに回って、ディナの髪の毛に触る。
髪がさらさらとしていて、触ると手先が気持ちいい。

「んっ、んん……」

あまり力を加えすぎないように注意しながら髪の毛を洗っていく。
髪を洗っている間、ディナは静かにしていた。

「……あっ」

洗っている途中で悪魔のディナに入れ替わる。
髪型はシャンプーがついたままポニーに変わって、手先の感触がいきなり変化して違和感があった。

「えっと、どうかした?」
「エッジ、続けて」
「でも、どちらか片方がやればそれで髪洗った事になるんじゃ……」
「だから半分はあたしが感じても問題ないでしょ?」
「そうか、それなら……」

ディナの髪の毛のリボンを引っ張り、髪を下ろして再開する。

「髪の毛洗われるの気持ちいい?」
「う、うん……」

後ろから声をかけると、ディナは素直に返事をした。

天使のディナと悪魔のディナで微妙に髪の肌触りが違う。
天使のディナの方がさらさらしていて、悪魔のディナはやや髪が固い。
悪魔のディナは昔はこの髪にコンプレックス持っていたみたいだったけど、どっちも魅力的な髪だと思う。

とにかく、洗っているとディナが話しかけてきた。

「エッジ……どうしていきなり髪洗いたいなんて言い出したの?」
「髪くらいは僕が綺麗にしてあげたいって思うから……」
「なんか変態っぽいわよ、それ」

話をしながら、最後に洗い流して終わりにする。

「はい、終わったよ」
「ん……ありがと。それじゃまた替わるわね」

終わったら天使のディナへと戻った。

「それではエッジさま、いよいよ続きをはじめますわ」
「う、うん……」

髪の毛の水を軽く落としながらディナは

「まずは……」

僕を浴槽の淵に腰掛けさせて足を開かせる。さらに自分は一度起き上がる。
ディナはワンピースの前のボタンを外して、胸をはだけさせる。左右の両方ともが弾けるように外に出てきた。

「……それっ」

そして真正面から僕の顔めがけて抱きついてきた。胸の谷間に顔が埋もれて、ほんの少しの間窒息しかける。
当たり前だけど初めて会った時よりもかなり成長していて、弾力も増してる。

「ちゅくっ……」
「んあっ、エッジさま……」

すぐに手の力をゆるめてくれたので、息ができるようになった。
顔を少し動かして、おっぱいの片方に口をつけて吸い付く。母乳が出て口の中に入ってくる。

「大きくなったね」
「エッジさまがかわいがってくれれば、もっと大きくなりますわ」

さらにもう片方を手で触ると、僕の手に合わせて形を変える。

「んむっ……」
「エッジさま、普段は両方とも塞がってて、夜にならないと空きませんからね」
「……」


昔、何年も前に、おっぱいを吸っているときに母乳が出なかった事がある。
それで、赤ちゃんができたら出るようになるかもしれないと冗談半分に言われた。
そして妊娠して母乳が出始めた時、僕の元に真っ先にやってきた。

『これでようやくあの時の約束が果たせますわ』と、本当に嬉しそうに話してきた。

そうやってディナがはしゃいでやってくるまで、完全にその時の会話を忘れていた。


楽しそうにしていたので断る事もできず、ためしに少しだけ飲んでみる事にした。
それ以来飲む行為を頻繁に取り入れるようになり……気が付くと僕らの間でプレイの定番になっていた。

「あっ……んん、やっぱりエッジさまに飲んでもらった方が気持ちいいですわ」
「ディナ、そういう事は母親として……」
「ふふっ、冗談ですわ」

あんまり味はしない……でもディナから飲んでいるという事自体が異様な刺激となってくれる。
あの頃と比べると、当たり前だけどかなり胸が大きくなってる。

「んくっ……」

少し飲んだら口を離す。本来は子供達の分だからほどほどにしておく。

「もういいんですか?」
「うん……本当ならエルナとソルの分だから」
「そうですか……でも、こっちはあなたが好きにしていいですよ」

今度はディナは自分の股へと手を伸ばした。
自分で触り、軽くいじって指で押し開いた。
くちゅくちゅと湿った音がして、その隙間からお湯とは違う液体があふれ出ていた。

「ほら……まずは少しだけ味見して下さい」

指についた分を口元にまで運んできた。
反射的に口を少し開けてしまい、愛液のついた指が口の中に滑り込んでくる。

「ん、んんっ……」

指が僕の口を中をかきまわし、さっきの母乳とは違った粘り気が口の中に広がる。

「もうちょっとだけわたしの好きにしていいですか?」
「い、いいけど……」

何かよからぬ事を考えている時のような目つきをしていた。
しかし何か考えていたとしても、僕はそれに抵抗する気持ちはほとんどなくなっていた。

「分かりました…それならあなた、そのままじっとしていて下さい」

僕は縁に腰掛けたまま、ディナが身体を下ろす。
ひざをついて座ると、ディナの胸と僕の股間がちょうど同じ高さになった。
上着をさらにもう少しだけはだけさせて、その胸を完全に露出させた。

「んっ……んんっ……」

その体勢でもう一度自分の秘部をさわり、音を鳴らす。
垂れてきた愛液を自分の胸、そして僕の分身へと塗りつける。
さらに唾液も舌から垂らして、同じように上から塗っていく。

「ん……ふぁぁ……」

自分で胸を少しだけ母乳を出して、それも加えて塗り広げる。
とにかく色々なものが混じった粘液がディナの胸と僕の股間を包み、ぬるぬるした感触が伝わる。

「それではいきます……」

準備が終わり、すでにべとべとになっている僕の分身を握る。
手を動かすと手がよくすべり、それだけで強烈な刺激が送られる。

「は、うっ……」
「ふふ……気持ちよさそうですね、あなた」

僕が声をあげてしまうのを見て、ディナは嬉しそうに笑っていた。
勢いを増したり弱めたり、握る力を強めたりと、色々好きなように手を動かして、その都度僕は反応してしまう。
舌を出して先端を軽く舐めて、それからもう一度手を動かす。

「あっ……うくっ」

舌の感触が強烈で、また全身が震える。
ディナは少し身を乗り出して、胸を使って挟む。

「やっぱり……大きい方があなたを喜ばせる事ができるのですね」
「べ、別に、そういうわけでも……」
「別に恥ずかしがらなくてもいいですよ。気持ちよくなってくれた方が……嬉しいですし……んんっ」

うまく胸で僕の分身を挟み込んだまま、ディナは身体を大きく前後させる。
さらに時折舌先が突っつくように当たるのでそれも強烈な刺激となる。

「んあっ……」

粘液のぬめりと、ディナの胸の柔らかさに包まれて僕は全く身動きが取れない。
さらに上からディナの熱い息が当たり、それで余計に熱せられる。
上からよだれを垂らして、もう一度滑りをよくした。そして動くスピードを早める。

「あなた、そのまま、一度出して下さい」
「う、くぁ……っ!」

軽くキスをされたのが引き金となって、僕は堪えきれずに白濁液を吹き出す。
白濁液はディナの顔に直接かかる。その間ディナはぼんやりとしていて、どんどん顔を汚す。

「ん……んあぁ……」

かなりの量が吹き出た後、止まる。
終わった時にはディナは白濁にまみれていた。

「ふぁぁ……あなた、気持ちよかったですか?」

顔についた精液を少しだけ指ですくって、口に運んだ後身体を寄せてきた。
お湯を染み込ませた服を着ているおかげか、身体が温められるらしい。抱きついてきた身体は結構熱くなっていた。

「う、うん……すごくよかった」

話をしながらシャワーを出して、顔の汚れを洗い流す。

「あ……もったいない……」

精液が排水溝に流されていくのを見て、少しさみしそうな顔をした。

「も、もったいないって……」
「それでは今の分も含めてもう一度お願いしますね」
「わ、分かった……」
「すぐに準備しますからちょっとだけ待ってて下さいね、あなた」

石鹸を泡立てて、自分の全身に塗る。
すぐに身体全体にめぐって、あっという間にディナの全身は泡におおわれる。

「ふふ、どうですか、あなた」
「うん……きれいだよ」

全身が泡にまみれて、いやらしくも変な美しさがあるように見えた。

「それではいきます……」

泡だらけになった身体を身体に密着させて、こすり付けるようにして身体を動かす。
そのまま、僕の身体を持ち上げて床に仰向けで寝転がされる。僕も自然とディナの誘導に従うような形で動いていた。

この手の用途のためというオイルを一度見かけた事がある。
その時は買わなかったけど……そのうち天使のディナが買ってしまいそうな気はする。

「うん……すごく気持ちいいよ」
「よかったです……もっと気持ちよくなってくださいね、あなた」

結婚してから、その日の気分で呼び名が変わるようになった。
今日は『あなた』という風に呼んでいる。

「んっ……んんっ……」

床に倒れた僕に全身を擦りつけながら、ディナは息を吐きかけてくる。
僕とディナの間で石鹸がさらにあわ立つ。
ぬるぬる感とディナの肌の気持ちよさに力が抜けて、ほとんどディナにされるがままになっていた。

「あなた……」

僕はほとんど動けないまま、ディナの身体の感触にじっとゆだねていた。
髪の毛が首筋のあたりをかすめて、変なくすぐったさがある。

こうやって風呂場でのプレイを気に入るようになったのは、温泉で一度ディナの事を抱いてから。
あの温泉では激しい運動をすると湯あたりを起こして気絶してしまうけど、これくらいのお湯の熱さなら問題ない。
……ついでに、こういう事もするだろうと思って普通の家の浴室より少し大きめに作っておいた。

「あっあっ、」

身体を擦りつけながら、ディナは腰を落として、僕の分身を自分の中へと入れていった。
自然な動作で入れていて、その後もディナは身体をこすりつけていた。

「そ、そろそろあなたも動いてください……」
「う、うん……」

言われるまま、僕も腰を動かす。ただ上に乗っているディナの動きが激しくて、申し訳程度にしか動く事ができない。

「ああっ、あなた……」

ディナの身体が軽くのけぞった。
軽く身体を震わせた後、またすぐに僕に抱きついてきた。

「あなた、愛してます……ん、んんっ……」
「……んぐっ、ぷあっ……うん、僕も」

動かしながら、顔を近づけてキスをしたり首筋を舐め回したりしてきた。
僕はほとんど動けず、ディナに任せたままであった。

何度目かのキスの後、僕ももう限界が近付いてきていた。

「んっく……ディナ、僕もう……」
「はい、そのままきてください……んんっ!」

さらに抱きついて、もう一度強くキスをしてきた。
そしてその体勢で再び限界が訪れ、ディナの中へと白い液体が注ぎ込まれていく。

「うっ……っくぁぁ」
「ふああ、ああぁぁぁぁっ!」

甲高い声を上げてディナは倒れる。
抱きしめて、さらにディナの秘部も受け入れている僕の分身を締め付ける。
強く身体を抱きしめている間、ディナの中へとどんどん入っていく。

「は……ぁぁぁぁ」

かなりの量がディナの中へと入っていったようだった。
射精収まっても、ディナはまだ僕のは引き抜かずにしばらくそのままでいた。

「ディナ、大丈夫?」
「はぁ、はぁ……す、すいませんあなた……」

ディナは息があがっている。心臓の鼓動が激しくなっているのが肌から伝わってくる。
やっぱり体力があまり戻っていないようだった。

「いいよ……気にしないで」
「はぁ、はぁ……あの子は寝室に戻りたいって言ってますから、戻ってもらえますか?」
「うん、分かった」


最後にもう一度キスをすると、身体を滑らせるように僕の上から降りた。
すでに結構疲れているので、ディナの身体を抱きかかえて連れていった。

ワンピースの服は濡れて、石鹸の泡も結構残っている。
これは次の日に洗濯するようにして、もう一度寝室に戻る。
別の部屋で寝かしつけている子供達の様子ももう一度確認するが特に異変はなかった。

「二人ともよく寝てる……続けても大丈夫そうだよ」
「それでは、後はあの子に任せますね」

入ったところで、今度は悪魔のディナに替わる。

「ふぅ……」

裸のままのディナはまだ呼吸が荒かった。

「ディナ、まだ少し疲れてる?」
「う、うん……ごめん」

悪魔のディナはさっきの天使のディナがした時の疲れも受け継いでいて、それがまだ残っているという感じだった。

「しばらくの間休んでていいよ」
「ん……」

ベッドの上に眠らせて、続いて僕も乗りかかる。
それからさらに後ろからディナの身体に手を回す。
敏感な所は避けて、髪の毛や頬、腰などを軽く撫で回すくらいにしておく。

「ねえ、エッジ」
「ん、どうかした?」

少しそうしていると落ち着いたみたいで、そのままの体勢で話をしてきた。

「エッジ、あたしが妊娠しててエッチできない間本当に一度も浮気しなかったわよね」
「あ、あれはディナが手とか口とか髪とかで毎日してくれたから……」

他にも、足とか頭の羽根とか尻尾とか……
とにかく考え付く限りの身体の部位を一通り試したんじゃないかと思う。

「まあ、それはアイツが一番楽しそうではあったけど……でも、ありがとね」

確かにその間天使のディナが主導権握ってたような気はする。

「ディナの方こそ大変だったよね。不便な事とかいっぱいあって」
「で、でも、それはエッジもちゃんとフォローしてくれていたし」

僕の方は普通に生活について言っているだけなのに、ディナはなんか照れてるようだった。

「いつの間にかアイツ、エッジの事をあなたなんて呼ぶようになったわよね」
「でも、夫婦ならそんなに不自然な呼び方でもないとは思うし」
「ご主人様、って呼ぶ時もあるけど?」
「うん……ある」

そうなった時の天使のディナはさらに激しさを増す。
呼び方一つで僕も気分が変わって、結構僕の方も対応が変わっているような気がする。

「そういえば悪魔のディナはずっと同じままだよね、呼び名」
「エッジって呼んでも、別に不便とかないでしょ?」
「だけど、たまには他の言い方があったりしても……」
「何よ……呼んで欲しいの?」

悪魔のディナが僕をどう呼ぶかなんてこれまで気にしてなかった。
なのに、話をしている内に気が変わって他の呼び方も聞いてみたいという気持ちがわいてきた。
……というより、悪魔のディナに言わせてみたくなった。

「……一度だけでもいいから、聞きたい」
「ん……一回だけだからね」

悪魔のディナは、一度大きく呼吸をしてから息を止める。そして次の言葉を吐くまでに妙に長い間があった。
違う呼び方で呼ぶだけなのに結構緊張している。僕もディナも。

「あなた、あたしには優しくして、ね……やっぱりエッジはエッジでいいのよ、もう!」

かなり恥ずかしかったみたいで、だんだんと声が細くなっていくのがよく分かった。
それよりも気になったのは、あなたというより先の部分で……

「えっと……後半はお願いしてないけど……」
「あ……う……」

変な間が流れて、僕も言葉が途切れる。

「忘れて! 今言った事は忘れて!」

真っ赤になって顔を振り乱して、ディナは慌てて前言を撤回しようとした。

「んぐ……っ」

取り乱したディナの口を強引に塞ぐ。
最初はかなり戸惑っていたのが、しばらくしてディナの方からも舌を出して返してきた。

「ぷあっ……うん、忘れた」
「ん……まったく、もうちょっとうまい嘘のつき方とかないの?」

口を離すとディナはさっそく悪態をついてきた……けど表情は台詞と合ってない。

「それで、どうして欲しい?」
「ア、アイツみたいに激しくなくていいから、優しくして欲しいの」

忘れたと言ったばかりなのに、つい要望を聞いてしまった。ディナも方も自然と返事したし。

「うん、分かった」

返事をしながら乳首に吸い付く。天使のディナの時よりも心持ち力を加減する。

「ちゅ……」
「んっ……」

ディナは身体を左右に振って、くすぐったそうにしていた。

「や、やっぱりあたしの言った事忘れてないんじゃないの」
「でも、こうした方が嬉しいんでしょ?」

悪魔のディナは頭の後ろに手を回して、頭を撫でてくる。
慣れていてすごく優しい手つきで、それだけで気持ちよくなってくる。

「ん……んむっ……」

吸っていくとさっきと同じように、口の中に母乳の味が満ちる。

「あ……もういいの?」

あまり飲みすぎないように、またすぐに口を離す。

「子供の分を飲みすぎたりしたらいけないから」
「じゃ、じゃあ、おっぱい吸わなくてもいいからしばらくこのままでいない?」
「それじゃ、お言葉に甘えて……」

胸に顔を埋めて、そのままじっとする。
頭にしっかりと手を回して、それで頭が抜けないようにおさまえた。それでまた頭を撫でてくれる。

「エッジ、お父さんになったのに昔より甘えるようになったんじゃない?」
「そう、かな?」

こうやって何もしないのにくっつくような事は確かに多くなったかもしれない。
ぐりぐりと頭を動かして、ディナの胸のあたりに押し付ける。

「ま、まあ……おっぱいの事だけだけど」
「……ディナの方から誘ったのに」
「……ひゃっ」

尻尾に手を回して軽く握り締める。
ディナは全身をぴくんとふるわせる。

「んああ……」
「それと、こっちは……」

もう一つの手で、ディナの股へと手を這わせていく。
触ると、愛液が垂れ落ちていた。
軽く触るとくちゅくちゅと音が鳴り、それだけでどんどん漏れてくる。

「あ、あぁっ……」

少し指の力を加えていじるとディナの声が高くなっていった。
さらに動かすとますますディナの声を上げるペースが早くなってくる。

「あっ、ああああぁぁぁぁっ……!」

不意に顔を強く抱きしめて、身体が震えた。
胸の辺りに埋めている顔を押さえつけられて、息ができなくなる。
その体勢で何度か身体を小刻みに震わせた後力がゆるくなったので顔を外す。

「ディナ、大丈夫だった?」
「う、うん……これくらいでいい……」

手を見ると、愛液が手にべっとりとついている。息もやっぱり荒い。

「あ、いやっ……」

ディナの足を広げさせて、その隙間に顔をうずめる。その奥にまで舌を差し込む。

「さっき天使のディナからもらうの忘れたから、その分も含めてちょっと多めに……」
「あ、ちょっと……ふあぁぁ……」

割れ目を舌で触るとぴくんぴくんと震わせた。
あふれてくるエキスをすするようにして舐め取っていく。


「ね、ねえエッジ……あたしも、いい?」
「うん、もちろん」

舌で舐め取っている内にディナも落ち着いてきたみたいで、ためらいがちに聞いてきた。

「んっ……ちゅぱっ……」

ディナも身体を一度起こして身体を反転させて、僕の股間へと顔を近づける。そしてお互いの秘部に舌を這わせる。

「はむっ……んん……」

軽く唇を当てて、それから舌を使いつつ口の中へ含んだ。

「んぐ……じゅぷ……」

だんだん熱がこもってきて、ディナ自身の興奮が増すとともに僕も高められていった。

「んん……ディナ、僕もうそろそろ……」
「んん、ちゅく……んむっ、うん……いいわよ……ちゅううぅぅぅ……」

僕が訴えるとディナは強く吸い付いてきて、それで簡単に達してしまった。
口の中に出す。それでもディナは口を離さず、出される精液を吸っていく。

「んっ……んぐぐ……」

少し遅れてディナも割れ目から僕の口に向けて液体を吹き出した。
勢いよく次から次へと出てくるため飲みきれず、顔にもかかっていく。

「……ディナ、疲れてない?」
「んああ……エッジの方こそ、大丈夫?」

放出が終わった時にはどちらも顔中がべとべとになってた。
部屋のタンスからハンカチを取り出し、顔をふいてあげる。
終わったら今度はディナが同じハンカチを持って僕の顔を拭いてくれた。

「それじゃ、ディナ……」
「……うん」

一度向き合って、それで体勢を整える。
ベッドの上で僕があぐらをかいて、その上にディナが座ってきた。

「んっ……んああぁっ!」

ディナの身体を一度持ち上げて、そして身体を落とす。
真上に向いている僕の怒張が下から突き上げるような形になったけど、ディナはそれを簡単に受け入れていた。

「く……動くわよ……」

ディナは乗っかったまま身体を上下させ始めた。
僕もディナの身体を支えながら、動ける限りで身体を揺さぶる。

「エッジ……んんっ……」

ディナの身体がはねるたびに小さく声を漏らす。僕もディナも。
両手をディナの身体に回して、尻尾や胸などをつまむ。

「んっ……はむ……」

ふとディナが身体を寄せてきて、耳に軽く噛み付いてきた。

「ディ、ディナ、それは……あぅ……」
「ちょ、ちょうどいい場所に耳があったから……」

耳はこれまでもあまり攻められてなかったので、ぞわぞわとした快感があった。

すぐに高められて、限界が近付く。
ディナもほとんど同じようで、かなり。

「エッジ……好き……好き」
「ディナ……僕も好きだよ」

ディナがさらに強く抱きついてきた。腕に力を込めていて、少しだけ息苦しい。
最後に耳元に口を近づけて、軽く息を吸う音が聞こえた。

「ね、ねえ、エッジ……」
「どうか、した……?」
「あたし、幸せ……」

耳元でささやいて、直後にまた耳に噛み付いた。
言葉が想像以上に頭の中に響いた上にさらに締め付けが強くなって、僕もこれ以上堪える事ができなくなった。

「……っく、ディナ」
「あ、ああああぁぁぁっっ……!」

次の瞬間僕はまた限界に達した。
ディナのお腹の中に白濁が再び入っていく。

「はっ、はっ……あぅぅ……」

ディナの秘部が強く締め付けてきて、それがさらに気持ちよさを加速させる。

「ん……」

射精が終わった後、ディナも手の力が緩まる。
ゆっくりとベッドの上に仰向けになるように寝かしつけて、背中をなでて落ち着かせる。

「ディナ、落ち着いた?」
「ん……もう大丈夫」

だんだんと心臓の鼓動がゆるくなってきて、落ち着いてきたようだった。

「エッジ、気持ちよかったわよ」
「あ……っと、うん。僕も……」

ディナのストレートな言い方に、僕も一瞬言葉に詰まる。

「んむっ……それじゃ、おやすみ……」

最後にもう一度キスをする。
目を瞑って眠りそうになったところで、跳ね上がるようにベッドから飛び出る。

「そうだ、子供達を連れてこないと!」
「あっと、そうだった」

二人で部屋の鍵を開けて、扉も開く。
そして寝ているエルナとソルの入った揺りかごをこの部屋に持ってくる。


「それじゃエッジ、今度こそおやすみなさい……」
「うん、おやすみ……」

それでもう一度ベッドの中へと二人揃ってもぐりこむ。
裸のまま、僕の横に抱きついてディナは眠りについた。
僕もディナの事を抱きしめ返して、それでそのまま眠りへと落ちていった……
 

 


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