【JAM2009】"データベース"と"地域ブランディング"に見るアニメ産業の「未来」と「リアル」
2009年10月17日18時00分 / 提供:日刊サイゾー
アニメ産業、ライセンスビジネスについてのイベントがほぼ同時期に複数進行するなか、15日から開催中の「JAM(ジャパン・アニメコラボ・マーケット)2009」でも、アニメビジネスの盛衰を占うシンポジウムが開催された。
13時からの「AJAデータベースワーキング調査報告」(増田弘道氏=フロントメディア取締役、森祐治氏=シンク取締役が登壇)では、日本動画協会(AJA)が把握している統計を一挙に公開。ファンや関係者がなんとなく「いまこうなっているな」と思っているアニメ産業の現状を、数字の裏付けで再認識しようという意図のシンポジウムだった。
(データ、詳報はこちらから)
協会会員、つまりアニメ制作会社の売り上げは、2006年をピークとして右肩上がりの成長を続けてきた。しかし以降は漸減している。
この全体的な傾向を細分化すると、以下の事実が判明する。
・1985年にOVAが始まり、テレビアニメのタイトルが一時的に減少。その分が、テレビ東京の深夜アニメ枠開放とともに、テレビに戻ってくる。
・95年に『エヴァンゲリオン』、97年に『ポケットモンスター』『もののけ姫』がヒット。さらにアニメの制作工程がデジタル化したことで期待感が高まり、アニメへ投資しようという動きが強まった。
・1998年からテレビアニメの新作が増加。原因はDVD販売を前提とした深夜アニメの発生。
・21世紀に入り、全日帯の子供向けアニメが減る。
・アニメのタイトルが増えすぎ、1タイトルあたりの売り上げが減少、または頭打ち。アニメファン全体の財布には上限があり、ファンがすべてのDVDを買うことができなくなっている。
日本を除く世界のほとんどすべての国でアニメーションが3DCG化するなか、日本の「アニメ」は伝統工芸的に2Dのスタイルを維持している。グローバルに見たときにこれが日本の強みになっているというのがシンポジウム後半の論調だった。
ならば、内需に限界がある分、海外のアニメファンに課金すべきだが、現在正当に料金を徴収できているのはテレビアニメの使用楽曲についてのみ。映像そのものについては動画投稿サイトで世界中にタダ見されている状況であり、今後いかに視聴料を回収していくかが課題となる、と提言して締めくくった。
15時から行われた「アニメコンテンツによる地域ブランディング」は、現代に対応した観光の一例として「アニメコンテンツツーリズム」を取り上げた(陸川和男氏=キャラクターデータバンク取締役、伊藤卓哉氏=日本テレビ放送網コンテンツ事業局コンテンツセンター映画事業部プロデューサー、宮下義徳氏=上田市商工観光部観光課、山村高淑氏=北海道大学観光学高等研究センター准教授が登壇)。
「ひこにゃん」「せんとくん」によってご当地キャラにスポットライトが当たる。さらに『戦国BASARA』によって戦国武将ブームが起き、歴女というワードが浮上。これに『らきすた』以降顕在化した「聖地巡礼」がミックスされ、アニメの舞台となった地域が町起こしに動くケースが増えつつある。
今夏にロードショーが始まり、11週めに突入した劇場用アニメ『サマーウォーズ』の場合、舞台となった長野県上田市と製作委員会が、公開前からコラボレーションを行い、上田市へのファン誘致を進めてきた。聖地巡礼を自覚したうえで、公開後の反応を先回りした観光戦略を採ったのである。
宮下氏によれば「統計を取ることは難しいが、『サマーウォーズ』を目当てにしたファンによってあきらかに上田市への来訪者は増えた」という。この事例がなぜ成功したのかについて、議論が進んでいった。
上田市がアニメを利用した観光事業は、伊藤氏と宮下氏のパートナーシップを核として進んでいった。伊藤氏は上田市のために、無償で関連商品に使用できるキャラクター「仮ケンジ」を用意したが、山村氏によれば、こうした利益を配分する姿勢が重要だという。
「2000年を境に産業構造が変わってきた。以前のマス・マーケティングが通用しなくなっている。特定企業のひとり勝ちを避け、"小"が連携することが大切です」
山村氏は「コンテンツを依代(よりしろ)にする」と表現した。
アニメ(コンテンツ)で感情の高揚を体験したファンが、ネットで情報を収集し、リアルの舞台を訪れて、再び感情の高揚を獲得する。その循環が、『サマーウォーズ』と上田市の現場で起きているようなのだ。ネットとリアル、ふたつの世界をともに肯定する『サマーウォーズ』の主題と合致する出来事とも言える。
いまでは、細田守監督が表紙を描いた「聖地巡礼ノート」に上田市来訪の感想を書き込むことが、巡礼者=ファンの観光動機になっているという。
大量生産、大量消費型の産業モデルが廃れて久しい現代日本。これから先、日本アニメがどう生き残っていくのか、そして日本人はアニメによってどう生きていくのか。
大きな問題を提起してJAM2009の2日めは過ぎていった。
(取材・文・写真=後藤勝)
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13時からの「AJAデータベースワーキング調査報告」(増田弘道氏=フロントメディア取締役、森祐治氏=シンク取締役が登壇)では、日本動画協会(AJA)が把握している統計を一挙に公開。ファンや関係者がなんとなく「いまこうなっているな」と思っているアニメ産業の現状を、数字の裏付けで再認識しようという意図のシンポジウムだった。
(データ、詳報はこちらから)
協会会員、つまりアニメ制作会社の売り上げは、2006年をピークとして右肩上がりの成長を続けてきた。しかし以降は漸減している。
この全体的な傾向を細分化すると、以下の事実が判明する。
・1985年にOVAが始まり、テレビアニメのタイトルが一時的に減少。その分が、テレビ東京の深夜アニメ枠開放とともに、テレビに戻ってくる。
・95年に『エヴァンゲリオン』、97年に『ポケットモンスター』『もののけ姫』がヒット。さらにアニメの制作工程がデジタル化したことで期待感が高まり、アニメへ投資しようという動きが強まった。
・1998年からテレビアニメの新作が増加。原因はDVD販売を前提とした深夜アニメの発生。
・21世紀に入り、全日帯の子供向けアニメが減る。
・アニメのタイトルが増えすぎ、1タイトルあたりの売り上げが減少、または頭打ち。アニメファン全体の財布には上限があり、ファンがすべてのDVDを買うことができなくなっている。
日本を除く世界のほとんどすべての国でアニメーションが3DCG化するなか、日本の「アニメ」は伝統工芸的に2Dのスタイルを維持している。グローバルに見たときにこれが日本の強みになっているというのがシンポジウム後半の論調だった。
ならば、内需に限界がある分、海外のアニメファンに課金すべきだが、現在正当に料金を徴収できているのはテレビアニメの使用楽曲についてのみ。映像そのものについては動画投稿サイトで世界中にタダ見されている状況であり、今後いかに視聴料を回収していくかが課題となる、と提言して締めくくった。
15時から行われた「アニメコンテンツによる地域ブランディング」は、現代に対応した観光の一例として「アニメコンテンツツーリズム」を取り上げた(陸川和男氏=キャラクターデータバンク取締役、伊藤卓哉氏=日本テレビ放送網コンテンツ事業局コンテンツセンター映画事業部プロデューサー、宮下義徳氏=上田市商工観光部観光課、山村高淑氏=北海道大学観光学高等研究センター准教授が登壇)。
「ひこにゃん」「せんとくん」によってご当地キャラにスポットライトが当たる。さらに『戦国BASARA』によって戦国武将ブームが起き、歴女というワードが浮上。これに『らきすた』以降顕在化した「聖地巡礼」がミックスされ、アニメの舞台となった地域が町起こしに動くケースが増えつつある。
今夏にロードショーが始まり、11週めに突入した劇場用アニメ『サマーウォーズ』の場合、舞台となった長野県上田市と製作委員会が、公開前からコラボレーションを行い、上田市へのファン誘致を進めてきた。聖地巡礼を自覚したうえで、公開後の反応を先回りした観光戦略を採ったのである。
宮下氏によれば「統計を取ることは難しいが、『サマーウォーズ』を目当てにしたファンによってあきらかに上田市への来訪者は増えた」という。この事例がなぜ成功したのかについて、議論が進んでいった。
上田市がアニメを利用した観光事業は、伊藤氏と宮下氏のパートナーシップを核として進んでいった。伊藤氏は上田市のために、無償で関連商品に使用できるキャラクター「仮ケンジ」を用意したが、山村氏によれば、こうした利益を配分する姿勢が重要だという。
「2000年を境に産業構造が変わってきた。以前のマス・マーケティングが通用しなくなっている。特定企業のひとり勝ちを避け、"小"が連携することが大切です」
山村氏は「コンテンツを依代(よりしろ)にする」と表現した。
アニメ(コンテンツ)で感情の高揚を体験したファンが、ネットで情報を収集し、リアルの舞台を訪れて、再び感情の高揚を獲得する。その循環が、『サマーウォーズ』と上田市の現場で起きているようなのだ。ネットとリアル、ふたつの世界をともに肯定する『サマーウォーズ』の主題と合致する出来事とも言える。
いまでは、細田守監督が表紙を描いた「聖地巡礼ノート」に上田市来訪の感想を書き込むことが、巡礼者=ファンの観光動機になっているという。
大量生産、大量消費型の産業モデルが廃れて久しい現代日本。これから先、日本アニメがどう生き残っていくのか、そして日本人はアニメによってどう生きていくのか。
大きな問題を提起してJAM2009の2日めは過ぎていった。
(取材・文・写真=後藤勝)
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