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鳩山政権が掲げた「コンクリートから人へ」の改革が急ピッチで進む。国土交通省は今年度のダム6事業を凍結し、補正予算の見直しで高速道路6路線の4車線化も止めた。10年度予算概算要求では公共事業費を前年度当初比14%減と大幅に削って道路は新規事業が原則ゼロに。大胆な政策転換は関係地域の反発や懸念も招き、19日には現地を視察した八ッ場(やんば)ダム流域6都県知事が中止撤回を改めて訴えた。
「政権交代直後しか思い切った改革はできないという思いで取り組んだ」。馬淵澄夫副国交相は19日の会見で胸を張った。
同省の10年度予算概算要求での公共事業削減額は8157億円。自治体の直轄事業負担金の維持管理費分を国費に切り替えたことを勘案すると、実質的には約9800億円。民主党は政権公約で、13年度に公共事業を1・3兆円(国交省分は約1兆円)減らすとしたが、初年度で目標に近づいた。多くの省が要求額を膨らませた中で群を抜く削減額だ。
自公政権でも小泉内閣の構造改革以来、公共事業費は3%削減が続き、量的には抑制された。だが、地元への利益誘導を図る族議員の影響力は残り、「年度ベースの事業費が削減されても、事業自体は中止されずに先送りされたケースが大半」と指摘される。
新政権は「しがらみのなさ」を前面に出し、道路やダムなどの個別事業ごとに可否を精査し、公共事業の「質」にも切り込む構えだ。五十嵐敬喜法政大教授は「14%減は驚異的なカット率。国交省は事業官庁から政策官庁へ転換し、仕事が減る地方整備局は解体へ向かうだろう。公共事業は歴史的転換点を迎える」と評価する。
新政権が公共事業の削減を急ぐのは、マニフェストに盛り込んだ「子ども手当」(10年度で2・1兆円)など目玉政策の財源を捻出(ねんしゅつ)する狙いがある。同じ財政支出でも家計に直接渡して景気を刺激するのが「コンクリートから人へ」の具体化という考えだ。
だが、公共事業の大幅削減が景気回復に水を差す懸念もある。第一生命経済研究所の中本泰輔エコノミストは公共事業が1兆円程度削減されると、実質GDP(国内総生産)成長率が0・2%程度低下すると予測する。
失業率が過去最悪の水準である雇用への影響も懸念材料だ。日本建設業団体連合会の野村哲也会長(清水建設会長)は19日の会見で「大変危機感を持っている。景気が腰折れし、数十万人規模で雇用機会が減るのではないか」と強調した。公共事業への依存度が高い地方では「業者の倒産が増え、地域経済はさらに疲弊する」(富山県建設業協会)。
前原誠司国交相は「マニフェスト実現に必要な財源を生み出すことは、国民への一番大事な約束」と強調したが、新政権の荒療治の成果が問われることになる。【位川一郎、大場伸也、秋本裕子】
国直轄56ダムの今年度工事について、既に維持管理段階の8ダムと本体工事中の17ダムを除く31ダムのうち、6ダムの工事が凍結された。ダム建設事業費は、この6ダムと八ッ場ダムの本体建設費を除き、残りを「継続」で算出しても前年度予算比0・86倍、約1679億円に減った。
6ダムのうち思川(おもいがわ)開発を抱える栃木県は関連事業の発注を延期。福田富一知事は「経済的な影響は発生すると思う」と、雇用面などへの波及を懸念した。木曽川水系連絡導水路では、神田真秋愛知県知事が「ダムの水が使えないなら負担金は払えない」とする一方、河村たかし名古屋市長は撤退も検討。沙流(さる)川総合開発は、高橋はるみ北海道知事が事業の是非の「再評価」に触れたが川上満・平取町長は着工を求め、地元自治体間に温度差も生じている。【石原聖】
高速道路6路線の4車線化凍結について馬淵副国交相は「整備手法や事業主体を再検証する必要がある」と説明。緊急性に乏しいと判断したとみられる。
凍結が決まった和歌山県の阪和自動車道・御坊-南紀田辺。議員の約3分の2が自民党員の同県議会は20日、全員協議会で凍結反対を決議する見通しだ。
さらに、国交省の10年度予算概算要求は「新規原則ゼロ」を打ち出した道路関係事業費を前年度当初比13%減の1兆5199億円と大幅に絞り込んだ。
新規凍結の対象に取りざたされるのが、宮崎県の海岸線を走る国道220号の改良工事。大雨が降るとがけ崩れの恐れで、通行止めとなる。日南市鵜戸地区住民協議会の竹山好行会長(72)は「防災対策を進めないと、この地区はすたれる。命をつなぐ道の大切さを理解して」と訴える。【種市房子、最上聡】
毎日新聞 2009年10月20日 東京朝刊
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