朝鮮民主主義研究センター

核より人権で圧力を(2005年2月26日)
Political Compass(2005年2月24日)
第二の敗北か、再生か(2005年2月23日)
ビクター・チャの「タカ派的関与政策」論(2005年2月20日)
中国の北朝鮮投資ブーム(2005年2月19日)
新東亜フォーラム(2005年2月17日)
北朝鮮人権法案と日本の難民政策(2005年2月16日)
梁東河・中平信也『わたしは、こうして北朝鮮で生き抜いた!』(2005年2月13日)
「ならずもの国家」の核保有宣言(2005年2月12日)
ブッシュの一般教書演説/北朝鮮人権法案(2005年2月 5日)

2005年2月26日

核より人権で圧力を

各国は北朝鮮の核保有宣言を無視することに決めたようだ。中韓は事実上の黙認。日米でさえ、形だけ非難してみせたが従来の政策は変えないという。今後も六ヶ国協議の開催をめぐる綱引きがつづくことになる。この調子では協議でなんらかの成果が出る見込みはまずない。

その一方で、日米の北朝鮮人権法は少しずつ前に進んでいる。アメリカでは、中国内の脱北者は3〜5万人、と指摘する報告書を国務省が作成した。日本では、民主党が北朝鮮人権侵害救済法案を国会に提出した。核よりも人権を軸にして北朝鮮に圧力をかけていく政策は歓迎すべきものだ。

ただ、国務省の報告書も指摘する通り、脱北者はここ数年間減ってきている。北朝鮮人権法が対象とする問題はすでに終息しつつあるわけだ。日米が脱北者の積極的な受け入れに転じても、北朝鮮の体制そのものにはそれほど影響を及ぼさないかもしれない。

今週の北朝鮮(2005/02/19-2005/02/25)

2005年2月24日

Political Compass

旗旗で紹介されていたPolitical Compassをやってみた。様々な設問に答えると自分の政治的位置がわかるというものだ。座標軸は横軸がLeft/Right、縦軸がAuthoritarian/Libertarianになっている。結果は以下の通り。

Economic Left/Right: -6.25
Social Libertarian/Authoritarian: -5.95

私はリバータリアン左翼に分類されるらしい。リバータリアンの傾向がそれほど強く出なかったのは意外だ。

ただ、この調査でわかるのは現実の政治的位置というよりは個人的な思想信条だ。現実の政治的位置を測る調査になれば、私の位置はもう少し真ん中に寄るのではないかと思う。

2005年2月23日

第二の敗北か、再生か

三浦小太郎氏が四トロ同窓会三次会で脱北者の保護や受け入れに関する左右の連携を提案し、草加耕助氏のブログで取り上げられた

草加氏自身は三浦氏の提案に賛成しているようだが、はっきりしない。postx氏と同様、内容的に正しくても右翼の提案に同調するのは躊躇してしまう、というのが本音なのだろう。

その感覚はわからないわけでもない。私自身、北朝鮮の人権状況のひどさに気がついてから、実際に運動に関わるまで、かなり時間がかかった。右翼の北朝鮮叩きに同調したくないという気持ちは強かったし、いまでも強い。しかし結局、そういう「左右の安全確認」よりも、北朝鮮の人権状況を見過ごせないという判断を優先させることにした。

草加氏は「私はこういう『他人の人権を尊重する右翼』というのは、三浦さんしか見たことがないのですが、これは層として存在するものなのでしょうか?」と疑問を投げかけている。私の答えはイエスだ。拉致被害者の救出を目的とした救う会という重要な例がある。私は現在は救う会を支持していないが、拉致という人権侵害を世論に訴え、日本政府に圧力をかけ、ついに被害者の帰還を実現させたことは重要な功績と言わなければならない。

拉致を「疑惑にすぎない」と軽視してきた左翼は9/17に手痛い敗北を蒙った。そして今、北朝鮮人権法は第二の敗北の始まりになろうとしている。この法律によって北朝鮮の体制が変わったとき、解放された人民はブッシュや小泉に感謝の言葉を述べ、反対した左翼を白い眼で見ることになるのだ。

私は一昨年、太田昌国氏の『「拉致」異論』を書評したとき、左翼には「巻き返しのチャンス」がある、と書いた。

北朝鮮の問題は既に拉致問題にとどまらない広がりを見せている。飢餓、強制収容所、難民などは拉致と同等の重みを持ち、緊急に解決しなければならない問題だ。これらの問題に真剣に取り組めば、北朝鮮の体制が変わった時には民衆同士の真の友好関係が生まれるだろう。現在の状況は厳しいものだが、巻き返しのチャンスもあるのだ。

このときよりも状況は厳しくなった。アメリカにつづいて日本で北朝鮮人権法が成立してしまえば、「人権」の看板を右翼から取り返すことはもはや不可能になるからだ。しかしそれでも、日韓ネットや韓国の参与連帯のように北朝鮮人権法に反対するのは愚かなことだ。自らすすんで断崖へと突進するようなものである。

2005年2月20日

ビクター・チャの「タカ派的関与政策」論

第二期ブッシュ政権で国家安全保障会議のアジア部長に就任したビクター・チャは、2003年にデービット・カンと共著で"Nuclear North Korea"という本を書いている。ビクター・チャはタカ派の観点から、デービット・カンはハト派の観点から、それぞれ北朝鮮政策を論じ、双方とも関与政策が最適だと結論している本だ。ビクター・チャは自らの主張を「タカ派的関与政策」(hawk engagement)と名付けている。タカ派であるにもかかわらず関与政策を主張する立場は興味深いものであり、第二期ブッシュ政権の北朝鮮政策を理解する上でも参考になりそうだ。そこで"Nuclear North Korea"に従って少し詳しく彼の見解を紹介してみたい。

北朝鮮脅威論

ビクター・チャは、北朝鮮が全面戦争を引き起こす可能性は否定する。米韓との戦力差は大きく、中露の支持も得られないだろうからだ。しかし、国際関係理論によれば、勝てる見込みが小さくても先制的行動に出るのが合理的と言える状況は存在するという。状況が次第に悪くなっており、何もしなければ全てを失うことが確実だと判断される場合だ。したがって北朝鮮が小規模な敵対行動に出る可能性はある。

リスクの高い「倍にするか、すべて失うか」という賭けは、勝っているギャンブラーにとってよいものではない。しかし数ドルしか残りがないギャンブラーにとっては魅力的なものだ。(26ページ)

北朝鮮に関しては1990年代に引き起こされた38度線付近での挑発行動やテポドン・ミサイルの試射が例として挙げられている。経済が破綻し、軍事力が衰退したことは、限定的な敵対行動へのインセンティブをむしろ高めたという。そうしなければジリ貧だからだ。

これは一種の脅威論だが、一般的な議論とは異なり、北朝鮮の軍事力を過大評価していない。そして軍事的に劣位でも脅威を与えることができるし、そうすることは合理的判断でもありうるという点を明らかにしている。

2000年に南北首脳会談や日朝首脳会談は、彼の観点からは、北朝鮮が本質的に変わったことを示すものではない。基本原則が変わったという証拠はない。したがって、近年の変化は戦術的なものにすぎないという。戦術的変化にすぎない以上、アメを与えて北朝鮮を経済改革へと誘導しても真の変化に結びつけることはできない。経済が回復すれば北朝鮮は元の原則へと回帰する可能性がある。

社会科学の行動理論が教えるところでは、行為者の意図の変化はそれをうみだす原則や価値の変化を必要とする。もし行為者の行動がそれに先行する価値や原則の変化に対応したものでなければ、それは戦術の変化であって意図の変化ではない。(82ページ)

では北朝鮮の基本原則とは何か。ビクター・チャは三つに整理する。

(1) 朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮人民の真の代表であり、南の傀儡政権(アメリカの軍事的植民地)は朝鮮人民に対する究極の脅威である。(2) 南朝鮮の(政府ではなく)人民はアメリカ人とその傀儡に反対してでも北との統一を歓迎するだろう。したがって共和国は革命へ向けて南の同調者との共同戦線戦術を追求すべきだ。(3) 究極的には北は勝利するだろう。道徳的に正しく、38度線の両側で人民の支持を得るだろうからだ。(82-83ページ)

北朝鮮のイデオロギーは変わっていない、というこの指摘も的確なものだと思える。アメを与えつづければ北朝鮮を変えることができるかのような主張はたしかに根拠がない。

タカ派的関与政策

北朝鮮は依然として脅威だ、という立場を取りつつも、ビクター・チャは一般のタカ派のように封じ込めや孤立化を主張するのではなく、ハト派と同様に関与政策が最善だという。彼はタカ派にとっても関与政策が最善と言える理由を五つ挙げる。第一に、関与政策は「懲罰のための連合」を形成する最善の方法だからだ。すべての手段を尽くさなければ懲罰への周辺国の同意は得られない。第二に、今日のアメは最も効果的な明日のムチとして使える。アメを取りあげること自体が効果的なムチとなるからだ。第三に、関与政策は「悪魔の」アメリカ人に対する先入見を覆し、北朝鮮の支配層に亀裂を生じさせることができる。第四に、関与政策は北朝鮮の崩壊を早める。北朝鮮は改革を必要としているが、改革をすすめれば体制が崩壊しかねないというジレンマを抱えている。第五に、関与政策は体制崩壊後の南北統一のコストを低める。封じ込めや孤立化は現状維持の政策にすぎず、南北統一への道筋を示せないのが問題だ。

しかし2002年10月、北朝鮮は濃縮ウラン計画を認めた。もはやビクター・チャの観点からみて関与政策の前提は失われつつある。

私は濃縮ウラン計画が明らかになった後では関与政策が実行可能な選択肢だとは考えない。タカ派的関与政策は対象国の意図がある程度曖昧な場合に妥当なものだ。(……)しかし北朝鮮の今回の違反行為はいかなる意図の曖昧さをも取り除くものだ。この行為は重要な合意からの小さな逸脱ではなく、大規模で静かな離反だ。このような条件の下での交渉は、タカ派にとっては宥和に等しい。(155-156ページ)

北朝鮮が協調の道を取らないのであれば、タカ派的関与政策の観点からは孤立化と封じ込めが唯一の選択肢となる。具体的には、核やミサイルに関する物資の輸出入の阻止、麻薬取引の摘発、平壌攻撃を可能とする軍事力の再配置などだ。その一方で人道支援はつづけ、中国をはじめとする周辺国には北朝鮮難民の受け入れを要請し、アメリカも難民を受け入れる。

孤立化と封じ込めを進めようとするとき、鍵になるのが中国と韓国だ。ビクター・チャが分析するところでは、中国はアジアの大国になろうとしており、北朝鮮の核開発を阻止することはそのために資する。反米的な世論が強まっている韓国でも北朝鮮の核開発には拒否反応が強い。彼は韓国人に対し、北朝鮮の核開発を容認すれば同盟国であるアメリカからの支持を失い、海外の投資家の信用を低下させる、と訴える。

結局のところ、彼の政策論で肝心なのは関与政策をどこで終えるかだ。北朝鮮政府は今や濃縮ウラン計画どころか公然と核保有を宣言するに至っている。タカ派的関与政策を追求する余地はもはやないように思える。にもかかわらず、タカ派的関与政策の眼目である「懲罰のための連合」はまだできていない。今後も中国政府や韓国政府が「懲罰」に同意する見込みはまずない。関与政策を続けることはできないが、孤立化と封じ込めを実行する環境もできていないのだ。そうなればアメリカ政府は無為無策のまま過ごすしかない。

孤立化と封じ込めの内容は本書では詳しく語られていないので、国家安全保障会議でビクター・チャがどのような政策を推進していくのかはよくわからない。国家安全保障会議のアジア部長という地位がどれほどの重さなのかもよくわからない。ただ、彼の北朝鮮政策論はあまりに「現実的」で、大胆さがない、とは言えそうだ。

目次

  1. ビクター・チャ「弱いが依然として脅威」
    • パズル:北朝鮮問題を理解する
    • なぜ北朝鮮は脅威を与えるのか
      • 緩和する要因の欠如
      • 「倍にするか、全て失うか」の論理
      • 先制的/予防的状況の現実化
      • 北朝鮮の意思決定の枠組み
      • 北朝鮮の先制的/予防的論理の証拠
      • 太陽は北朝鮮を照らしているか?
    • 政策(予告):「タカ派的関与政策」
      • 弱いが依然として危険
  2. デービット・カン「脅威を与えているが、抑止が作用している」
    • なぜ北朝鮮は軍事的脅威ではないのか
    • 抑止と変化する力の均衡
    • 核兵器とテロリズム
    • なぜ狂った男の仮説が無意味なのか
    • 結論:理論的・政策的含意
  3. ビクター・チャ「なぜ我々は『タカ派的関与政策』を追求しなければならないのか」
    • 抑止は作用している
      • 強圧的交渉
      • 9/11後の現状
    • 北朝鮮軍の衰退
    • 問題の核心:意図
    • 「タカ派的関与政策」
    • ブッシュの北朝鮮政策
      • なぜタカ派的関与政策なのか
      • 批評家はどこへ行くのか? 人権とミサイル防衛
      • 強圧はどこへ?
      • 脅威を政策に合わせるのではなく、政策を脅威に合わせよ
  4. デービット・カン「なぜ我々は関与政策を恐れるのか?」
    • 北朝鮮は経済改革を進めている
    • タカ派的関与政策、なぜ早期崩壊は起こりそうもないのか
    • なぜ我々は関与政策を恐れるのか?
      • 私の議論の主要な要素
    • アメリカの政策に影響する主要な要因
      • 韓国と中国の役割
      • アメリカの朝鮮半島政策
  5. ビクター・チャ/デービット・カン「誇張の支配:2003年の核危機」
    • デフォルトの政策?
    • 危機の発生
      • 北朝鮮の核「告白」
    • 我々の(異なった)危機の評価
      • デービット・カン:「始まり」への回帰
      • ビクター・チャ:引き返せないポイントを越えたか?
    • タカ派的関与政策に何が続くか?
      • あらためて、なぜタカ派的関与政策をとらないのか?
      • 孤立と封じ込め
    • 危機についての最後の言葉
  6. ビクター・チャ/デービット・カン「誇張を越え、戦略へ」
    • 政策の概略
    • 長期の朝鮮政策
    • なぜアイデンティティが重要なのか
      • ビジョン
      • 懐疑的?
    • 最終的な考え方

2005年2月19日

中国の北朝鮮投資ブーム

先月、河信基氏の『金正日の後継者は「在日」の息子』を書評した際、私は北朝鮮と中国・韓国の経済関係について次のように書いた。

北朝鮮経済に可能性がまったくないわけではない。中国や韓国との関係強化によって成長へと向かう可能性はある。中国や韓国の経済発展はアメリカや日本との関係によって可能になったものであり、同じことが北朝鮮に関して起こらないとは断言できない。しかし、中国からの投資を期待して2002年にスタートした新義州経済特区は、初代長官に任命された楊斌が中国で逮捕されたことで最初からつまづいた。韓国企業が進出する開城工業団地は昨年12月に生産が始まったばかりで、成果を論じるのはまだ早い。南北関係に依存したプロジェクトで、政治状況が変われば頓挫するおそれがある以上、積極的な投資は見込めないのではないか。北朝鮮の外資導入には1984年の合営法や1991年の羅津・先鋒自由経済貿易地帯のような失敗の歴史がある。体制が基本的に変わっていないのだから、同じ失敗が繰り返されるだろうと予想するのが理にかなっている。現時点で楽観論を語るのは難しい。

この見方は中国に関しては修正する必要がありそうだ。韓国の大韓貿易投資振興公社(KOTRA)によれば、2004年の中国から北朝鮮への投資は8850万ドルで、2003年の70倍だという。

70倍というのは尋常ではない。ブームと表現する以外ない。

あらためて少し調べてみると、中国で投資ブームの中心になっているのは昨年2月にできた北京朝華友聯文化交流有限公司という国策企業。今年5月に平壌で開かれる平壌国際商品博覧会でもこの企業が中国側の窓口になっているという。ブームの背景は「『東北振興』で動きだす中朝経済協力」という世界日報の記事が分析している。中国政府は経済発展から取り残されていた東北部が脱北者の流入によってさらに不安定化することを憂慮し、「東北振興」と中朝経済関係の強化をうちだした、とのことだ。

投資ブーム自体は田中宇氏の「経済発展が始まりそうな北朝鮮」でも指摘されていたが、「中国のユダヤ人」である温州商人がブームを先導している、という視点が軽薄に感じられたので読みとばしてしまっていた。しかし中国政府が東北部の振興と並行して北朝鮮への投資を支援しているという分析なら理解できる。

このブームは経済発展の始まりなのか、いずれはじけるバブルなのか。判断はもう少し先延ばしにしておきたい。

今週の北朝鮮(2005/02/12-2005/02/18)

2005年2月17日

新東亜フォーラム

試験的に新東亜フォーラムを開設してみました。アジア・ニュースリンクの付属掲示板のような位置づけです。アジアのニュースに関する情報交換や議論にお使いください。

北朝鮮に関する話題はこれまで通り朝民研で扱っていきますが、なにか問題提起がある方は新東亜フォーラムのほうに投稿していただいてもかまいません。ただ、北朝鮮に関する私の意見へのコメントはなるべく朝民研でお願いします。

2005年2月16日

北朝鮮人権法案と日本の難民政策

2/5に自民党の北朝鮮人権法案を保守政党に期待しうる最良のものと評価したことに対し、クルディスタン日本語NEWSのpostxさんからトラックバックをいただいた。北朝鮮難民だけを特別扱いする法律をつくるより、閉鎖的な難民政策を全般的に見なおすべきだ、ということだ。

いかにも、世界の難民を積極的に受け入れていく方向へと難民政策を変え、その中で脱北者の受け入れを位置づける方向で法案が作られれば、「保守政党に期待しうる」などという限定なしに最良のものとして評価できるだろう。その意味で、「日本の難民政策全般の見直しという視点を欠いている」という批判には異論はない。

自民党案が修正されていく方向は二つある。第一は、脱北者を受け入れる条件を狭めていき、日本人と「日本人に準ずる者」(つまり元帰国者)しか受け入れないように変えてしまう方向。第二は、民主党の北朝鮮人権侵害救済法案との調整により、一般的な難民政策の枠組みで脱北者を扱うように変えていく方向だ。法案の審議が第二の方向へと進んでいけばよいと思う。

postxさんは「日本において拉致問題関連を論じている右系の論客たちは,『日本の難民政策全般』に関する理解が乏しく,この辺ほんとうにディスコミニュケーションを感じます」と嘆く。たしかにそうなのだが、もう一方の面もある。閉鎖的な日本の難民政策を批判する人たちは、脱北者の問題に対してほとんど関心を持っていないように感じるのだ。脱北者問題を日本の難民政策を改善する絶好のチャンスと捉え、積極的に取り組んでくれてもいいのではないだろうか。

2005年2月13日

梁東河・中平信也『わたしは、こうして北朝鮮で生き抜いた!』

帰国事業で北朝鮮に渡り、2000年すぎに脱北して日本に戻った梁東河氏の回想記。

帰国者というと、北朝鮮で差別されて悲惨な目にあった経験が語られることが多い。日本の文化を持ちこむ異分子として扱われ、不満を口にすれば反逆者として収容所行き、というのが一般的なイメージだ。しかし本書の視点はそういったものとは異なる。北朝鮮社会に適応できない帰国者のほうにも問題があるという。帰国者であっても差別なく朝鮮労働党に入党できたし、周りの帰国者もそうだったと指摘される。

著者によれば、北朝鮮がおかしくなりはじめたのは1980年代の半ば。それ以前の時期の描写はそれほど否定的なものではない。誰もが熱心に働いたことや、ワイロなど必要なかったことが回想される。「工場では、私だけでなく誰もがよく働いた。また、偉ければ偉いほど、つまり、地位が高いほど、自分が模範を示さなくてはならないと進んで働く傾向があった」とのことだ。

1980年代後半、配給や給料の支払いが滞りはじめたため、著者は商売に手を出す。薬草の販売から始め、工場からの製品の横流し、中国への銅やクズ鉄の密輸など大きな商売へと展開。もちろん違法行為である。機転をきかせ、ワイロも使って難局を切り抜けた経験は映画のようだ。

1990年代には在日朝鮮人の合弁企業で働いた。そこで著者は「大安方式」の問題に気づく。工場の経営が生産現場の責任者である「支配人」と工場の党組織のトップである「初級党委員会秘書」との二人三脚で行われる方式だ。在日朝鮮人の社長はこの方式を理解できず、支配人と対立。激昂した支配人は脳溢血で倒れてしまったという。

脱北のきっかけになったのは、2000年の人民委員会の報告書に「朝鮮革命が失敗に終わったのは帰国同胞が朝鮮に入ってきたからである」という記述があるのを知ったとき。絶望した著者は家族を残して中国へ脱出し、戸籍を買って中国人に化け、正式に中国のパスポートを取得して日本に入国した。

著者は配給制度の崩壊と市場経済への移行を肯定的に評価する。「私は商売で生きるようになって初めて、階級(身分と言った方が正確かもしれない)のない社会に生きたような気がした。新しい北朝鮮は、配給制度のないところにできる。私は、現在の北朝鮮の指導部が私利私欲のために援助物資をワタクシすることにより墓穴を掘ったと考えている。北朝鮮は、配給制度と唯一思想で成り立っているが、この二本足の一本がやっと失われたのである」ということだ。ただし、市場経済への移行が体制の崩壊に結びつくとは考えない。北朝鮮の人民はどこまでも従順であり、「反逆者」に対する処罰も厳しいからだという。

「日本に帰ってきて何がよかったか」と聞かれ、著者は「自由があるからだ」と答えた。さらにその「自由」の意味を問われ、「電車をぼーっと待つことができることや、電車に平気で酔っ払いが乗ってくることができることだ」と答えたという。北朝鮮では電車はいつも満員なのでぼーっとしていたら乗れないし、車内で酔いつぶれれば荷物を盗まれてしまう。そんな心配をせずに暮らせるのが「自由」だというのだ。面白い考え方だ。庶民感覚とはこういうものかもしれない。


出版:集英社、2005年1月
推薦度:★★★★★

2005年2月12日

「ならずもの国家」の核保有宣言

北朝鮮外務省が声明を発表し、六ヶ国協議への参加を無期限に中断すると宣言した。同時に、「自衛のために核兵器をつくった」と明言した。アメリカのブッシュ政権が「敵視政策」を捨てないからだという。

アメリカの北朝鮮政策は最近変わったわけではない。むしろ先日のブッシュの一般教書演説は北朝鮮を刺戟する表現を避けたものとメディアに評価されていた。今回の北朝鮮の行動はあまりに唐突なものだ。

声明の最後は「対話と協議を通じ問題を解決しようとする我々の原則的な立場と、朝鮮半島を非核化しようとする最終目標には変わりはない」と結ばれている。六ヶ国協議にあらためて参加することはありうるし、核兵器を放棄することもありうるということだ。書かれていない本音は「そうしてほしければ見返りをよこせ」だろう。

しかし、外交的な話し合いの場を拒否したり、核兵器をつくったと宣言したりするようでは、「ならずもの国家」というレッテルを避けることはできない。見返りではなく懲罰を与えろ、という声はますます高まるだろう。

米朝関係の問題としてみれば、北朝鮮にとって敵であるアメリカが大量の核兵器を持っているのだから、対抗して核兵器を持とうとするのは軍事的合理性にかなっていると言える。だが、飢餓が解消されないままの状態で核開発に資金を投じるのは、そうしなければ飢える必要がなかった人たちを飢えさせる行為だ。さらに、人民の利益に反するそのような判断で開発された核兵器は、当然ながら周辺国の人民にとって脅威と言うしかない。

この脅威を取り除く唯一の方法は、単に核兵器を放棄させることではなく、現在の権力者に政権そのものを放棄させることである。

今週の北朝鮮(2005/02/05-2005/02/11)

2005年2月 5日

ブッシュの一般教書演説/北朝鮮人権法案

ブッシュが一般教書演説で「我々はアジア諸国と緊密に協力して北朝鮮に核の野望を放棄させようと説得している」と述べた。メディアはこれを2002年の「悪の枢軸」演説と比べて抑制された表現だと解説している。

第二期ブッシュ政権では国家安全保障会議のアジア部長にビクター・チャが就任した。以前から「タカ派の関与政策」を主張していた専門家だ。この人事もブッシュ政権の北朝鮮政策を示唆している。今後しばらくは関与政策の枠内での試行錯誤が続くと考えていいのだろう。ただし「タカ派」であることに変わりはないから、経済制裁論が高まる日本とアメリカの間に不協和音が生じることはおそらくない。

その日本では、自民党が北朝鮮人権法案の骨子をまとめたという。産経新聞の報道によれば以下のような内容だ。

 【脱北者の保護・支援】
一、在外公館に保護を求めてきた脱北者は日本または第三国に出国させる
一、脱北者が一定の要件を満たす場合、入管法上の在留資格により受け入れ、定住を支援

 【北朝鮮の人権状況改善】
一、国際社会の取り組みに、日本も積極的な役割を果たす
一、北朝鮮の人権状況改善に向けた活動を行うNGOに財政上やその他の支援を行う

 【拉致問題の解決】
一、安否不明の拉致被害者および拉致被害者であることが疑われる者について、積極的に調査
一、問題解決の進展状況を国会に報告、国民に公表

これは保守政党に期待しうる最良のものと言える。脱北者の保護や受け入れに関して骨抜きを図る動きがあるようだが、脱北者を数万人単位で受け入れる覚悟がなければ北朝鮮の人権状況に影響を与えることはできない。北朝鮮の人権状況を変え、同時に日本の難民鎖国体制も変える法律になればよいと思う。

自民党がやることだから、とこの法案を頭ごなしに批判するのは間違っている。どんな意図から出たものであろうと、結果として助かる人がいるなら歓迎すべきだ。

今週の北朝鮮(2005/01/29-2005/02/04)