朝鮮民主主義研究センター

共同通信北朝鮮取材班『はるかなる隣人』(2004年8月29日)
今週の北朝鮮(2004/08/20-2004/08/27)(2004年8月28日)
今週の北朝鮮(2004/08/14-2004/08/19)(2004年8月20日)
今週の北朝鮮(2004/08/07-2004/08/13)(2004年8月14日)
今週の北朝鮮(2004/07/31-2004/08/06)(2004年8月 7日)
ブルース・カミングス『北朝鮮とアメリカ 確執の半世紀』(2004年8月 1日)

2004年8月29日

共同通信北朝鮮取材班『はるかなる隣人』

拉致、帰国事業、在日コリアンなど、日朝関係にかかわる様々なテーマを取材。

「遺言のつもりで、父のことを話しておきたいのです」と取材に応じた呉文子さんの父は、1962年に『楽園の夢破れて』を出版して帰国事業の実態を告発した関貴星さん。関さんは総連幹部として北朝鮮を訪問し、「楽園」の実態を知る。そして総連から離れ、家族の反対を振り切って告発本を出版。「私は両まぶたを閉じて、じっと耐えた。その網膜には北朝鮮で虐げられている数百万の同胞が写っては消えた。あの人たちはいま、必死になって光への窓口を求めている。私がこの役割を果たさずして誰が果たそうとするのか」と記した。呉文子さんは父と絶縁し、「身の証しを立てるため」に総連の活動にうちこむが、夫の李ジンヒは職場の朝鮮大学で激しい迫害を受け、数年の闘いの末に退職を選んだ。結局は父の主張が正しかったことに気づき、和解。

平壌でトウモロコシを研究していた李ミンボクさんは、主体農法は北朝鮮の農業不振の原因の30%程度にすぎない、と語る。集団農業に原因があるとみた彼は、研究用の畑でトウモロコシを栽培し、協同農場の五倍の収穫を挙げた。しかし、上層部に手紙を出して結果を報告したが「ばかなことを言うな」と忠告されただけだった。失望した彼は脱北を選んだ。

脱北者支援にかかわるグループ内での「企画亡命」をめぐる意見の相違も取りあげられている。「ボートピープル」計画で拘束されたソク・ジェヒョンさんの妻、姜恵媛さんは、韓国で開かれたユニバーシアード大会でノルベルト・フォラツェンさんと北朝鮮の記者が衝突したテレビ映像をみて「人の救出とテレビに映ること、どちらが大事なの?」と溜息をつく。一方、フォラツェンさんは「ボートピープル」計画で大量の拘束者が出たことを問われ、「でも、これだけ大きな話題になったし、資金援助を申し出るメールがたくさん届いている。難民の存在がクローズアップされたことが大事なんだ」と答えた。

石丸次郎さんと蓮池透さんの対談も収録されている。救う会幹部が日本は核武装すべきだと発言したり、救う会大阪のウェブサイトで靖国問題が取りあげられていることを挙げ、別の政治目的を持った人が拉致を利用している、と石丸さん。それに対して蓮池さんは「それは、私も憂慮している。わたしたちは、拉致された家族を取り返したいと運動しているわけで、その気持ちを了解してもらって、その一点で支援していただきたい。私も靖国の専門家でないし、触れたくない。北朝鮮打倒に拉致を利用するというのは不服」と応えている。

そのほか、北朝鮮への外国投資の破綻、9/17以降の在日コリアンの状況に関するエピソードもある。巻末には拉致被害者やその家族へのインタビューが収録されている。日朝関係を冷静に考えるうえで有益な書。

出版:共同通信社、2004年8月
推薦度:★★★★★

2004年8月28日

今週の北朝鮮(2004/08/20-2004/08/27)

北朝鮮は2002年7月からの経済改革を中断した、というケネス・キノネス氏の指摘に対し、中国の週刊誌が逆の観点からの記事(中国語原文)を掲載したという。

経済改革が引き起こしたインフレが問題になっていて、何らかの対策が取られているのは確からしい。しかし経済改革以前への復帰が図られていると考えるのは早すぎるようだ。中国や韓国との経済関係も深まっており、以前のような統制経済を復活させるのは難しいのではないか。

2004年8月20日

今週の北朝鮮(2004/08/14-2004/08/19)

韓国統一部長官が、脱北者支援を南北対話の障害物として扱い、NGOに自制を求めた。外交通商部の長官は、NGOは脱北者支援の責任を政府に押しつけるな、と発言した。468人の韓国入りに対する北朝鮮の反発をみてあとずさりした形だ。無理が通れば道理が引っ込む、とはまさにこのこと。脱北者を支援しているドゥリハナ宣教会や北朝鮮民主化ネットワークは両長官を強く批判している。負けるな、と言いたい。

北朝鮮が国連に人道支援は要らないと伝えた、というニュースは重要なものだ。危機の時代は終わりつつあるのだろうか。

2004年8月14日

今週の北朝鮮(2004/08/07-2004/08/13)

野口孝行さんが中国での刑期を終えて帰国した。まずは喜びたい。しかし、彼とともに拘束され、北朝鮮に強制送還されてしまった二名の脱北者のことも忘れないようにしたい。

脱北者支援で昨年3月に拘束され、今年7月に無罪判決を得て韓国に帰国したオー・ヨンピル氏が、帰国後の記者会見で「企画亡命」を批判した。残念なことだ。朝鮮新報がさっそく飛びつき、脱北者支援はカネ目当てであるかのようにデマ宣伝している。

先日ベトナムから468人の脱北者が韓国入りした後、やはりベトナムには脱北者が殺到しているようだ。100名を超える脱北者が捕まり、中国へ送り返されているという。それにしても、この件を報じている朝鮮日報がベトナムを「A国」と伏せて表記し、情報源のチョン・ギウォン氏の名前も書いていないのはなぜだろうか。Free North Korea!に転載されたロイターの記事にはハッキリと書かれており、伏せる意味はないと思うのだが。

2004年8月 7日

今週の北朝鮮(2004/07/31-2004/08/06)

468人の脱北者が韓国入りした件に関し、韓国政府やベトナム政府は沈黙を守り、北朝鮮政府はベトナム政府を激しく批判している。ベトナムが政策を転換してしまわないかどうか、心配だ。「人道」を掲げて堂々と反論すればよいのだが、望みは薄いように感じる。

脱北者が北朝鮮から持ちだした写真が特定失踪者の藤田進さんに似ているという。しかし写真だけではわからない。写真は誰がいつ撮影したのか、さらに具体的な事実を明らかにしてほしいところだ。

2004年8月 1日

ブルース・カミングス『北朝鮮とアメリカ 確執の半世紀』

著者は朝鮮戦争に関して「南に対する北の侵略」説を批判したことで著名な人物。本書は朝鮮半島以来の北朝鮮の歴史を振り返る。

朝鮮戦争に関し、著者はナパーム弾を使って都市を焼き払ったことや、原子爆弾を投下する一歩手前まで行ったことを詳細に論じてみせる。核危機に関しては、北朝鮮はアメリカの核の脅威に対抗しただけだ、と論陣を張る。残念ながら、米朝関係の推移を歴史的に追うスタイルにはなっていない。米朝関係を捉える理論的な枠組みが示されているわけでもない。あらゆる細切れの事実を並べてアメリカを呪っているだけだ。

マスゲームは、著者の視点からは「参加者にとっては決まりきった日々の仕事から一時的に解放される歓迎すべきこと」だ。参加者が「決まりきった」練習を繰り返しているであろうことには想像が及ばない。姜哲煥の『平壌の水槽』は「肉親と一緒に過ごした10年間の収容所生活は生き延びることが可能であり、平壌のエリート階級の住居に入ったり大学に入ったりするうえで、必ずしも障害にならなかったことを示している」。姜哲煥が収容所に送られたのは彼自身の罪によるものではなく祖父の罪によるものだったことや、いい家に住めたり大学に入れたりしたのは賄賂のおかげだったということは、著者の頭には入らなかった。

とはいえ、北朝鮮シンパというわけではない。金日成や金正日に対する個人崇拝にはもちろん批判的で、体制の宣伝のウソを指摘してみせている。「北朝鮮は奇妙で、時代錯誤で、不快な、いわくいいがたい痛烈なところがある国だ」とも書いている。結局のところ著者は単なる反米で、北朝鮮のことなどどうでもいいのではないか、と感じられる。

出版:明石書店、2004年7月
推薦度:★★