朝鮮民主主義研究センター

2004年7月23日

若宮清『真相』

昨年12月、平沢勝栄は北朝鮮の外交当局者と北京で会談した。さらに平沢は山崎拓とともに今年4月の大連会談に臨み、5月の小泉訪朝へのつなぎ役を果たした。膠着状態だった日朝交渉が再開され、蓮池さん夫妻と地村さん夫妻の子どもたちは日本へ来ることができた。

本書は北京会談を仕掛けた自称ジャーナリストによるものだ。日朝関係の打開を目指し、拉致議連事務局長の平沢に北朝鮮の当局者と会談させることを思いついた。渋る平沢を説得する一方、帰化した在日商工人の吉田猛を引きこみ、北朝鮮側への窓口とした。その後、やっと腹を決めた平沢が救う会の西岡力と民主党の松原仁に参加を依頼。こうして決まった布陣で行われたのが北京会談だという。北朝鮮からは日朝交渉担当大使の鄭泰和、外務省副局長の宋日昊らが出席した。

一日目は「一時帰国した拉致被害者を北朝鮮に戻せ」「拉致被害者の家族を日本に帰せ」という原則論の応酬に終始した。しかしその中で鄭泰和が「出迎え案」を提示した。「拉致被害者の家族が共和国に存在していることに、我々は困惑している。家族を日本に送る意思はある。五人が共和国まで迎えに来て、家族たちが『日本に行きたい』と言うのなら、帰す。抑留するつもりはない。」

その晩、宋日昊が「明日の午前中の会談から鄭泰和大使を外す、原則論はやめよう」と提案してきた。さらに、会談前に鄭泰和と西岡力を外して5分話そう、と持ちかけてきた。翌朝の5分で、宋日昊は、メンツさえ立ててくれれば3/20頃に家族を帰す、と発言した。午前中の会談では、平沢が「官房長官なり外務大臣なりが『約束したと誤解を与える言動があったのなら遺憾である』と発言するよう、提案することはできる」と述べた。

北京会談が明らかになると、会談の出席者に批判が殺到した。家族会は出迎え案を「論評に値しない」と切り捨てた。しかし著者は二次会談のセッティングに走った。安倍晋三が二月上旬に拉致被害者を訪問し、出迎え案を打診。同意が得られたらマニラでの二次会談を準備することになっていた。しかし拉致被害者と会った安倍は平沢に「中山参与とマスコミが始終同行し、家族に出迎え案のことを話す機会が得られなかった。また、近く政府間協議が始まるので、二次会談計画は中止してほしい」と連絡した。直後に外務省の官僚が訪朝したが、なんの成果もなく終わった。

著者は山崎拓に二次会談への出席をもちかけた。山崎は2/23に小泉首相と話し、「政府間交渉が進まなくて困っている。是非やってくれ」と言われたという。さらに3/1には小泉首相に公明党の冬柴幹事長も交えて会談し、了解を得た。著者を交えた打ち合わせの中で、山崎は「私が出向くとなれば何かしらの"お土産"が必要だろう」「経済支援は無理だが、人道援助という方法がある」と語っていた。

その後、著者は会談から外されることになった。北京会談に関し、著者や吉田猛のような「ブローカー」が入っていることに批判が出たためだ。二次会談は4/2に大連で行われ、5月の小泉訪朝につながっていく。

一連の過程での著者の役割はまさにブローカーである。1990年の金丸訪朝にも関与していたようだ。うさんくさい人物だと言うしかない。本書は日朝国交正常化へ向けて暗躍したブローカーの手記として読むことができる。

ともあれ、本書は様々な事実を明らかにしている。2月の安倍晋三による拉致被害者めぐりは失敗に終わったこと。大連会談は小泉首相の了解を得て行われたものだったこと。5月の小泉訪朝時に発表された人道援助はやはり「お土産」で、つきつめれば拉致被害者の家族の身代金だったこと。貴重な証言である。


出版:飛鳥新社、2004年7月
推薦度:★★★★★

投稿者 kazhik : 2004年7月23日 08:45
コメント&トラックバック

若宮氏の行動は評価します。
ブローカーであっても、政治家、ネット会社社長、品が悪くても問無い事と思います。
動機が正しければ評価すべきです。
結果も出しています。
問題の打開策は、異例でなければ無いものと思っています。
有るならば、既に解決しています。
動機が正義の実行であり、結果を出したならば評価すべきです。
『ゆめくいパンダ』より

ゆめくいパンダのコメント(2005年3月 6日 16:56)

動機が正しくても、結果が出ても、正当な手続きを踏んでいなければ評価されない。それが民主主義ではないかと思います。

平沢氏は政権与党の政治家で、当時は拉致議連の事務局長でした。彼が膠着した日朝交渉を打開するために動いたことについては、私は肯定的です(*)。しかし若宮氏は、選挙で選ばれたわけではなく、平沢氏の事務所に雇われていたわけでもありません。いったいどんな権利があって外交の最前線にしゃしゃり出てきたのか、と思わずにはいられないのです。

(*) http://www.asiavoice.net/nkorea/archives/000093.html

kazhikのコメント(2005年3月 7日 20:29)

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