4/24、アジア連帯講座主催の公開講座「検証 北朝鮮はどこへ」に参加した。報告は『週刊かけはし』に北朝鮮関連の論文を書いている荒沢峻氏と滝山五郎氏。荒沢氏は1998年に「北朝鮮社会はいま、どのようになっているのか」、滝山氏は日朝首脳会談後に「日本の市民運動と左翼に何が問われているか」を書いている。
私がとくに興味をひかれたのは「極東解放革命と統一朝鮮革命」というテーマの滝山氏の報告。第四インター日本支部の朝鮮半島政策の変遷を追いかけたものだ。1960年代末に提起された「極東解放革命」「統一朝鮮革命」という路線では、北朝鮮の体制を官僚支配体制として批判しながらも、その成立要因を日米韓の「極東反革命支配体制」に求め、後者を変えることが前者を変えることにつながる、と主張していた。1970年代半ばになると北朝鮮の体制批判はさらに後退し、日米韓に対する批判のみになってしまう。1990年代後半にやっと登場したのが荒沢氏による批判的な北朝鮮分析、とのことだ。
なぜ北朝鮮批判がほとんど消えてしまったのか、という問題について、滝山氏は四つの理由を挙げた。韓国の民主化闘争と連帯したため、北朝鮮における反体制派の情報がなかったため、第四インター日本支部が急進主義と決別したため、ベトナム・イラン・ニカラグアなどで革命が勝利したため。しかし、1980年代後半には在日朝鮮人による北朝鮮の親族訪問が可能になっており、北朝鮮内部からの情報も流れ始めていたので、認識を改めるチャンスはあったはず、と指摘した。
現在の北朝鮮政策に関しては、ただいま摸索中、というのが率直なところらしい。運動上のしがらみもあり、RENKのように単純に北朝鮮だけを批判するわけにはいかないだろう。韓国の民主化が達成された今では、昔の「極東解放革命」に戻るのも時代錯誤だ。
しかし、東北アジアの状況の中に北朝鮮を位置づけ、全体を変える中で部分としての北朝鮮も変えるという構想をうちだした「極東解放革命」論は、仕立て直せば今でも使えそうな気がする。周辺諸国が必死で北朝鮮の体制崩壊を食い止めているのが現在の状況であり、北朝鮮の問題は東北アジア全体の問題になっているからだ。日本の国益にしか関心がない保守派や、日朝関係の文脈でしか北朝鮮を語れない進歩派とは異なる、広い視野に立った北朝鮮政策を提起してほしいと思う。
掲示板にsakochi。さんという方から投稿があった。
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脱北者を巡る日韓の認識のギャップ
私は今ソウルに住んでいますが、今日、知り合いの韓国人(女性2人、日本語分かります)と居酒屋に行った時に、話をしていて北朝鮮の話になりました。
それで私が、日韓のメディアや市民団体の情報を元に、
「韓国に亡命した脱北者は年間1000人以上いる」
「脱北者は日本に支援を求めて日本に証言に来たりしている」
という話をしたんですが、なかなか信じてもらえませんでした。
しまいには、
「脱北者(青山健煕氏や宮崎俊輔氏など)の中には、日本政府に保護されて、日本に極秘で帰国した人もいる」
と話をすると、
「日本政府は元慰安婦への補償を拒否しているではないか、そんな政府が脱北者を支援することがあるはずがない」
とまでいわれました。別に私は歴史問題の話をしているわけではなく、ただ、日本でも北朝鮮難民に対する関心があり、脱北者支援の市民団体があるということを知って欲しかっただけなんですが、そういう話自体が信じられなないという様子でした。
脱北者が年間1000人を超えているというのは、
脱北者1281人が昨年韓国入り
ここにありますように、韓国政府統一部発表の数字です。
また、脱北者ブローカーの存在については、脱北者や北朝鮮難民を取材してきた方々が、明らかにしています。
韓国では北朝鮮問題に関する関心はほとんどありません。
考えすぎかもしれませんが、脱北者への関心が低い理由も、この運動が日本発だからではないか、と考えたりもしました。
ともかく、北朝鮮問題をめぐる、日韓の認識のギャップをあらためて知って、「うーん、これは困ったなー」というのが今の心境です。
皆さんはどのようにお考えでしょうか?
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これは日韓の問題ではないと思う。日本でもこの二人と同程度の認識しか持っていない人は少なくないはずだ。
韓国のメディア状況はよく知らないが、朝鮮日報や中央日報のサイトには北朝鮮に関する記事を集めた特別のコーナーがある。韓国では北朝鮮問題に関する関心はほとんどない、とは思えない。
脱北者支援の運動が日本発、というのもちょっと違う。脱北者支援の運動は日本から韓国へ輸出されたわけではないし、日本の団体が韓国の団体を援助しているわけでもない。年間1000人もの脱北者が韓国入りしている、という事実をみれば、韓国の運動のほうが日本よりはるかに強力なのは明らかだと思う。
しかし、同胞についての事実を「元慰安婦への補償を拒否している」国の人間から聞くとは、なんとも情けない韓国人ではある。たまには新聞ぐらい読め、と言いたい。
4/16に出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案が参議院で可決された。参議院先議で、次に衆議院で審議されることになる(議案審議情報)。
参議院では法務委員会で4/8,4/13,4/15に審議された。北朝鮮難民に関して問題になりそうな部分だけチェックしてみよう。
まず注目されるのは、4/8の野沢太三法相の答弁。
法務省といたしましても、特に政治的な迫害から逃れて庇護を求める方々、これに対しては、北朝鮮の問題等も過日ございましたが、迅速かつ確実に難民として認定し保護するということについてしっかりと臨んでいかなければならぬと思います。必要がある場合には、かつてインドシナの難民に対して相当なレベルでの対応をしたことも実績としてございますので、こういった先例等も勘案しながら取り組んでいくつもりでございます。
日本政府はかつて、一般の難民とは別枠でインドシナ難民を一万人程度受け入れたことがある(外務省「国内における難民の受け入れ」)。北朝鮮についても別枠での対応を考えているのかもしれない。ただ、北朝鮮難民問題があたかも将来の問題であるかのように語られている点には不満が残る。難民は既に数万人単位で発生しているのだ。
迫害の恐れのある国から直接入国した場合でなければ難民申請はできない、というRENKが批判した点については、4/8に野沢法相がこう答弁している。
第三国を経由して本邦にやってきた難民認定申請者でありましても、単に第三国を経由した、通過したにすぎない場合もあるでしょうし、あるいは第三国に滞在したとはいってもその期間が非常に短くて、その国で庇護を与えられなかったような場合もあるでしょう。それらの場合などについては、その人は第三国を経由したといいましても我が国に直接来たと評価していいだろうというケースは多々あるだろうと思います。(中略)……私どもは、今後、直接性の解釈に当たっては、基本的にはUNHCRと同じ解釈を取るであろうと考えております
ここでUNHCRの解釈と言われているのは、1999年2月にUNHCRが発表した「庇護希望者の拘禁に関する適用可能な判断の基準と尺度についてのUNHCRガイドライン」のことだ。法案にある直接性の要件は難民条約第31条が元になっており、このガイドラインはその解釈である。
第31条第1項の「直接来る」という表現は、出身国から、あるいは庇護希望者の保護、安全や安定が保障されないかもしれない他国から直接、当該庇護国に入国する状況を意味する。また「直接来る」という文言は、庇護申請をせず、あるいは庇護を受けることなく短期間で中継国を通過した者も含むと考えられている。この「直接来る」という概念に、厳密な時間的制限を用いることはできず、各々の申請の実態に則して判断しなければならない。
これを見るかぎり、中国から第三国を経由して日本に入ってくる場合であっても難民と認められる可能性は十分にありそうだ。
残念ながら、この法改正はマスメディアでもほとんど取りあげられていない。法相が示唆している北朝鮮難民の受け入れも全く話題になっていない。衆議院での審議が世論の注目を集めることを期待したい。
金正日が訪中して胡錦濤や江沢民と会談した。両国関係の強化が確認されたようだ。韓国も総選挙の結果として北朝鮮に対する融和政策を強めるだろうから、しばらく北朝鮮の体制は安泰ということになる。ただし、中国や韓国との経済交流が拡大すれば、北朝鮮国内で改革開放への内圧が強まる可能性もある。
いずれにせよ、アメリカの大統領選挙が終わるまでは何も変わらないのではないかと思う。
著者は1978年から1996年にかけてTBSに勤務し、公安関係を担当した人物。
著者によれば、1978年に地村保志さん・濱本富貴惠さんをはじめとしてアベックが連続して拉致された事件の頃、捜査当局はすでに北朝鮮の犯行を疑っていた。しかし当時はスパイの摘発が最優先課題とされており、拉致被害者の救出は脇に追いやられていたという。1985年2月には原敕晁さんを拉致した辛光洙が韓国で逮捕されたが、同年8月、警察庁内で警察の政治からの独立を守ろうとするグループが派閥抗争に敗れて放逐され、拉致事件の捜査も頓挫してしまった。
有本恵子さんのケースに関しても興味深い事実が明かされている。北朝鮮側の発表では、有本恵子さんは1988年に死んだことになっている。それに対して西岡力氏は、「1991年1月16日、有本・石岡両家族が東京で開催を予定していた記者会見場にNHK記者の紹介で現れた遠藤忠夫・ウニタ書店経営(当時)氏が、恵子さんらは生きている、自分は金日成の侍医につながるコネクションがあるから会見を中止すれば助けてやる、と語って会見を事実上中止させた」 と指摘している(「経済制裁は効果がある」)。本書で明かされている遠藤忠夫氏の役割はやや異なる。1988年に石岡享さん、有本恵子さん、松木薫さんが北朝鮮で生きていることが明らかになった後、よど号グループは三人を日本に帰らせたいと伝えてきた。遠藤氏は事件が表沙汰になる前に解決しようと奔走し、家族の記者会見にも介入した。しかし拉致問題は北朝鮮権力層内部でもタブーで、結局交渉は実を結ばなかったのだという。
本書は『世界』での連載が元になっており、小泉訪朝以降の北朝鮮叩きの風潮には批判的。しかし北朝鮮政府に対する責任追及をなおざりにして日本政府や警察の無為無策を批判する論調に与しているわけではない。やや散漫だが冷静な分析に終始している。拉致事件の背景を知る上で有益な書と言える。
出版:ちくま新書、2004年4月韓国の総選挙では左派勢力が勝利した。北朝鮮政策はますます左へ振れていくことになるだろう。脱北者の人権がないがしろにならないことを願いたい。モンゴルへ脱出しようとした脱北者のグループが中国国境守備隊の銃撃を受け、1人が死亡、約20人が逮捕、というニュースは気になる。
イラク人質事件、さらにはイラク戦争の状況は、日本の政治状況を大きく変える可能性がある。北朝鮮に関する様々な問題にも影響がありそうだ。少しでもよい方向への変化をもたらすために努力したいものだ。
著者はアメリカ人のジャーリスト。ブッシュ政権の北朝鮮政策を「軍事的には封じ込め、経済的には孤立、政治的には体制転換」と特徴づけて批判する。
朝鮮戦争について、1950年6月25日の開戦以前に軍事衝突が頻発していたことを指摘して北朝鮮の開戦責任を相対化。北朝鮮の軍事偏重政策に対してはアメリカの封じ込めに対抗するためのものだとして理解を示す。経済に関しても、1984年の合弁法、1991年の羅津・先鋒自由経済貿易地帯、2002年7月の経済改革などを列挙し、改革努力が続いているかのように主張する。一方、現体制が崩壊すれば後継国家は一層好戦的な軍事国家になる、と予測。アメリカの議会に提出されている北朝鮮自由化法案が難民流出による体制崩壊を期待していることに対しては、東ドイツでは難民流出が体制崩壊につながったがキューバやベトナムでは体制強化につながった、と指摘する。
日本で言えば和田春樹によく似たスタンス。どこの国にもデマゴーグはいるものだ、と改めて感じさせられる。
出版:明石書店、2004年2月
推薦度:★★★
(1) 市民を誘拐して生命を脅かすというやり方は、その目的の当否とは関わりなく、絶対に許されるものではない。3人を誘拐したグループは単なる犯罪者集団にすぎない。
(2) 日本政府の対応は3人の人質にとってきわめて冷酷なものだった。自衛隊を撤退させなければ人質を殺す、という要求に対し、自衛隊は撤退させない、という原則だけを宣言した。交渉の用意がある、という程度のことさえ言わなかった。
われわれは、日本政府が拘束された3人の人質について、自国民の生命を軽んじる評価を行ったことを強い痛みを持って聞いた。これにより、われわれは、日本政府に代わって日本国民の生命を守る完全なる正当性を与えられた。日本政府は、自国民への最低限の尊重の念を持ち合わせていないようだ。いわんや、日本の首相の発言を拒否するイラク国民の生命を尊重するだろうか。(犯人グループの声明、産経新聞より)
誘拐犯のくせに盗人猛々しい言い草だ、という怒りを脇に置いてみれば、この指摘は的確なものだと言わなければならない。
日本政府の対応は、北朝鮮から帰国した5人の拉致被害者を一年半も放置していることや、中国で脱北者を助けようとしてつかまった野口孝行さんに全く手をさしのべようとしないことと整合的である。一般市民の人権は二の次、三の次なのだ。
(3) イラクに対する日本社会の関心は、自衛隊の派遣が問題になった頃から再び高まりはじめ、日本人が人質に取られたことで最高潮に達した。つまり、イラクに対する関心は日本や日本人が関わるかぎりでのものにすぎない。「右」でも「左」でも変わらないこのような関心のあり方、北朝鮮に関しても常にみられるこのような状況を私は嫌悪する。イラクを語るなら、イラクの一般の人々をまっさきに想像するべきだ。いまイラクの人々にとって最も重要なのは、日本人が人質に取られたことではなく、イラクの武装グループと連合軍との間で新たな戦争が始まっていることだ。
(4) ともあれ、人質事件は望みうる最高の形で決着しようとしている。人質は無事に解放される。犯罪者集団は何も獲得できない。人質の解放は、日本政府の「毅然とした」対応によってではなく、日本政府の冷酷な対応にもかかわらず実現する。イラク社会の中から犯人グループに批判が出たこと、イラク占領に反対する日本の一般市民の声が伝わったこと、3人の人質が行なってきた活動が認められたことなど、簡単に言えばイラクと日本の市民社会の力によるところが大きい。この力がさらに強くなっていくことを望みたい。
北朝鮮難民救援基金の野口孝行さんがとうとう起訴された。「密出入国者運送罪」だという。彼は昨年12月、北朝鮮難民二名と中国人通訳一名とともに中国当局に拘束されていた。(参考:北朝鮮難民救援基金NEWS)
難民を「密出入国者」として扱うのは人道に反し、また難民条約に違反している。当然、難民を支援するNGOのスタッフを犯罪者扱いにするのも全く正当性を欠いている。中国政府は野口さんをただちに釈放し、北朝鮮難民二名に関しても本人たちが希望する国へ送り出すべきだ。
ブログ形式への移行にあたり、あらためて朝民研の基本姿勢を明確にしておきたい。
(1) 朝民研は、北朝鮮の民衆が飢餓や人権侵害に苦しんでいることを現在の東北アジアにおけるもっとも重要な問題と考える。また、そのような状況をもたらした主要な原因は北朝鮮の現体制にあり、その改革または革命なくして問題の解決はない、と考えている。
(2) 北朝鮮に対する武力行使や経済制裁を日本政府に求める国家主義的主張や、朝鮮人をまるごと犯罪者扱いしたり日本社会からの在日朝鮮人の排除を主張したりする排外主義的主張には与しない。同時に、植民地支配の歴史や在日コリアンに対する迫害・差別にばかり関心を向け、北朝鮮の現体制が抱えている問題から目をそらそうとする「反日主義」的主張にも同調しない。
(3) 外交や軍事に関する国家権力の動向より、人道や人権に関して市民団体や個人が発信するニュースを重要視する。ただし、いかなる市民団体や個人からも独立の立場を保つ。
(4) 北朝鮮をできるだけ客観的に理解するよう努力し、事実に反する政治的宣伝は厳しく批判していく。また、論敵を人格攻撃したりプライバシーを暴いたりするようなやり方は容認しない。
サイト全体をブログ形式にしました。各記事に対してコメントやトラックバックを付けることができる形式です。今までの朝民研より分かりやすくなったのではないかと思います。
準備を始めたとき、掲示板は廃止する、と書きましたが、ここに来ていただいた方々が自由に議論する場としてしばらく残します。掲示板での議論がブログ形式に吸収できそうなら廃止、掲示板に独自の意義がありそうなら存続、ということにしたいと思います。
朝鮮総連の改革を求める提言を2月に発表したグループのサイト、総聯の再生を願うネットフォーラム21が活発に活動を続けている。
このグループに対しては、総連の機関紙『朝鮮新報』が〈南の国情院と連携する洪敬義〉 反総聯「提言」の黒い背景という誹謗記事を掲載した。提言のグループも当然ながら反論している。
「提言」が総連の改革へ向けて何らかの成果を産むことはおそらくないだろう。第一に、提言側で実名を明らかにしているのは代表の洪敬義氏のみだからだ。提言の実現のために体を張っているのは一人だけで、残りは日和見、と言っていい。提言のサイトに設置された掲示板で日頃の不満をぶちまけてストレスを発散し、それでおしまいだろう。第二に、提言は彼らの「本国」である北朝鮮との関係に言及していないからだ。朝鮮総連の改革とは北朝鮮との絶縁以外ではありえないのだが、彼らにはそこまで言い切る覚悟がないように見える。
しかし、提言が現状よりマシな朝鮮総連を目指していることは確かだ。総連が「在日コリアンの在日コリアンによる在日コリアンのための組織」に改革されるため、「提言」グループが何かを少しでも変えてくれることを望みたい。
人体実験の告発に対して北朝鮮から反応があったのは、告発が国際的に反響を呼んだだめだろう。強制送還された脱北者に告発を否定させる、というやり方自体が人権侵害なのは明白。