朝鮮民主主義研究センター

2004年4月11日

イラク人質事件雑感

(1) 市民を誘拐して生命を脅かすというやり方は、その目的の当否とは関わりなく、絶対に許されるものではない。3人を誘拐したグループは単なる犯罪者集団にすぎない。

(2) 日本政府の対応は3人の人質にとってきわめて冷酷なものだった。自衛隊を撤退させなければ人質を殺す、という要求に対し、自衛隊は撤退させない、という原則だけを宣言した。交渉の用意がある、という程度のことさえ言わなかった。

われわれは、日本政府が拘束された3人の人質について、自国民の生命を軽んじる評価を行ったことを強い痛みを持って聞いた。これにより、われわれは、日本政府に代わって日本国民の生命を守る完全なる正当性を与えられた。日本政府は、自国民への最低限の尊重の念を持ち合わせていないようだ。いわんや、日本の首相の発言を拒否するイラク国民の生命を尊重するだろうか。(犯人グループの声明、産経新聞より)

誘拐犯のくせに盗人猛々しい言い草だ、という怒りを脇に置いてみれば、この指摘は的確なものだと言わなければならない。

日本政府の対応は、北朝鮮から帰国した5人の拉致被害者を一年半も放置していることや、中国で脱北者を助けようとしてつかまった野口孝行さんに全く手をさしのべようとしないことと整合的である。一般市民の人権は二の次、三の次なのだ。

(3) イラクに対する日本社会の関心は、自衛隊の派遣が問題になった頃から再び高まりはじめ、日本人が人質に取られたことで最高潮に達した。つまり、イラクに対する関心は日本や日本人が関わるかぎりでのものにすぎない。「右」でも「左」でも変わらないこのような関心のあり方、北朝鮮に関しても常にみられるこのような状況を私は嫌悪する。イラクを語るなら、イラクの一般の人々をまっさきに想像するべきだ。いまイラクの人々にとって最も重要なのは、日本人が人質に取られたことではなく、イラクの武装グループと連合軍との間で新たな戦争が始まっていることだ。

(4) ともあれ、人質事件は望みうる最高の形で決着しようとしている。人質は無事に解放される。犯罪者集団は何も獲得できない。人質の解放は、日本政府の「毅然とした」対応によってではなく、日本政府の冷酷な対応にもかかわらず実現する。イラク社会の中から犯人グループに批判が出たこと、イラク占領に反対する日本の一般市民の声が伝わったこと、3人の人質が行なってきた活動が認められたことなど、簡単に言えばイラクと日本の市民社会の力によるところが大きい。この力がさらに強くなっていくことを望みたい。

投稿者 kazhik : 2004年4月11日 20:15
コメント&トラックバック

標記記事との関連で、私の主宰する掲示板「アフガン・イラク・北朝鮮と日本」(アフガン板)での拙稿をこちらに転載します。


「イラク人質事件雑感2」 
投稿者:社会主義者  投稿日: 4月14日(水)09時08分3秒

【厨房がまた、ワラワラと…】

・心労の家族に心ない中傷 留守電にまで「死ね」(共同通信)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040413-00000234-kyodo-soci

 また醜いねえ…。どうせまた、どこぞのネット厨房の仕業でしょう。最近、この手のKKK・ネオナチもどきのネット・ファシストが大手を振ってまかり通っているような気がしてなりません。鬱憤晴らしなら「2ちゃんねる」でやれ。
 今回の3人や伊藤政子・森住卓・綿井健陽諸氏のようなNGOやジャーナリストが、今までイラクにおける人道支援を支え、イラク人の親日感情を培ってきたのでしょう。
 それを「丸腰で戦場に向かうバカ」呼ばわりするだけでなく、嫌がらせにまで及ぶとは。これが「自作自演」なら、その他の非派兵国まで巻き込んだ多くの外国人人質事件も全て「自作自演」だと言うのでしょうか?

(参考)
・バグダッド ストリート チルドレン
(高遠菜穂子さんのイラク・レポート、森住卓さんのHPより)
 http://www.morizumi-pj.com/iraq5/08/iraq5-08.html


【人質事件を正当化してはならない】

 今回の反占領運動の暴徒化・イラク全土への拡大は、占領軍当局の反人民的弾圧が発端です。悪いのは人民弾圧の占領軍である--この点は明確です。
 http://headlines.yahoo.co.jp/specialfeature/iraq/domestic_situation/

 しかしだからといって、外国人の拉致まで正当化・相対化してレジスタンスとして免罪する事は出来ません。
 ネパールやフィリピンの毛沢東主義ゲリラや、南米のFARCやセンデロ・ルミノソも、それぞれの国で、イラク武装勢力と同様の外国人・要人誘拐を行なっています。そして、それらの諸国ではその戦術故に、極左ゲリラは広範な人民の支持を獲得できず、寧ろ逆に人民の反帝闘争への結集を妨げ、帝国主義と結びついた当該国の独裁・腐敗・封建・寡頭政治を補強する役割すら果たしている、という側面があります。
 派兵国・非派兵国も、軍隊も非戦闘員(一般市民)も区別せずに人質に取るやり方は、民族解放の大義とは相容れず、寧ろ占領軍が進める「反テロ戦争」にお墨付きを与える結果になっています。


【自衛隊撤退は、人質救出とは別の根拠で唱えるべき】

 人質となった家族が救出を望み、その中で自衛隊撤退にも言及するのは、当事者としての当然の感情です。しかし、その家族を支援する側も、家族と同じ論理で自衛隊撤退を唱えてしまったのでは、「テロに屈してしまった」との印象を国民に与えてしまい、本来なら批判の対象となる人質戦術も免罪してしまう事になってしまうのではないでしょうか。国民の中の少なからぬ部分が、3人の家族を、FARCに誘拐されたヤザキシーメル副社長・村松氏の家族との対比で見てしまっているのではないか?コロンビアの寡頭政治・麻薬戦争・右翼民兵支配の実態は勿論告発されるべきですが、もし村松氏の家族が当時FARCに迎合する形で日系企業の撤退を言い出していたとしたら、少なからぬ人々は「テロリストの人質戦術を免罪しそれに悪乗りする家族・支援者」と批判したのではないか?そのような感情が歪んだ形で表出しているのが、前述の嫌がらせではないか?
 先に述べた家族への醜い嫌がらせは3人の活動への偏見から来るものであり、到底肯定する事は出来ません。しかし、支援者の側が人質事件のみを根拠に自衛隊撤退を唱えて行けば行く程、「テロリストの人質戦術まで免罪する」陥穽に嵌ってしまう事になりはしないか?

 3邦人の救出については、まずは何はともあれ「助けろ!」、なのではないか。
 人質事件については、日本人だけでなく全外国人市民の救出をめざす立場で、市民への無差別テロは許さないという姿勢を堅持すべきなのではないか。
 自衛隊撤退については、人質救出の取引として主に唱えられるべきなどではなく、あくまで反人民的占領統治に反対する立場から、非戦闘地域での人道復興支援の要件を満たさず平和憲法に違反する事を根拠に、唱えられなければならないのではないか。
 http://8330.teacup.com/netkikaku2/bbs

----------------------------------------
※注:
1.「自作自演」「自業自得」等の、3人へのいわれ無き誹謗中傷に対しては、私の掲示板(アフガン板)で「M」さんが、そのリンク先の「sinken板」「四トロ同窓会三次会」で「反右翼」「まっぺん」さんが、それぞれ明解な反論を提示されています。もしよかったらご参考に。
・「イラク邦人誘拐やらせ説の検証」 
 (sinken板、投稿者:反右翼さん)
 http://6547.teacup.com/sinken/bbs     
・「チャンスフォーラムより」 
 (四トロ同窓会三次会、投稿者:まっぺんさん)
 http://6038.teacup.com/mappen/bbs
・「ちょっと雑談」
 (アフガン板、投稿者:Mさん)
 http://8330.teacup.com/netkikaku2/bbs

2.コメントを付ける際に、メルアドやURLまで全部入力しなければブラウザが受け付けてくれないようです。普通はコテハンさえ明示すればOKなのでは?「朝民研」は管理がしっかりしているようなので個人情報漏出の心配はなさそうなのですが、コメント内容によってはメルアド(やURL)経由でウイルスを送り付けられたり変なのが来て非生産的な消耗戦を強いられたりしたら鬱陶しいので。この点についてはご検討願えないでしょうか。 

社会主義者のコメント(2004年4月14日 11:34)

今回の件は「救う会」の支持者をテストするリトマス試験紙になりそうです。「プロ市民逝ってよし」などと騒いでいる連中はもちろんアウト。人質の救出が最優先、と言えればセーフ。イラクを誘拐多発地帯にしてしまったのは一体どこのどいつだ、とまで言えれば本塁生還。

しかし解放を前提にして「雑感」を書いたのは早すぎました。


このブログの設定は、名前もメールアドレスも記入しなくていいか、両方とも必須か、という選択肢しかありません。名前もメールアドレスも未記入というのではいくらなんでもひどすぎるので、両方必須にしています。しかし、どうしても記入したくなければ偽のアドレスを記入してくれればいいです。たとえば(xxx@xxx.xxx)とか。

ちなみにメールアドレスとURLは以下の規則に従って表示されます。

(1) メールアドレスとURLを記入:URLを表示
(2) メールアドレスのみ記入:メールアドレスを表示
(3) メールアドレスを記入しない:エラー

kazhikのコメント(2004年4月14日 23:17)

 ともかく祝解放。
 本文は全くその通りと思いました。上記二コメントにも同意します。こういう正論をなかなか見ないので、自分があらゆる立場から孤立しているような気にもなります。
http://www.std.mii.kurume-u.ac.jp/~tadasu/essay_404091.html
http://www.std.mii.kurume-u.ac.jp/~tadasu/essay_404141.html

 それにしても元人質への誹謗中傷の洪水には、鬱病になりそうです。

松尾匡のコメント(2004年4月17日 11:31)

こんにちは、松尾さん。

左翼が政府に邦人保護を要求するのはおかしい、というのは私も感じていました。私が人質の立場なら、日本政府よ絶対に何もしてくれるな、余計なことをされると私の生命が危ない、特殊部隊に救出なんかされたら一生の恥だ、と思うでしょう。冗談抜きで。まだ消息不明の渡辺修孝さんは「米兵・自衛官人権ホットライン」の活動でイラクに行っていたようなので、私の感覚に近いのではないかと思っています。

米兵・自衛官人権ホットライン
http://www.jca.apc.org/gi-heisi/

ただ、家族や支援者の立場からは、あらゆる人に助けを求めるのは自然なことでしょうね。難しいところです。

kazhikのコメント(2004年4月17日 11:57)


 まず、どれも、市民対市民は、人間の関わりであり、人質と拘束 した側のイラク人との精神的な交流の記述に目が行く。結局人質 にされた日本人は、イラクにNPOとして人道支援にきた側で、 まさに味方を拘束してしまったイラク人達は、それを見分ける理 性がまだ混... [続きを読む]

dancer01jp's blogからのトラックバック(2004年9月 8日 05:24)


 まず、どれも、市民対市民は、人間の関わりであり、人質と拘束 した側のイラク人との精神的な交流の記述に目が行く。結局人質 にされた日本人は、イラクにNPOとして人道支援にきた側で、 まさに味方を拘束してしまったイラク人達は、それを見分ける理 性がまだ混... [続きを読む]

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