滞納処分の例により処分することができる歳入について
(質問)
税財源等の徴収確保の観点から、債権管理のあり方を全般的に見直ししている中で、次の歳入については滞納処分の例により処分することができるか疑義があるので、教示願いたい。
@ 下水道関係
下水道受益者分担金、公共下水道使用料
A 保育料関係
保育所保育料、学童保育料、幼稚園保育料
(回答)
1 「滞納処分の例」について
ア 「滞納処分」とは
滞納処分とは、地方税法により行う行政上の強制執行、すなわち債務者の財産を差し押え、これを換価し、その換価代金をこれらの公法上の収入に充当する一連の強制徴収の手続をいいます。
イ 「地方税の滞納処分の例」とは
地方税の滞納処分の例により処分することができるとは、地方税の滞納処分と同一の手続によって処分すべきことを意味し、滞納処分に関する限り、地方税法及び同法施行令の規定が包括的に適用されます。
したがって、地方税法及び同法において準用している国税徴収法等も含め、およそ地方税の滞納処分に関する手続規定は一切適用されることとなるわけで、その中には、例えば地方税法第15条の7第5項も含まれ、地方公共団体の徴収金を徴収できないことが明白であるときは、滞納処分の執行を停止したまま3年を経過するまで待って納入義務を消滅させるという方法(同条第4項)によることなく、納入義務を直ちに消滅させることができるなど(同条第5項)、通常の債権管理の手法(地方自治法第240条、同法施行令第171条の2以下)とは大きく異なるものです
なお、地方自治法第231条の3第3項では、分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入については、地方税の滞納処分の例により行うこととされていますが、滞納処分に関する具体的な手続については、地方税法では個々の税目においてそれぞれ若干の規定があるのみで(地方税法第68条第1項から第5項まで、第71条の19第1項から第5項までほか)、基本的には「国税徴収法に規定する滞納処分の例による」とされているところです(第68条第6項、第71条の19第6項ほか)。
ウ 「強制徴収により徴収する債権」とは
イで述べた滞納処分の例により処分することができる地方自治法第231条の3第3項に規定する歳入に係る債権については、同法施行令第171条第1項で「強制徴収により徴収する債権」と呼ばれているところですが、この中で、「使用料その他の普通地方公共団体の歳入」については、法律で定められている必要があり、具体的には「市町村が徴収する○○○その他この法律の規定による○○○は、地方自治法第231条の3第3項に規定する法律で定める歳入とする」(国民健康保険法第79条の2、介護保険法第144条等)とされ、あるいは「当該○○○が国の収入になる場合は国税の、都道府県の収入になる場合は地方税の滞納処分の例により、滞納処分することができる」(河川法第74条第3項)、「国税滞納処分の例により、○○○を徴収することができる」(道路法第73条第3項、土地区画整理法第110条第5項等)などと規定されているところです。
なお、「法律で定める」の「法律」には地方自治法も含まれており、地方自治法附則第6条では、「他の法律で定めるもののほか、第231条の3第3項に規定する法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入は、次に掲げる普通地方公共団体の歳入とする」として、第1号から第4号までの歳入を掲げているところです。
2 事案の検討
(1) @(下水道関係)について
ア 下水道受益者分担金
当該分担金は、地方自治法第231条の3第3項に規定する分担金と解されることから、同項に基づき地方税の滞納処分の例により処分することができるものと考えます。
イ 公共下水道使用料
地方自治法附則第6条第3号では、「下水道法第18条から第20条まで(略)の規定により徴収すべき損傷負担金、汚濁原因者負担金、工事負担金及び使用料」が掲げられていることから、地方自治法第231条の3第3項に基づき地方税の滞納処分の例により処分することができるものと考えます。
なお、水道使用料については公の施設に係る使用料と考えられますが、水道法上は強制徴収に関する規定がないことから、他の通常の歳入と同様に強制執行等(地方自治法施行令第171条の2以下)により徴収することとなります。
(2) A(保育料関係)について
ア 保育所保育料
児童福祉法第39条では、第1項で「保育所は、日々、保護者の委託を受けて、保育に欠けるその乳児又は幼児を保育することを目的とする施設とする」とし、第2項では「保育所は、前項の規定にかかわらず、特に必要があるときは、日々、保護者の委託を受けて、保育に欠けるその他の児童を保育することができる」とされています。
そして、同法第51条では、市町村の設置する保育所における保育の実施に要する費用(第4号)については市町村の支弁とするとされ、さらに、第56条第3項では、第51条第4号に規定する保育費用を支弁した市町村の長は、本人又はその扶養義務者から、当該保育費用をこれらの者から徴収した場合における家計に与える影響を考慮して保育の実施に係る児童の年齢等に応じて定める額を徴収することができるとされ、第56条第11項では、同条第3項に規定する費用については地方税の滞納処分の例により処分することができるとされています。
なお、当該保育料については、「児童福祉法第56条第1項(現第3項)の規定によって徴収する費用は、同条に直接根拠をもつ負担金であるので(昭和32年8月3日厚生省児童局長通達)、市町村長限りでこれを定めて徴収しうる」とされていることから(昭和33年12月27日行政実例)、条例でその額及び徴収方法を定める必要はないものと解されています(地方財務実務提要第1巻(ぎょうせい)2609・2610p)。
イ 学童保育料
学童保育は、アで述べた児童福祉法第39条第2項に定める保育とみなすことも理論的には可能ですが、実態的には全く別のものとして構成されており、学童保育の保育料は、国の法令に根拠を持たず、自治体が独自の基準によって定めているものとされています(地方行政ゼミナール(ぎょうせい)4720p)。
したがって、法令に基づくものではなく、また、強制徴収の根拠も欠くことから、滞納処分の例により処分することはできないものと解します。
なお、学童保育を公の施設で行った場合には、保育料を使用料として構成することも可能ですが、その場合には公の施設の条例中に額等の根拠を置くこととなり、また、使用料としてではなく民法第656条の準委任契約の対価ないし行政上の契約の対価として構成することも可能と解されています(同上ゼミナール4723p)。
ウ 幼稚園保育料
学校教育法第1条で、「この法律で学校とは、小学校、中学校、高等学校、(略)及び幼稚園とする」とされており、第6条では「学校においては、授業料を徴収することができる。ただし、国立又は公立の小学校及び中学校、(略)における義務教育については、これを徴収することができない」とされているとこです。
公立の幼稚園の授業料については公の施設の使用料として構成されていますが(市立高等学校授業料について地方財務実務提要第第1巻(ぎょうせい)2928p参照)、学校教育法で強制徴収により徴収することができる旨の規定がありませんので、滞納処分の例により処分することはできないものと考えます。 |