My Life in MIT Sloan

MIT Sloan MBA留学記。留学情報からワイン、イノベーション論、技術・組織論まで

初期の無名のGoogleがどうやって世界中の天才を集めたか

2009-10-18 14:58:46 | イノベーション・技術経営

今日は、韓国人のクラスメートのWoojaeが我が家に遊びに来た。

彼は、先学期のクラスで私のチームメートでもあった戦友。
某一流投資銀行を経て、ケンブリッジ大学で博士号を取り、うちのコンサルのロンドンオフィスへ。
その後、韓国に戻って携帯アプリの会社を立ち上げ、IPOした後、ベンチャーキャピタルを自分で立ち上げた人。
一言で言えば、一般的なMBA生が卒業したらなりたいものを、全てやってきたような人。

私としては、彼に会うと常に面白い話のネタをくれるので、話すのは本当に楽しい。
(そんな彼が何でわざわざMBAに来たかという記事はこちら

Woojaeは「外で食べよう」と言っていたらしいが、ルームメートのYEが、「うちに遊びに来てよ」と無理やり誘ったらしい。
しかし、彼女は自分では料理を作らんので、私に何か作ってくれという。
取り急ぎビーフカレーを準備。

しかし、カレーだって出来るのに1時間はかかる。
作り始めて10分くらいしてから、
「え、そんなに時間かかるの?でもWoojaeはもう15分くらいで来るよ。何かすぐに出来る前菜を作って!」と言われる。
仕方なく、冷蔵庫にあったズッキーニでズッキーニチャンプルーを作る。

はいこれ、前菜。

そんな話はともかくとして。
Woojaeはまもなくやってきた。
「はい、お土産」と言って彼が持ってきたワインを見て、私は仰天した。

ポマールのプルミエ・クリュ(一級畑)、リュジアン。
しかもビンテージは最近飲めるものでは最高の、2001年。
作り手はネゴシアンのブシャール。
普通に酒屋さんで買ったら、70〜80ドルくらいか。(日本で買えば8000円くらいか)

すごい・・・。
思わず、YE相手にこのワインがどんなに素晴らしいか解説する私。

私はお金にはそんなに執着の無い人間だが、人様の家に軽く訪問するだけで、
ブルゴーニュのプルミエ・クリュのベストビンテージをほいっと持ってくるような人間になれるなら、
金持ちになってみたいと、ちょっと思った。

そんな彼を迎えるのがチャンプルーとカレーなのは申し訳ない。(笑)

まあ、そんな話はともかく。
Woojaeの話は相変わらず面白く、刺激的だった。

最初は、最近彼が興味を持っている、防衛産業では、情報漏えいしないようにしながら、どうやって「オープン・イノベーション」を実現するか、と言う話。
面白い話だが、解説すると長くなるのではしょる。

それから、話は流れて、Googleの話になる。
まだ全く無名だったGoogleが世界中からアルゴリズムの天才たちをどうやって集めたか、という話だ。

Woojaeは1999年頃、イギリスのケンブリッジ大学の博士課程に留学しており、研究のため物理の研究室にいた。
その時、同じ研究室に、15歳でインドからハーバード大学に留学し、飛び級して7年で博士号まで取得し、22歳にしてケンブリッジ大でポスドクをやっていた天才がいたと言う。
大学では、金属の表面にショックを与えたときに起こる振動を、数値的に計算するアルゴリズムを開発していた。

その彼が、ある日突然、「アメリカの企業に呼ばれて、そこに就職することにした」と言い出す。
「何て会社?」と聞くと、「Googleという会社だ」という。

Google?そんな聞いたこともない会社に何故行くんだろう?とWoojaeは思った。
その数週間後、またWoojaeはGoogleという耳慣れない名前を耳にする。

彼の研究室が入っていた建物の隣は、理論物理の建物があった。
そこには、車椅子の天才、宇宙物理学者ホーキングの研究室がある。
当時ホーキングの研究室には5人の大学院生がいたそうで、彼らはケンブリッジ大学でも誉れ高い、「選ばれた天才」だった。

ホーキング研究室の大学院生は、ホーキングが頭で考えている数式を、
彼の表情や彼が操作するジョイスティックで示されるカタコトの言葉を頼りに、
黒板に板書し、ともに議論することが出来る才能を持っている必要があった。

ところがその貴重な大学院生5人のうち、2人もが突然博士課程を退学する。
「Google」という聞いたことも無いアメリカの会社に行くためである。

その二人は、当時一部で流行っていた、脳科学のアナロジーでアルゴリズムを作って初期宇宙の数値計算をする、という研究をやっていたという。

とにかく、ケンブリッジ大学の物理学科の天才学生を3人も奪っていったGoogleに、Woojaeは興味を持つ。
その後、いろんな人に話を聞いて、事の全容が分かってきた。

1998年にGoogleを創業した、Larry Pageという男が、1999年、世界中の計算機科学の基礎研究に携わっている「天才」学生にアプローチしたらしい。
Larry Pageは、自分のいたスタンフォード大学の計算機科学の教授を5人、相談役として雇う。
その教授のネットワークで、「これは天才だ」という学生を見つける。
その全ての学生に、FedExで、スタンフォード大学の教授の手紙と、ファーストクラスの往復チケットを送る。
「是非あなたの研究について話して欲しい。パロアルトに来て話してくれませんか?」

まあ学生なら、スタンフォードの誉れ高い教授にファーストクラスのチケットを送られたら、行ってみるだろうな。
それで、Larry Pageと教授たちが「面接」する。
見事面接を通った学生たちが、本格的にアトラクトされる。
Larry Pageが、当時既に考えていた、検索エンジンの構想と、将来的にはデータマイニングの手法で、人々の生活の隅々まで入っていくサービスを確立する夢を語るのだ。

この方法で、世界中の「天才学生」にアプローチしていった、という話。

これが「天才」学生のネットワークで更に広がっていく。
採用された元学生たちは、自分の知っている「天才」たちに声をかけていく。
Larry Pageが夢を語って、アトラクトする。

こうして集められた天才学生たちは、Googleの検索エンジンの開発を成功させただけでなく、その後のGoogleの新しく、面白いサービスを次々に開発するリーダーとして活躍していったそうだ。

いやー、面白かった。
Googleの初期の数々のイノベーションは、Larry Pageの確固たる夢と、こうやって集められた「天才学生」によって実現していったのか。
Larry Pageの天才を探す方法も面白いが、初期の時点でそれだけの天才を集めることが成功の鍵だと認識していた先見性がすごい。

Woojaeも、このGoogleのモデルには大分影響されたそうで、
彼がいまMITにいるのも、ベンチャーキャピタリストとして、次世代の技術で成功する企業を作るためには、「天才学生」とのネットワークが非常に大切だと考えているからだ。

その後、またいろんな話をしたが、3時間以上、マシンガンのようにしゃべり続けていたWoojaeは、全く疲れた気配もなく帰っていった。
帰る直前に、ブリジストンのいるかの話で再度盛り上がるWoojae。

いやー、今日は面白かった。
こういう人と、一生の友達になれるかもしれないのが、MBAの醍醐味だなあ、と思う。
将来、アジア圏のイノベーション・ハブを作る際には、お互い韓国、日本のリーダーとしてやっていけたら素晴らしいよね。

追記(2009/10/19am@Boston):
朝起きたら、すごい反響で驚き。
こんなに沢山の人が来るなら、ワインの話とか邪魔でしたが、今更削除するのもナンなので残しておきます。

追加情報ですが、初期に採用された学生たちは、もちろんLarry Pageの壮大かつ具体的な夢にも魅力を感じたでしょうが、相当のストックオプションを得たのも確かでしょう。
この国は、学術的な才能のある人が(学術上や社会へのインパクトだけでなく)、純粋に金持ちになることも目指す国なんですね。

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4 Comments

修士 (Willy)
2009-10-18 17:35:29
グーグルは日本に進出した際も、東大情報科学科(情報理工学研究科?)修士課程の優秀な学生を年俸2千万円前後でごっそり引き抜いた、という噂を耳にしましたが真偽の程は定かではありません。日本で「修士の」学生を引き抜いたという点にセンスを感じました(笑)。
やはり、Googleは突き抜けていますね (Doubles)
2009-10-18 17:38:15
Lilac様、

はじめまして。
いつも大変面白い記事を投稿して頂き誠に有難うございます。
非常に勉強になります。

さて、本文のGoogleについてですが、Lilac様の説明を拝見させて頂きまして、『やはり彼らは違う』と認識します。

現在、自分はGoogle Wave対応用の新しい形のソーシャルメディアサービス作製に取り掛かっているので、以前よりGoogleの歴史、本質等について調べております。
その過程で感じることは、彼らの『先見性』が突き抜けている、ということでした。Google Waveの仕組みも、今朝自分がビジネスプランを描いていた時にまさに欲しいと思っていたツールで詰まっていました笑

今晩はLilac様のブログでさらに理解が深まったと感じます。
今後ともどうぞ宜しくお願い致します!

Doubles From San Diego, CA
そうそう (masa)
2009-10-18 18:21:39
面白そうですね。羨ましい限りです。

そうそう、実際こんな感じだと思います。
核になる人達(ハブ)がいて、そこに
どんどん才能がある人(ノード)が集まって行き、クラスターAになる。
また、時々、別の小規模クラスターであるクラスターBが、このクラスターAにくっつく。
そこは大きな交差点となり、クラスターAとBが違うものABへと変化する。
もちろん、いったんくっ付いたノードも違うクラスターCとネットワーク接続されていたりするのでいったんクラスターABから離れたり、いったん外れて
まったく新しいノードとして生まれ変わって再度クラスターABにくっ付いたりと。

ノードがくっついたりするプロセスは、雇用だったり買収だったり。
私の知っているIT、特にシリコンバレーでの
ドミナント・デザインが決まるまでのプロセスってこんな感じだったりする気がします。
買収も、80年代のザM&Aみたいなのも勿論今もあると思いますが、
それよりなんとなく、スケールフリーなネットワークトポロジーを作っていくようなノリ。
Google (Lilac)
2009-10-19 02:55:26
>Willyさま
その噂、似たような話を聞いたことがあります。
しかも、Googleに移ったうちの一人は私の知り合いの友達らしいんですけど、年俸までは確認するに至らず(笑)
2000万ってすごいなあ・・
日本企業じゃ考えられないことをしますね

>Doublesさま
はじめまして。確かにやることの規模が突き抜けてますよね。

GoogleWave対応のメディアサービスってすごい!
Waveってオープンプラットフォームなんですね。
まだ一般人にはほとんど全容が分からないサービスですが、今後どうなっていくか本当に楽しみです。

今後ともよろしくお願いします。

>Masaさま
へえ・・確かにシリコンバレーって、東海岸で言うところのNon compete clause(競合企業でN年間は働いちゃダメ)っていうのが雇用契約に無いところが多く、ごそっと人が動いたリ、くっついたり、ということが日常茶飯で起こっている、と聞いたことがあります。

スケールフリーなのかはわからないですが(小さい企業で活躍してるところも多く、重要な役割を果たしてるので)、人が自由にネットワークし、移動する、という仕組みから、どんどん新しいアイディアが生まれていくんでしょうね。

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