2009年03月19日 (木)視点・論点 「会えないパパ 会えないママ」

弁護士 田中早苗

 平成19年の人口動態統計によると、離婚件数は、1年間で約25万5000件。そのうち未成年者のいる割合は57%。約24万5000人以上の子どもが親の離婚に巻き込まれています。
 両親の離婚に直面した子ども、特に幼いこどもは、「なぜ、パパやママと分かれて住まわなければならないの」、「なぜ、ママは働きにいくようになったの」、「なぜ、ママは遅くまで働くようになったの」、「なぜ、パパは会いに来てくれないの」など様々な葛藤を抱えています。
両親から子どもに離婚の理由を説明することはあまりなく、子どもにとっては、両親が離婚したのは、自分が親のいうことを聞かなかったからだなどと自分のせいにしがちです。
したがって、子どもには、たとえ、離婚したとしても、両親は子どもを愛していることには変わりなく、いつでも連絡がとれ、会いたいときには会え、離婚は決して子どもの責任ではないことを伝えることが重要です。
しかし、日本では、現実には、一緒に生活をしていない親とは疎遠になりがちです。

その原因の一つに単独親権制度があげられます。日本では、未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合、父又は母のどちらかを親権者に決めなければならないのです。
通常は、親権者となった親が、子どもと一緒に暮らし、生活の面倒をみることになります。他方、親権者にならなかった親は、養育費を支払ったり、子どもと面会をすることになります。しかし、日本では離婚のうちおよそ90%が協議離婚で、養育費の支払や面接交渉についての取り決めをしないことも多く、同居しない親は子どもと疎遠になりがちです。
また、仮に、裁判所の手続きで離婚し、取り決めをしても養育費を支払わず、面会しないことも少なくありません。親権はなくても親として子どもに対する責任がありますが、子どもと面会しないことによって、親としての責任感も薄れがちになります。
反対に、離婚後も、同居していない親が子どもとの面会を強く望んだとしても、日本では同居している親の協力と理解が得られない限り子どもとの面会が実現できません。そのため、どちらが親権を獲得するのか、熾烈な争いが繰り広げられます。また、いったん親権が決まっても両者の関係に修復できがたい亀裂が生じ、子どもに悪影響を与えかねません。
また、親権の問題は、離婚や慰謝料、財産分与の協議と一緒になされるので、「親権を譲る代りに慰謝料を請求するな」など、子どもの問題を金銭交渉の材料とする当事者もいるのです。
  こういった問題の解決策の一つが、多くの先進国でも採用されている共同親権ないし共同監護制度の採用です。共同親権制度であれば、子どもは離婚後も父母双方と関係をもち続けやすく、親も子どもに対する責任を自覚し、親双方で責任を共同し、分担できます。また、財産分与などの離婚の問題と切り離し、時間をかけて協議をすることもできます。
共同親権・共同監護とはいっても、1週間のうち半分ずつ互いの家を行き来するなどの形態は少なく、実際は子どもの主たる住居は父母のどちらかに置かれ、他方は週末や休日、長期休暇に子どもと過ごすことが多いといわれています。
また、必ず共同監護とするのではなく、家庭内暴力が認められた事案など、単独監護としたり、暴力をふるっていた親に子どもとの面接交渉を認めないこともあります。ただ、親の面接が子に対して何らかの問題をもつとしても、子どもや関係者の安全をはかるため、第三者の監視付きの訪問、公共の場や第三者の住宅での訪問などの条件を付したり、電話や手紙による接触しか認めないなどで対応をしています。
日本でも、共同親権制度をとらずとも、家庭裁判所の中で、社団法人家庭問題情報センターなどの面接援助組織を活用し、立会人付きの面接をもっと積極的に認めたり、きめ細かい訪問方法を決めることは可能だとおもわれますが、残念なことに、葛藤の激しい両親のケースでは、オール・オア・ナッシングとなりがちです。カウンセリング・教育啓蒙機能も備えた交流を支える面接援助組織が増えれば、日本でももっと丁寧な対応が可能となるはずです。
また、そもそも、離婚が子どもに与える影響や、離婚後の面接交渉が子どもにとって心理的・精神的にどのような影響を与えることができるのかなど多くの両親が学習する機会がないまま、離婚をしています。
アメリカでは、全米的に父母教育プログラムが義務化し、父母教育プログラムを受けないと裁判所の審理や調停が進まないことになっています。
日本でも、父母が離婚後の交流について学習する必要があるとして、最高裁家裁局が「当事者助言用DVDビデオ」を制作していますが、十分活用されていません。
未成年の子どもをもつ夫婦が離婚を迎える場合、学習をする機会をもてば、養育費や離婚後の面接について取り決めをするケースは増えるでしょうし、冷静に子どもの問題を話し合う素地をつくることになるでしょう。せっかく最高裁が父母教育ビデオを制作したのですから、各地の家庭裁判所の待合室や、市役所の離婚届窓口で見ることができる仕組みをつくることは、今でも少ない予算でできるはずです。
子どもの権利条約には「締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及直接の接触を維持する権利を尊重する」と規定されています。しかし、今までお話したように、残念ながら、日本の現状は不充分といえるのです。
そこで、今まさに離婚を考えている方がいれば、離婚をした両親を持つ子どもに与える絵本を参考にしてみてはいかがでしょう。これらの絵本は子供向けですが、両親も読むことにより、離婚が子どもに与える影響が理解できます。
最後にそのうちの一つを抜粋して紹介します。

「おうちがふたつ」
文 クレール・マジュレル 絵 カディ・マクドナルド・デントン
訳 日野智恵 日野 健

 これは ぼく ・・・・・・アレックス

 こっちは パパのおうち 
 ぼくは ときどき パパといっしょ

 あっちは ママのおうち
 ぼくは ときどき ママといっしょ
 だから ぼくのおうちは ふたつ
 
 キッチンも ふたつ
 パパのおうちで パパと おりょうり
 ママのおうちで ママと おりょうり

 バスルームもふたつ
 パパのところに 歯ブラシ
 ママのところにも 歯ブラシ

 パパ だいすき
 
 ママも だいすき
 どっちにいても同じ

 「パパもママも アレックスがすきなんだ」と パパが
 「パパとママはどこにいても アレックスがすきなのよ」と ママが

 そして パパとママが ぼくにいった
 「アレックスがどこにいても だいすきよ」

いかがですか。
アレックスのように、日本の子どもたちも離婚後、安定した心をもてるような仕組みをつくっていくのは、大人の責任なのではないでしょうか。

投稿者:管理人 | 投稿時間:23:15

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