<リプレイ>
●地縛霊、あわせてぴょこぴょこ……? 「噛むと怒る、地縛霊……えと、赤巻紙青巻紙黄ぎゃきっ……あ」 いきなり噛んだ舛花・深緋(ブルズアイ・b27553)に、皆が振り返る。 思わず頬を赤らめる深緋。初依頼で緊張していることもあるけれど、それ以前に早口言葉はちょっと苦手。 「噛むのも愛嬌だと思うけどな。練習の内はたくさん噛んだほうが良いと思うし……それに最初から噛まずに出来るなら苦労はないよ」 藤咲・紘(過去の過ちを償い続けし声人・b21314)がすかさずフォロー。隣で御堂・常夜(剣の舞と籠の小鳥・b67735)も、初依頼に緊張した面持ちを浮かべながらもうんうんと頷く。 「執事たるもの、主人に正しい情報をお伝えする為に、発音は常に正確でなくてはなりませぬ。そう言う意味では、放送の方々とも通じる所があるのかもしれませんな」 瀬場・直哉(セバスチャン・b57509)が、誇らしげに言いながら放送室のドアを見やる。そこでは、彼にも負けぬ心意気を持った二人の少年が、練習を始めようとしているはずだ。 二人が犠牲になる前に急がなければと、深緋が早足で放送室に向かう。 「失礼します」 扉をそっと叩けば、すぐさま飛び出してくる二人の少年。 「あっ、はいっ!」 「何か御用ですか? 呼び出し放送ですか?」 やる気満々といった様子で尋ねる二人に、深緋は「職員室の放送の機材の方の調子が悪い様で、先生から放送部の二人を呼んでくる様に、と言われたのですが……」と告げる。 「おおっ、仕事か!」 「仕事ですね、先輩! 伝えてくれてありがとうッス!」 きらきらと瞳を輝かせて飛び出していく二人に、ちょっと申し訳なさそうに頭を下げて、深緋はさっと仲間たちに合図を送った。
「廃部になった放送部に想いを残しているのかもしれないですね。復活した放送部の部員さんに、複雑な気持ちなのでしょうか」 パソコンやCDデッキをなるべく傷つかなさそうな場所によけながら、志水・みゆ(偽りを歌う光・b53832)がそっと呟く。 「放送部員の地縛霊か……どのような未練があるにせよ、生ける者を殺して良い理由にはならないな」 固定されていたマイクスタンドを工具で外してよけながら、デュオン・ウィンフォール(ガードポイント・b51310)が言う。隣で山積みのビデオを片付けていた汐見・倭(霧は苦手・b48743)が、静かに頷いた。 「希望と夢で輝いている2人の為にも、頑張ってゴーストを退治しましょ」 最年長らしい風見・莱花(高雅なる姫君・b00523)の言葉に、全員がしっかりと頷く。 やがて、あまり広くない放送室にもかなりの空間が出来上がって。 「それでは、行くぞ」 配置を整えた仲間たちが頷き、武器を握るのを確認して、デュオンは口を開く。 「カエルぴょきょぽっ……」 いきなり噛んだ。 早口言葉は良く噛むと言うだけあった。 一瞬、放送室が静まる。 次の瞬間、 『いかんなぁー、そんな活舌では放送の星にはなれん! カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ!』 素晴らしく流暢な早口言葉と同時に、巨大なアクセント辞典が唸りを上げて振り下ろされる! 「くっ……!」 何とか武器で受け止めたデュオンに、右から大きなマイクが、左から文庫本が、さらにはミキサー盤からの轟音が襲い掛かる。 かなりの傷を受けたデュオンを助けんと、能力者たちはいっせいに動き出した。
●隣の能力者は、よく噛む能力者? 「今治すわね!」 「デュオンさん、いくよっ!」 莱花がヤドリギの祝福を、紘がギンギンパワーZを、デュオンへと投げかける。 「ふん、無茶しやがって……」 倭が皮肉っぽくデュオンにささやき、虎紋を呼び覚ましながらミキサー盤の地縛霊へと向かう。 「まず先に、その危険な物をしまって頂きますぞ!」 直哉の龍尾脚が、ミキサー盤の地縛霊へと振り下ろされる。次は魔狼の力を使おうと、直哉はそこで足を止めて地縛霊と対峙した。 「菫、行きましょ……!」 深緋がフレイムキャノンを撃てば、真スカルサムライの菫も応えるかのように同じ地縛霊に近づき、素早い斬撃を放つ。 デュオンが雪だるまアーマーを使いながら、倭たちがいる戦線から僅かに離れる。退治したのは、文庫本を持つ地縛霊。 「滑舌も大切ですけれど、発声練習も大切なんですよ?」 高らかに奏でられるみゆのヒュプノヴォイスに、ミキサー盤とマイクの地縛霊が膝を折る。 「傷つけあいなんかより……一緒に踊ろう?」 常夜がさらに地縛霊たちを踊りへと誘う。文庫本の地縛霊が、それに誘われてステップを踏む。 けれど、巨体を誇るアクセント辞典の地縛霊は、歌と踊りの誘惑に耐えた。 『まだまだ行くぞ! いいアナウンスはアクセントの確認から!』 鋭い紙が、能力者たちを激しく斬り裂く。 さらにミキサー盤の地縛霊が目を覚まし、高音域の音量を最大まで上げる! キィィィィィン、と耳障りな高音が鳴り響き、能力者たちの動きを止めた。急いでみゆが、歌をヒーリングヴォイスに変える。 能力者たちの半数ほどがマヒを食らった状況に、常夜が唇を噛む。 (「マヒや怒りの回復が出来るのは、僕だけ。それだけ頑張らないといけないんだ……」) 湧き上がるプレッシャーを抑え、常夜は必死に情熱を高める。 「風見様、今回復するね!」 解き放たれたヘブンズパッションは、莱花をマヒからしっかりと解き放っていた。 「このていろかっ?」 倭が瞬断撃を放ち、ミキサー盤の地縛霊の注意を引く。噛んだのはわざと。疑いようもなくわざと。 『はっはっは、練習がなってないなあぁ!』 けれど地縛霊はそんなことは気にしない。アクセント辞典が凄まじい勢いで倭の頭を直撃する。 『いずれの御時にか……』 デュオンに道を阻まれた文庫本の地縛霊は、さっと文庫本を開いて読み始める。 その上手すぎる朗読は、地縛霊たちを勢いづかせ、能力者たちの体力を奪う。 常夜の回復を受けてマヒから立ち直った莱花が、急いで倭にヤドリギの祝福をかける。 しばし龍尾脚やフレイムキャノン、瞬断撃、クレセントファングが飛び交い、白燐蟲やヤドリギの祝福、ヘブンズパッションやヒーリングヴォイスが傷を癒す。 ついでに早口言葉も飛び交う。 「坊主が上手にびょうびゅに……っ!」 『甘い!』 「東京特許きょきゃきょきゅっ……!」 『あと百回!』 「生麦にゃまごめ……」 『ほらほら舌の回転がなってないぞおぉっ!!』 何だかいい加減皆が悔しくなってきた頃。 「これで……最後っ!」 紘の放ったクレセントファングが、ミキサー盤ごと地縛霊を断ち割り、消滅させた。
マヒ攻撃を放つ地縛霊は倒したものの、何度となく噛んでいたデュオンと倭の傷は深い。 それを確認し、直哉は少し考えて。 「むぅ……やむを得ませんな」 布槍を握り締め、一つ深呼吸して、直哉は覚悟を決めた男の顔で口を開いた。 「皆様のお相手は瀬場が…………瀬場が致しましゅじょ!」 噛んだ台詞が、こんなにも格好良く聞こえたことはかつてなかっただろう。仲間を守るためだからこそ。 『どんな台詞も噛んだら台無しだぁっ!』 そこのところがわかってない地縛霊の攻撃を、直哉はしっかりとその身と布槍で受け止める。さらにもう一体の地縛霊が、マイクを強く叩きつける。 直哉の心意気に応えるかのように、ヤドリギの祝福が、ギンギンパワーが、ヘブンズパッションが直哉の身へと飛ぶ。デュオンと倭も、白燐蟲の力と虎紋の力でそれぞれ傷を癒す。 『彼女は答えない。けれど、その目ははっきりとそれを認めていた。彼女は……』 「確かに上手いですけど、こっちの歌も負けません」 負けじとばかりに朗読が響けば、みゆがヒーリングヴォイスですぐさま傷を癒していく。 菫が骨を拾い、体勢を整える。その後ろから、深緋のフレイムキャノンがマイクの地縛霊を撃ち抜く。さらに紘のクレセントファングが、地縛霊を抉った。 かなりの痛手を受けながらも、地縛霊の少女はマイクを握りなおす。その目が捕らえたのは、倭! 『お知らせいたします。……今すぐ、放送室まで来てください!』 「この……っ!」 こみ上げる怒りに、倭が電光剣を振るい発勁手袋をかざす。アビリティを使っていないとはいえ、攻撃は確実に地縛霊にダメージを与える。 すぐさま常夜がヘブンズパッションを投げかけ、倭の怒りを解いていく。 「菫、合わせてね……っ」 深緋の指示に菫が頷き、斬撃を与えた後僅かに横にそれる。その場所を、フレイムキャノンが撃ち抜く! その一撃が、マイクの地縛霊を消し飛ばした。
●新春シャンソン歌手により新春早々……じゃないけど戦闘終了っ! 「スモモもモモもモモもも……あ」 デュオンが白燐奏甲を掛けながら噛もうと試み……思わず言いすぎる。 『覚えてないのも練習の足りない証拠ーっ!』 これも噛むにカウントされるらしく、アクセント辞典を素晴らしい手首のスナップで投げつける地縛霊。さらに文庫本の角が、デュオンに襲い掛かる。 それでも、最初の集中攻撃に比べれば、だいぶ楽になっていた。 「僕の想いを……力にして!」 常夜が、デュオンにヘブンズパッションを解き放つ。倭が見えぬほどの速さで文庫本の地縛霊に斬りかかり、紘がクレセントファングで華麗に斬り裂く。 「みゆさん、合わせましょ!」 「わかりました、莱花さん!」 みゆと莱花が頷き合い、同時に手を伸ばす。 二本の光の槍が同時に生まれ――文庫本の地縛霊は双方向から貫かれて消えていった。
『まだまだ、あと百回行くぞ! だが喉を嗄らしたら許さん!』 無茶を言いながら、最後に残った巨体の地縛霊が紙をばら撒く。 けれどそのダメージは、みゆの歌ですぐさま癒されていく。 「人命守るため、その行く手、阻ませてもらう」 「……行くぞ」 倭とデュオンが目と目を見合わせ、息の合ったタイミングで攻撃を叩き込む。 「もう、そろそろ……!」 深緋のフレイムキャノンが、地縛霊に魔炎を与える。燃え上がったその体に、莱花の放った光の槍が突き刺さる。 「これで……終わりにしましょう!」 直哉が地を蹴る。回転と共に、鋭くつま先が叩き込まれる。 『むぅ……まだまだ……活舌が……』 アクセント辞典が地に落ちかけ――持ち主と共に、虚空に消える。 「演技とはいえ、やはり発言を噛むのはよろしくありませんな。今後ますます気をつけるように致しますぞ!」 爽やかな執事スマイルと共に、直哉はそれを見送った。
能力者たちが極力傷をつけないようにと気をつけたため、放送室に損害はなかった。 二人が戻ってくる前にと、能力者たちは素早く機材を元に戻そうと動き出す。 「少ない人数だからこそ、きっと大切に使って貰えるよ。また新しくやるのは勇気のいる事だから応援したいな」 デッキ類を戻しながら、紘が優しい顔で呟く。 「地縛霊さん達は、放送部が廃部になったのが悲しかったんでしょうね。でも、これで新しい放送部が安心して活動できますね」 「地縛霊さん達の分まで、あのお二人にはこれからの活動、頑張って欲しい、ですね……♪ 私も見習って、滑舌、良くなる様にちょっと練習、してみましょう……」 コードやCDを戻しながら、みゆと深緋が笑顔で頷き合う。 「この放送室には、あの2人の夢が詰まっているのよ。でも、貴方達が生まれ変わったら、楽しく放送室で活動出来るといいわね」 莱花の言葉に、常夜も「そうだね」と頷いて。 倭が皮肉っぽく何か呟いて、デュオンにそっとたしなめられる。そんな光景も、無事に惨劇を阻止できたからこそ。 確かな充実感に包まれて、能力者たちはそっと放送室を後にした。
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参加者:8人
作成日:2009/10/15
得票数:楽しい7
笑える1
カッコいい1
ハートフル7
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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