<リプレイ>
●誰かと誰かと、そして誰かの憂鬱 さて、そうして場所は引き続き異空間である。 現在、市之瀬のメンバーの関心は、主に敵と――。 「交戦規定はただ一つ、生き残れ!」 「「……」」 「やっぱりね、大切な仲間に怪我なんてしてほしくないワケで……」 「「……」」 「まあ、まず俺が生き延びられるか心配だけどね!」 「「……」」 「……あとは、えーと……そうそう、構造主義って」 「……ネタが尽きましたね?」 「ごめんなさい」 今市・直人(イマイチな男・b36897)だった。 舛花・深緋(ブルズアイ・b27553)の小さな一言に、結構普通に謝ったぞ! まあ、原因はあくまで不明なのだが、なんとなく直人が悪い気も……しないでもない! だが――。 「最近こういう状況に慣れてきてる自分が怖いわ……」 「直人の奴が率先して何かをすると、大抵トラブルが起こるからな……」
――何より恐ろしいのは、皆がこうしたトラブルに慣れ始めていることだった! そう。 源・類(零下の埋み火・b51181)と柊・刹那(冥府の使者・b40917)の台詞に皆が頷き、 「ま、これ以上の犠牲者が出る前に、能力者の手に渡って良かったんじゃない?」 「「……確かに」」 「さいっこうにポジティブに考えれば、だけど!」 黒瀬・朱夏(深い常緑から吹く風・b22809)の笑顔に、更に肯定が続く。 そして、 「まあ仕方ないか。さ、折角劉君も来てくれてるんだし、さっさと片付けてダーツやろう!」 「「了解ー」」 ぺちぺちと手を叩く風波・椋(悠久の黒・b43193)の台詞で、あっさり敵へ向き直る。 ……早い。 凄まじく切り替えが早い。 能力者的には非常に合格だが、きっと色々苦労しているに違いない――!
● 「死して尚ダーツに拘る心意気や天晴れ。されど他者の幸福を奪って良い道理は……無いぞ」 やがて。 吐息さえ鮮やかにこなす伊集院・帝(貴族・b62329)がカードを出せば……。 「「――イグニッション!」」 起動の声が唱和する。 そのタイミングは、敵の襲い掛かる瞬間を完全に読み切っていた。 『コワイネェ……』 『『チガイマスー! コワイノハタワシデスー!』』 こうして、戦闘は遂に開始される。 「……ところで、何で……タワシさん、なんでしょう……か?」 「「ソレは言うな……!」」 冷泉・香夜(水面に映る優しき銀蝶・b47140)の核心を突く台詞を、流しつつ。
●破裂の状況 先手は、連携で勢いを得た能力者サイドが取得した。 「んじゃ、バックアップよろしくね?」 「了解……です、よ……!」 初手は、呟き、香夜と笑いあう椋がギンギンパワーZを使うように、大半が強化行動。 『トバシテイコウゼ?』 『トバシテイコウカ?』 「いって!?」 その隙にマスターとバーテンダーの攻撃で直人が弱っていたが、まあ生きている! 状況が急転するのは――。 「――あなた達、何だか楽しそうに見えるのは気のせい?」 「――これでもう、休みなさいっ!」 距離を詰めた前衛の行動から。 すなわち、連携を実現した類と朱夏のニ連撃からだ。 共に奥義級の黒影剣とクレセントファングが、片方のタワシ男を襲い――。 「――タワシタワシと煩い奴等だ。劉、いけるか?」 「――勿論ネ!」 残る片方を、刹那と瞬成がきっちり抑える。 こちらも質の高い黒影剣、龍尾脚の連携が男の脇腹に吸い込まれて――。 「ダーツは……人に向けちゃいけませんよ!」 『ウソ!?』 「う、嘘じゃありませんっ」 いつになく大声な深緋の放つフレイムキャノンが退路を塞ぎ――全てが爆ぜる! 『ガアアアアア!?』 効果は抜群だ。 『イテェヨ……アニキ……』 『アア……オマエライマ、オレトオトウトヲワラッタカ……?』 (「仲良いなこいつら……」) だが、そのコメディ属性故か基礎能力故か――多分両方だろう――男達はまだ余裕だ。 少なくとも体力の点で、相手もまた前衛としては合格らしい。 現時点では――能力者たちが押している。 深緋の相棒、菫も前衛を厚くしていて、一見してすぐに突破される気配はなさそうだ。
――では、後衛は?
『若者はアツスギテイケナイ。ヌルマユノナカニモシンリハアルモノダ、ヨ?』 『『マスターフカイッス!』』 「と、良いこと言ってるけど、でもそれは通さないよ――!」 とにかく、能力者達は敵後衛の破壊力と撹乱能力を危険視していた。 ――自由に動かせてはならない。 故に、まずは牽制とばかりに椋のパラノイアペーパーが敵視界を埋め尽くし、 「――敵を自由にさせぬは定石だ。悪く思うなよ」 「――少しの間、じっと……していて、ください……ね」 「――勿論戦闘は真面目にやるよ! 皆の視線が痛いからね!?」 続く攻撃は、タイマンチェーンに茨の領域、パラライズファンガスの拘束スキル。 帝、香夜、直人の目的を絞った三連撃は――見事、マスターの行動を封じる! (「行ける……!」) 悪くない。 後衛のボスを封じて前衛を押し切る戦術の元――理想的な展開といえた。 だが。 敵もまた……。 伊達や酔狂で、殺意を持っては居ないのだ。 『オレノオゴリダ!』 『イエッハー!』 まず、バーテンダーのカクテルは、単体回復であるが故、かなり強力だ。 その上――。 「回復は煩わしいわね!」 『タワシスペシャルゥ!』 「ッ」 「意外と……速いねぇ!?」 たった二人で、四人と一体の攻勢を止めているタワシ男の粘りが異常でさえある。 狙い済ました全力攻撃を回避する敵には、流石に類と朱夏も舌を巻いた……。 『オオオオオオオ!』 「しかし、どうしてダーツを投げないのでしょう……!」 「もしかして投げると外れる腕前だカラ」 『イウナァァァァァ!』 「アルー!?」 「きゃっ!?」 ダーツは投げてこないが、攻撃も強い! 深緋も瞬成も、なんだか釈然としないが大ダメージだー! そして、 『フゥ……オワカイノ、コレハワタシノオゴリダヨ』 「ち、凌いだか……!」 帝の舌打ちとマスターの苦笑の響きは同時。 ――数瞬後の、マスター自慢の『トリプル』による爆発は形成を一気に引き戻した。 カッ、とグラスを叩いたかのような音の後、爆炎が薄暗い闇を煌く暴力として顕れる! 「い、て……なんだこの痛み、犯罪じゃない!?」 「回復は、お任せ……ください、ね……」 訴えるぞ! と地面をごろごろする直人と、回復に努める香夜は対照的だ! こうして……戦闘は、危ういバランスの上で進んでいく。
「うぅ、俺が何をしたって言うんだ……」 「「お前が言うなー!?」」 『オイオイ、ナカマワレナンテカナシイゼ……』 「「お前が言うなー!!」」 「み、みんな落ち着くアル! これは敵の罠アルよー!?」 『ツマリ――オレモオマエモタワシッテコトダナ!』 「はっはっは、離せ劉。とりあえず奴等を始末してからだ」 「刹那ー!?」
いやほんと。 危ういバランスです。
●幻想の決着 そうして暫し後。 戦況の変化は、能力者たちに有利な形で訪れた。 『タ・ワ・シ……』 『セメテ、テ・レ・ビ……』 煩い上に強いという、敵に回すにはかなり恐ろしかったタワシ男たちが果てたのだ。 前衛が火力を集中させた効能は、やはり大きかった。 これで――厄介な本命を攻めることが、出来る。 「ようやく、か……」 『タ・ワ・シ!』 『ク・ル・マ!』 「ああ。これで我等の勝利が見えてきたな?」 『タ・ワ・シ!』 『パ・ジェ』 「「黙れそしてそれ以上は決して口に出すなー!」」 『『ギャアアアアアアアア!?』』 消えるまでの時間が無駄に長かったタワシ男も、ここでフェードアウト。 怒る刹那と帝は本当に怖かったのか、涙目で消えていった……気がする。 なんとなくふざけた雰囲気になってしまうのがこの空間の怖さか! 「次はマスター達か……渋いね。俺もあんな風になりたいでおじゃる」 「あら、この真面目な局面で戯言が……もう一度、ゆっくりと三回言ってくれる?」 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 しかし、市之瀬にも素晴らしい常識人は何人も居る。 直人の本音も、類がカバーして完璧です! ともあれ――。 「……うーん、とてもイマイチ。でも攻撃力は高いし良いよね!」 「……一気に決めましょう」 次の標的はバーテンダーだ。 苦笑しながらイマイチなスピードスケッチを送る椋と、菫に進撃を命じつつフレイムキャノンを連携とする深緋の攻撃が、涼しい顔の彼に襲い掛かる! 『……ク』 バーテンは痛みに、一瞬顔をしかめ……。 『……コマッタコネコチャンタチダ』 「きゃーバーテンさーん!」 それでも余裕は残っている! そして直人が反応する! (「……これで行けるカ?」) 既に、戦場は九対ニの様相を呈している。 だが、瞬成は何かを懸念していた。 無論彼が生真面目なせいでもあるが――そのときだ。 『オジョウサン……』 「え?」 『キノウハ……タベスギナカッタカイ?』 「言っている意味が――!?」
マスターのカクテルが宙を走り、疑問符を浮かべる朱夏にすこーんと当たった! 「朱夏、大丈夫!?」 「……だーめーそーうーです?」 「「!?」」 その特技は牛の目を射抜く魅力の一撃。 強力な前衛の一角たる彼女が魅了状態にされ、戦場の天秤は再び傾く――! 「ち、」 レベルの高いボスに拘束技は利き難い。 逆に、老練な敵のバッドステータス付与は強力だった……。 「ごめんね?」 くき、と小首を傾げる朱夏は可愛らしい。 すごくすごく可愛い。 並の男なら大抵魅了できるスマイルぶりだ。 だが―――今はその笑顔こそが敵なのである。 ……可愛いのに! 「仕方ないよね? ……よね?」 「まあ仕方ないねっていうかジャストアタックー!?」 「直人ー!?」 可愛いのに強い。 しかもどう判定されたのか、ジャストアタックのクレセントファングが直人を追い詰める! 彼は、もう……いや、まだ動けるが結構ギリギリだ。 ――だが。 「これで、大丈夫……です。黒瀬先輩?」 それさえも、戦闘終結の引き伸ばしでしかなかった。 仮にも一級の能力者たちが、敵の特殊攻撃を想定しないワケが無い。 すぐに異変を察知した香夜が赦しの舞を行使し、朱夏を癒して事なきを得る。 回復に専念する彼は、確かな戦線の要だった。 「うっ、わたし、やっちゃった? ごめんごめんごめん!」 「なに、問題は無いぞ。特に何も起こらなかったからな」 「まあ、誰も困ってはいないな」 「まあ、訂正も面倒ね……」 「アルー!?」 「ふ、ふふ……良いんだ瞬成君。あんなこと言って、皆俺が大好きなんだから……」 特に問題は無い……らしい! 少なくとも、多数決を取れば問題なしの判定が下りそうだった! 誤解のないように言っておくと、ちゃんと戦況を計算した上でみんな言っています!
――そして。
「終わりに、しましょう……これで!」 終止符を打つための攻撃は深緋の号令から始まる。 「――こそこそと厄介な奴だったが、な。終わりだ」 「――合わせるわ……当たり難い的じゃないものね!」 「――この戦い、ボク達の勝ちネ!」 「――タワシすら貰えない俺の雄姿を見ろ!」 「見事な技前、この伊集院感服した……出来れば貴様が生きている間に、その技見たかったぞ」 刹那が。 類が。 瞬成が。 直人が。 帝が、続く。 響く快音は―――二連や三連では無い。 黒影剣やフレイムキャノン、獣撃拳や龍尾脚の入り混じる、見事な連携だ。 「「果てろ……!」」 『フ……』 マスターは、もう抵抗する術を持たなかった。 全てを食らい、そして静かに笑い……。 『……もう、否、漸く店仕舞いか……』 頭を下げ、消えた。 「……強敵だったよ、本当にね」 応じる椋は微笑に心情を乗せ、小さく呟く。 それが、物語の終わり。 次の瞬間には―――市之瀬のメンバーたちの視線を、眩い光が覆っていた。
●終わりのあと、日常で 「……なんとか、帰って来られたみたいだネ」 光の後。 市之瀬の部室に無事帰還したのを確認して、瞬成が一息。 そう、自分達は任務を終えたのだ――。 だが。 「うん、終わった終わった! 俺達は最強だね!」 「そうかそうか……まあソレはさておき直人、今回の件で少し話がある」 「え」 「なぁに、心配するな……すぐに終わる」 「いやそのなにかな予想できるけどやめて」 「煩い黙れ来い」 直人の告発式が終わっていなかった。 にっこりと微笑む刹那に、直人がずるずる引き摺られ……。 「このダーツボードを買ったのは運命なんスって! 世界結界に導かれて。うん、世界結界なら仕方ないな! や、安かったんだ……店の人も教えてくれなかった! 誰も教えてくれなかったんだ! 俺は悪くない! 間違ってるのは世界の方だー!」 「言いたいことはそれだけか?」 「あー!?」
――速やかに終了する!
「確かに……ちょっと、妖しいダーツボード、だったけど……折角の、今市くんの……好意、残念……でした、ね」 そして、しゅんとする香夜が良い人過ぎるぞー! なんというか、非常にバランスの取れた結社である。 「まあ……これで一般の人が被害に遭う事は、もう無いのだものね。良しとしましょう」 「……うう、話が纏まったみたいで何よりです」 嘆息する類の台詞に、よろよろと戻ってきた直人が頷く。 確かにそうだ。 これで、また一つ――人を襲う理不尽が消えた。 きっとソレは、良い事なのだろう。 ……そして、やがて。 「あ、あの、もしよろしかったら、うちのダーツバーに、遊びに来ませんか……?」 「ほう、ソレは良いな……賛成だ。ふふ、今度こそ私が首位を取るぞ!」 深緋の提案に、皆の顔が綻んだ。 上機嫌で帝が肯定すれば、他の皆も、笑いながら意気込みを語り出す。 「ボクも……良いのかイ?」 「勿論です。ボードも回りませんし、タワシも車も出ませんけど……」 瞬成も、同行を許されて嬉しそうに笑う。 ああ。 これも一つの、幸いだろう――。 「深緋ちゃんの家でダーツか……」 感慨深げに呟くのは、直人で。 「いいね、それはいい――なら歯ブラシとパジャマと下着の替えを用意していこう。そうだそれがいい」 「いまいちくん、舛花さんにふらちなことをしようとしたら蹴るっすよ?」 「あはは、まさかそんな……ね? 今市くんはなんもやらかさないよね?」 「ははははは当然ですよ。さあ皆、夕日に向かってダッシュだ!」 「「……」」 にっこりと。 釘を刺し、効果を上げるのは朱夏と椋である。 笑顔で走り去る直人を横目に、まあそれはそれとして、ダーツが楽しみな二人なのだ。 「……行きますか」 「……ああ」 そうして、場所を移して、市之瀬のダーツ大会は始まった。 そこでは直人がまたトラブルを起こして怒られたり、初心者の面々が著しい成長を見せたり、上級者の面々が白熱した首位争いをしたりしたのだが――それはまた、別のお話。
ただ一つ、言えるのは。 彼等が今日もまた、貴重な、ありがたい想い出を作れたと、いうことだろう――。
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参加者:8人
作成日:2009/10/13
得票数:楽しい7
笑える11
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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