中川昭一  Shoichi Nakagawa

衆議院議員 中川昭一 公式サイト

その他講演録・文書等
2008.07.31

早大政友会での講演録(6月18日)

<第1部>

 アメリカのある心理学者の研究によりますと、人の講演をこうやって30分以上聞いたときにですね、後になって残っている印象というのは最初に出てきて一言をしゃべるまでの間の数秒あるいは1,2分の印象が約半分だそうでございます。それから、しゃべっている間に30分も経ちますとだいたい飽きてきますから、ぼーっとしてきてですね、あそこでつっかえたとか、また突然身振り手振りをやったとかですね、あるいは失言をしたとか、そういうことが後になって記憶に残っていると、これがだいたい30%だそうであります。
 話の中身、つまり私が話したいことを、賛成・反対は別にして、記憶として残っている方は20%にも過ぎないというのが研究結果に出ておりますけれども、今回は、一体中川というのはどういうやつかなと、日頃テレビで発言したり新聞で発言したりしているのを見てると、とんでもないやつかも知れないと思ったり、いろんな意味で来てくださったみなさまでございますので、私もですね、日頃思っていることを10代、20代の若い皆さまに、未来に向かっての皆様方に私からお訴えをして、また後でご意見をいただきたいと思います。

確かに今の政治、特に国政に対して国民は非常に不満と不安、そして無関心の人も非常に多いのだろうと思います。例えばよく新聞・テレビで自民党の支持率何%、民主党の支持率何%と出ますけれども、あれを足しても50%にならない、つまり他の政党を支持する人もいらっしゃいますけれども、次の政権政党がどちらになっても、半分以上の人がどっちでも良いやと思っているというのがこの調査結果から読み取れるわけであります。そういう意味で、個々の問題については後で質問が来ると思いますから、個々の現在の政策課題につきましてはいちいち触れませんけれども、しかし私は逆に、このいわゆるマス・メディア、新聞・テレビなどのマス・メディアの世界と、ここ1,2年、ずいぶん、ある意味では別の意味で、国民の皆さん、とりわけ若い人たちが政治に対して関心、あるいは不満をお持ちになっている度合いが高くなっているというふうに感じております。それはまさにインターネットを通じた直接的な国民同士のやりとり、あるいは私の所に直接来るメール等々でございます。現在、私が取り組んでいる物事のいくつかについて、何かこういう事が起こったとか、あるいは中川がこういう発言をしたとかこういう行動をしたと言うことになりますとすぐに、20通、30通のメールが全国、世界から、しかもたぶん若い人が圧倒的に多いのだろうと思います。

 そういう意味で、今までとは違う意味で特に今日お集まりいただいている皆様方を核としてですね、政治に対する怒りと同時にこのままでは日本がおかしくなってしまうという危機感、あるいはその時自分がどうしたらいいのだろうかということも含めて、政治に対する関心が別の意味で私は非常に高まっているというふうに思います。歴史的に見ましても日本でもいわゆる60年安保、70年安保というものが、ある意味では社会的に大きな動きになりました。あるいはまた、これは真の意味の学生の自治かどうか分かりませんけれども、60年代のお隣の中国では紅衛兵という非常に若い人たちが、一つの中華人民共和国の政治の流れに一時期なったわけです。あれに対する反省は今中国の国内でもあるわけでありますけれども、そういう経験を中国でもいたしました。あるいはまた1960年代半ばのド・ゴール大統領の末期の時に学生達が大反乱を起こしまして、いわゆるカルチェルタンというパリのど真ん中を、学生達が一時期占拠をして当時の政府に対してかなり激しい抵抗をした、あれがド・ゴール退陣につながっていったわけでございます。最近では2003年のこの前の韓国の大統領、今回新しくイ・ミョンバクさんという方が大統領になられましたけれども、その前のノムヒョンさんという大統領が、まぁ我々プロから見ますと土壇場で逆転して大統領になったなぁとかなり衝撃的だったのでありますけれども、あのノムヒョン大統領を生んだのは386世代と言われております若い世代のネットの世代が一斉に立ち上がって盧武鉉さんを支持をした。まぁその後の盧武鉉大統領のやった事というのは我々外から見てもまた国内的にもかなり支持を失ったわけではありますけれども、とにかく民主国家に於いて、たぶん若い世代ネット世代が自分たちの政治的指導者を作ったという意味ではこれは歴史上初めての事だったのではないかと思います。
そして現在アメリカでは大統領選挙が行われております。共和党の方はマケインさんという方が候補者として決まっておりますけれども、民主党はつい最近までご承知の通りバラク・オバマという人とヒラリー・クリントンという人が最後の最後まで戦い続けて、そしてオバマさんが候補者になったわけでありますけれども、オバマさんの原動力というのはやはり若いネット世代であります。特にヒラリー・クリントンさんは大統領夫人としても大活躍でありましたし、ニューヨーク州選出の上院議員としても活躍をされておりましたから文字通り人脈も金脈も知名度も遙かに上だったわけでありますけれども、バラク・オバマさんはネットを通じて1ドル献金というのを全国の国民にお願いをして、片方は10万ドル、20万ドル単位のお金集めをしたのでありますけれども、この1ドル単位のお金の方が実は10万ドル単位のお金よりも結果的に多く集まった。これは1ドル払う人も1票、10万ドル払う人も1票でありますから、数からいったらどちらが多いのかと、金額的に1ドル献金の方が多かったということは、結局お金を出して支持している人の数というのははるかにオバマさんの方が多かったのだと思います。ただし、あの予備選の得票数だけを見るとクリントンさんの方が多かったようでありますけれども、しかしそのネットを通じた1ドル献金という形でいうとオバマさんの方が非常に強かったということであります。

 そして日本に置きましてもまさに、先程私が申し上げましたように新聞ニュースでは報道されないけれどもネットで知ったけれどもこんなことはけしからんとかですね、あるいはあの時おまえはこんな事を言っているけれどもそれはけしからんとかあるいは支持するということは新聞に出ていないような、あるいは新聞が報道しない、ニュースとして重要性があるかどうか分からないけれどもひょっとしたら意図的に報道していないのかも知れませんけれども、報道されていない、知らされていないことについて私の所に毎日多くのご意見をいただいているわけであります。まぁそういう意味で、今我々非常に厳しいご批判をいただいておりますけれども、それを謙虚に受け止めながら、私は新聞・テレビを通じての声も国民の声でありますけれども、それよりもネットを見ている人のうちの少なくとも何%の人が私の所にメールを送ってくれる、その人の声というのは私は真に重たいと思って日々活動しているわけであります。

 早稲田と言いますと大隈重信候の創設と言うことで、まさに日本の明治以来の指導者であります大隈首相、そしてまた早稲田出身の首相と言えば戦後復興期順調に復興してきた日本が初めてリセッション、経済不景気、低迷を迎えたときの首相が石橋湛山さんでありました。大変なご苦労をされたある意味戦後最初の首相であったわけであります。今から10年前は小渕恵三首相でございました。このときはバブルが崩壊して約10年、もがいてもがいてもがいて最後に、バブル崩壊のツケを精算したのが小渕さんでありました。しかし過労がたたってああいう形になられたわけでございます。そして現在の福田康夫首相も皆さんの先輩であります。この方もある意味では小泉改革が言い意味でも悪い意味でもぶわぁーとやったのをですね、後始末をやらなければならない。また、日本経済が低迷、あるいはもっと悪くなるかも知れない、そして後でお話ししますけれども世界同時不況、あるいはひょっとしたら世界恐慌が来るかも知れないという瀬戸際の中での舵取りであり、大変おしかりをいただいておりますけれども年金の問題、福祉の問題などにつきましても、これは少なくとも改革をしなくては崩壊してしまうと言うぎりぎりの状況におきまして現在懸命に努力をされている。何かさすが早稲田精神と言いましょうか、天はその時にふさわしい人を配材すると良く言いますけれども、厳しいときにそれに巡り会って、本当に苦しみながら首相としての大任を果たしていらっしゃる。早稲田出身の皆さん方の先輩方が歴史のおりおりで頑張っている。これが政界においても大変な力になっているわけであります。
 小渕内閣の時に私は初めて44歳で農林水産大臣として閣内に居りましたので、その時の小渕内閣の閣僚の一人として身近でいろんな仕事をさせていただきましたけれども、本当に経済的にも苦しかった。私は農林水産大臣として、戦後初の日韓漁業協定の改定という大仕事もやりましたし、新しい農業の基本法というのも作りましたけれども、小渕さんからはポイントだけ指示されて後はおまえの好きなようにやれということで思う存分仕事をさせていただきました。

 さて、皆様方は自分にご関心が当然あります。国に対してもあるということが今、事前のご案内で改めて知りました。世界に対してもあるでありましょう。そして将来に対してもあるでありましょう。そして過去に対してもあると思います。したがいまして皆様方は文字通り一生懸命毎日早稲田の大学生として勉強されておられるわけでありますけれども、現在の今の状況のポイントについてですね、ちょっとまず簡単にご説明をさせていただきたいと思いますので、今日私は急遽資料を作って、皆様方のお手元にお届けをしたところでございます。
 1ページ目に世界の実質GDP成長率というのがございます。この黒線が、世界であります。世界はですね、だいたい21世紀にはいってから3%から5%の成長をしているわけでございます。安定的に成長しております。この牽引者は言うまでもなくBRICs、とりわけ中国、インド、それからアフリカの国々も結構、3%、5%くらいの成長をしておりまして、ある意味ではアメリカも景気がよかった、ヨーロッパも引き続き現在でも堅調である、ということで世界全体が非常によかったわけであります。まぁ、飛び抜けているのがこの一番上の中国ということでありまして、日本の方は一番下の赤い線と、こういうことに、失礼、一番下から上の青い太い線ということであります。で、去年の8月以降、急速にみんな下がって参りました。これはなにが原因かというとサブプライムローン問題であります。あとで少しお話をさせていただきます。
 
次のページでありますけれども、インフレという問題があります。インフレ、物価上昇、これは困ったことだということでありますけれども、しかし、このインフレというのも、ほどほどだったらば、まぁ仕方がないなということでございます。問題はデフレであります。デフレというものはですね、実は日本は戦後経験したことがない。そして経済的に言えば、悪性デフレを解消するのは戦争しかなかった。歴史的には、もう悪性デフレをやめるために、わざわざ指導者は戦争までしたということが歴史的にあります。もちろん今世界で、あるいは日本で、デフレ解消のためにどっかひとつ、戦争でもして製造業を伸ばすかとか、雇用を増やすかとかそんなバカなことを考える人は誰もいないわけですから、これは普通の政策のなかからやっていかざるを得ませんけど、あらゆる政策を投入して、その結果が一番下にあります赤のこの線、0を中心に行ったり来たりということであります。これは、いわゆるコア物価と言って、食糧・エネルギーの物価を除きますと、少し上がるわけでありますけれども、それでも、総合的に見て、日本もずっと去年の9月くらいまでほとんど0以下であったわけであります。これがいわゆるデフレという状態にほぼ同義語だと思っております。ところが、去年の8月以降、急に上がって参りました。これはさっき言ったようにサブプライムローン問題の影響であります。で、サブプライムローン問題の影響とはどういうことかと言うと、後でデータが出てきますけれども、つまりサブプライムにいっていた、余っていたお金がいよいよサブプライムというわけのわからない証券じゃこれは大変なことになるぞということで、お金をいっせいに引き上げてそして石油とかコモディティ、あるいは農産物の投機に走ったから、だから石油や食料品の値段が必要以上にまたぐんっと上がった結果がこの8月以降の上昇を意味しているわけであります。

 で、今はアメリカが非常に心配であります。6月末の中間決算、次々と証券会社のアメリカの決算が出ておりまして依然としてよくない。そして6月末にはアメリカの金融機関、銀行のですね、決算が一斉に決まりまして7月の初め、ちょうどサミットの頃に、アメリカの銀行の6月中間決算が発表されます。あまりいい数字が出るはずがないと私は思っておりますが、アジアの実質GDP、世界を引っ張ってきたBRICsをはじめ、その中心は中国、インド、そしてまた、よくネクスト11とか言いますけれども、ベトナムとかインドネシアとか、こういったASEANの国々も非常によかったわけではありますけれども、まぁこの黒い、圧倒的に下にいるのが残念ながらわが日本であるわけでありますが、ところが、ここにきてですね、下がっている国が顕著なのが、ブルーの線のベトナム、それからちょっと下の緑の線のフィリピン、これが非常に今経済が非常に悪くなっております。

 次のページをご覧いただきたいと思います。これはインフレ率の表でありますけれども、ベトナムが、飛び抜けて実はインフレが高いんです。なぜ高いのかと、ベトナムは経済発展をしている、あるいは、資源、石油も出る。食糧、米なんかはタイに続いて世界第二位の輸出国でありますけれども、どうしてそれにもかかわらず、こんなに物価が上昇しているのか、言うまでもなく、これは輸入が多い、あるいはまた、人口の増加に比して、あるいは経済の成長に比して物が足りないから物価が上がっていく。これで、ベトナムだけが極端に上がっております。
 次のページにですね、アジア諸国の、実質金利、つまり政策金利、一般的な政策金利、例えば日本で言うと今は公定歩合0.5%、アメリカ2%、EU4%ですけれども、こういった政策金利からインフレ率を引いた数字でありますが、ベトナムは、この結果が、マイナス11%を超えている。政策金利が14%なのに、それからインフレ率を引くと、マイナス11%という極端に悪い数字であります。何でベトナムだけが、という理由がいま一つ昨日いろんなエコノミスト専門家に聞いたのですが、今言った理由だけではこれだけベトナムだけが極端に下がるという理由がいま一つわかりません。
 
次のページ、ご覧ください。それを総合的に表しているのが、株価であります。当然のことながら、一番ぐんっと下に下がっているのがベトナムであります。基準値に対して60%株価が下がっております。つまり、全体として下がっております、これはまぁさっき言ったようにサブプライムローン問題に端を発するアメリカ発の金融の問題、それと連動してのコモディティ、あるいは食料品、原油等の価格の上昇と、ということでございます。
 アメリカ、そしてまたアメリカと密接な関係のあるヨーロッパ、日本、これがある程度連動するのは今までと同じでありますけれども、なんと、お聞きになったことがあるでしょうか、デカップリング論というのがあって、今回の金融不況というのは、アメリカだけの問題であって他のところは関係ないんだ、つまり切り離されているんだ、デカップルだ、という議論がありましたけれども、決してデカップルではない、やっぱり石油は世界中を回るし、農産物も世界中を回りますし、ましてお金は一瞬のうちに世界を駆け巡るわけでありますから、デカップルなんていうことは、今の時代にありえないわけですが、まさに今、この瞬間、一番先に万が一何かが起こるとすれば、東南アジアの、そしてベトナムである。これは十年前のアジア通貨危機の再来になるかもしれないという危惧を我々は徐々に持ち始めております。
 
次のべージが、石油の値段、100年間に渡って、140年間に渡っての数字であります。石油がはじめて19世紀の終わりに、あの、ご存じロックフェラーによって、まぁ実用化された後の石油の値段でありますけれども、とっくにもう今は140ドル近くになってしまってこの線から飛び出しているわけであります。石油が上がっている値段、ちょうど私は3年前経済産業大臣をやっている時に30ドルくらいから徐々に値上がり始めました。上がった原因は、これは、一つはインド、中国の経済発展の実需である、あるいは産油国、とりわけ中東、アフリカ等が、いわゆる地政学的リスクで生産も、輸送も不安定だということもあります。そして、アメリカの製油所の体制が老朽化しているというような問題もございますけれども、投機がいまや一番大きな原因になってきているわけであります。その証拠に、一番手前の97年のアジア通貨危機の時に、ポンっと下がってそしてまたぐーんとここ2,3年で上がってきているということでございます。私がちょっと手書きで書いた表で1930年代、大恐慌で1バレル、1バレルというのは3.8リットルくらいでありますけれども、3.8リットル、10セントに暴落した。だいたい4分の1になったわけでございますけれども、こういったことを経験しながらそれにしてもちょっと異常だよねと、いくら経済が発展して石油の需要が増えても、この上がり方は異常だよねというのが、当然の認識であります。例えば140ドルのうち実需どのくらいか、これはよくわかりませんけれどもだいたいいろんな人に聞くと60ドル、高くても80ドル、この前のG 7でアメリカは80ドルと言いました。ですから、やっぱり倍ぐらいは、投機のお金がある、つまり世界中でお金が余っているんです。銀行から借りて投機や投資に回す人もおりますけれども、実は今、世界にお金がとっても余っている状態であります。
 次のページにはこの食料品と原油が与える影響ということで、悪化するところが一番ひどいのが真っ赤っか、次がピンク、日本も含めてピンクであります。そして、比較的いいのが薄いブルーで、かなりもう問題ないのが濃いブルーということでありますけれども、これを見ますと、資源大国農業大国のアメリカもフランスも、実はこれピンク状態なんですね。中国、インドはもとよりであります。こういった食料品、原油の値段というものが高くなればなるほど儲かるのが、売る側と投機で儲けた人であります。みなさん、大貧民ゲームってご存知ですか、トランプの。僕は学生の頃よくやっていたんですけども、トランプなんですけども、大富豪がいて富豪がいて、一番下に大貧民がいて、その一つ上に貧民がいて、その残りは全部平民というちょっとこの時代になんか似ている。あまり使っていい言葉かどうかわかりませんが。トランプの大貧民ゲームというのがあって、大貧民になったひとは大富豪に常に一番いいカードを渡さなければいけないというゲームなんです。で、貧民は富豪に自分の一番いいカードを渡さなければならない。だから大富豪はだいたいいつも大富豪なんですけども、ときどきアクシデントが起こるんです。向こうの大富豪の判断ミスみたいなことがあって、それである日順番が突然、私も昔経験がありますけれども、大富豪だったのが大貧民になっちゃったり、大貧民が大富豪になったりするトランプゲーム、今もなんかときどき結構流行っているようですが、今世界は大貧民ゲーム状態なんですね。つまり大富豪である中東、あるいはまたロシア、資源はあまりないけれども、お金持という意味で言えば中国、といったところがますます儲かって、まぁ日本はさすがに大貧民ではありません。せいぜい平民か貧民ぐらいかもしれませんけれども、大貧民というのはアフリカの国々、あるいは中東を除いたインドを除いたアジアの国々が先ほどのデータのように、まっ先にそして一番強く影響を受けている。まぁトランプにたとえるならば、大貧民という状態、しかもこの状態はしばらく続いていくのだろうと思います。要はですね、歴史は繰り返すということを言っても過言でないのだろうと思います。今から二百年前、イギリスが工業国家として文字通り、ナポレオンがその頃は暴れていたというかヨーロッパの名手であったわけでありますけれども、イギリスはじーっと我慢をしてですね、地道に工業化政策に入って参りました。その時に、イギリスは国土狭いんだし、植民地もこれからどんどん増えていくから農産物なんていう効率性の悪い収益性の悪いものはどんどんもう外国から安く買ったらいいじゃないかと言ったのが、リカードというイギリスの経済学者であります。他方、同じくイギリスの経済学者のマルサスという人は、人口論から入っていって、いやいやその経済はですね10%20%の成長をすることはあっても、人口というのは幾何級数的に増えていくのだから、しかも今的に言えば豊かになれば中国のように穀物ばかり食べていた人々が鶏肉を食べ、豚肉を食べ、牛肉を食べるようになれば、穀物もどんどん足りなくなっていって、それでは国が成り立たないと言って大論争になったんですけれども、結局イギリスは経済の発展とともに移民も含めて人口が増えて、食料が足りなくなってしまった。で、アイルランドに一生懸命じゃがいもを作らせたんですけども、あるときアイルランドでじゃがいも大飢饉というのがでて、アイルランドの国民の三分の一が飢餓で亡くなったり、あるいは本当に命からがらアメリカに行って、アメリカ合衆国の建国のコアになっていったわけであります。つまり食料と工業、あるいは最近で言えば金融とITというのは常にトレードオフ、対立関係のようにしてはいけないんだけれどもなってしまっているということを、我々は何回も繰り返しているわけであります。サブプライムローンもそうであります。ぜひ一度みなさん研究してみてください。このサブプライムローン問題とアメリカの一番つらい思い出である大恐慌とではきわめて状況がよく似ております。もっと言えば今から二十数年前のブラックマンデーという、アメリカの株価が三分の一にある日突然、一日か二日で暴落したという、ブラックマンデーというのがレーガン時代にありましたけれども、その時と非常によく似ているんです。つまり、物価は上がっている、しかしその物価というのはいわゆるディマンドプル、需要が多くて値段が吊り上っているんじゃなくて、需要はあまりないんだけれども原料とか食糧とかエネルギーの方がどんどんさっき言った要因で上がっているから、もう必要最小限しかいらないんだけれども、それでも値段がぼんっと上がっちゃってるよね、コストアップ、これがインフレの今回の原因であり、経済がどんどん悪くなっているにもかかわらず、価格が上がっていき、インフレがより強くなっていくということであります。これはちょうど今から21年前の1987年のブラックマンデーでありました。その時はですね、実はドイツも日本もイギリスもアメリカも同時に利上げをしたんです。ドイツは非常に堅調だった。しかし、それでも上げた。アメリカはあまり堅調じゃない、ふらふら状態だったんですけれども、やっぱりコストアップインフレの恐れで金利を少し上げざるを得なかった。日本はまぁバブルの絶頂期でしたから87年はまだ、絶頂期の最後の状況でしたから、まだ体力があった。だから日本とヨーロッパはそんなに影響を受けなかったんですけれども、アメリカはいわゆるブラックマンデー状態になった。今回は、やっぱりヨーロッパはまだ調子がいいんです。サブプライムで困っている銀行もいくつかありますけれども、しかし経済は堅調。アメリカは非常に今どんどん急速に悪くなっている。日本は依然として底を這いつくばっている経済状況ですから、その中でいくらインフレと言ってもですね、金利を上げるというのはヨーロッパにとってはリーズナブルでありますけれども、果たしてアメリカ、日本にとっては下手をするとブラックマンデー、ひょっとしたら大恐慌になるかも知れないという問題をはらんでいるということを、ぜひ皆さん方、毎日の新聞を見て決めていただきたいと思います。
 
今、日本、世界の経済は3つのF、Food,Fuel,Financeという、食糧、燃料、金融という3つのFで悩まされているわけであります。アメリカの金融あるいは経済はますます悪くなっていくでしょう。そうすると、日本も当然影響を受けるでしょう。ですから日本は何をやったらいいのかということで、今2011年に向かって財政再建の方式を与謝野方式、中川秀直方式いろいろ言っておりますけれども、それは構造改革という抜本的な中長期的な改革でありますけども、私はそれをやる前に緊急に日本を元気にする必要がまずあるのではないか、いうのが、私の基本的な考え方であります。元気にならないうちに、肺炎の状態で体力が衰弱している状態で、それでも若干体重が多いから、お前ちょっと水泳で1キロ泳いでこいとかですね、ジムで自転車1時間漕いでこいと言っても、これは漕げません。仮に漕げたとしても、その時にはますます体力衰弱状態が悪化している状態になりかねないわけであります。私は、構造改革、その特に少子高齢の中での福祉の維持のために、思い切った改革が必要だと思います。しかしそれを、やれ増税するのしないのとか、歳出をもっと絞らなければならないのといった、形だけで今の日本経済を元気にしないまま、片っぽをぎゅっと締めるか、あるいは税金をもっと上げるかみたいな、議論だけでは、私はお一人お一人、あるいは国家全体が元気にならない、文字通り委縮をしていく、あるいはまた、それになれきって、もう失望感のまま、特にみなさん方これから何十年も夢と、そしてまた努力でやっていこうという人たちが、世の中が全く閉塞状態、しかもそれになれきっているという状態には、私はしたくないという風に思うわけであります。従いまして私はですね、この際、極端に言えば何でもありの緊急経済対策を取るべきだと考えております。減税も必要でしょう。本当に学生さんが一生懸命勉強する、その時には学資減税なんて今思いつきで早稲田に来ているから言っているわけでありますけれども、例えば母子家庭減税であるとか、あるいはまた、企業で言えば、その前に相続税の減税であるとか、あるいは、百万円の定期預金を仮に持っていても今は一年たっても3000円の利息にしかなりません。それだったら、金利を上げるわけにはいきませんから、一部分それを証券の方に回せる、回すようにする、もちろんリスクは伴いますけれども、リターンもあるわけで、博打さえ打たなければ利回りは0.3%よりははるかによく、比較的安全な商品もいっぱいあるわけであります。それを誘導するために、証券優遇税制、キャピタルゲイン、あるいは配当等の免税をするとか、あるいは皆さん方、一人でも企業を起こすことができますから、ベンチャー企業を起こすことはできますから、そういった企業に対しての人材育成、あるいはまた投資減税というものを思い切ってさらにやっていくとか、あるいは早稲田大学の優秀な学生たちにちょっと寄付をしてやろうと言った時の、その寄付金に対しての控除であるとか、あるいは今一部の輸出企業が日本の経済を引っ張っておりますけれども、収益を上げても、日本に持ってきても、税金を取られるだけとか、回す先がないとか言って、もう海外の現地法人にお金を置きっぱなしになっている状態、これをなんとか日本に戻してきて、そして、地方に私の北海道とか、九州とかそういうところで新たな投資をする時には、そういった投資に対しては税の軽減、減免措置を取るとか、こういったようなですね、思い切った対策が必要です。さらには、やはり日本が当たり前のように思っている。100ボルトというのは日本と北朝鮮だけなんですね。電圧が100ボルトというのは。電力というのはご承知の通り、電圧×電流ですから、電圧を倍にすれば単純に言えば電流は半分で済むわけですけれども、今どき世界で電圧が100ボルトなんて言うのは、先進国では日本だけ。これをせめて120ボルトとか200ボルトにするぐらいのですね、思い切ったインフラ投資をする。あるいはまた、時間があれば水の話をしたかったんですが、北極海の氷が解けると世界の安全保障と物流の流れが根本的に変わります。ヨーロッパと日本の間を往来するのが危ない中東とか、狭いスエズ運河とか、南周りで行くよりはるかに安全な、短い3分の1の航路で北極海を通って物流が劇的に変わります。もちろん安全保障の面でも大きく変わると思いますけれども、そういった劇的な変化をいい意味で人為的に誘発していくというのが大事だろうと思っております。思い切った改革が、ある意味では何でもありの日本を元気にするための政策というものが今こそ必要だと思います。時間が参りましたので、結論的に言えば、どうぞ皆さん方、学んでください。学んでくださいというのは、もちろん大学の授業、ゼミ、サークルその他もあるでしょう。しかしそれだけではなくて、例えば本、あるいはまたこれはと思った人に飛び込んでいっても、お会いをして話を聞く、これはやっぱり違います。早稲田の先生方には立派な方がたくさんいらっしいますし、それ以外にもですね、新聞・テレビで見た人でもこの人はおもしろいなと思えば飛び込んでいってですね、ぜひ話を1時間でも30分でも聞かせてもらう、こういう私はある意味ではみなさんのエネルギーを期待したいし、きっと多くの人たちはそれを受け入れてくれると思います。あるいはまた、エデュケーションという、皆さん方はまだエデュケーションを受けている立場ですけれども、エデュケーション、エデュケートというのはそもそもは人の能力を引き出すという意味であって教えるという意味ではないので、みなさん方の能力をプロたちが引き出してくれるという、つまり皆さん方も引き出される準備をしておかなければならない。つまり自分の中にパワーを溜めておかなければならない。自分の中に確信するものを持って、そして何らかの、いろんなノウハウでもスポーツでも何でもいいんですけども、蓄えておいて、それをさらにこの高等教育で引き出してもらうという、そのマッチング、これをぜひ大切にしていただきたいと思います。従ってチャレンジ、チェンジ、ときどき気分転換をする。チャレンジ、チェンジがあればチャンスができるという。3つのチャンネル、3チャンネル、chですね。チャレンジ、チャンス、そしてチェンジと。どうぞ皆さん方、若いんですから特に情熱に期待したいと思います。情熱に期待して、そして行動を起こす、アクションを起こす、それもスピード感を持って起こす。そうすれば必ず成功します。パッション、アクション、そしてスピード=サクセス。これもpass、パスですね。これさえできれば大学の授業はもとより、人生においてもパスすることを確信して私の話を終わります。ありがとうございました。


<第二部>
小林:では始めに、文化構想学部2年小林豊明が食糧問題、特に酪農に関する問題について質問させていただきます。昨今、新聞やニュースで騒がれていますように、先ほどの先生のお話にもあったんですけれども、大変食糧価格というのは高騰しています。その中でも、特に乳製品の価格高騰は著しいと思います。この前なんですけれども、私がスーパーに行きますと、チーズの値段が10円ほど値上がりしていました。このような乳製品価格の高騰の背景には国際的な乳製品価格の高騰、そして家畜の餌の価格の高騰というのがありまして、酪農家の人にはとても厳しい状態だと思います。こういった現状を踏まえると、酪農家の人としては、生産コストの上昇を価格に転嫁しないと生計を立てるのが難しいと言えると思います。しかし、私たち消費者としても、これ以上乳製品の価格が上がると家計に響きます。こういった酪農家と消費者の相反する要望の中で、日本の農政が取れる道というのは二択であると私は思います。ひとつは乳製品の生産コストの上昇分を価格に転嫁させます。そしてもう一つというのが、乳製品の輸入をさらに拡大しまして、少しでも安い乳製品を販売することで、値段を抑えることです。この二択を踏まえまして、中川先生は日本の農政について今後どのようにあるべきかとお考えでしょうか。

中川先生:皆さん方も、スーパーに行ったりするとチーズ、バター、あるいはそれ以外のパンとか、麺類とかみんな上がっているわけで、今のご質問は特に乳製品ということですが、乳製品というのは、普通の牛乳、飲む牛乳は自給100%ですけれども、ヨーグルト、あるいはチーズ、バター、その他の乳製品は国産と、輸入とあるわけです。基本的には、国際価格が上がって輸入コストが上がったり、あるいは餌コストが上がったり、あるいは船賃コストが上がったりと、コストが上がればこれは農業者も、あるいは乳業メーカーも当然そのコストに乗っけて、それを売って、皆さん方もそれをリーズナブルだという、例えば便乗値上げだというのがなければ、仕方ないなと言って買っていただくというのがあるべき姿だと思います。しかし、さっき時間がなかったので、何でも対策やりますよと言ったのは、元気にしましょうよと言ったのは、結論的に言いますと、皆さんの収入・所得を増やしたいというのが目的で申し上げたわけであります。残念ながら皆さん方の所得も横ばい、場合によっては減っている人も大勢いらっしゃるわけですから、そういうなかで生活必需品である食料品が上がるということは、これは収入が上がっていないのに高いものを買うというのは非常に厳しいということは我々もわかっています。だから収入を増やすためにさっき言ったように、需要、景気を刺激して、中途半端になりましたけれども、申し上げたかったわけであります。それは若干時間がかかる話でありますから、今は、ご指摘があったように、いわゆる牛乳、あるいは指定乳製品について、国がかなりの部分関与しております。餌価格も非常に上がっております。従って今年の2月とつい今月の十日くらい前に、餌価格の高騰を前提として、農家対策をやりました。ですから、その意味ではある意味農家の皆さんは上昇分を吸収できると思っております。問題は量の問題なんですけれども、一つは、牛というのはご承知の通り、受精してから赤ちゃんが生まれるまで約10か月かかって、それからお乳が出るわけですけれども、つまり、短期的に、蛇口をひねるようにいかない。牛乳の調節というのはどうしても一年近い、そのあとまた一年近く休ませますから、タイムラグがあるんですね。どうもそこは残念ながら我々の責任なんですけれども、その需給の見通しと、実際の需要と供給のバランスがなかなかうまくいかないことがときどきあります。今回はそれが原因の一つだったと思います。もう一つは、日本はオーストラリアから乳製品を大量に輸入していますけれども、さっきの図でオーストラリアは薄ブルーになっておりましたけれども、本来オーストラリアはつい4,5年前までは濃いブルーの国だったんです。世界的に濃いブルーの国だったんです。ところが水不足でもって、牧草もできない、それから畑もとれない、例えばオーストラリアは3年前米を150万トン作っておりましたけれども、去年は2万トンしかとれなくなってしまった、水がないことによって。当然牛の餌もどんどん少なくなっていて、オーストラリアから今入ってきているチーズとか、乳製品が、がたっと減ってしまっている。これも、供給側の問題になっているわけで、WTOの問題としては、我々はもうこれ以上自給率は下げられないと言いながら、他方、説明しませんでしたけれども、ここにはいろんな輸入制限、輸出制限ですね。昔は輸入制限を一生懸命やろうと思ったんですけども今は輸出制限をやっていることをけしからんということを今、輸入国側は言っているわけでありまして、文字通りこの食べ物、水というのは生き物ですから、非常に難しいんですけれども、こと乳製品に関しては、政府がある程度関与できますので、生産者が安易に価格を上げざるを得ない状況になって、消費者が困らないようにするということで、我々ここのところずっとその作業をやっているところです。

小林:ありがとうございました。

福本:では、次に政治経済学部2年の福本が質問させていただきます。僕が聞きたいのは、最近のマスコミ等で言われる、いわゆる政界再編といわれる問題ですが、マスコミ等で政界再編と言われるのですけれども、しかし、何もないところに政界再編と言ったところで国民は納得しないだろうと。そういう時にですね、出てきたいわゆる対立軸といわれるものが上げ潮派と財政再建派と言われるものです。中川さんの今のお話を聞いていると中川さん個人としては、構造改革の前に日本を元気にしなければならない、そのための対策として、各種の減税も必要だという、この対立軸とは一歩違うのかなと、僕的には感じたのですが、しかし、この対立軸を元に政界再編が起こりうるという見方が強いのですけれども、この見方に対して、中川先生はどのようにお考えなのかということを聞いてみたいと思います。

中川先生:多分この上げ潮派と財政改革派の議論というのは、小泉政権の時に日本は緩やかながら景気が七十何ヶ月も拡大しているとつい最近まで言っていた、それが前提の議論だと思います。私はそれ自体が実は実感として間違っている、私としてはそう感じてはいませんでした。さっき言ったように所得が伸びないとか、あるいは非正規の雇用が増えているとか、そういう状況の中でいくらのあの経済財政担当大臣が、いやもう景気は上向きだとか、拡大しているとか、戦後最高の景気拡大が続いているというのは、私ははっきり言って、私から言わせればうそっぱちだという風に思っていました。特に北海道ですし、地方から見ると決してそうではない、シャッター街が増え、あるいは地方の中心都市ですらどんどんどんどん企業が倒産しているという状況の中で、町のタクシーの運転手さんに聞いても、コンビニの店員さんに聞いても、絶対そういう実感がないんでしょうね。確かにマクロとしてはそうでしょう。でもそのマクロを引っ張っているのは自動車会社であったりですね、あるいはIT機器メーカーであったり、これはまさに日本の経済全体を引っ張っている。そこはまぁ当然引っ張ってもらわなきゃ困るんです。さっき言ったようにバブルの時に物価が上がっていなかったのは、お金がうまく吸収、循環していたんですね。うまくというというか、まぁ例えば何とかの絵を買ったとかですね、アメリカのゴルフ場買ったというのはいい悪いは別にしてですね、お金が過剰に出て行ったり、あるいはお金が過剰に少なくなったりしていなかったというのがポイントだと思います。ですから私はここ数年間景気が緩やかに拡大しているという前提そのものを認めておりません。そして今後ますます悪くなっていくと思っていますので、2011年がどうしたとか、2025年がどうしたなんて言うよりも、今日の、今年の皆さん方の賃金が去年よりも3%でも5%でも増える、実質手取りが増えるということが、私は最優先課題なので、もうそんな議論に私は参加する気もありませんし、これが政界再編であったとするならば、私はそんな政界再編には汲みしないで、別の対立軸を無理やり作ってでも、何か別のことをやりたいと思っております。国民はそんなにのんびりその2011年に向かって財政削減して、歳出削減して増税しましょう。私もたばこ吸いますけれども、1本千円だ五百円だという議論が、半分おもしろおかしくやっているほど僕は国民に余裕があるのかなあと。こんなことやっていたら本当に、60年代みたいになるぐらい。ある意味じゃ国民の皆さんもある意味じゃおとなしいんですよ。世界中で暴動起きているわけですから。資料にもある通りですね、ヨーロッパでもアメリカでも出始めましたし。私は今、皆さん方の所得が少しでも増えるようにして、物価が上がることは皆さん頭ではわかってくれているんです、石油の値段が便乗値上げではなくて、世界中で上がらざるを得ない状況に、さっき申し上げた理由でなっている。それを受け入れるだけの所得を伸ばすためにどうしたらいいかということが、それだけで私の頭の中はいっぱいですね。

福本:はい、ありがとうございます。もう一つお聞きしたいんですけれども、中川先生のおっしゃる所得を伸ばすということは本当に大切なことだと思います。しかしそれと同時にですね、やっぱり最近言われる医療・年金等社会保障のお金というのはどんどん必要になってくる、それを必要性を前にして、やっぱり増税という話も当然出てくると思うんですよ。増税を後伸ばし後伸ばしにしていくことは簡単ですけども、そうしていくとそれらのつけが我々若者に降りかかってくると。やっぱりやるならば早くに増税して早くから、社会保障なら社会保障の財源としてきちっとした対策を立てていかないとという考え方も僕は一理あると思うのですが、それについて中川先生はどのようにお考えですか。

中川先生:社会保障をきちっとやるにはあまりにも遅くて、それからあまりにも手直しというか、小手先でいろいろ変えてきちゃって、小さくなっているということで、それは理屈としては全くその通りだと思います。しかも来年からは、国民年金の負担料が三分の一から二分の一に上がるにあたって、国のお金も二兆三千億ですか、余計にやらなきゃいけないわけですから、一年か二年延ばすかということじゃなくて、これはやらなきゃいけないと思います。だからたばこだなんだという議論、あるいは消費税の議論が出てくるんだと思いますけども、財源はあるんです。今日時間がなかったんで言えなかったんだけども国債でもいいんですよさっき言ったように、お金を吸収するという意味では国債増やしていくしかない。国債増やせなんて言う国会議員は守旧派の典型なんて言われるかもしれないですけれども、アメリカの経済というのも、国債の増刷、あるいは財政出動しかないと、リチャード・クーという人も、必死になって訴えていますけれども、例えば国債じゃなくても、よく言われるのが、外為の準備金、約百兆円あります。これはもちろん百兆円まるまる使えません。政府からお金借りてますから。ただしそれでもって、最近はちょっと経済状況が変わってきたんで利回りが悪いんです、為替の関係もあって悪いんですが、去年、一昨年あたりは三兆円浮いているんです。三兆円のうち半分は、日銀が準備金として取って、そして残り半分は、国債の返済というわけですけれども、私はその三兆円だけ使ってでもですね、うまく運用ひてお金を回していけば、例えばハーバード大学、あるいはまたコロンビア大学は13%,14%で年間回しています。早稲田基金は一体何%で回しているんでしょうか。たぶん3%か4%だと思います。基金の規模も十分の一かだと思います。そういったことを知恵を絞り、ある意味じゃリスクも覚悟しながらやっていけばですね、あるいは年金基金が140兆円ある、この一割でも、14兆でも、仮に10%もあれば1兆4千億あります。あるいは他にもそういういわゆる、中川秀直さん的に言えば埋蔵金みないなものかもしれません。埋蔵金みたいなものを掘り起こして、あるいは皆さん方の中にもたんす預金みたいなものをですね、全部引き出した方がいいぜと、たんすに置いておくよりも預金、さらには投資に回した方がいいぞと。今はなんか投資=悪、銀行預金=タダ、みたいな。だからたんす預金と同じみたいな状況というのは動かなきゃダメだという意味で、私は年金改革も医療改革もやらなければいけませんけれども、財源が必要だということであれば、財源はひねり出せばありますし、それから、場合によっては緊急事態なんだから、2011年プライマリーバランスの黒字化も大事だけど、それをやるためにも私は財政出動すらあってもいいと思っています。

福本:ありがとうございました。それでは次の質問に移ります。

上甲:それでは政友会員からは私で最後にさせていただきます。政治経済学部2年の上甲眞央です。最後に聞きたいのは、憲法改正のことでありまして、やはり憲法というのは国の最高法規でありまして、つまりは国の根幹にかかわると。それを今まで改正しなかったというのには様々な理由があると思いますが、去年国民投票法案が成立してですね、両院に憲法審査会が置かれるということで、3年間憲法の審議がされるというように決まったはずでありますが、今現在、憲法審査会というのは置かれていません。これはやはり、国民一人一人が憲法改正は必要じゃない、必要だと、本当にいろいろな意見があると思いますが、やはりそういう国民的な議論、例えば憲法9条は反対だけど、他の条文は変えない方がいいですとか、本当にいろいろな考え方を国民が出して、それを政治が反映していって、よりよい憲法を作っていくと、そのためには両院に憲法審査会を置いてですね、国会がもっと憲法改正のために議論をすべきだと思うのですが、今なされていない、その状況を中川先生はどのようにお考えですか。

中川先生:認識は全くその通りで、したがって今の質問にはごめんなさいと、言わざるを得ないですね。憲法っていうのはなんのためにあるかというと、主権在民、基本的人権、平和主義ということになると、皆さん方のためにあるわけで、憲法、GHQが作った憲法のためにわれわれがあるわけじゃないし、確かにあの時は占領下の憲法でしたし、独立を回復したあと、ある意味じゃ憲法改正のチャンスがあったかもしれませんけれども、その時はもう、与野党が、社会党と保守党が対立してそんな議論はとてもできなかったわけですけども、やっと少なくとも議論ぐらいはしようよと、60年たって環境を守る権利、義務とかですね、プライバシーを守る権利、義務とか、国際貢献、世界平和を望むと言いながら、国際平和のために何か貢献する義務とか、あるいは地球温暖化を防ぐために、最後に資料で説明できませんでしたけれども、こんなことやったら一日一キロCO2が減りますよみたいな資料をお付けしましたけれども、せめてみんなでCO2を減らす義務を負うぐらいのことを、私は憲法に入れても少なくともいいのかなと思います。9条については第二項、第三項の議論がありますけれども、その議論ですら、国会ですらできない。おっしゃったとおり国民投票法案が去年成立しましたけれども、あれをやるための委員会を設置するためのルールを作ることが今できていないということですから、もう停止状態になってしまいまして、国民の皆さんに、賛成反対両方あるのは当然ですから、ぜひそういうことに対してのご意見を国会という場で議論をしなければですね、本当に国会議員の責任放棄の大きな一つだろうと思います。ですからせっかく安倍さんが作ったものを、忘れちゃいけないという理由が一つとして、さっきご紹介いただきました真・保守政策研究会というものを作って、我々も引き続き議論していこうということにしたいです。

上甲:今民主党が参議院で過半数、いや過半数は握っていないですね、野党で過半数を握っていると、そのような状況でなかなか憲法審査会というのが政局にもかかわるので置けないかもしれないのですが、中川先生自身はいかにしてその停滞を打破していくお考えなのか、できればお聞かせ下さい。

中川先生:そういえば去年ここでご講演された鳩山由紀夫さんですか、彼なんかは憲法を見直す会の副代表だか代表代行になっているんですね。ですから、野党の中にも憲法を見直すべきだという人は多いと思っております。ただ、参議院でああいうねじれになった、本来ねじれとういのはありうることではありますけれども、今回初めてなっちゃって、お互いどうしていいかわかんなくて、うまくかみ合っていないという部分もあるかもしれないですけれども、私の立場から言わせれば、なんでもかんでも反対している状況、例えば、衆議院で賛成した法案も向こう行ったら審議しないで廃案にしちゃうとか、自動成立にしちゃうとかですね、こういった状況ですから、これは、我々はさっき言ったように大変厳しい状況に置かれておりますので、今選挙やると非常に厳しいのですが、来年の9月までに、やっぱり真意を問うと、我々勝たせてもらってもねじれはねじれですけれどもやはり、これは真意を問うと。冒頭申し上げたように、自民党も民主党もどっちが勝っても負けても、所詮二つ合わせても50%程度の話ですから、なんとか、仕事をして政策でもって皆さん方にそれこそ憲法でも、あの北朝鮮問題でもなんでもいいんですけれども、真意を問うようなそういう選挙の状況にしたい。私なんかはさっきの経済対策なんてのはある意味では2011年プライマリーバランスを守るべきか守らないでとにかく今経済をよくしていくか、ということで、ここまで来たら真意を問える一つの軸になるかもしれないとすら思っています。

上甲:ありがとうございました。


<会場からの質問>
質問者:本日は貴重なご講演ありがとうございました。学習院大学法学部政治学科2年のあかばねふみやと申します。真・保守政策研究会会長の中川昭一先生に保守というものについてお尋ねしたいことがあります。保守とは変えるべきものを変え、守るべきものを守るということだと思います。しかし、ニュースを見ていると、年金制度なり、医療制度なり、その他もろもろの、変えるべきものについての報道はよくされておりまして、自分をはじめとする国民一人ひとりに見えていると思われます。しかしながら、守るべきものということについてはあまり報道されていないためか、いまいち印象に残っていないなというものを感じています。そこで中川先生の考える日本の守るべきものについて、どのようなことが挙げられるか、考えをお聞きしたいです。よろしくお願いします。

質問者:早稲田大学社会科学部4年のくろはと申します。先ほど、中川先生のお話にもあったと思うんですけども、年金基金であるとか、外為準備金であるとか、そういう部分の運用してくべきお考えをお聞かせいただきましたが、一方でですね、世界で豊かな人と言いますか、投機をしていく上で、富める人は富む一方、食料を求めてデモをするという状況もありまして、投機を規制するべきではないかというご意見もあります。これについて中川先生のご意見を伺いたいのと、最近ですね、日本でも政府系の主導ファンド、いわゆるソブリン・ウェルス・ファンドですね、これを作るべきだという風な意見もありますが、これらについて中川先生のお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。

質問者:こんにちは。僕は仏教を信じている者なんですけれども、信じていろいろと瞑想しているんですけれども、私個人としてはあと5年は大丈夫だと思うのですけれども、中川先生の個人的見解はいかがなものでしょう。まだ5年以上は大丈夫だと思うでしょうか。もうだめかと思いますか。ちょっとお聞きしたいと思いまして。
中川先生:それは私の命のことを言っているんですか。
質問者:いや、政権のことです。政権交代のことです。

質問者:早稲田大学法学部2年のみついと申します。今日は大変貴重なご意見ありがとうございました。安全保障についてお伺いしたいのですけども、北京オリンピックも今年始まって、終わった後に中国という国は本当に何をするかわからないという国ですし、あとは北朝鮮も人の国民を誘拐してそういう犯罪を平気で犯す国家ですし、あとは台湾も国民党に代わって尖閣諸島で今いろいろと問題が起こっていると思うのですが、そういう本当に危険な国が、世界の中でまれに見る状況にあるのが日本だと思うのですが、今のこの日本の安全保障というものは簡単に言えばアメリカの核の傘に守られていると勝手に国民がどこか安全に思っているような部分があると思うのですけれども、どこかでやはり日本国民が自分自身で国を守る機会だとかあとはそれを具体的にどのように守っていくかを考えなければいけないと思うのですが、そこを中川先生にぜひお伺いしたいです。

中川先生:まず保守という言葉はある意味では非常に難しい言葉で、よく我々が割と使いやすいから使うのは、イギリスの哲学者兼政治家のエドマンド・バーグという人の、保守するための改革、つまり墨守とは違って、いいものを守っていく、イングランドのいいものを守っていく、あるいはまた、日本のいいものを守っていく。変えていく必要のあるものは変えていかなければならない。しかしそれは保守するための改革であるということを言っているんで、それを我々も使わせていただいているわけです。日本の場合には、いいところいっぱいありますね。四季に恵まれているとか、このアジアモンスーン地帯で気候に恵まれているとか、さっきちょっと水の話をもう少ししたかったんですけれども、世界の紛争の一番多いものは国際河川の水を取り合う紛争です。ライバルという言葉がありますけれども、ライバルの語源はriverからきています。つまり、riverの水を取り合うということからrivalという言葉が生まれたんだそうであります。日本には幸いにして国際河川がございません。その意味で水争いは、昔は村同士とかあったかもしれませんけども、国と国との戦争をかけたような水争いはなかった。あるいは家族、まぁ今仏教のお話もあったし、神道を含めてみなさんいろいろな宗教を信じている方もいらっしゃると思いますが、やっぱり自分がこれがいいんだと思って信じているもの、そしてそれが代々親、あるいはおじいちゃんおばあちゃんから伝わってきているものを守っていくということは私はどこの国からも言われる筋合いのものではない。日本の歴史は日本人が決めるんだと。それを向こうがどう評価するかは勝手だけど、日本の歴史を外国によって捻じ曲げられてはいけないという風に思っております。それからもっと生々しいというか、現実的な国益でして、日本というのはご承知の通り国家というのは主権と領土と国民とで成り立っているわけですけれども、肝心の主権が、侵されている。今日夕方東シナ海の日中合意というのが出ます。ここにマスコミの方もいるようですけれども、今日出る結果というのは、例の白樺というところについては相手の法律に基づいて共同開発しましょう。つまり、あそこの日本側のEEZの石油も、相手の法律、相手の主権のもとで、お金だけ出しますよ、利益はもらいますよというだけであって、向こうにある意味では資本参加しているだけなんです。日本のものを向こうのものにわざわざあげちゃって資本参加をする。あるいはもう少し上の方で、この区域で今度共同開発しましょうと言ってますけど、まぁ中間線というのは今日の記者会見では出て参りませんけども、仮にあれに中間線を乗っけると圧倒的に日本の方の面積の方が広いんです。互恵という言葉を今日使いますけども、全然互恵になっていない。これで果たして日本の国益は守られるんですかということを、私は発表されてもし記者さんに聞かれたら答えたいと思っております。さっきおっしゃったように普通に暮らしている日本人がなんの政治活動もしない人がある日突然外国の国家機関に盗まれて二十年も三十年もですね、遺骨は返したじゃないかと言ったらインチキだと。こういうことを守っていくのが国益を守る。これが私は保守。政治的に言えば保守だと思います。もっと素朴に言えば日本のいい風習、文化、家族、こういったものを守っていくというのが外から、あるいは意図的な悪意を持った勢力から守っていくというのが我々の仕事だと思っております。

それから私はソブリン・ウェルス・ファンドというのは当初からやるべきだと思っております。それから、さっき申し上げた個人の1500兆の個人資産とか、なんとかというのをポートフォリオ的に言っても、あるいは利回り、資産の増大のためにも、私はハイリスクハイリターンにはいけませんけども、まぁハイリスクではないような、しかし0.何%の預金よりもいいものについては預金も大事だけどそっちの方にももう少し行ったらどうですかと、そのための誘導策として例えば株や証券投資するとき個人で一人いくらまでについては無税にします、利益について無税にしますとね。あるいは高齢者の方々の資産投資については一人いくらまでキャピタルゲインと配当を無税にしますと。極めて個人的、かつ限定的にやろうと思っていまして、これは決して、なんとかファンドみたいな、大がかりな投機家を支援するためのものではないということはぜひご理解をいただきたいと思います。

次に仏教で毎日瞑想されているという話でありますが、政権がというのは自民党政権のことと思いますけども、議院内閣制においては我々はいつ解散があるのかわかりませんし、解散があれば勝つか負けるかは選挙をやってみないとわからないんで、ちょうど15年前に自民党が分裂して我々は約1年間野党の経験をいたしました。我々としては何回も言いますけど、厳しい状況で今やれば厳しいと思いますけども、なんとか少しでも政治を一生懸命やって国民の声を聞きたいと思います。

中国、北朝鮮、台湾、台湾はここ数日軍艦まで出すぞと、宣戦布告をしようじゃないかと、かなり過激な発言があります。それは一時的な感情論、新しい大統領がスタートした。ちょうど2,3か月ほど前に韓国の大統領がいい状態でスタートしたのに牛肉の問題でいきなりどかーんと支持率が急落したということがあるんで、あの馬英九さんという人はそのことも頭にあったのかもしれませんし、まぁとにかく向こうが頭にくればくるほどこっちは冷静に、しかし尖閣に入ってくれば軍艦であろうが何であろうが撃退しなければならないというのが国家の主権だろうと。まぁ向こうもそんなバカなことやらないと思いますが。それから中国についてはオリンピックとおっしゃいましたがたぶん10年の上海万博まではおとなしくしているだろうという風に思います。むしろそのあと向こうが好き勝手暴れるというよりも、あそこも、私は中国は今年は三つのGと二つのSと言っているんですが、三つのGというのは豪雪、餃子、五輪と。この三つのGと二つのSと言って四川省の地震とサブプライムローンという。この三つのGと二つのSで、中国も非常に困っているわけでありまして、とにかくこの地震の問題とオリンピックをなんとか無事に終わらせたい。それから餃子は日本には人の噂は75日という噂があるからじーっとしていれば国民は忘れてくれるんじゃないかと。こういう風に思っているのではないかと思いますので、この前イランで、アフガンで拉致された学生さんが忘れられたころ無事帰ってきてよかったと思いますけれども、日本人は忘れちゃいけないんです。拉致問題にしても、餃子の問題にしても、また、サッカーアジアカップでひどい試合をやらされたこともですね、瀋陽の総領事館の問題にしてもとにかく日本は国家として、あるいは国民として忘れてはいけないということがずいぶんいっぱいあるという前提です。北朝鮮に関しては問題外でございまして、問題外の国と格調高い交渉をする前提みたいな合意をしてきた、これは前進でも何でもないんで単なる変化ですから、実際にものが動かないと今までみたいにまただまされるということになりかねません。そうすると、なんの責任もない国民がへたをするとまた大変なことになりかねないということでございますので、これはですね、日本がバスに乗り遅れるななんて言葉に騙されることなくとにかく国民を守るために対話と圧力と言っておりますけれども、私にいわせりゃ圧力と交渉ということでやっていく。向こう困っているんですから、食べるものがないんですから、燃料がないんですから、お金がないんですから、さすがの首領様もだんだん食べるものがなくなってきたという話を聞きますけれども、こっちがいくらでも協力しますよ、だからその前に日本人をだまって返して、そして犯人を引き渡しなさいと、ある意味それだけ言っているわけですから、それに比べたら日本の要求なんて私はたやすいものだとすら思うわけですから、早く正直に日本人を返しなさいよと、そしたら食料もお金もなにも協力しますよと言っているんですから、ぜひ向こうもですね、目覚めてもらいたいなと思っておりますけども、いずれにしても今申し上げた全部、国民の支援なくしてはできないことです。今日も何人かブルーリボンをつけている方がいらっしゃいましたけれども、我々だけがいくら騒いでもうマスコミも報道しない、国民も忘れちゃったということじゃ、これはもうさっき言った向こうの75日作戦に引っかかっちゃうことになりますので、今質問された方を含めてですね、いつまでも解決するまで国民が我々を叱咤していただきたいというふうにお願いしたいと思います。

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