夜は「義経千本桜」の半通し。「渡海屋」「大物浦」では吉右衛門の知盛が気迫にあふれ、ことに手負いとなっての「大物浦」が圧巻。「天皇はいずくに……」の一声から最期まで、見事なセリフでぐいぐいと運ぶ。玉三郎の典侍の局は、安徳帝への思いがよく出た。富十郎の義経が格調高く、段四郎の弁慶、歌六の相模五郎、歌昇の入江丹蔵が舞台を締める。
忠信は菊五郎。「吉野山」では菊之助の静御前と主従の情をにじませ、華やかさもある。「川連(かわつら)法眼館」の狐忠信は愛らしさを感じさせ、両親への心情がよく表現された。時蔵の義経が気短さ、孤独さを感じさせた。菊之助は強さと品がある。
昼は「毛抜」から。三津五郎の弾正におおらかさと愛きょうがあり、セリフも明瞭(めいりょう)。万兵衛(錦之助)をやり込めるくだりなどおもしろい。魁春、東蔵、団蔵、錦之助ら周囲もそろう。
「蜘蛛(くも)の拍子舞」は玉三郎の白拍子実は女郎蜘蛛の精。菊之助の頼光、松緑の綱と、拍子に乗って舞うのが見ものだ。三津五郎の金時。
続いて「河庄」。優柔不断、だらしなさ、幼児性などの欠点が魅力となる治兵衛像を、坂田藤十郎が描く。時蔵の小春が優しく切なく愛情豊か。段四郎の孫右衛門が実直で弟思いの様子を出し、東蔵、亀鶴、寿治郎がいい。
最後が「音羽嶽(おとわがたけ)だんまり」。松緑の長男大河が初お目見え。菊五郎、富十郎、吉右衛門、魁春らに囲まれての華やかな門出だ。25日まで。【小玉祥子】
毎日新聞 2009年10月14日 東京夕刊