交通事故で突然に家族を失うことは、どんなにつらいものか。
06年9月、久留米市内でひき逃げ事故があり、大学生が死亡した。加害者は酒を飲んでいたが、警察に出頭するまで時間がたち過ぎていたため、飲酒検知ができなかった。結局、飲酒運転の立件が見送られ、ひき逃げと業務上過失致死罪で懲役1年6月の実刑判決が確定した。
大学生の両親は「飲酒運転の事実を明らかにしたい」と、加害者と同乗者らを相手に損害賠償を求めて訴訟を起こした。
先日の地裁久留米支部の判決は、加害者の飲酒運転を認めたものの、同乗者について「飲酒に気付いていたとは認めがたい」とした。
同乗者に飲酒運転ほう助の責任があったと主張する父親は「残念です」と唇をかみしめた。
事故から3年。父親は「(息子を亡くした)このつらい気持ちは一生消えない」と思い詰めた表情で語った。
◇ ◇
17歳の秋。祖母が軽トラックにはねられ、死亡した。飲酒運転でも、ひき逃げでもなく、普通の交通事故だった。原因は運転手の前方不注意。
慕っていた祖母の死を受け入れられず、通夜の席で、死に顔を見ることを拒んだ覚えがある。
翌日の新聞に、祖母の事故死を伝える記事が載っていた。小さな扱いのベタ記事。事故を淡々と伝えているだけだが、運転手が殺人鬼のように思えてならなかった。
新聞に加害者をもっと糾弾してほしい。そんな子供じみた考えが脳裏に浮かんだ。
新聞記者になったのは、祖母の死が影響している。「交通死亡事故を少しでも減らすために、記事が書けたら」。そんな単純無垢(むく)な思いが、動機の一つだった。
これまで随分、交通事故や遺族の取材をしてきた。そのたびに祖母のことを思い出し、遺族の立場に立った取材を心がけてきたつもりだ。<久留米支局長・坂本秀登>
〔筑後版〕
毎日新聞 2009年9月21日 地方版