小渕優子少子化対策担当相が主宰する「ゼロから考える少子化対策プロジェクトチーム(PT)」の第1回会合が、2月10日、内閣府で開かれた。
テーマは「恋愛・結婚(未婚化・晩婚化の要因分析と社会的な取組・課題の整理)」。出産・育児の前段階で、なぜ結婚をする人が減っているかを考えるのが目的。若者の文化や意識に詳しい三浦展氏(カルチャースタディーズ研究所・主宰)、『パラサイト・シングルの時代』などの著作で知られる社会学者の山田昌弘氏(中央大学文学部教授)、統計の専門家である金子隆一氏(国立社会保障・人口問題研究所人口動向研究部長)の3氏からのヒアリングと、プロジェクトチームメンバーとの質疑応答があった。
三浦氏は、若年層への調査から、現代の「モテる男女」「モテない男女」のプロフィールを紹介。男性のモテる条件は、かつての「3高」(高学歴、高収入、高身長)から「3低」(低リスク、低依存、低姿勢)へと変わり、「空気が読める」といったコミュニケーション能力や共感能力に重点が移っていることを説明した。また、「男性は女性に『やさしさ』を求めるが、現実に自分を『やさしい』と思っている女性は少ない」「女性は趣味において『上流志向(クラシック音楽を聞く、など)』だが、男性はむしろ『下流志向(ゲーム、B級グルメなど)』なので話が合わない」など、男女双方の要求がミスマッチを起こしていることを指摘した。
山田氏は、これまでの少子化対策は時代の変化に対応できていなかったとして、(1)特に低収入の男性が結婚相手として選ばれないこと(2)モテる人とモテない人への二極化(恋愛格差)が進み、恋人もいない人が多いこと(3)女性は仕事をしたいから結婚しないのではなく、若年層ではむしろ専業主婦志向が復活していること(4)子育て支援は正社員向けが多いが、実際は男女とも非正社員が増えていること――の四つの事実をタブー視することなく認識すべきだと訴えた。
また、成人すると当然のように親元を離れる欧米と違い、親と同居していれば「もっといい相手」をいつまでも待てる「パラサイト化」も晩婚化の大きな原因と述べた。山田氏は、こうした未婚化・少子化の現実を変えるために、(1)男性の収入のみに頼るという意識の変革(2)若者の生活基盤の安定(3)育児休業などの制度を男性や非正規、自由業女性へ拡大――の三つの方策を提案した。
金子氏は、さまざまな統計資料から、「結婚の効用」よりも「結婚のコスト」が重く意識されているため、結婚の魅力が低く評価され、人々の結婚への意欲が減退している現状を説明。未婚者の9割近くが「いずれ結婚するつもり」と答えているにもかかわらず晩婚化は進んでおり、とくに男性では生涯未婚率(50歳時点で1度も結婚したことのない人の割合)がすでに15%を突破。今後、男女共に急速な非婚化が見込まれ、少子化と人口減少・高齢化が加速するとともに、子供や家族をもたない人々がふえていく見通しを述べた。
3氏の報告を受け、宮島香澄PTメンバー(日本テレビ報道局解説委員)から、「男女の出会いの場を作るような政策」が可能か、また、それは有効か、という質問が出された。それに対して、山田氏は「出会いのサポート事業などは一定の有効性がある」と述べ、また山田氏と金子氏は「コミュニケーション力をつけるような教育」を行う必要について同意していた。
次に、勝間和代PTメンバー(経済評論家)から「結局、所得の再配分が少子化対策として有効ではないか」「さらに、それぞれの所得に応じた、きめ細かな少子化対策が必要ではないか」という意見が出された。それに対して、三浦氏から「若年層の正社員化を」という意見が出され、さらに山田氏からは「高齢層から若年層への所得の再配分を」「都市部と地方の格差も問題」という意見が出された。
また、松田茂樹PTメンバー(第一生命経済研究所主任研究員)からの、「団塊ジュニアの結婚・出産時期が過ぎるここ5年くらいの短期で、成果をあげる政策アイデアはないか」という質問に対しては、山田氏が「結婚したいという『需要』は多いのだから、結婚サポート事業などでその需要を掘り起こすこと」と述べたが、そうしたサービス事業が現実にはそれほど利用されていないことも認めていた。
それに続き、佐藤博樹PTメンバー(東京大学社会科学研究所教授)が「結婚について専門的サービスに頼ろうとする人が少ないとすれば、それはなぜなのか」と問うたのに対し、山田氏は「好きな人との劇的な出会いを期待するロマンチックな恋愛観が障害になっているのでは」「アメリカのような『カップル文化』では、パートナーがいないことが恥ずかしいので、とりあえずつき合い始める、ということがある」などの文化的要因に触れ、「せめて『婚活』は恥ずかしくないという人がふえてほしい」と述べた。
また、安藤哲也PTメンバー(NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事)は、「男女共同参画の意識や、コミュニケーション力を、とくに男子に早期教育していく必要がある」という意見を述べた。
また勝間PTメンバーが「タブーを破るという意味で、婚外子と妊娠中絶についてデータがあれば教えてほしい」と聞いたところ、金子氏が「欧米にくらべて同棲と婚外子が少ないのが日本の特徴。日本でも第1子の4分の1以上は婚前妊娠で生まれている。それが、日本では同棲という形をとらないので婚外子にならない」と返答。勝間PTメンバーが「そうした『できちゃった婚』が25%あるから日本では婚外子が少ない、というのでは議論に漏れがあるのではないか。それ以外に、かなりの割合で中絶されているのではないか。その各国比較のような統計データはないか」とさらに聞くと、金子氏は「そうした統計はないが、日本で婚前妊娠は1997年以降、急激にふえている。全体として中絶は減ってきているが、10代後半から20代前半の中絶が増えている傾向はあると想像できる」と答えた。
また山田氏は「中絶した人への調査というのは、私も試みたことはあるが、難しくてできなかった。日本では、婚外子への社会的差別のために中絶する人は多いだろう。ただ、いわゆる非嫡出子の側へのインタビューで、社会的差別より、経済的なつらさのほうが大きかったという調査がある。どちらかというと、男性の側に経済力がないなど、経済的理由で中絶される場合が多いのではないか。経済的な後押しがあれば婚外子がふえるのではないか」と述べた。
最後に小渕担当相が、少子化対策が時代の変化に対応できていないという山田氏の指摘を認め、「この国には『若者たちの声』が欠けている。政治の中心にいる国会議員の先生方は、みな自動的に結婚できた世代なので、今の結婚できない若者を見て『意気地がない』とか『力がない』とおっしゃる方が多い。時代が違うんだ、と私たちの世代が言っても力不足でなかなか届かない。いま一番活躍している60代くらいの先生方は、2、30年くらい前に地元の同世代の方々の応援で当選し、その人たちと一緒に年をとっている。だから、どうしてもその世代の声や力がものすごく大きい。いまだに所得の再配分がうまくいかないのはそのせいだと思う。私たちの世代のアピール力が弱い。また、私も、私より若い世代のことはわからないことが多い。まずこの状況認識をみんなで共有するところから始めたい。また、今日の議論で、私たちの少子化対策が一部の人のためだけのものになっていないか、改めて考え直す必要を感じた。子供を産む女性が減っていくなか、対策を急がなければならないが、対策のターゲットや予算配分を誤ると、二極化を防がなければならないわれわれが、二極化を生み出すことにもなりかねないと思った」と述べた。
第2回会合は、「若者の雇用」をテーマに行われる。【志摩和生】