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1994.9.6. トークショー 中川昭一 × 弘兼憲史

弘兼憲史氏 弘兼憲史/KENSHI HIROKANE
漫画家。昭和22年山口生まれ。早稲田大学法学部卒。 松下電器に勤務後、漫画家に。「課長 島耕作」「加治降介の議」などで知られる。
 混迷の時代をどう生きるか  東西の冷戦構造が崩れ、世界はいま新しい秩序を模索している。
 この世界の動きは当然わが国にも投影し、国連を中心とし国際社会への貢献が強く求められるようになった。
 PKOの問題、安保理常任理事国入り問題等に対して、我々はどう考え、どう対応すべきか。
政治の世界をリアルに描きたい
司会  弘兼さんの「加治隆介の議」をお読みになった方は多いと思いますけれども、まずこれをお書きになったのは何年ぐらいからですか。
弘兼  よく憶えてないんですけれども『課長 島耕作』を書きはじめて5、6年たった頃でしょうか。これぐらい連載を続けますと、飽きがくるもので、次は何をやろうかなと考えていたんですよ。
 およそ漫画のジャンルというのは時代劇からSFからお医者さんは出るわ、弁護士は出るわ、ほとんどやり尽くしていたんですけれども、一つだけまだやってない分野がある。
 それはいわゆる政治家の分野だったのですね。もちろん、今までに『サンクチュアリ』とか『大と大』とか、ああいうふうにやや劇画的に切り口を持っていった政治漫画ってありますよね。
 ヤクザが総理大臣になるとか。それも面白いんですけれども、僕は『課長 島耕作』という漫画をサラリーマンのリアル路線で行きましたので、政治の世界もやはりリアルにやろうと。
 それでちょっと永田町を取材させていただきますと、実は政治家というのはみんな腹黒い、汚いやつだと思ってた方が多いと思いますけれども、  実際会ってみますと、特に中川さんを代表するような自民党の若手の方にすごくまじめな方が多かったんですよ。これはびっくりして、目から鱗が落ちました。
 漫画というメディアがこれほど大きくなってきますと、単なるエンターテインメントではなくて、僕らもマスコミの一環として情報を伝える立場にあると思うんです。
 そうするとこういうまじめな政治家がいらっしゃるということを伝えないのは、やはりマスコミとしてフェアじゃないなという気がしまして・・・。
司会 それは非常に反省させられるところです。マスコミ人として。
弘兼 加治隆介みたいな政治家って、たくさんいらっしゃるんですけれども、実は中川さんの最初の成り立ちの部分をいただきまして、この漫画をつくり上げたということですね。
成り立ちの部分というのは、つまりお父さんが急死なさって、息子が立つ。
と、同時にお父さんの秘書であった人も立って、新聞では骨肉の争いとか言われましたけれども(笑)、 そういうシチュエーションをちょっといただいたということはありますね。
司会 これは読んでみると中川さんの今までのこととダブっていることが多いんですが、事前に中川さんにはこのお話はあったんですか。
弘兼 いえ。僕はまったくしていません。
司会 これは中川さんにお話を伺いたいと思うんですが。
今の世の中は「何でもあり」という状況
司会  中川昭一 私、『課長 島耕作』というのをあるときから読みはじめまして、すっかりファンになりました。
 もちろん、私もサラリーマンの経験がありますので、島耕作がいろいろ仕事の面で活躍したり苦労しているのも面白かったんですけれども、  私、『課長 島耕作』という漫画はロマンス漫画というかロマンス小説じゃないのかなと。
 卑猥感はまったくないんですけれども、いい意味のエロティックな感じのする漫画で、  以前、弘兼さんに「あれは想像ですか、それとも実体験ですか」と聞いたら半分以上は実体験だということを言ってましたけれども・・・(笑)。
弘兼 半分以上をつくりましたよ(笑)。
中川 そのあと、加治隆介がスタートして、「どうもおまえとよく似てる生い立ちの政治漫画ができたぞ」ということで、あるきっかけで弘兼さんとお付き合いさせていただくようになったわけです。
司会 あんなにカッコいいサラリーマンいないというぐらい、とにかくカッコいい。
中川 そこは私と全然違うわけですよね。
司会 違いますか(笑)。
弘兼 興銀時代、そういうロマンスはありませんでしたか。
司会 今、7巻まで出て、加治隆介は官房長官になっています。
中川 官房長官に早く私もなりたいですね(笑)。
弘兼 3年生ぐらいの若手議員が突然、官房長官というのは非常に不自然かもしれませんけれども、衆議院当選11日目にして首相になった細川さんという方もいらっしゃいますし、 1年目に大臣になられた田中眞紀子さんなんかもいらっしゃいますから。
司会 そうですよね。
弘兼  今の世の中「何でもあり」ということで、今までの常識で、例えば当選3回目に政務次官とか、当選5回以上が大臣のポストの資格があるとか不文律みたいなのがありましたよね。
 そういうのはもうまったくなくなったということで、官房長官もいいではないかと。
 一応、報道官的なところもありますし、秘書的なところもあるし、補佐的なところもありますから、広く政治を分かってもらうには、漫画の主人公として官房長官がいちばんいいのではないかという気がしました。
漫画のストーリーが現実についていけない
司会  そういう意味では、どういう展開にしても政治のほうがあまり現実とかけ離れなくなってきたので、描きやすいと言えば描きやすいんではないですか。
弘兼  いや。実は描きにくいんですよ。
司会  というのは。
弘兼  各政党の合従連衡がありまして、漫画のストーリーが現実についていけなくなりました。
 最初はやや先取りしていて、「漫画を描いたとおりに、ほら、現実がなっただろう、どうだ!」みたいなところがあったんですけれども、細川さんが出たあたりからもう後追いやったら駄目だと。
 したがって、漫画は漫画の路線で行こうということで、現在は自民党を一派とした旧勢力のグループと、いわゆる小沢さんのような人物中心とした一派の2つの勢力があって、  それに社会党の右派みたいなのが洞ヶ峠を決め込んでキャスティングボードを握る。とっちかについたほうが政権を握るという2.5極体制という形にしているんです。
司会  2.5大政党。
弘兼  2.5大政党ですね。ですから、何の力もない社会党がいつも政権の座について、いつも大臣の要職をとるという、これはまったくけしからん状態がこれから来るというような気がしますけどね。
司会  うーん・・・。
北朝鮮問題に興味を持っている
弘兼  それと、僕はいま北朝鮮問題にかなり興味がありまして、これはものすごく調べました。
 防衛庁にも行きましたし、それから朝鮮の人にも会いましたしいろいろ話しまして、あるストーリーを考えました。
 僕はキム・イルソン(金日成)をモデルにした人物を描いていましたが、突然、キム・イルソンさんが亡くなりました。
 キム・ジョンイル(金正日)さんが、恐らく政権をとるだろうと思いますけれども、ちょっと分からない。
 昨日、腹違いの弟さんであるキム・ピョンイル(金平日)さんがキム・ジョンイルさんに政権が移ったということをたしか明言されたと思いますけれども・・・。
司会  今日(9月6日)付の朝鮮日報に出ています。
弘兼  ちょっとまだ分からないんですけれども、その北朝鮮問題を描いていくうちに、自分の路線とは現実が変わってしまったんですけれども、  あくまでも僕は北朝鮮というのはこういうスタンスで世界をこういうふうに考えて、日本に対してはある意味ではずっと危険な存在であり続けるから、  やはり手綱を緩めてはならないぞという主張をしてゆきたいと思っています。
 わりとタカ派的なことを言っていますけれども、そのへんはやっぱり防衛体制はしっかりしていこうというスタンスで漫画を描いているんです。
司会  中川さん、いかがですか。
中川  私は北朝鮮問題、もちろん、お隣の国ですし、これは外交問題であると同時に国内問題ですから非常に大事な問題です。
 我々、無関心でいられる問題じゃないと思います。
 話は変わりますけれども、10月にまた欽ちゃんファミリーのテレビドラマだかバラエティーショーが始まるそうですけれども、  そっちの欽ちゃんと違ってむこうの金ちゃんファミリーのほうは大変な状況になっておるわけですね(笑)。
 しかも金日成さん、それから金正日さん、それから金平日さんと、「金」は名字ですから変えるわけにいきませんけれども、  下の名前が全部日本の「日」がついているというのは何でだろうなと私は常日頃非常に不思議に思っているわけです。
司会  そう言われてみればそうですね。
中川  これは政治家という次元の話じゃなくて、一日本人として、むこうの金ちゃんファミリーはどうして全部「日」がついているのかなというのを常日頃何となく不思議に思っておるところです。
中国もつい先日、核実験をやった
司会  北朝鮮が核を保有しているということが日本の国内に脅威を抱かせているところだと思うんですけれども、そのあたりの調査は進んでいるんですか。
弘兼  実は核は持っているか持っていないかというのはいろいろ議論が分かれているんですけれども、アメリカなんかの見解によると、2、3個持っているんではないかというのがわりと多いですね。
 一方、まだ持ってないぞという説もある。
司会  原料は持っていると。
弘兼  5つから10個できる用意はあるという情報もありますし、いちばん脅威なのは、むこうが核を持つ。持ったあと、それを核弾頭としてミサイルに搭載できるかというのがいちばん脅威なわけです。
 今の段階ではむこうは「ノドン」というミサイルを開発していますけれども、これが射程距離1、000キロぐらいですから東京から東北の一部はちょっとはずれるんですけれども、  あとは撃つ場所を変えれば、日本をほぼカバーできるぐらいの距離にあります。あれはかなり技術がいりまして、軍事評論家の小川和久さんと話したときは、まだ3年ぐらいかかるんじゃないかと。
 これもたしかでないんですけれども、3年ぐらいたてば確実に小型化して、核がミサイルに搭載される。
 しかもノドンより大きな射程1,300から1、500キロのミサイルも今開発しているらしいですから、北朝鮮問題というのは早く解決しないと、これはアジアにとって非常な脅威ですよね。
 中国がコミットしてくれればいいんですけれども、実は中国もつい先日、核実験をやりましたよね。
司会  そうですね。
弘兼  この時期に更に新彊ウィグル地区で核実験をやる。この意図は何であろうかということを考えますと、言葉は悪いですけれども、やはり油断のならない国であるということは確かなんで、  社会党がこれから10年かけて軍備を縮小していこうと言っていますが、それは無理でしょう。むこうも縮小すればの話ですからね。
 力に対して対抗するのは非常に残念ながら、やっぱりある程度の軍備がいるわけですから、僕は社会党のように、10年たって軍縮していくという考え方にはまだ怖くて賛成できないですね。
司会  北朝鮮のようにこれから核を持つかもしれないというところに対しては非常に厳しいですけれども、今まで持っているところに対してはあまり問題にしない。
 中川さん、いかがですか。
中川  私が政治家で、真ん中にいらっしゃる弘兼さんが漫画家だということを忘れられると困るので(笑)、私も芸能界の話ばっかりしないで少しまじめな話をします。
司会  じゃ、ちょっと本職というところを・・・(笑)
核の拡散をどうやって阻止するか
中川  北朝鮮の問題がいちばん身近な脅威としてあることは事実ですが、いま核が非常に世界中に拡散をしておる。
 パキスタンが持っていたとか持っていないとか、南アフリカも一時持っていたけれども、やめたとか、あるいはイラクだ、イランだ、イスラエルが持ってるんじゃないかとか、  インドが持ってるとか、それがどんどん今広がっておるという状況というのは、わが国、特に被爆国として非常に由々しき問題なんですが、これはいい悪いの話ではなくて、核兵器というのは、  実は非常に持ちやすい兵器なんですね。コストが非常に安くできるということです。
極端に言えば、ウラニウムとある程度の材料さえあればできるというぐらいで、非常に安くできる兵器だと。
しかも持っていること自体の脅威、それからそれを使うことの脅威というのはきわめて大きいという意味で、 持ちたい国がいっぱいあるというのが残念ながら今の世界の現状だということを我々は認識をした上で核兵器の廃絶問題を考えていかなければならない。
安くて簡単にできる兵器であって、航空母艦1隻つくる、潜水艦1隻つくる、あるいはノドンを防ぐためのパトリオットのシステムを1つつくるよりもはるかに安いものが2個か3個、 それこそロケットで運べるようなシステムができればものすごく安く簡単に脅威の兵器ができるということを前提にして世界の国が持ちたがっているんだということを認識した上で、 我々はこれに対してそれを阻止するための政治活動、外交をどうやっていかなければならないかというのが、いま日本に与えられた本当の意味の国際貢献の1つではないかなというふうに思っております。
弘兼  核を現在持っている5か国はどうするのか。5か国だけでなく、常任理事国も含めてもっとありますけれども、それはあと2年後に包括的核実験禁止条約は締結されると思いますが、  これ以上つくらない、使わないというのが恐らく全会一致でなされると思うんですよ。
 ですから、中国はこの2年間に彼らに対抗できるだけの核を持とうとして盛んに核実験を行っている。これはこれでしょうがないかもしれない。
ただ、問題は、北朝鮮のような国は自国の力を誇示するために、あるいは外交上有利に立とうとするために核を持とうという狙いと、 もう1つは、核兵器を中東に売ろうという狙いを持っています。例えばイラクとか、あのあたりは北朝鮮に核をくれと言っていますし・・・。
司会  欲しいでしょうね。
弘兼  ああいうところに売ってしまうと、更に更に危険な状況が生じるということで、北朝鮮の核開発というのは絶対止めなきゃいけないと思うんですよ。
 もちろん、今持っている国もやめなきゃいけないですけれどもね。
司会  核のこともそうなんですけれども、中国というのは温和に見えて、実はいま日本がいちばん気にしなければいけない大国なんではないでしょうか。
 中川さん、いかがですか、そのあたり。
12億の人口を擁する中国の脅威
中川  いろんな意味でこれは日本にとっても世界にとっても脅威です。脅威というのは、おっかないとかいうことだけではなくて、とにかく無視できない存在だと思います。
 昔、防衛庁のある人から聞いた話なんですけれども、これは例え話ですが、中国には12億の国民がいますと。中国が日本を壊滅させるには、核兵器もたった1発の爆弾も必要ないと。
 12億の国民が海岸線にずーっと並んで、「1、2の3!」でドボンと海へ飛び込むと大津波になって、日本海側の半分が水浸しになって使いものにならなくなると(笑)。
 そのくらいに人口が多いということ。しかも、この人口がまだ爆発的に増えておること。これが食糧問題だとか、環境問題にもつながる。黄砂というのが春になるとむこうから流れてきますね。
 中国のいわゆる化石燃料の排気ガス、いわゆる二酸化炭素だとか、そういうものがどんどん酸性雨になって日本に降ってくる。
 これ自体、本来は外交問題としてわが国はきちっと抗議なり処理なりすべきだと思うんですけれども、核実験をやれば死の灰も当然、日本の国のほうに降ってくるわけですし、  そういう意味で中国という国を混乱させちゃいけないし、また本当にものすごく強い、一時のソ連のような国にしてもならない。
 そしてまた、お互いにほとんど顔の区別がつかないくらいに長い歴史があり、似たような民族ですから、仲良く、しかもある程度緊張関係を持って、安定した中国というものと日本の関係を維持していく。
 5次元ぐらいの方程式を解くぐらいに難しい問題ですけれども、やっぱり隣国との外交関係というのは国にとっていちばん大事なことです。
 そういう意味で特にお隣に中国がある、北朝鮮があるということは、日本にとって非常に大事なというか、これは5年、10の話じゃありませんので、今日お集まりの皆さんには特に認識をしていただきたい。
 そういう意味で何がいちばん大事かというと、日本が安定することなんです。日本が安定するということはどういうことかというと、  総合的な安全保障という言葉をあえて使いますけれども、これがしっかりしていなきゃ駄目だ。なにも総合的な安全保障というのは防衛力だけじゃないんです。
 経済力も、あるいは政治力も、外交力も、あるいは文化力も社会力も含めてですね。そういう意味で、すべての面で安定してこそ、そういう国々と対抗できるというか、  やりあっていけるんだというその前提をこれから我々と皆さん方でつくっていく。
 そのためのお役に立ちたいというのが私の皆さんに対するメッセージです。
中国の経済成長と日本への影響
弘兼  私は中国というのは、これから経済的にものすごい勢力になると思うんですよ。
 実はベトナムあたりで売られている例えば扇風機とか冷蔵庫とか洗濯機とかその類の簡単な電気製品というのは、もはや韓国製でも台湾製でもなくて、殆ど中国製品らしいんですね。
つまり、人件費が安い。それだけ価格が安いわけです。
日本はかつてそうやって儲けてきましたけれども、いま日本の1時間当たりの時間給というのは世界最高水準ですから、これで価格競争に勝てるわけがないんです。
司会  そうですね。
弘兼  そうして考えると、電気製品及び自動車というのは、21世紀には確実に中国にシフトしていきます。
 日本のそういうメーカーは軒並み打撃をうけるのは間違いないです。これは経済界の人たちが言っています。
 これから日本の産業が成り立っていくためには、実は辛いことかもしれませんけれども、労働者の賃金はもうこれ以上あげないようにする。
 そのためには物価が上がってはいけないから、公共料金は絶対上げるなというのが水野さんの考え方ですよね。
司会  日経連の会長さんですね。
弘兼  公共料金をまず抑えるということは政府の努力なんですけれども、それぐらいいま日本の産業構造が変わりつつあるという危機感を持たなければならない。
 それではどうやって生き延びるかというと、例えば特許の数を増やすとか、情報産業に力を入れるとか、あるいは工場をプラントごとつくって中国へ輸出するとか、  いろいろ方法はあるんですけれども、メーカーそのものが全部、中国のみならず他の東南アジアそっちのほうにシフトすることを考えれば、  アメリカの興味も日本から中国へ移っていくこともこれまた確かなんですよ。
実は日本はいま日米安保条約というので非常にしっかり守られている。乳母日傘で育てられましたよ。
何も考えなくて、ただ経済のことばっかり考えてりゃよかったんですけれども、ここにきてPKO問題その他国連のことに関しても、 一国平和主義みたいなことを日本が貫けば、アメリカもちょっと呆れ果てて、例えば今度の北朝鮮なんかでも、もし有事になった場合に、 日本は、「私たちは軍事力に参加できない」とか言いはじめると、「一体誰のために戦っているんだ」ということになります。そうなってくると、 実は日米安保条約というのは非常に脆い条約であって、国連によって安全保障制度が確率されれば、日米安保条約というのは破棄するということになっていますから、 もしこの時点でアメリカが日本から手を引いて、日本は勝手に防衛をやれということになりますと、もっともっと防衛費を増やさなきゃいけないという大変なことになりますよね。
だから日本はアジアに目を向けながらも、基礎はやっぱりアメリカで、それからアジア外交をやるべきだと僕はいま考えています。
アジアの主要メンバーとしての意識を
司会  日本は中国という脅威を持ちながら、アジア、特に東南アジアなどからどんどん後押しされて、常任理事国入りをしろ。
 だけど、今どっちに行っていいのか、アメリカをとるのか、それとも中国をとるのかというところに来ていると思うんですが・・・。中川さん、どうなんでしょうか。
中川  いまマレーシアのマハティールさんという人が、「東アジアともっと仲良くしようよ」と言っている。ヨーロッパはEU(欧州連合)ができたじゃないか。
 アメリカはNAFTA(北米自由貿易協定)ができたじゃないか。まして、イスラエルとPLOが仲良くなったり、南アフリカの黒人と  白人が仲良くなったりしている時代に東アジアの隣国同士が仲良くしていくのは当然だと。領土問題だとか、民族の問題だとか、いろいろ問題があるからこそ仲良くしていこうよということで、  EAEC(東アジア経済会議)というものを提唱して、その中心に日本がなってくださいよということを1990年から言ってます。
これは新聞に時々小さな記事で出てきますけれども、ところがこれは非常に大事なポイントであって、日本はいま弘兼さんが言うようにアメリカをとるのか、 アジアをとるのかという選択を迫られかねない状況になってきておる。マレーシアのほうは、「もう4年もたっているのに、まだぐずぐず日本はああでもない、 こうでもないと返事をしない」と。アメリカのほうは、「まさかおまえはアメリカを捨ててアジアの仲間と同盟をつくるんじゃないだろうな。
大東亜共栄圏をまたつくるんじゃないだろうな」みたいなことを言われておって、その間で日本政府は実はオロオロしながら時の過ぎるのを待っているという状況です。
私は、結論的に言えば、両方大事なんだと。たとえがいいかどうか分かりませんけれども、私はこの前マレーシアに行ったときに、マハティールさんに、日本にはこういうたとえがあります。
私にも母親と女房がいて、母親も女房も一生懸命私の選挙をやっています。ところが、嫁と姑ですから時々喧嘩をするわけです。喧嘩をしたときに、「あんたは一体どっちの味方だ?」 と言われたときに、おふくろにつくわけにもいかない、女房にもつくわけにいかない。とにかく2人とも大事なんだから、 まあまあ、まあまあ、とにかく仲良く3人でやっていきましょうよという嫁と姑にはさまれた哀れな夫みたいな立場なんですけれども、実はそれは嫁とも仲良くしなきゃいけないし、 母親とも仲良くしなきゃいけないというたとえ話が、日本では分かるんですけれども、むこうの人にはなかなか分からないようですが、そのぐらいにアジアも大事、 アメリカも大事ということで何とか両方仲良くやっていくように、逆に言うと、どっちかを選択するということが最悪の決断だということで、私は両方を今よりもっともっと積極的に友好関係を深めていく。
特にアジアの場合、今まで軽視していたわけですから、アジアの主要なメンバーとしての意識を高めていく必要があるというふうに思っています。
EAECを通じて交流を深めていく
弘兼  マハティールさんはEAECの第二回目の会議を東京でやってくれというふうに言っていますけれども、それを東京でやったとしたら、  つまり日本はアジアのほうにずっと傾いたというふうにみなされるんでしょうか。
中川  APEC(アジア太平洋経済協力会議)という言葉をご承知だと思いますけれども、アジア太平洋の諸国、  つまり太平洋の周りですからオーストラリアから南米から北米からアジアからグルッと回っている。
 その太平洋諸国の会議体というのがありまして、それを来年の11月、日本でやるんです。
 今年はジャカルタでやりますが、その中の1つの緩やかな隣組的なものがEAECなんで、なにもEAECをつくることが反米だとか反ヨーロッパだとかいうことじゃなくて、  同じアジアの人たちがもっともっと仲のいいサークルをつくっていきましょうよというのがEAECの構想だとするならば、別にそれは反米にはつながらないわけですから、  お隣の中国、韓国をはじめ、フィリピン、マレーシア、インドシナまで含めた東アジアというところで仲良くしていく、あるいはそれを通じてもっともっと交流をしていくということは、  今までアメリカにあまりにも比重がかかりすぎていたということを少し直していく必要があるんじゃないか。バランスをとるようにすべきじゃないのかなというのが私の考えです。
弘兼  アジアと日本が付き合うことについてすぐ問題になるのが、50年前の戦争のことです。
 韓国及び中国の一部とフィリピンの一部は日本に対してかなり強い不満を持っていますけれども、その他のアジア諸国は僕の知る限り、新聞が書くほど反日感情が強いとは思えないんです。
というのは、僕の会社員時代の同期の連中、松下電器だったんですけれども、そういう連中が東南アジアに行っていますが、反日感情というのは少なくとも彼らの耳には入ってこない。
日本に対して感謝しているのが本当なのに、日本の新聞は、ちょっと反日的な動きがあるとそれをかなり誇大にとらえて、日本に間違った情報を伝えているという話を僕は聞きましたけれども・・・。
司会  マハティール首相も「過去は振り返るな、先を見てくれ」というふうなことを村山首相の東南アジア歴訪の際に言われました。
弘兼  マハティールさんがこの時、「日本政府が50年も前の戦争のことに対して頭を下げてアジア諸国を回るのは、私には理解できない」というふうにおっしゃいましたね。
 大賛成ですね。
司会  そこのところ、中川さん、いかがなんでしょうか。
マスコミの報道にも疑問がある
中川  それに対して日本のマスコミは、「それはマハティールが日本のカネが欲しいからそういう発言をしたんだ」という報道をして、それでまたマハティールがカンカンになって怒っています。
 とにかく報道とは何かということは非常に難しい話です。 アメリカに昔、ウォルター・クロンカイトという有名なアンカーマン(キャスター)がいまして、  彼が30年間ニュースの報道をして、たった一度だけ後悔する発言をした。それはベトナム戦争は間違った戦争だったということをテレビで言ったことがあるそうです。
 たった1回だけ、30年間の間に一度だけ自分の感情を入れてしまったということに彼は非常に反省をしているという話を聞いたことがあります。
 マスコミというのはもちろん主義・主張、例えば新聞の論説的なものも当然必要だと思います。
 アメリカの新聞も大統領選挙ではクリントンがいいとかブッシュがいいとか盛んに言っているわけです。
 ところが、日本のマスコミというのは、公正・中立なようでいて実は知らないうちに皆さん方を一つの方向に持っていっているとするならば、これは大変に残念なことだと思います。
 私もあの戦争が侵略戦争だったかどうかと言われれば、侵略戦争の部分とそうじゃない部分と両方ミックスされた戦争だという理解をしておりますので、  日本は侵略戦争をしていないと100%胸を張るつもりはありませんけれども、そういうことに関する情報がブワアーッと大きく報道されて、  逆にマハティールの発言なんかいまは小さく取り扱われているのは疑問に感じております。
司会  1年3か月ぐらい前になりますが、国連を見学に行ったとき、ガリ事務総長の側近で唯一の日本人という方にお話を聞きました。
 そのとき「日本の常任理事国入りはもう決まっているんだ」という言い方をなさったんですね。「決まっているんだ」という言い方をされたときに、  1年ちょっと前だったので非常にショックだったんですね。国連の内部ではもう決まっているのかと。最終的にはそうだとしても、そこに行くまでの経緯ですよね。
 特に社会党の村山さんが総理大臣でありますから、どうやって常任理事国までの道のりを通っていくのだろうというふうに思っているんですが、  まず常任理事国入りかどうかというところから中川さんに伺いたいんです。
国連の中では日本はまだ敵国扱い
中川  よく我々のところにもアンケートが来て、「常任理事国入りをどう思いますか」「賛成の場合には軍事的貢献をすべきですか、すべきでないですか」と、  この2つの、もう本当に金太郎飴のような質問がしょっちゅう来ます。
私は、結論的に言うと、常任理事国に入るんであれば、他の国と同じ条件でやるべきだと。なにもアメリカが侵略戦争をやっていいとか、 ロシアが侵略戦争をやっていいなんていうことは何もないわけです。戦争はやっちゃいけない前提のもとで常任理事国としてやるべき権利と義務というのがあるということですから、 入る以上は本当に無条件で他の国と同じように、僕はこの部分はいやだよ、この部分は留保するよと言って入るのは私は反対です。
私が皆さん方に申し上げたいのは、この問題も憲法の問題も同じなんですけれども、今日、おうちに帰ったら、一度、条約集を開いて「国連憲章」というのをぜひ読んでいただきたいと思います。
六法全書の中にも入っています。最初の前文だけでもいいんです。それから、あと国連憲章の53条と107条という2つの条文、この3つだけチラッと読んでいただければいいと思います。
国連憲章の前文は「われら連合国は・・・」という書き出しで始まっています。そして53条と107条には「旧敵国に対してはこの国々が敵対的な行動をするときには、 軍事的制裁をとることができる」と書いてあります。
日本は常任理事国、つまりファーストクラスにこれから行けるか行けないかなんていう議論をする前に、 国連憲章上はまだ日本もドイツもポーランドもアルゼンチンも敵国だという構成のもとに現在の国連が成り立っているという現状がある。
これは機能しているかどうかは別にして、会社で言えば定款の中で「日本は国連の中ではまだ敵国扱いなんですよ」という前提のもとで世の中が進んでいるということです。
これは私の大学時代の授業で唯一憶えていることなもんですからよく言うんですけれども、国連においてはわが国はまだ敵国扱です。
確かに、12.5%の分担金を払っているんだから、ファーストクラスに乗っけてくれと言って、みんなも「まあまあ、そうだな、そうだな」と言っていますけれども、 実はまだその汽車に乗る権利すらない。切符すら実は買っていないという位置づけの中で、無賃乗車で、裏で12.5%の分担金を払って、 ひょっとしたらファーストクラスに闇で入れてくれるかもしれないぞみたいな議論だと私は思えてならない。
それから、そもそもまだ日本が戦争をやっている最中に国連はできているわけですから、その現状とのギャップがあまりにも大きすぎる。
憲法の議論もあとでお話したいと思いますけれども、この矛盾を抱えながら、「憲法の範囲で」と言う。憲法だって条文を読めばおかしいところはいっぱいあるわけです。
国連憲章も日本国憲法も改正しろとは言いません。改正ありきだとは言いませんけれども、おうちに帰ったら憲法前文、憲法9条といま申し上げた国連憲章をぜひ読んでいただきたい。
日本は世界の社会から見れば、まだ敵国だという前提で国連が成り立っているということを私は強調したいですね。
非軍事的貢献で世界に通用するのか
弘兼  もともと国連というのは今おっしゃったように、日本とドイツをこれからもう二度と暴れさせないようにしようという形でつくった組織ですから、  この時期において日本とドイツを常任理事国にあげて世界の平和のために協議をしようではないかという席に入れてくれることに対して、反対する何の理由もないと思います。
 それと国連にはいろんな理事会があって、いま常任理事国入りというのは実は国連の中の安全保障理事会というところの常任理事国なんですけれども、その安全保障理事会の中の常任理事国になりますと、  軍事参謀委員会というのに参加する資格ができるわけです。ですから、軍事参謀委員会に日本が参加して、あるところに紛争があったと。
 そのときに、 「日本はここに対しては内政干渉になると思うので、私は賛成できない」というような意見も軍事参謀委員会に入らなければできない。
 つまり、常任理事国に入らなければできないんですから、やはり日本が世界にこれからもっともっと平和を訴えていくためには、  常任理事国になって軍事参謀委員会に入ってちゃんとした発言をすることだと思いますね。
 それと日本が理事国入りしても軍事のほうの貢献はしないんだという考え方がありますね。軍事についての貢献というのが、  実はいちばんその国にとって痛いところなんですよ。自国の国民が他人の国のために死ぬわけですから。
 日本はそのかわりおカネを出しましょう、後方支援はしましょうという言い方をしたら、もし紛争が起こって、ある国に対して制裁を加えてやめさせようとするときに、  「私もちょっと軍事的貢献はいやだから」とか「うちも軍事的貢献はやめる」ってみんなが軍事的貢献の部分をはずしたらどうなります?誰が軍事的貢献をやるんですか。
 日本は憲法があるから軍事的貢献はできないというふうに当然のように言っていますけれども、世界中どの国もそこのところはいちばんやりたくない部分なのにいやいややっているわけですから、  日本は憲法があるという理由だけで軍事参加をしないというのでは世界に決して通用しないと思いますね。
司会  軍事的な貢献に行くまでに議論がまだ詰まっていないということはよく分かるんですが、例えばルワンダの隣国のザイールに行く場合にも機関銃一つで行くわけですよね。
 相手が例えばマシンガンを構えたときに何もできないということもあわせ考えると・・・。
弘兼  あそこは部族間の争いや、野盗のような連中がいっぱいはびこっていまして、ボランティアみたいな力を持たない、あるいは統率力のない組織はとても対応していけないというのが一つと、  ちょっと問題があるのは、機関銃を携行したときにルワンダの人たちが、「我々はいま迫害を受けているから、あの部族の連中をちょっと追っ払ってくれ」  と言われたときにどう対応するかというのは非常に難しいんですよ。
司会  現場に行った人たちはどうするのかなという・・・。
弘兼  そこのところがやや難しいところですね。
司会  じゃ今後、PKOを含めまして自衛隊の位置づけをどうするのか。このままにしていいのかなと。
個別的自衛権と集団的自衛権
弘兼  日本には正当防衛の一種として個別的自衛権というのがあるわけですよ。つまり、夜道を歩いていて、むこうから暴漢が襲ってくる。
 これに対して当然、主権国家たる権利で、あるいは個人たる権利で対抗することはできますよね。ところが、たとえばあなたと僕がアベックで歩いている。
 むこうから暴漢が迫ってきて、僕ではなくて、あなたに対して危害を加えてきたときに、僕がその暴漢に対抗したら、集団的自衛権の行使になりますから、  これは違法行為となる。日本国憲法ではあなたを守ることはできないんですよ。
 ですから、集団的自衛権というのはこれから議論しなきゃいけないですけれども、認めていく方向にいかないと、個別的にしか国が守れないということになる。
 そうなれば軍拡になりますよ、それぞれの国が。
 軍拡しないようにするためには、集団的自衛権というのを認めて、みんなで少ない軍備でお互いの国を守ろう、 担保していこうという形にならないといけない。
 個人それぞれしか守れないということになると、日本は安全確保のためにもっともっと防衛力をつけなきゃいけないですから、軍拡になります。
司会  中川さん、この問題は与党内ではどういうふうに話し合われているんですか。
中川  まず、一般的な議論として、どうも話がゴチャゴチャっとなっている感じがするのは、  PKOというのはそもそもピース・キーピング・オペレーションですから、戦争状態にないというのが大前提の議論だったんですね。
 PKOの一形態でPKFというのがあります。
 つまり、軍事的なプレッシャーでもって平和を維持する。つまり、平和状態を維持させるための一つの手段がPKFである。
 これも駄目よと当時の自民党・政府は言って、PKO法案というのを通しました。実は、あのとき私はその委員会の理事をやっていて、強行採決のときの突撃隊長をやったんですけれども・・・。
弘兼  机の上に立ち上がっていましたね。
中川  ええ。子供に怒られました(笑)。あのときはとにかく、いま弘兼さんが言うように、自分を守るためならいいよ、でも隣にいる人が狙われているやつを防ぐための正当防衛は駄目ですよと。
 その根拠は何かと言えば、日本国刑法36条の正当防衛の規定によるという根拠なんですね。
 それから、いま与党内でどうなっていますかというお話でしたけれども、あの反対した社会党の総理大臣が、ルワンダには機関銃を持っていっていいですよという話なんですね。
 さっき弘兼さんが内政干渉の問題というお話がありましたけれども、既に去年のカンボジアは完全なる内政干渉です。
 ポル・ポト派とヘン・サムリン派とソン・サン派の間をバッと、おまえはあっちへ行け、この間は通っちゃ駄目だといって完全な内政干渉をやっている。
 なにもイランとイラクの間に割り込んでいって、国同士の国境線を守っているんじゃなくて、完全な内政干渉。
 ルワンダの場合はどういうことかというと、フツ族とツチ族とかいう2つの種族が殺し合いをやって、難民がザイールに逃げていって、  そこでまた殺される殺されないになって、何十万人という難民、そして何万人という死者が既に出ている。
 今、何が必要かというと、彼らにいちばん必要なのは、まず平和であることと、もちろん、食糧、医薬品も必要でしょう。
 しかし、今後にとって何が必要かというと実はトイレ、便所なんですね。トイレがないから赤痢が発生したり、コレラが発生したりしているわけです。
 こういう問題に対して医療部隊と便所を運んでいくために機関銃が必要であれば、どうしてそのときにまた国内でかんかんがくがくの  議論をする必要があるのかないのかということが私にはまず非常に疑問に思うわけです。 与党内では社会党が180度変わってしまいましたから、小銃とは何かとか、  機関銃を持っていくことに対しても社会党の一応、執行部はそんなに反対していないことがちょっと不思議だなという感じがしますね。
国連の介入と内政干渉の問題
弘兼  ルワンダの派遣に関してはPKO問題とはちょっと切り離した形の「人道的見地から」という文言がついていると思うんです。
 ですから、PKOという場合は、完全に停戦状態にあるという条件がありますけれども、現在、あそこは決して停戦状態ではない。
 だから、見るに見かねての発想から行こうというのですから、この際の機関銃というのはあくまでも恐らく正当防衛的なことでは認められると思います。
中川  でも、それ自体もPKO法の解釈の変更なんですよ。
弘兼  それはそうですね。僕はもちろん、武器を持っていくことに対しては絶対必要であると思いますしね。
 カンボジア内政干渉も非常に難しい問題ではあるんですけれども、ハイチもそうなんですが、見るに見かねて論というのと、PKO問題というのは非常に難しい接点があると思うんですよ。
 ハイチの場合は、突然民選の大統領が軍事政権によって引っ繰り返されて、そのあと何千人という虐殺を繰り返しましたよね。
 その虐殺が繰り返されているのをアメリカが見るに見かねてやめろと。やめろと言うと、やめない。じゃ、経済制裁をするというので国連を通して経済制裁をした。
 どんどん経済制裁をすることによって国内が不安になってきて経済が悪くなって、難民がドーッとアメリカに詰めかけてきた。
 ここのところでアメリカは、今度は軍事介入で解決をはかろうとして、国連を一回通りましたよね。
 (今年7月31日に国連安保理が米国主導の多国籍国のハイチへの軍事介入を承認)
 だけど、軍事介入の前にハイチの軍事政権は退陣しろという要求を出すこと自体、これも考えたら内政干渉なんですよ。
 つまり、よその国のことに対して、そこが軍事政権をとろうが何しようがいいじゃないかという考え方もある。
 ただ、何千人という人が殺されているのに手をこまねいて見ていることが正しいのかどうか。
 例えばカンボジアの場合もそうだし、ハイチの場合もそうですけれども、ほったらかしにしていてもいいのかどうか。
 あるいは、止め男として中にはいってゆくべきなのか。では、どれくらいの人が殺されれば介入すべきなのか。
 千人ならほったらかし、2千人なら介入、というような基準があるのか、そこの人道的兼ね合いというのは非常に難しいですよね、国連の介入というのは。
 ここがいちばんこれからの課題になってくると思いますけどね。
司会  そういう気持ちというか、人道的援助というのはしなければならないという私たち国民の声がある前に、  与党内ではわりとフレキシブルに考えてらっしゃるようですね。
でも、いま初めて伺いましたけれども。
憲法前文と9条は矛盾している
中川  私は弘兼さんと同じで行け行けドンドンのほうですから、国際貢献といいましょうか、要するに日本というのは、石油にしても鉱物資源にしても、  世界と仲良くして平和でなければ繁栄していけない国ですから、困っている国があれば助ける、あるいは戦争状態にある国があれば国連のもとで紛争解決のために努力する。
 それは自衛隊員だって行きたくありませんよ。お医者さんだって行きたくないと思いますけれども、国民のコンセンサスが得られれば、積極的にやっていくべきだと思っていますから。
 ただ、それが憲法9条を読めば、自衛隊なんか持てっこないと思っているんです。今日帰って憲法9条を読んでみてください。国の「交戦権は否定する、戦力は放棄する」と書いてあるんです。
 だから自衛隊をどんなに言おうが何しようが、あれは軍隊であることは間違いないんです。一方、憲法前文には世界の皆さんの「信義の上に立って、  日本人は国際的に名誉ある地位を占めたい」と書いてある。そのために、国際貢献をどんどんやりましょうみたいなことが書いてあるのですが、このへんも憲法というのは矛盾しているんですね。
 私は、憲法というのはやっぱり見直すべきだという人間なんですけれども、とにかくわが党というか、連立与党ですから、  いちばんまとまりやすいところで議論を進めなきゃいけないというちょっとややこしいところがありますけれども、幸いなことにというか、  不思議なことに、社会党の中にも、ルワンダを含め、ボスニアの問題にしても、ハイチの問題にしても、行く行かないは別にして、もっと積極的にやるべきじゃないのかと。
 これは常任理事国になりたいということのひとつの保険金を少し払わなきゃいかんのかなという議論がどうも政府の中にあるような気がしてなりませんけれども。
司会  分かりやすい話に少し戻したいと思うんですけれども、さっき、弘兼さんが漫画を描いていて、政治のほうがどんどん先に変わっていってしまうから、  漫画のほうが何となく追つかなくなってきたという話があるように、やっぱり私たちが予測している以上に、政治がいま変わりやすいというか、何があってもおかしくない状況にあるわけです。
 そうなったときに、中川さん、例えば与党でも野党でも結構ですけれども、この人の動きを注目していると先が読めるよとか、そういうのってないですか、何か指針になるような。
 あるいは、この派閥の動きを見ていると分かりやすいとか、そういうのは分からないですかね。
派閥というのはもうなくなっていく
中川  私、一応、昔の福田先生、安倍先生のあとの三塚派という派閥にまだ所属しています。去年から派閥のシステムが変わりまして、  今までは非常に面倒を見てくれたんですけれども、これからは月に5万円ずつ我々が払って、一株株主の株主を公開した中小企業みたいなもので、  今までは給料もボーナスも全部オーナーからもらってたけれども、我々は今度は株主になってささやかながらみんなで組織体を維持していこうねということで、  派閥というものはどんどんこれからなくなっていく。特に小選挙区制になれば、私は完全になくすべきだというふうに思っております。
 ただ、派閥と、気の合った連中あるいは一緒に行動したいと思っている連中がくっついていくこととはまた別の次元で、政治家というのは常に群れたがり、  一人でいる不安感というのを常に持っておる存在ですから、常に誰かと一緒にいたい。誰かと一緒に行動したいということはあります。
 そういう意味で田中派みたいな鉄の団結を持った派閥というのはもうなくなっていくと思いますけれども、いわゆる政策集団的なグループというのは、  今後ますます流動化して盛んになっていくと思います。
 ただ、この人の動きを見ていれば先が読めるというのは、天気予報が何%当たるでしょうかという次元の話であって(笑)、小沢さんと市川さんの動きを見ながら、  一方で自民党の動きを見ながらという、なんか連立方程式みたいなものを解いていくことによって一つの方向性は見えますけれども、  今こういう混乱の中で、一人の政治家の動きでもって全体が分かるという状況じゃないし、またそうではないだけに、ある日突然、後藤田さんが総理大臣になるかもしれないということです。
司会  人ということじゃなくなってきた。人が引っ張っていくという感じじゃなくなってきたということですか。
政局の動きが読めない状況にある
中川  最終的には人なんです。人なんですけれども、とりあえずはいま自・社・さきがけで仲良くやっていこうよと。
 それから、むこうはむこうで新・新党をつくろうよということで当面の目標はいま合うものですから、  そういう意味では大きな流動化のカギを握る男は一体誰かというような意味のキーパーソンは今の時点ではいない。
 状況が変わればまた出てくるかもしれませんけれども・・・。
司会  弘兼さんはどういうふうに見ていらっしゃいますか。
弘兼  政局の動きはほとんど予想つかないです、今は。
司会  この先、描けないですね。
弘兼  ええ。だから、僕、いま朝鮮問題とか外国の問題に視点を移しているんであって、実は国内における政党の合従連衡とかそういうのをあまり追っ掛けていると、  新聞とかテレビみたいにちょっと安っぽい次元になりますので、僕はもっと高邁な原理・原則というか、日本と世界というのはどういうふうにかかわりあっていくか、  あるいは日本はこれからどうやって生きていかなければいけないかということに焦点を絞って漫画を描いているんです。
 これから政治家がどうなっていくのか、また政党がどうなっていくのかということですが、私は恐らくいまの自民党という形、新生党という形はなくなっていくような気がします。
 政界再編は、これからまだまだひと山ふた山もありますから、いまの段階では何とも言えません。先行きが見えないという状況ですね。
司会  ひと山ふた山、先行きは見えないけれども、もう少しはっきりと先のことを知りたい。この「21世紀倶楽部」というのは、20代の方々が中心になっています。
 いま20代の方たちが30代、40代になって社会の中心になるときに21世紀が来るということで「21世紀倶楽部」と言うのだと思うのですが、  今回のテーマが、「混迷の時代を生きるためのモノサシづくり」、これは今お話いただきましたけれど、さらに「これからやらなければならないこと」についてなんですが、  私たちサラリーマンの次元で、やらなければいけないこと、あるいはこれを注目していったらいちばん先が読める、見えてくるというようなこと、  ポイントがすごく漠然としていて申し訳ないんですけれども、それを教えていただけますか。
弘兼  これからは世界ともっともっと付き合っていかなきゃいけないと思いますから、どちらかといえばアジアの言葉をサラリーマンの人は1か国語覚えていただきたい。
司会  アジアはどこが・・・。
才能を伸ばすような教育システムに
弘兼  東南アジアでは特にホテルとか観光業界では、日本語が全部通じますから、彼らにとって国際語は英語よりもむしろ日本語という感覚でとらえていますから、  こっちが勉強しなくてもいいという感じもありますけれども(笑)、そういうわけにもいかなくて、やっぱりお隣の韓国の言葉も中国の言葉も、  サラリーマンとしてこれから恐らく付き合うことが多くなると思うんで、今のうちに勉強していると多少出世に関係あるかなという気はしないでもないですね。
 それと日本の国際競争力について言いたいんですけど、実は僕、去年の12月31日に小沢一郎さんと会ったんです。小沢さんがどこへ行ったのかとマスコミが探していたときですが、  あの方は新生党の事務所の地下におりました。そこで一時間ほど話をしたんです。
 そのとき7割ぐらいは北朝鮮問題を話し合ったんですけれども、3割ぐらいは日本の教育システムについての話をしました。教育については前から僕らも考えていたことで同感だったんです。
 僕が松下にいたときのことですが、特許の件数をアメリカと比べてみましたら、わりと近い数を日本も持っているんですけれども、アメリカは基礎工学的な原理のことに関する特許をいっぱい持っている。
 日本はいわゆる応用工学の分野には非常に強いんですよ。ところが、なぜこういう原理ができるかとか大本のところを押さえていないんで、日本というのはそういう意味ではすべての面で立ち遅れています。
 医学なんか特に立ち遅れていますね。
 では、日本ななぜできないのかというと、英才教育というのがないからだという1つの結論があるんですよ。というのは、日本の教育というのは日教組という非常に悪いシステムがありましたから・・・(笑)。
 要するに悪平等みたいな感じがありまして、確かに識字率というのは世界で非常に高いんですけれども、できる子が突出しようとしても、  できない子がそのレベルに追いつくまで学校の授業というのは待ってやるんですよ。
 ですから、できる子まで抑え込むという形になりまして、 ある種の才能がある子供が、ある時点のところで平均化されるような教育になっている。
 したがって、昔ありましたけれども、飛び級制度とか、もっとできる子供はグングンと引き上げるような制度をつくってやらないと、  日本の基礎工学に関する力というのはつかないのではないかということを、そのとき小沢さんも言っていました。このことは前から僕らも考えていたことで、まったく同感だと思います。
 あまり平均化した教育というよりも、できるやつはできる、できないやつは勉強に向いてないんだから、それはできない、しょうがないというのを認めていかなければならないのではないでしょうか。
 ある程度、弱肉強食の世界になるかもしれませんけれども、もうちょっと差をつけていいんじゃないでしょうか。 日本の平等社会というのは、結果としての平等を求めるばっかりなんですよ。
 これは先程、後藤田さんもおっしゃったように、非常に社会主義的であると。アメリカは平等社会といっても、機会の平等ですから、結果としては差がつくけれども、  それに対するチャンスは全部平等であるという考え方ですから、日本のように結果の平等を求めるやり方では、平均化しすぎて突出した人は出てこないというような気がしますね。
日本は革命が起きる状況になかった
司会  それは反対に、偏差値社会で平均的な人間をつくることによって革命が起きないとか、戦後の教育体制というのは平均の日本人をつくるためにあったんだというふうにも思えますが・・・(笑)。
弘兼  革命が起きないというのは、革命が起きる状況にないからですよ。戦後の日本でどこに革命をおこさなければならないところがあるのかと言われたら、何もないですよ。
 社会主義革命なんかする必要はまったくなかったわけですからね。ずーっと発展していったじゃないですか。これほど世界で豊かな国になって、  しかも夜道を女の人が12時過ぎに1人で歩ける国というのは、先進国ではどこを探してもないと思いますよ。
 そのくらい日本というのは経済にしろ治安にしろほぼ完璧に仕上がった国ですから、革命する状況なんてどこにもなかったと思います。
 僕ら全共闘世代ですけれども、あのころの行動はただの遊びでしたよ、ほんとに。70年代ですけど。
司会  遊びだと。
弘兼  確かにただのファッションだったと思いますね。その証拠に、僕の早稲田大学法学部の連中は、なんだかんだ言っていたやつがみんな髪を切って、  就職希望者の9割以上は大企業に入りましたよ。これが何の革命でしょうか。僕は1年のときはちょっとやりましたけれども、2年からはアンチ社会主義でずっと通しました。
司会  そうなんですか。続けて、同じ質問なんですけれども、中川さん、お願いします。
歴史を勉強し直すこと
中川  実は私がサラリーマンになった昭和53年、銀行だったんですけれども、エネルギーのことを一生懸命その当時やっていまして、  1990年代には石油は枯渇すると先輩の専門家、エネルギー問題の専門家が一生懸命言っておりました。いま90年代半ばに入って、  そんな議論をしたらバカじゃないかと言われるわけですけれども、そのころから日本という国は目標がなくなってきたのかなと。
 日本は明治の初め、あるいは大正、そして戦争、敗戦後ずーっと1つの他力本願的な目標を持って進んできた。ところが、目標がなくなった。
 この先、確実にやってくるのは高齢化社会であり、また若い人の世代が少なくなってしまうという、その中でどうやって皆さん方の生活あるいは我々の国をつくっていくかということになると、  正直言って我々の中にもどの程度目標をはっきり持っている人がいるか分からない。「普通の国家」とか、「キラリと光る」とか、  「やさしい国家」とかいろいろ口では言っていますけれども、具体的に何かといったら全部役人のつくった作文ですから、内容はみんな大同小異です。
 そういう中で特にこういう若い、今を考えながら将来のことを考えている皆さん方に逆にお願いをしたいんです。はっきり申し上げて、我々にはもう限界があります。
 だからこそ皆さん方に期待をしたい。そのためには何をすべきかということを私なりにアドバイス的に申し上げると、一つは歴史を勉強し直すことだろう。
 それはたぶん自分の歴史であり、あるいは家庭の歴史であり、あるいは所属している会社なり組織の歴史であり、そしてわが国なり世界の歴史を、  なにも縄文時代から調べる必要はないんで、何となく似ている時代というのが過去あったわけです。第一次世界大戦に勝ったと言ってみんな喜んでいた時代だとか、  アメリカの大恐慌前みたいに繁栄した時代だとか、ワイマール時代みたいにみんなでワアワア騒いで、そのあとに必ずノストラダムスの破壊の時代がやってくるということを考えたときに、  絶対にそれを起こさせちゃいけないためにやっぱり歴史の教訓に学ぶべきだろうというのが一つ。
 それからもう一つは、さっき弘兼さんがおっしゃったことと同じですけれども、教育の問題だろうと思います。
 それから、さっきの話じゃありませんけれども、日本はアメリカと違って自分の国だけで生きていける国じゃないし、ほっておけば世界からプレッシャーをかけられやすい国ですから、  世界の国と仲良くしていくためにはどうしたらいいのかなということ。
政治に積極的に参加してもらいたい
中川  私は最後に申し上げたかったんですけれども、皆さんもご覧になったと思いますが、スーダンでハゲタカが子供が死ぬのを待っている写真でピュリッツアー賞をとって、  最後、自殺した写真家のあの写真、あるいはもう一つはさっきおっしゃったハイチで死んだ子供を食べているブタの写真というのを見て、ゾッとしました。
 これは皆さんもたぶんそうだと思います。日本はそんな国になりっこないだろうと思いますけれども、しかしこれから先、5年、10年、  ビジョンと緊張感を持たないと日本という国はそういう国とは言わないけれども、いろんな意味で三等国、四等国になってしまうということになると、  これは我々の責任であると同時に皆さん方の責任でもあろうと思います。
 そういう意味で私は、さっきちょっと申し上げたようにマスコミとの緊張関係、あるいはお仕事を通じて行政との緊張関係をもっともっと持っていただきたい。
 それと同時に政治に対する緊張関係ももっと持っていただきたい。確かにいま政治が結構面白いと。浜田幸一さんが政治解説すると視聴率がバンと上がる。
 日曜日は朝から昼まで政治絡みの番組をやっている。スポーツ新聞、奥様番組でも政治をやっている。面白い。面白いけれども、じゃ皆さん方が本当に政治に参加しているかというと、  選挙のたびに投票率が下がっているということになると、皆さん方は政治を面白いか面白くないかだけで見ている。冒頭、私が申し上げたように参加をしていただきたい。
 主役は皆さん方なんですよということは、今日お集まりの皆さん方が何か一点で例えば一致をして、20年後の税制のあり方はこうだ、この一点で一致してもいいですし、  あるいは何とかはけしからんとか、何とかはいいの一点でもいいですから、行動を起こしていただきたい。
 と同時に、選挙のときには投票してもらいたい。これはなにも知っているやつがいなければ、あるいは気に入ったやつがいなければ白票でもいいんです。
 あるいは落書きを書いて投票してもいいんです。これは立派な投票行動ですから。投票所に行っても知らないやつばっかりだし、なんかよく分からないから誰とは書けない。
 しかし、白票を投票することは立派な皆さん方の権利であり義務だと思います。
 そういうことを含めて最終的には政治に対する緊張感を皆さん方のほうから我々に与えていただければ、我々ももう少し知恵がまた生まれてくるんじゃないのかなということを感じています。
司会  長時間にわたってお話を伺ってまいりましたが時間となりました。これでトークショーを終わらせていただきます。
 両先生には本当にご協力いただきありがとうございました。

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