2009-09-17 07:11:07

日本はすでに解雇規制が弱い国(30カ国中7位)、1位のアメリカめざした経済財政諮問会議は消滅

テーマ:ワーキングプア・貧困問題

 鳩山内閣発足の影で、構造改革、新自由主義改革の司令塔として、「貧困と格差」を拡大してきた経済財政諮問会議が消滅しました。


 2001年から8年半もの間、小泉純一郎氏、竹中平蔵氏、御手洗冨士夫氏、八代尚宏氏など政・財・御用学者が、経済財政諮問会議の中心となり、やりたい放題でした。


 経済財政諮問会議が進めた労働法制の規制緩和、「雇用の流動化」はこの間どうなったのか。政府白書のデータで見てみたいと思います。(※貧困の広がりについては、先日の社会保障学校での都留文科大学・後藤道夫教授の講義要旨を近々エントリーしたいと思っています)


 厚生労働省の「労働経済白書」(2009年) によると、非正規労働者は下の表のように、2001年27.2%から2008年34.0%に増加し、派遣労働者は45万人から145万人と100万人も増えています。経済財政諮問会議に言わせると、「雇用の多様化」が実現したということでしょう。

すくらむ-雇用者数


 年齢階層別に見ても、下のグラフのように、すべての階層で、非正規労働者が増加しています。(※同じく「労働経済白書」2009年から)

すくらむ-年齢別


 賃金面を見ても、下のグラフのように、日本の労働者の賃金は低くなっています。(※「労働経済白書」2009年)


すくらむ-賃金


 そして、この間、ブログへのコメントで、「日本の強すぎる解雇規制が様々な問題を引き起こしている原因だ」という趣旨の意見が寄せられているのですが、下のグラフにあるように、日本はOECD30カ国の中で7番目に雇用保護規制が弱い国です。(※内閣府の「経済財政白書」2009年 、214ページ)


すくらむ-解雇規制


 経済財政諮問会議が、日本の労働市場の硬直性を改善するとして、「雇用の多様化」や「雇用の流動化」、「労働市場の柔軟性」を高めた結果、労働者の3人に1人が非正規雇用となり、日本はOECD30カ国の中で7番目に解雇規制が弱い国になっていて、すでに「雇用が流動化」した国になっているのです。


 加えて、「経済財政白書」(2009年)では、「常用雇用と臨時雇用の保護度合いの差による影響は不明確」という項目で、次のように指摘しています。


 「正規雇用は守り、非正規雇用は守らない」という制度の二極化がある場合、非正規雇用者に失業リスクがしわ寄せされる可能性がある。こうした可能性の存否を調べるため、ここでは、雇用保護指標の常用雇用要因と臨時雇用要因がそれぞれ平均以上にあるか、それとも平均以下に位置するかという点に着目し、OECD諸国を4つのグループに分ける。その上で、若年失業率や平均失業期間にグループによる差があるかを見よう(第3-1-15図 ※下図参照)。

すくらむ-正規非正規


 第一に、若年失業率については、ドイツやオランダという両要素に差がある諸国において顕著に高いという関係は認められない。むしろ、単に雇用保護指標全体や臨時雇用要因が高い諸国において、若年失業率が相対的に高くなるという傾向が見られる。


 第二に、平均失業期間を見ても、両要素に差がある諸国で特定の傾向があるわけではない。むしろ、両要素ともが低い諸国、すなわちアングロサクソン諸国を中心に、顕著に平均失業期間が低くなっている傾向が見られる。これらの国では、失業給付などが手厚くないケースが多く、長期失業の状態を続けることが困難なことが反映されている面もあろう。


 以上の検証からは、正規と非正規雇用者の間の法的保護の差が、非正規雇用者の失業リスクを高めているという証拠は不明確であることが分かる。(※内閣府「経済財政白書」2009年、216~218ページから)


 以上、見てきたように、すでに日本は「解雇規制が弱い国」です。それでももっと「雇用の流動化」が必要だとなると、7位から1位の「解雇自由」なアメリカをめざすことになりますが、それはすでに先日のエントリー「解雇規制撤廃論者があこがれるアメリカの『大搾取!』」 で指摘したようなことになります。7位から1位へと「解雇を自由」にして、一体何の問題が解決するというのでしょうか? かえって事態は悪くなるばかりであることを、小倉秀夫弁護士がブログで、「『解雇自由』な米国での解雇の実例」 として紹介してくれていますので、解雇規制のない社会の現実を最後に確認しておきましょう。


 ▼「解雇自由」な米国での解雇の実例(小倉秀夫弁護士のブログより)


 労働契約法を改廃して「解雇自由」としたとしても,「整理解雇」が容易になるだけで,不当な解雇がなされることはないと信じている方が、経済学愛好家の中にはおられるようです。何をもって「不当」と考えるかはその人の正義感によるところもあるので、「解雇自由」な米国で実際に報道された解雇例を示すことにより、そこで行われる解雇が「不当」なものかを見てみることにしましょう。


 ●肥満を理由とする解雇
 ●自宅で喫煙したことを理由とする解雇
 ●ゲイであることをカミングアウトしたことによる解雇
 ●「香水の付けすぎ」という理由での解雇
 ●地元の高校で開かれた演説会で、ブッシュ大統領が対イラク戦争と大量破壊兵器の捜索について話している時に「同意出来ない」と叫んだことを理由とする解雇。
 ●『MySpace』で経営者への不満を漏らしたことを理由とする解雇
 ●自分の妻に交際を迫ったが拒絶された上司から、その報復として、「仕事の成績が悪い」と上位の管理者に報告されたことに基づく解雇
 ●新興教会の信者だった雇用主から、その新興宗教団体の提供する性格テストを受け、プログラムに参加するよう求められたのにこれを断ったことを理由とする解雇
 ●共和党政治家たちから昨秋の選挙前に対立民主党候補の起訴などを強要されたがこれを拒否したことでの「職務怠慢」を理由とする解雇
 ●アフガニスタン空爆に反対したとの理由で、米国立平和研究所職員の解雇
 ●大衆に人気のある資料を重視した等の理由での図書館長の解雇
 ●別の部門チームがミーティングを終えた部屋にあった食べ残しのピザを食べたことを理由とする解雇
 ●女性飼育員が、手話で会話すると世界的に有名なゴリラに胸を見せろと強要され、これを拒否したことを理由とする解雇
 ●コカ・コーラを配達していた同社トラック運転手が勤務中にペプシ・コーラを飲んだことを理由とする解雇
 ●負傷した背中の痛みを和らげるために医師の薦めでマリファナを使用していたことを理由とする解雇
 ●ウエイターが南米からの客にメニューをスペイン語に通訳したことを理由とする解雇


(byノックオン)

コメント

[コメント記入欄を表示]

1 ■無題

まあ、順位は7位でも、不当な解雇ができるほどには
正社員の解雇規制は弱くないってところなんですかね

こういうのは非正規ではありそうだけど

2 ■言ってる事がおかしい

また自分に都合のよいデータばかり。
正規雇用ではなく、労働者全体の解雇規制のデータだもの。
中小零細の社員や非正規はバカスカ切られてるんだからそうなるでししょ。

問題は正規、非正規の間にダブルスタンダードがあること。原則として、非正規が切られるまで、正規は賃下げすらされない。大して働いていない高給取りの中高年も。だから、解雇の基準はみんな同じにしようといってるだけでしょ。

働きの割りに貰いすぎの人の給与下げずに、どうやったら「同一労働同一賃金」になるんだよ。解決策はオランダ、北欧型だと言っておきながら、整理解雇するなって矛盾しすぎ。いい加減にしてくれ。

情報操作しようとするのはもう止めて。

3 ■無題

>非正規が切られるまで、正規は賃下げすらされない。
>大して働いていない高給取りの中高年も。

 これを証明するデータはあるのか?

4 ■偽善者

結局、このブログの筆者は偽善者なんですよ。

派遣やワーキングプアを問題にしながら、正規、非正規の二重構造は残せ、と主張している。

「整理解雇」が認められなければ「同一労働同一賃金」「フレクシキュリティー」は実現できないというまっとうな指摘は完全無視。

アメリカの悪いところばかり並べてるけど、日本の非正規はたいした理由もなく解雇されてますよ。

「解雇」されることの無い世界、共産主義でも目指しますか?

5 ■若者マニフェスト

■ 労働・雇用
1 人材市場流動化のため、労働条件の不利益変更と解雇ルールの明文化
2 大手企業への非正規雇用労働者からの採用枠義務づけ
3 流動化前提での、同一労働同一賃金の法制化
4 雇用調整助成金の廃止
5 退職金優遇税制の廃止
6 全労働者対象の、再就職訓練と雇用保険のセット

6 ■無題

そもそも、雇用の流動性支持派は正規雇用の解雇規制緩和を支持していて、非正規雇用の解雇規制の緩和を支持している酔狂は殆どいない。それは失業率が大幅回復したオランダをモデルとしているからだ。

連合が本当に労働者の見方であり存在感を示したいのであれば企業・労組間の対立を煽るのではなく、「オランダの奇跡」をモデルとした提案を行うべきだ。長期的に失業率が低下することが最大の労働者保護であり労働者の富を拡大すことをお忘れなく。

7 ■無題

これは非正規雇用や中小零細をひっくるめた統計でしょ。大企業の正社員、ましてや公務員のことでは断じてない

8 ■無題

格差という点では日本の文化的な面から見て、ある程度抑えなくてはならない問題ではあるだろうと思います。
ただ、非正規雇用がなくなったほうがいいかといえば、あったほうが良い。解雇規制は弱いより強いほうが良い。
それは、労働者にも柔軟な働き方があっていいと思うからですが。
現状の問題点は非正規が増えすぎた(正規雇用されるはずだったものが非正規雇用となる)ことで、長期的に安定して働く事を希望しているにもかかわらず、正規雇用されなくなるというマイナス面が少子化、税収など、様々な面で発生してきているからでしょう。
ワークシェアが今必要な方法だと思います。
いつも思うのですが、わかりやすいように具体的な数字を出そうとすればするほど、日本が国際的平均化してしまうのではないかと思います。
国際比較は参考値であって、それが日本がどうあるべきかという答えは出せないのではないでしょうか。

9 ■???

>ealot

よく意味が分かりませんが・・・

ここで問題にされているのは正規、非正規の間に、賃金や技能習得機会、解雇要件などについて大きな差があるということでしょう。フルタイム、パート、派遣などの違いはあっても、それは単に「雇用形態の違い」ということであって、職務に応じた時間当たり同等の賃金が支払われる。これがEU指令における「PAY EQUITY」の考え方です。その条件でパートや派遣を残す、という意味であれば同意します。

しかし、ワークシェアと強い解雇規制が両立することはあり得ません。オランダの例を見れば分かるはずです。

10 ■無題

 大企業や大資産家に応分の負担を求めるというと、海外へ逃げちゃうとくだらない理由でそれを認めて。

 逃げられない人に対して、賃金を下げろと圧力をかける人間のその顔を見たい。どの口が言葉をつげているのかと問いたい。

 まずは、応分の負担をすべきところからがっぽりと取ることだろう?

11 ■民間を知らない公務員の妄言

正社員の解雇規制が強すぎる結果、どうなったか?

「過剰雇用」最多の607万人
http://job.yomiuri.co.jp/news/ne_09072406.htm

大手企業を中心に社内失業者がこれだけいる。本当は賃下げ、解雇を行い、成長産業に人が行くようにしなければならないが、現在の法解釈上、それは不可能である。

大企業の横暴と言うが、なぜ多大な内部留保を確保するのか。設備投資のためもあるが、一番大きいのは、不況の折にも現在いる社員の雇用、賃金を守るためである。つまり、解雇規制が強すぎるゆえに、不況に備えて備蓄をせねばならず、好況でも社員の給与は増えないという、本末転倒の結果になっている。雇用調整助成金というのも、賃下げすら困難な社員の賃金を守るためのバラマキ、税金ですよ。

自動車大手のT社。若手正社員は過労死寸前の過酷な労働条件で働かされている人がたくさんいます。大手電機H社、T社。数だけは多い暇な管理職が高給をとっているせいで若手は疲弊。不況がこのまま続いて、生産が回復せずに内部留保が切れたら倒産ですよ。

日本はいまだに終身雇用幻想が残り、「解雇=悪」という考え方が強いようだが、グローバル化の時代にあって、それでは生き残れない。解雇規制を緩和し、職務給化を促進することで、労働力の適正分配を行うことこそが重要なのである。

12 ■整理解雇できるようにしないと国がもたない

http://video.google.com/videoplay?docid=-8030599967501748904#

13 ■無題

このブログは読む価値なし

14 ■以下の正論に、論理的な反論が出来ますか?>ノックオンさん

結果、現在の日本には、正社員と非正規雇用労働者のダブルスタンダードが存在する。前者には高度成長期につくられた手厚い保護がなされ、後者はそれを支え るためだけに使い捨てにされる状況なのだ。たとえば、米国経済急失速をもって、トヨタは国内2300名を超える派遣請負労働者を切り捨てている最中である が、正社員は誰1人クビを切られず、賃下げもなされない。雇用に関するリスクはすべて非正規側にしわ寄せされるためだ。

それでいて過去数年間の好況時には、共に働いて得た利益のなかから労組だけにベアが回され、非正規側に回ることはなかった。しかも連合が労働分配率の話を するときには、法人企業統計ベースの話ではなく国民所得ベースで議論し、これだけ下がっているのだからもっとよこせと要求する(非正規雇用労働者もカウン トできるため)。これを搾取といわずに何というのか。

対策の方向性は明らかだ。ダブルスタンダードを解消し、痛みを正社員と非正規雇用労働者のあいだで適正に分配するしかない。それには、賃下げや降格、解雇も含めた正社員の雇用規制を大幅に見直し、人材流動化を推し進める労働ビッグバン以外にはありえない。

15 ■Re:以下の正論に、論理的な反論が出来ますか?>ノックオンさん

>某さん

リンク先の城繁幸氏、まさに財界の代弁者ですね。財界主導で貧困を作り出しておいて、その責任を労働者に押しつけるというものですが、まさにこれが「貧困スパイラル」を生み出す論理・仕組みです。応答エントリー「解雇規制緩和でなく劣悪な仕事なくす社会保障が必要 - 福祉国家づくりと均等待遇こそ不可欠」をご覧ください。
http://ameblo.jp/kokkoippan/entry-10348008793.html

16 ■無題

>城繁幸氏、まさに財界の代弁者ですね


これ、名誉毀損だよ。

富士通の内情暴露して、大企業の体質を批判しまくってる人が財界の代弁者なはずなかろうに。

17 ■でさ

この地球上に存在して、あんたが一番ベスト・理想に近いと思う雇用制度ってどこの国の制度?

いや、頭の中だけで捏ね繰りまわしたり、欠点を完全無視して甘いこというだけなら誰でもできるじゃんね。

18 ■Re:言ってる事がおかしい

>武者さん
むしろすくらむのやりたいようにやらせて実例を作ることで、より多くのバカ予備軍を救済できるのでいいのではないか。


改革しすぎて流動化、規制しすぎて国家破産、これら両極端がこいつらにとって一番まずいシナリオなのだから、全体の整合性のない我田引水プランをネットで垂れ流して現状維持を図る作戦なんだろうよ。

19 ■無題

応答エントリで挙げているのは大企業の内部留保と株主配当ですか・・・それで話を誤魔化せるわけがない。

これでは城氏のような若い世代と話が全然かみ合わないでしょう。年月が経てば社会も変わりますね。現在の日本の労働組合は社会・経済に対して盲目になってしまったのか、あるいは、正規・非正規の二重構造の上側にどっかりと居座った社会の既得権益者なのか、まあ、よく分かりませんがこれでは先は長くなさそうです。。。

コメント投稿

コメント記入欄を表示するには、下記のボタンを押してください。
※新しくブラウザが別ウィンドウで開きます。

一緒にプレゼントも贈ろう!

トラックバック

この記事のトラックバック Ping-URL :

http://trb.ameba.jp/servlet/TBInterface/10344304072/20a824d1