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2009.9.7

マグネシウム合金に多様な色彩を与える表面処理技術を開発〜nmスケールの微細な表面構造を形成することにより多彩な色を発色〜

 

 独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研)は,マグネシウム合金を高温の超純水で処理するだけで,表面にnmスケールの微細構造を形成する表面処理技術を開発したとのプレスレリースを2009年8月26日に行った.微細な表面構造を形成することで,多彩な色(構造色(注1))を発色でき,マグネシウム合金の表面にデザイン性を付与できるものである.産総研,サステナブルマテリアル研究部門 金属材料組織制御研究グループ 石崎貴裕研究員の研究成果である.

 マグネシウムは実用金属の中での最軽量という特徴から,ノートPC筐体や自動車のインパネ(ダッシュボード周りの計器盤)などに使われている.このような用途では,マグネシウム表面にデザイン性を付与することが必要で,自動車等と同様の塗装処理が行われている.この工程は複雑かつ高コストになるという問題があり,簡便かつ低コストでマグネシウム表面にデザイン性を付与する技術の開発が望まれている.

 産総研では,省エネルギー・省資源の観点から,生物の体内で営まれている巧みな反応系や制御システムを真似て人工的に効率の良いシステムを作るプロセス技術,つまり生体の機能を模倣した人工技術「バイオミメティックプロセス」の開発に取り組んでいる.今回,タマムシ(玉虫)の翔翅(注2)が表面の多層構造と凹凸構造により発色する現象(構造色)に着目し,マグネシウム合金の表面に微細な構造を形成する表面処理方法の検討を行った.

 今回開発した表面処理技術は,密封容器内に超純水とマグネシウム合金(AZ31やAZ61 (注3))を封入して,120℃の温度で一定時間(2.5〜10時間)保持するという簡便なプロセスである.この処理により,マグネシウム合金の表面にnmスケールの微細構造体を合金表面に形成することに成功した.この微細構造体は,合金表面に対して垂直方向に成長した膜で,径が100nm以下で長さが200〜2000nmのファイバー状のもので形成され,これが50〜100nm厚さのシート状となっているものである.この微細構造のスケールは,処理温度や処理時間に依存して変化し,そのスケールにより合金表面の色彩も変化することが確認されている.赤色系から紫色系まで変わるという.本処理技術は,化学的に活性で水との反応性が高いために腐食性が高いというマグネシウムの欠点を,逆に利用したことに特徴がある.

 本処理技術は,1)薬品を使用しないので廃液が出ない,2)処理反応の再現性が良い,3)金属光沢を維持したまま色彩を付与できる,4)大面積の処理が容易である,などの点で従来の塗装処理より有利であり,マグネシウム合金に関連する着色などのプロセスの大幅な簡略化・省エネルギー化に寄与できると期待している.本技術の詳細は,2009年8月28日に東京で開催されたマグネシウム協会「第12回表面処理分科会」で発表された.

(注1)構造色:可視光の波長あるいはそれ以下のサイズの微細構造による発色現象.物体自体は着色していなくても,微細構造により反射する光同士が干渉するために発色する.
(注2)翔翅:甲虫類の前翔がキチン質化(キチン・キトサンの総称で,含窒素多糖類)して硬くなった翔のこと.
(注3)AZ31やAZ61:マグネシウムにアルミニウム(A)と亜鉛(Z)を添加した合金の呼称で,AZ31は(A)3%と(Z)1%をマグネシウムに加え,AZ61は(A)6%と(Z)1%を加えたもの.

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