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国際離婚:福岡・柳川で子ども連れ去り…父親逮捕、米で波紋 外交問題に発展も

 ◇2児取り戻そうと

 国際結婚後に破綻(はたん)した夫婦間で、一方の親が子を母国に連れ帰るトラブルが社会問題化する中、米国人男性が先月、元妻が暮らす福岡県内で子を連れ戻そうとして逮捕され、波紋を広げている。米メディアも大きく報じ、ワシントンの日本大使館前では米国人らの抗議行動も起きた。欧米各国からは、国際結婚を巡る紛争解決のルールを定めた「ハーグ条約」を日本が締結していないためトラブルが多発しているとの批判が高まっており、今回の逮捕劇は日本の外交問題の新たな火種になりかねない情勢だ。【工藤哲、井上秀人】

 未成年者略取の疑いで福岡県警柳川署に逮捕されたのは、クリストファー・ジョン・サボイ容疑者(38)。逮捕容疑は先月28日午前7時45分ごろ、柳川市内で、日本人の元妻に付き添われて通学途中だった小学3年の長男(9)と小学1年の長女(6)を、レンタカーに無理やり乗せ、連れ去ったとしている。元妻が110番通報し、2人の子と福岡市の米国領事館前に現れたサボイ容疑者を警察官が職務質問して逮捕、子も保護した。柳川署は「日本の事件で、日本の法律に従って調べを進める」としている。

 AP通信など米メディアはこの事件を一斉に報道。在米日本大使館によると、米CNNテレビが家族の写真入りで報じ、今月3日には十数人が約2時間、大使館前で抗議行動を展開した。

 柳川署によると、サボイ容疑者は95年に日本で元妻と結婚し、日本国籍も取得。その後家族で渡米した。

 サボイ容疑者の日本の弁護人によると、同容疑者と元妻は今年1月、テネシー州で離婚した。同州ウィリアムソン郡裁判所の離婚判決書によると、サボイ容疑者と元妻との間で▽子は元妻と州内に住み、年4カ月はサボイ容疑者と過ごす▽どちらかが子と州外に引っ越す場合は事前に相手に連絡し、同意を得る▽財産の半分を元妻に与え、養育費も支払う--などが取り決められた。

 ところが、元妻は8月、連絡せずに2人の子と帰国。このため裁判所は子の監護権を同容疑者のものと認め、地元警察も子の略取容疑で元妻の逮捕状を取り行方を追っていた。

 在日米大使館は政府同士のやりとりは外交上明らかにしない立場で、今回の事件についてもコメントしていない。一方、外務省はハーグ条約については「締結の可能性を検討中」としているものの、事件に関しては「捜査にかかわる」として言及を避けている。

 ◇「会えなくて悲しい」--逮捕の父、一問一答

 サボイ容疑者は今月8日、柳川署で約15分間、接見に応じた。主なやりとりは次の通り。

 --事件についてどう思うか。

 「親が自分の子と会うのに(日本の)刑事法が使われることに違和感がある。元妻が(米国のルールに)違反して8月に日本に連れて帰っている」

 --なぜ連れ去ろうとしたのか。

 「子どもたちに会いたかった。9日が亡くなった父と子どもの誕生日で、会えないことが悲しい」

 --逮捕に違法性があると思うか。

 「(現状は)日本に連れて帰った者勝ちの制度だ。(片親ではなく)両親と関係を継続できる制度が必要だ」

 --元妻に言いたいことは。

 「彼女は自分だけが被害者だと思っているが、子どもの立場に立って考えてほしい」

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 ■ことば

 ◇ハーグ条約

 国際的な子の奪取の民事面に関する条約(1983年に発効)。離婚などによる国境を越えた移動自体が子どもの利益に反し、養育する監護権の手続きは移動前の国で行われるべきだとの考えに基づき定められた国際協力のルール。子どもを連れ出された親が返還を申し立てた場合、相手方の国の政府は元の国に帰す協力義務を負う。主要8カ国(G8)のうち日本とロシアは未締結で、欧米各国が締結を働きかけている。

毎日新聞 2009年10月13日 東京夕刊

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