きょうの社説 2009年10月18日

◎能登本まぐろ ブランド化の布石を着実に
 水産石川の新たなブランドをめざす「能登本まぐろ」の出荷が始まった。珠洲沖で畜養 されたクロマグロの出荷量は当初計画の200トンを大きく下回り、今年は約5トン(120本)にとどまるが、近江町市場やスーパーでの売れ行きは好調で、能登産マグロの期待の大きさがうかがえる。

 県のブランド化推進協議会は今月、「能登本まぐろ」の認定基準を定め、品質を保つた めの処理技術向上策も決めた。マグロは処理が不十分だと身が変質し、市場の評価を一気に落としかねない。人材育成を含め、まず品質管理で万全の体制を整える必要がある。

 ブランドマグロは青森の大間をはじめ、すでに全国各地で取り組まれており、石川は後 発組である。各地にライバルがひしめくなか、全国区ブランドへの道のりは決して容易でない。今年は知名度を地元で高める助走期間と位置づけ、来シーズンへ向け、ブランド化の布石を着実に打っていきたい。

 能登沖はクロマグロの好漁場だが、これまでは鳥取県の境港などに水揚げされていた。 今年から珠洲、金沢の2港が県外船団に開放され、北海道の水産会社「道水」が洋上で買い付けしたマグロを珠洲沖のいけすで育てる畜養事業も始まった。県は夏に天然もの、10月―3月は畜養を出荷し、通年販売によるブランド化を目指す。

 「能登本まぐろ」の認定基準は体重40キロ以上で、定置網で捕れた天然と珠洲沖の畜 養だけが対象になった。巻き網船で捕獲されるマグロは品質のばらつきが懸念されるとして今回は見送られた。ブランド化は最初の評判が肝心であり、基準の厳格化は妥当な判断である。

 地元珠洲市では独自の料理メニュー開発が始まった。赤身や内臓、皮、頭など、マグロ はほとんどが利用できる。畜養は身が締まってトロが多く、多彩な山海の幸と組み合わせれば能登の食の魅力に厚みが増すことになる。

 畜養マグロでは餌やり体験できる「マグロウオッチング」も計画されている。豪快な解 体ショーは集客効果があり、イベントの目玉になろう。マグロは観光など他の魚以上に活用の幅があり、ブランド化はやりがいのある挑戦である。

◎国連へ学生派遣 内向きの若者に刺激を
 国際舞台での活動をめざす学生をニューヨークの国連本部に派遣する事業を石川県が来 年2月、自治体として初めて実施する。県外の大学と合同で行うことで、当初1週間ほどの予定だった研修期間が2週間程度に拡大されることも決まったという。地域で開かれる国際会議のスタッフや国際交流活動の担い手育成という事業目的の実現はもとより、内向きの傾向を強めているといわれる若者らによい刺激を与えることを期待したい。

 外交は政府だけでなく、地方自治体や国際活動を行う民間団体なども重要な「外交プレ ーヤー」と位置づけられている。国際交流の促進や「多文化共生社会」の実現は地域づくりの共通テーマであり、石川、富山県ともその担い手の育成に力を入れている。

 ところが、経済社会のグローバル化の一方で、青年海外協力隊の応募者や大学生・高校 生の海外留学、海外旅行の減少などを例に、若者らの間で広がる内向き志向を憂える声も強まっている。

 例えば、多い時で6千人を超えた青年海外協力隊の応募者は、2008年度春の募集で 1985人(石川県16人、富山県14人)にとどまっている。広報の強化に加え雇用情勢の悪化もあって、募集説明会の参加者は増えているというが、応募者の減少傾向に歯止めがかかったわけではない。

 民間の新入社員意識調査では、海外赴任に消極的な傾向も強まっており、企業活動の懸 念要素の一つになっている。少子化や経済の低迷、インターネットの普及などいろいろな要因が指摘されるが、石川県の国連派遣事業は、こうした内向的な空気に自治体として一石を投じるものともいえる。

 世界のさまざまな国、民族の代表が集まる国連本部は、短期間の研修でも、紛争やテロ 、環境、人権、貧困、疾病問題など国際社会が抱える深刻な問題を学ぶのに格好の場である。研修に参加した学生が帰国後、積極的に国際活動に取り組めば、おのずと周囲に影響を与え、地域の文化、経済の活性化に必要な若者の開明性を高める一助にもなろう。