[PR]
ニュース:文化 RSS feed
【邂逅 カルチャー時評】中条省平 マイナー部活マンガの魅力
一時期、「マイナー部活」マンガがプチブームになっていることが話題になりました。期せずして、茶道、書道、百人一首競技かるたなどの高校の部活動を題材にしたマンガが同時に人気を呼び、どうしてだろう、と読者の関心を引いたのです。題材の珍しさに加えて、ほど良いレトロ感もあって、日本の経済成長は多少停滞したかもしれないが、そのおかげで日本古来の伝統に目を向けるのもいいんじゃない?という心の余裕が表れてきたのかもしれません。
最も注目を集めているのは末次由紀の『ちはやふる』で、題材は競技かるたの世界です。かるたクイーンをめざして戦うヒロインの活躍を描く感動的な作品ですが、物語そのものは、かつて少年マンガで一世を風靡(ふうび)した「友情〜努力〜勝利」という黄金のパターンを完璧(かんぺき)になぞったものになっています。
その一方で、萩尾望都(もと)や山岸凉子以降の少女マンガが洗練させてきた話法を見事に自家薬籠中(じかやくろうちゅう)のものにしており、感情表現に「もののあはれ」ともいうべき繊細さが漂っています。なるほど日本の伝統文化に取材したことに意味があるわけです。
『ちはやふる』が「熱血系」のマンガであるのに対し、書道を描く河合克敏の『とめはねっ!』はいわば「脱力系」で、書道部に集う奇人変人たちのキャラクターが冴(さ)えています。
「友情〜努力〜勝利」が高度経済成長時代の人間像を反映しているとすれば、『とめはねっ!』は経済停滞のなかでも気持ちの余裕をもちつづける、したたかな遊び人の根性を褒めたたえており、こういう時代にこそ、よりリアルな輝きを放っているように見えます。(学習院大学教授)
関連ニュース
[PR]
[PR]