惑星大戦争


 この映画をバカにすることは、ひどくたやすい。そもそもが海の向こうで爆発的大ヒットを博している久々のSF超大作『スター・ウォーズ』に便乗して極めて安易に企画された作品だし、そのタイトルからして、20世紀フォックスが“STAR WARS"の日本公開タイトルとして仮内定していた邦題を、勝手にパクッたものだ。ストーリーも粗製濫造、往年の『海底軍艦』に『宇宙大戦争』をミックスし、当時ブームの『宇宙戦艦ヤマト』のファクターをプラスしただけ。特撮に至っては語るべくもない、マトモなセットは金星表面部分だけ、戦艦のモデルが敵味方1体ずつに、艦載機のミニチュアは2機ずつのみ。しょうがないので過去の作品から大量にバンクフィルムを持ってきて、足りない部分に強引に当てはめるという…これで、あの『スター・ウォーズ』を迎撃しようとしたのだ、天下の大東宝は!(爆)

 「『惑星大戦争』を作ったとき、東宝映像の田中友幸社長は『スター・ウォーズから学ぶべきものは何もなかった』と言っていたが……なるほど、確かに何も学んでいない(笑)」(大林宣彦

 以来、約20年。当然のことながら東宝のこの作品は宇宙SF戦争に大敗を喫し、この作品以後『さよならジュピター』に至る7年間、東宝は宇宙SFのジャンルへの沈黙を保ち続けた(ついでに言えば、その『さよならジュピター』がこれまた大駄作の誉れ高く、以後東宝は10年後の『ゴジラVSスペースゴジラ』に至るまで…もういい(泣))わけであるが、世の中には変わった人もいるもので、こんな映画をいつまでも覚えていて、しかも好きだと公言してはばからない輩というのもいるのである。

 例えば、私だ(笑)

 すでに古い話だが、1991年、東宝が平成ゴジラ・シリーズ第2弾、『ゴジラVSキングギドラ』を製作・公開したとき、例によってノベライズ版が発売された。作者は田中文雄。現在は幻想小説家として活躍する氏であるが、70年代には東宝のプロデューサーとして多くの幻想映画の製作に携わった。そして、この小説『ゴジラVSキングギドラ』は、困ったことに小説ソレ自体よりも、氏のプロデューサー時代の思い出をつづったあとがきの方が圧倒的に面白くなってしまったのだった。

 この中に、東宝特撮ファンの集いに氏が招かれる場面が出てくる。ここで歓迎に鳴らされる音楽が、『惑星大戦争』のテーマなのであった。

『惑星大戦争』

製作:田中友幸・田中文雄

監督:福田純

脚本:永原秀一

原作:神宮寺八郎(田中友幸)

特撮監督:中野昭慶、助監督:川北紘一

音楽:津島利章

出演:森田健作・浅野ゆうこ・沖雅也・宮内洋・池部良・平田昭彦・大滝秀治・睦五郎

 同時期に東映では『宇宙からのメッセージ』が製作されている。原作に石森章太郎、それに当時日本で一番スターウォーズ通だったと言って過言ではない野田昌宏を配し、特撮にTVシリーズを中心に頭角を現していた矢島信男、監督の深作欣二はじめ東映京都の時代劇超一流スタッフ。シュノーケル・カメラを使ったハイテク映像など、少なくとも作品の規模は『惑星大戦争』の規模とは比較にならない。事実、作品の質としても、『惑星大戦争』を凌駕していただろう。

 にも関わらず、『宇宙からのメッセージ』は、その規模ほどには大した印象を残せなかったというのが、正直なところだろう。あまりにもスターウォーズに似すぎていた(あっちが「桃太郎」に対してこっちは「八犬伝」)、木に竹を接いだスタッフ構成がうまく機能しなかったとか、要因はいろいろあるだろうが、極めてウェットな日本的感傷で言わせてもらうならば、熱の入り方が違ったのだ。

 石森、野田、それに脚本にはベテランの松田寛夫も加わって壮大なイメージを凝縮させていった『宇宙からのメッセージ』に対して、『惑星大戦争』の原作は、ド素人の神宮寺八郎……彼の目指したものはただ一つ。

「海底軍艦轟天号を宇宙に飛ばす」

 特撮の神であった円谷英二のかくも長き不在、特撮の盟主としての東宝の屋台骨のゆらぎ。確かに『日本沈没』『ノストラダムスの大予言』もあった。小粒ながら『エスパイ』『東京湾炎上』も作った。ジュブナイルSFとして、「ゴジラ」シリーズも対決路線で佳作を排出したが、それらを全部ひっくるめて『メカゴジラの逆襲』以後、東宝の特撮映画には新作がなかった。ブームへの便乗であれ何であれ、夢よもう一度、の、後ろ向きな情熱に賭けた作品、それが『惑星大戦争』だったのではないだろうか?

 予算もない。時間もないから新しいことは何もできない。だけど、何とかして俺たちの轟天を宇宙に飛ばそうよ! なんだかそんな声が聞こえてきそうな作品であった。

 例えば、『世界大戦争』のバンクフィルムを巧みにコラージュした円盤の地上攻撃シーン、人類の最後の希望「轟天」建造基地にも侵略の魔の手が迫る。世界各地の地球防衛軍から精鋭が集う、基地内のサスペンスを経て轟天発進、津島利章のメインテーマ変奏に乗せて雄飛する轟天、迫る円盤群、空中爆雷による迎撃……「大気圏内から、全ての敵宇宙船が消滅しました」と、父であり艦長である池部良に報告する浅野ゆうこ。バカバカしいほど単純なカタルシスだが、ストレートな夢をストレートに叶えてくれることも、ヒーローの重要な要素であろうと思う。

 後に東宝は、円谷英二が長年映像化を暖めていたという『竹取物語』を映画化する。石上三登志他多数のブレーンスタッフを配し、監督には一般ジャンルにおいて名高い市川崑。特撮こそ中野昭慶であったが。結果は惨憺たるものであった。我々観客や、おそらくは円谷自身も見たかったものは、プレシオサウルスやUFOではなかったはずだ。「轟天を宇宙に飛ばす」心意気を、東宝はいったいいつ、どこに置き忘れてきたのであろうか。



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