きょうのコラム「時鐘」 2009年10月17日

 エンジン類似音を義務化へ、という小さな記事が経済面に載っていた。走行音が静かすぎて危険とされるハイブリッド車に、エンジンに似た音が出る装置を搭載するという

大事な手だてに違いないが、妙な気もする。騒音は小さいほどいい。技術者もそれに知恵を絞ってきたのだろうが、静かすぎるのがアダになり、わざわざ騒音を出す装置の出番となる。まことにご苦労な話である

類似音は、蚊の羽音のようなものか。ブーンと飛び回った揚げ句にチクリときて、ピシャリとたたかれる。静かに刺せばいいものを、わざわざ所在を知らせる。あの羽音にはいらつかされるが、それがあるから撃退もできる。知恵の足りぬ生き物だと思う

蚊の浅知恵を笑うのは簡単だが、快適さを追い求めて厄介事も抱え込む人間の営みも、どこかちぐはぐに思える

静かすぎる危険は、自転車相手に身に染みている。背後から音もなく体すれすれに追い抜かれて、肝を冷やす。ガタピシと音を立ててきしむ自転車など、今どきめったにない。が、おんぼろ自転車のせいで心穏やかに道を歩けた日も、確かにあったのである。