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ひと:奥村和一さん=「山西省残留」の真相究明に生きる元日本兵

 ◇奥村和一(おくむら・わいち)さん(85)

 左耳は聞こえない。時折、体内に残った砲弾の破片が暴れだす。そのたびに「ウソの歴史を正すまで、死ぬわけにはいかない」と思う。

 終戦後、中国山西省で国民党系の軍閥に合流した日本軍2600人の一人として戦った。上官から「共産化を防ぐことが日本の国体を守ることになる」と命じられての残留だった。砲弾の直撃で重傷を負ったのは、戦争放棄をうたった日本国憲法が施行された翌年。故国の土を踏んだ時は終戦から9年がたっていた。

 待ちかまえていたのは、ねぎらいではなく、厳しい仕打ちだった。軍命で戦ったのに、国は残留・抑留期間の軍歴を認めず逃亡兵扱いした。

 戦友とともに国を訴えた裁判は05年に敗訴が確定。けれども、その経緯をまとめたドキュメンタリー「蟻(あり)の兵隊」(池谷薫監督)をきっかけに、日本軍の山西省残留問題が世に知られるようになった。

 支援の声に後押しされて改めて裁判を起こすはずだった……。だが、「仲間の多くは亡くなり、1人になってしまいました」。今は資料の整理と、軍命の存在を裏付ける公文書の発掘に力を注ぐ。

 「軍隊時代、兵舎で物が盗まれると、泥棒ではなく盗まれた兵隊が悪いという論理がまかり通ってた。このままでは残留命令に従った者が悪いということになってしまう」

 1カ月前、がんと診断された。予期せぬもう一つの戦いが始まった。「どちらも逃げるわけにはいきません」<文と写真・隈元浩彦>

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 ■人物略歴

 新潟県生まれ、元陸軍兵長。体内の砲弾の破片は、今も空港の金属探知機を通るたびに反応する。

毎日新聞 2009年10月17日 東京朝刊

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