くろしお

2009年10月16日

 小学生のとき、自転車の荷台に木箱を載せて通勤していた男の先生がいた。箱の中には画材一式。定年を控えたその先生は、毎日のように放課後の校庭や校舎を描いていた。

 周りに集まった児童の目を引いたのは、絵そのものよりも油絵の具だった。水彩絵の具しか使わない子供にとって粘度の強い油絵の具が、カンバスに厚塗りされていくのは新鮮だった。今でも重厚に塗り込められた油彩画を見ると、そのときの記憶がよみがえる。

 「日本」というカンバスを「政策」という絵の具で彩る―。画家の名前はもちろん「鳩山政権」。絵筆を執って、きょうで1カ月になる。構想は練りに練った。創作意欲も満々だ。しかし、実際に描き始めると、思うような絵にならない。

 この画家にとっての不幸は、カンバスが真っ白ではなかったことだ。このカンバスは「自民党」なる画家から受け取ったものだが、半世紀にわたって重ね塗りした絵の具がこびりついていた。その絵の具をそぎ落としたり、溶かしたりして描き直すのは至難の業だ。

 「無駄を減らしての家計支援」「政治主導」…。「マニフェスト」というパレットに載せた「自前の絵の具」は、どれもきれいだ。だがそれとて、急ぐあまり一気呵成(かせい)に絵筆に取ってしまうと、せっかくの色も濁ってだめになりかねない。

 「頭の中では傑作ができているのになあ」との画家の声が聞こえてきそうだが、嘆いている暇はない。多くの人が期待を持って絵筆の動きを見守っている。急ぎつつ、だが拙速に陥らないように…。かくも難儀な作品。タイトルは「改革」。


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