球団に切られたのではない　選手にクビを飛ばされた

●「こんな雰囲気でＣＳをどう戦うの？」

　予想通り、楽天がメチャクチャだ。

　２位に躍進し、球団史上初のクライマックスシリーズ（ＣＳ）進出。そんな上昇ムードが野村監督の去就騒動で一変、「このままテッペン、日本一を目指す」（岩隈）というナインの気勢も、「監督批判をしたとかで、主砲のリンデンが登録抹消。こんな状態、雰囲気でどうやって戦うの？」（某中堅選手）と一気にそがれた感がある。正式に今季限りでの退団が決定したことで、

「ＣＳに出て解雇されるとは思わなかった。裏でこそこそやりやがって。こんな大事な時期に、けったくそ悪い。楽天イーグルスは好きだけど、楽天球団は大嫌い」

　と、怒りの収まらない野村監督の球団批判に、ナインやチーム関係者はしかめっ面で耳をふさいでいる状態だ。

　さる球界ＯＢが言う。

「スポーツマスコミは『ＣＳ進出なのにクビ』と野村擁護の論調がほとんどだが、選手や関係者の認識とは明らかな温度差がある。野村監督は３年契約で就任した。その期間内でチームを強化する約束で、本人も自ら『Ａクラスに入れなかったら辞める』と自ら断言していた。その３年契約の最終年だった昨年は、前年の４位から５位に順位を下げた。本人も『辞める』と言っていたのだから、昨年限りでクビになってもおかしくなかった。それを、後任候補の調整がつかなかったこともあるとはいえ、球団側が１年の契約延長を申し出た。球団が野村監督に有終の美を飾るチャンスを与えたわけだ。その時点で『今季限り』ということは野村監督と球団の双方が確認済みの既定路線。球団からすれば、今さらなにを、というところ」

●先頭打者本塁打でお説教

　それでも球団史上初のＣＳ進出を果たし、リーグ２位にもなった。フロントの一部にはこの結果を「野村の手腕」と評価する声もあった。そのため、一時は来季続投案も浮上。が、それを消滅させたのは何を隠そう、「選手の声」だった。

　世間での受けはいい野村監督だが、とにかく選手からの評判は悪い。試合に勝てば自分の手柄をアピールし、負ければ選手個人を徹底批判する。日々、スポーツ紙やテレビで報じられる“ボヤキ”を目にし、耳にするたび、ナインは不満を鬱積（うっせき）させていた。それがハッキリと表面化したのが、１０日の「リンデンの監督批判」である。

　リンデンは以前から野村監督の発言に不快感を抱いていた。８月のある試合で先頭打者本塁打を放った翌日、日刊ゲンダイ本紙に苦悩の表情を見せながらこう漏らしていた。

「人生で初めての経験だよ。本塁打を放って監督に文句を言われたのは。むしろ三振をしたほうがよかったのかな」

　聞けばリンデンが先頭弾を放った試合後、野村監督から「１番打者は後続のために球数を投げさせなければならない。早いカウントでの本塁打は意味がない」という趣旨の説教をされたという。もともと真面目な性格のリンデンは、そんな野村監督の一言一言を気にかけるようになった。一方、そんな気持ちを知らない野村監督はその後もリンデンに対し「センスがない」「顔が悪い」など言いたい放題。ついには、リンデンの鬱憤が爆発し、スタメン落ちさせられた１０日の日本ハム戦後に野村監督に対して、「アリガトウ」と口を滑らせた。これに「嫌み」「監督批判」と烈火のごとく怒った野村監督に“独断で解雇”されてしまったのだ。事情を知るナインがリンデンに同情的なのは言うまでもなかろう。

●今季限りが選手のエネルギー

　チームを支えるエースの岩隈や田中もすでに嫌気が差している。

　岩隈はＣＳ進出が決まった直後、ロッカー室で行われた祝勝会で、「日本シリーズでテッペンに立って、監督の“有終の美”を飾りましょう」と挨拶した。続投を最後まで望んでいた野村監督にしてみれば、これ以上の嫌みはないだろう。

「野村監督がいない選手サロンや飲み会などでは、ひと言目は必ず監督の悪口です。チームが２位になった原動力も、全員が『あと少しで野村監督から解放される』という強い気持ちを持っていたからです」（チーム関係者）

　選手の野村監督への不満、反発は球団の想像を超えていた。この真実が野村監督の来季続投の可能性を完全に消した。野村監督のクビは選手に取られたと言っても過言ではない。

（日刊ゲンダイ2009年10月13日掲載）