総括をすること、政策に強くなること、地方の弱者の立場に立つこと
花の命は短くて、苦しきことのみ多かりき。山口のとくらさんから久しぶりに電話があった。とくらさんと話すときは常にそうで、４年前から変わらないが、たとえば１時間話したとすると、８０％の時間は聞き役に回っている。こちらが話す時間は僅かしかない。今回も同じだった。だが、今回は、もう少し詳しく伝えておきたいこともあり、ブログを読んでおられるようなので、補足の内容を記事で残すことにする。最近の様子はよくわかったし、来年の参院選に向けての準備も前向きに考えているようなので安心したが、電話でも言ったけれど、ブログやサイトが更新されないまま放置されている点は問題だ。衆院選の総括を自分の言葉で発信し、支援者や投票してくれた有権者に感謝を言わなくてはいけない。今後の進退をどうするか、どうなるかの如何を別にして、自分自身の将来のために、敗北の総括を言葉にして表現することは大事だ。今回、山口県は全国の傾向や趨勢に反して、民主党への票を集めることができなかった。だからこそ、何故そうなったのかを当事者が責任を負って言葉にすることが必要だ。口惜しい思いをしたのは支持者も同じであり、敗北をバネにする奮起を導くためにも、人の心に響く言葉の発信が求められる。敗者には敗者でなければ語れない言葉がある。敗者だからこそ、人の心に届く言葉の重みを持つ逆説的な立場を有する場合がある。そして、政権交代をしても、弱い者の境遇は何も変わっていない。
懸念をストレートに言うと、今度の選挙を通じて、君には「弱い候補者」のイメージが纏わりつき始めている。それは、「選挙に弱い」というだけでなく、政治家として十分な識見や能力や胆力を持っているかという問題にまで絡んでいる。客観的に判定すれば、それらの評価は、現在よりも１年前の方が高かったし、２年前より３年前の方が高くて、当時の方が、「強い正義感と使命感と行動力を持った人物」という表象が鮮明で、将来の政治家として期待を寄せられる魅力を周囲に醸し出していたと言えるだろう。そしてまた、そうした一般的評価をもたらした情報的要因は、議会解散運動の実績だけでなく、ネットの中での活躍や評判が大きかったはずだと私は考えている。国政選挙に出る候補者というのは、やはり存在が全国区の人間でなくてはいけない。全国レベルのビジビリティやプレステージを持っているかどうかが重要で、選挙区の住民もそこを判断の基準にする。次の選挙に出るのなら、早急に「弱い候補者」のイメージを払拭して、「強い候補者」のイメージに変える努力をする必要があり、「彼女を候補にすれば必ず勝てる」とか、「どうしても国政に引っ張り出したい」と党中央や全国の民主党支持者に確信させる存在にならなくてはいけない。そのために必要なのは、地元の連合幹部とのディナー・ミーティングではなくて、ネットでのメッセージとパフォーマンスだ。君の場合、自分を「全国区」に売り出すための活動の財産もリソースもそこにある。
「強い候補者」のイメージを確立させる上で、特に君に必要だと思われるのは、「政策に強い」イメージを押し出して固めることだ。最近、政策についてブログでの主張ヤ提言がない。選挙の前は、検察の「国策捜査」批判にばかり夢中になっていたようだが、有権者が政治家に聞きたいのは政策論である。「政策に強い」イメージというのは、何も制度や法律の細かな文言や数字を暗記しているという意味ではなくて、そのとき浮上している問題について縦横に主張を展開できるかどうかであり、具体的に言えば、テレビ討論に出てくる福島瑞穂や辻元清美や蓮舫ほどに政策を論じられるかである。逆に言えば、あの程度の知識と能力があれば十分合格ということになる。決して難しいチャレンジじゃない。「政策に強い」イメージは、常に政治や政策に強い関心を持って、その情報を追いかけているかどうかにかかっていて、「政策に強い」と見られるかどうかは、実際には「政策への関心の強さ」で決まるところがある。だから、「政策に強い」イメージをアピールするためには、マスコミで報道される政策論議に注目して、それに対して自分の主張を説得的に発信していなくてはいけない。国政選挙に出ようと志す者は、国会議員の予備役であり、言わば二軍選手なのだから、常に将来の実戦を想定して、議員の政策活動の予行演習をしていなくてはいけない。昔のとくらBlogの方が、街づくりや住民運動にせよ、金融問題やエネルギー問題にせよ、幅広い政策への注目と視点があった。
民主党政権が誕生して、新しい内閣が新しいスタイルで次々と政策イシューを繰り出し、今、国民の政治への関心は選挙前以上に高まっている。前原誠司の国交省関連だけでも、新内閣のスタート以来、八ツ場ダム問題、ＪＡＬ経営問題、ハブ空港問題と途切れることなく大きな問題が飛び出し、テレビと新聞の報道を賑わしている。亀井静香の金融モラトリアム法案があり、仙谷由人の二次補正削減があり、菅直人の雇用対策があり、普天間基地問題があり、長妻昭の厚労省所轄の諸問題があり、政府が発信する情報だけでも政治記者や政治報道のテレビカメラが拾いきれないほどの情報が溢れ出ている。それに加えて、小沢一郎の党務の仕切りや「国会改革」からも目が離せない。少なくとも形の上では政治のスタイルが変わり、自公政権の時代よりも政治が国民にとってエキサイティングなものになっている事実は疑えない。中に立ち入って見てみると、菅直人が構想した本来の「政治主導」が具現化する動きと、それを内側から骨抜きにして財務省主導にスリカエている藤井裕久と新自由主義官僚（＝過去官僚一派）の跳梁との間の対立がある。平野博文や原口一博を中心とする民主党右派の政権中枢組と亀井静香や福島瑞穂の三党連立合意組との間の暗闘がある。毎日の政治のニュースに主役が何人もいる。これらの怒濤のような政治の動きをマスコミ報道がよく整理できていない。自公政権時代の怠惰で低俗なルーチンに浸っていた政治記者が、民主党政権のスピードとバラエティに対応できておらず、報道記事が必要十分に日々の政治の動きをカバーできていない。
民主党の国会議員や二軍選手（選挙候補者）は、本来、ここに期待される役割があるのではないかと私は思って見ている。つまり、現行の新政権の怒濤のような政策の流れをブログ等で解説して国民に伝えることである。各省の三役が何をどう判断して予算と政策の舵を切っているのか。従来方針との整合性はどうか。具体的に、国民の生活や地方の公共事業にどのような影響が及ぶのか。痛みはないのか。特に、地方の住民は、国交省や農水省や厚生省の予算の削減については不安を感じているだろう。例えば、厚生労働省の「地域医療再生基金」の執行停止や見直しの問題がある。国交省の公共事業費の大幅削減がある。報道では、国交省は来年度概算要求で本年度予算比１０−１５％の削減となる見込みで、報道番組では、民主党政権による公共事業削減で建設業労働者が１５０万人失業するという試算が出されていた。総務省の交付金増額方針は、具体化された場合、山口県の財政にどれだけの恩恵になるのか。こうした問題について、民主党の議員や関係者は地域の有権者に機を逸せず説明をしなくてはいけないし、場合によっては、地方の利害の立場に立って、政府の方針や手法を批判し、修正を求める意見を言わなくてはいけないだろう。「政治主導」と言い、「マニフェスト」と言っても、その言葉ですべてが正統化されるわけではない。それから、民主党の関係者であれば、マスコミでは知ることのできない情報を持っているだろうと誰でも思うし、実際に、そういう立場に立てておかしくない。また、特に保守マスコミが意図的に歪めて報道している問題について、正確な説明をするということも使命になるだろう。
民主党が与党になり、永田町の政治の様相は大きく変わった。政権に対するワンフレーズ的な批判は、もはや民主党の政治家のＢｌｏｇの中身にはなり得ない。それでは有権者を説得できないし、支持も注目も集められない。しかし、それでは、単に党本部の方針や閣僚の議論に追随するだけの政見記事でいいのかと言うと、求められている能力や役割はそれとは違う。「民主党の人間だから言いたいことを言えない」というのは本来おかしい。今後は、むしろ民主党の内部や三党連立の内部での政策論争が活発になり、議論が紛糾せざるを得なくなり、国民も論争を求めるようになるだろう。国会が始まっても、自民党の政策主張というものは民主党との対立軸を立てられない。二党の間での政策をめぐる対立というのは、国民の関心を集めるほどの議論にはなり得ない。自民党の国会論戦は、個人献金問題とか、そうした醜聞を衝いた失点稼ぎが中心になるものと予想される。政策をめぐる大きな対立軸は、むしろ亀井静香のケインズ主義路線と藤井裕久・古川元久・加藤秀樹ら新自由主義官僚族との間に引かれる。敢えて言えば、民主党左派は、亀井静香と同じ政策的立場に立つべきで、返済猶予法案は無論のこと、政府がニューディール的な直接雇用に乗り出す計画を訴えるべきで、中小企業と労働者に対する本格的なセーフティネットのための財政出動を提起していい。民主党の二軍選手は、むしろ、その政策論争に、地域の視角と論理で主体的に割り込んで議論をリードすべきだ。「マニフェスト」には解釈の幅がある。来年の通常国会が始まり、参院選のモードが固まる前は、「マニフェスト」や「三党連立合意」を自分の言葉にして、自分の政策を自由に語ってよい。
Ｂｌｏｇで本格的に政策を論じて欲しい。たとえば、Ｂｌｏｇの記事スペースを、中国新聞山口版が自分に毎日与えてくれた１０００字分の原稿スペースだと考えることだ。そういう心構えで記事を書くことだ。山口県の有権者に読んでもらって納得してもらえる政策解説や政策提案で埋めることだ。論じなければいけない問題はたくさんある。(1)上関原発の問題について論じないといけないよね。(2)菅直人が林業再生計画を言い始めたけれど、具体的な実効性を説明しないといけない。(3)農家最低所得補償について、具体的にどんな手続や日程になるのか、詳しく論じる必要がある。参院選での自民党との論争の予習の意味でも、地域の経済や生活に関係ある問題は、そこで身を乗り出して自分の政策主張を言わなくてはいけない。(4)原口一博が言っている「地方主権」の問題についても、それでは山口県は具体的に将来どうなればいいのか、地域住民の求める「財源と権限の移管」はどういう具体像なのか、その中身についても持論を持つ必要がある。(5)子育て支援の所得制限問題もある。テーマにすべき問題は無数にある。情報や資料の入手で悩んでいるのなら、平岡秀夫が国家戦略室で菅直人をサポートする要職にあるらしいから、（どこまでそれを公開していいかも含めて）相談してみればいい。(4)については、仲のいい新聞記者から情報を仕入れることもすればいい。最後に提案だが、「とくら流」を復活させる一つのアイディアとして、昔の「私たちは何をすればいいのですか？」の突撃質問を復活させて欲しい。あの余人にない恐るべき行動力が君の持ち味だった。誰にも真似のできない能力。例えば、もう一度、金子勝の前に立ってみることだ。寺島実郎に突撃してみることだ。森永卓郎や湯浅誠に突撃することだ。民主党が政権を取っても、貧しい者の暮らしは何も変わっていない。給料は減り、仕事はなくなり、誰もが明日を怯えて生きている。赤字国債は発行しないと言ったり、増発すると言ったり、「マニフェストの遂行」と言いつつ、実際には政策決定はブレている。「経済成長の戦略がない」という批判も（国民新党的な意味で）当を得ている。「私たちは何をすればいいのですか」の質問は生きているよね。
