福岡県筑前町で2006年、中学2年森啓祐(けいすけ)君=当時(13)=がいじめを苦に自ら命を絶って、11日で丸3年。遺族は静かに命日を迎えた。この間、国がいじめ自殺の存在を認めるなど取り巻く状況は前進した。だが、真相を求める遺族の思いは、行政機関個人情報保護法の壁に阻まれたままだ。専門家からは、同法の在り方に再検討を求める声も上がる。
■9割が「黒塗り」
「同じ境遇の遺族が苦労せずに真相を知ることができるよう、風穴をあけたかったが…」。啓祐君の父順二さん(43)は言葉少なに振り返る。
07年11月、福岡法務局は人権侵犯の調査記録を開示した。しかし約9割が「黒塗り」。不服を申し立て、今年1月、法務局は開示の範囲を広げたが、やはり学校関係者の聴取内容など、中身の大半は明らかにされなかった。
今後の調査や事務の遂行に支障が出る恐れがある‐請求のたびに法が立ちはだかった。「壁は厚く高かった」。順二さんは今、あらためて思う。
■被害者に配慮を
真相に迫る手段には、少年審判記録の開示制度もある。啓祐君の場合も、自殺当日の出来事や同級生の言動は、この制度によって大筋で知ることができた。08年には原則非公開の少年審判で、重大事件に限り遺族の傍聴が認められるようになってもいる。
元家庭裁判所判事の守屋克彦・東北学院大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「遺族は真相を知ることで精神的に救済されることもある。少年法は被害者の権利を配慮しはじめた」と説明する。
しかし、それだけでは学校側の対応など事件の背景にある全体像まではつかめない。上智大の田島泰彦教授(メディア法)は「個人情報保護法は不開示を認める範囲が広すぎる。法自体の再検討が必要だ」と指摘する。
■ゼロから6件へ
来月、全国いじめ被害者の会の大沢秀明理事長=大分県佐伯市=は「学校内の安全配慮義務の徹底」を求め、国に要望書を提出する予定という。政権交代は追い風になるのか。田島教授は「情報公開の大きな流れを止めないはず」とみる。
啓祐君が亡くなって約1年後、文部科学省は過去7年の調査で「ゼロ」としてきたいじめ自殺数を「6件」に修正。同省所管の日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度も、学校外での自殺にも死亡見舞金が支給されるよう改正された。
順二さんは言う。「啓祐の死は無駄ではなかった」
筑前町いじめ自殺
2006年10月11日、福岡県筑前町立三輪中2年の森啓祐君=当時(13)=が遺書を残して自殺した。1年から同級生にいじめを受け、担任がいじめを誘発した可能性も発覚した。町教委の調査委員会はいじめが自殺の最大要因と結論づけた。福岡法務局は人権侵犯調査でいじめを認定、学校側に反省を促す「説示」の措置をとった。県警は当時14歳の3人を暴力行為法違反容疑で書類送検。福岡家裁が少年審判を開き不処分とした。
=2009/10/12付 西日本新聞朝刊=