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普天間移設―これからが本当の交渉だ

 沖縄県宜野湾市の米海兵隊普天間飛行場は住宅密集地にあり、「世界一危険な飛行場」とも言われる。これを06年の日米合意通り、県内の名護市辺野古へ移設するか、県外移設を目指すのか。鳩山政権が決断を迫られている。

 衆院選のマニフェストで、民主党は「米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」と記し、自民党政権時代の辺野古移設を見直す方向を打ち出した。

 ところが、鳩山由紀夫首相は先日「マニフェストが時間というファクターによって変化する可能性を否定はしない」と発言し、辺野古移設の容認もありうると受け止められた。

 県外移設はだれしも望むことだ。だが、具体的な移設先のめどはない。11月のオバマ米大統領の訪日を前に、公約の修正も含めて現実的な選択肢を広げようと考えたのだろうか。

 そうだとすれば、早くも腰砕けかといわれても仕方あるまい。

 在日米軍の存在は、日本防衛のみならず、アジア太平洋の安全保障に重要な役割を果たしている。日米同盟を外交安保政策の基軸とする点で、民主党も前政権と変わらない。

 だが、主権国家が領土内にかくも大規模な外国軍を駐留させることの重さを、首相にはいま一度考えてほしい。しかも沖縄には在日米軍基地の75%が集中し、県民の負担は計り知れない。

 自民党政権時代は、現状の米軍駐留や基地施設の提供が半ば当然視されてきた。それを幅広い視野から見直しの俎上(そじょう)に載せてこそ、政権交代の意義があるのではないだろうか。

 オバマ政権も発足後、イラク撤退や東欧へのミサイル防衛の配備中止といった政策転換をした。政権が代われば、個別の外交政策も変化しうる。

 岡田克也外相は、旧政権時代の移設先検討の経過を検証するという。他に移設先はありえないのか、既存の施設との統合はできないのかなどを含め、新政権として改めて検討しなおすのは当然である。

 最初の返還合意から13年もたつ。なのに何の進展もないことが県内移設の難しさを示している。普天間の危険は一日も早く除きたいが、拙速を避け、あらゆる可能性を追求すべきだ。

 先の総選挙では、県内四つの小選挙区すべてで辺野古移設に反対する候補者が当選した。この世論を軽くみるわけにはいかない。

 米国政府は現行計画の見直しに否定的だが、首相にはこうした民意を踏まえて、オバマ大統領と率直に話し合ってほしい。地球温暖化対策やアフガニスタン支援など広範な日米協力の文脈の中に位置づけ、同盟の信頼関係を保ちつつ打開策を見いだす努力をしなければならない。

 本当の交渉はこれからである。

2次補正―生活第一で積み上げよ

 戦後最大の経済危機は巨額の財政出動などによって落ち着きつつあるが、景気回復にはほど遠い。「二番底」を心配する声もある。そこで、雇用対策などを盛った2次補正予算案を年内にまとめ、来年1月からの通常国会で早期成立を図る。鳩山首相がそんな意向を明らかにした。

 来年度予算案と合わせて「15カ月予算」を組み、政策の空白をなくそうという狙いのようだ。

 問題はその中身と財源だ。未曽有の不況下で、税収は大幅な減少が見込まれている。今年度当初に46兆円と見込まれた税収は、実績ではさらに数兆円も下回ると見られる。そこで浮上したのが、自公政権がつくった1次補正予算のムダ削減で新政権が確保しつつある3兆円規模の財源の活用だ。

 本来は子ども手当など政権公約の実現に充てるとしてきたが、藤井裕久財務相は「経済が悪くなったら(今年度に)使わなければならない」と述べた。予想以上の税収不足という現状を考えれば、転用も仕方なかろう。

 だが税収不足は、その3兆円でも補えない規模に膨らむ可能性がある。その場合には、新政権が否定的な国債の追加発行も一定程度ならやむを得ないと考えるのが妥当ではないか。

 国債発行の減額にこだわりすぎれば「生活第一」「内需拡大」路線に必要な予算まで削らねばならず、実体経済にも悪影響を及ぼしかねない。

 亀井静香金融相は2次補正の規模を3兆円以上とし「場合によっては赤字国債も出すべきだ」と求めている。だが、規模よりもまず内容を吟味しなければならない。

 そもそも新政権がいま、麻生政権下の1次補正から3兆円のムダ削減を進めているのも、「不要不急の予算」があまりにも目立つからだ。鳩山政権は雇用や医療・介護、子育てなど国民生活にとって優先度の高い分野に力を入れようとしている。2次補正でも、その姿勢を貫くべきだ。

 まずは地道に雇用の安全網の整備を進めてもらいたい。職を失った人の生活や再教育、就業などの支援を充実させ、社会から不安を取り除く施策をきめ細かく打つ。それが経済を安定させる第一歩となる。

 新政権が経済再生への戦略を示すことも重要だ。医療や教育、ITの分野での規制改革や産業振興、自由貿易協定の推進や航空自由化など、経済成長に向けて政策を総動員する姿勢を見せることが民間経済を力づける。

 財政健全化の道筋は不透明だが、中長期の目標に関する大方針を示してほしい。それが国債などの市場の信認を得ることにもつながる。

 これらの総合戦略を立てるには、一刻も早く国家戦略室を機能させねばならない。

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