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【暮らし】

『混合診療』禁止高裁が適法判決 薬の承認 迅速化が課題

2009年10月15日

 公的医療保険が適用される保険診療と、適用されない自由診療を併用した「混合診療」を原則禁止した制度について、東京高裁は一審判決を覆し、制度を適法とする判決を出した。「なぜ、禁止されるのか」「患者に不利益とならないのか」−厚生労働省や患者団体など関係者の声を聞いた。 (佐橋 大)

 「今の制度は、未承認の薬・治療法に頼らざるを得ない難病や重病の患者にとって、莫大(ばくだい)な費用がかかり、有効な治療法を選べない」

 混合診療の禁止により、自由診療を受けると、原則、保険適用分まで全額が自己負担となる。原告の男性は、腎臓(じんぞう)がん治療で、適用外の治療を受けた結果、保険適用のインターフェロンの自己負担が一カ月約六万円から二十万円に増え、自由診療の約五十万円と併せ、毎月の負担は約七十万円になることが分かり、訴えた。

 厚労省はなぜ、混合診療を禁止するのか。

 同省は「効果や安全性の疑わしい治療行為を助長する恐れがある」とする。保険診療では、試験などで安全性や有効性を確認した薬や治療法だけを対象としている。混合診療を認めると、効果などが不確かな自由診療を受ける費用の一部を保険がまかない、その治療が受けやすくなる−との立場だ。

 一方で厚労省は、例外的に併用を認め、対象も拡大してきた=表。「先進医療」としては、百十五種を認定しており「一定の安全性と効果が確認されれば、保険診療と併用できるようにしている」と説明する。

 財源が限られる中「公的保険なので「一定のルールは必要」と主張。「自由診療では、医療機関が診療価格を設定できるため、自由診療の治療を優先して患者負担が拡大する危険性がある」と懸念する。

      ◇      

 関係者はどう考えているのか。

 「がん患者支援プロジェクト」の代表で自身もがん患者の三浦秀昭さん(53)は、適用外の診療を受けるために主治医とは別の病院に通ったり、承認された薬が徐々に効かなくなって保険適用外の輸入薬に頼らざるをえなくなったりする患者も多い、と説明。「お金の面で患者の選択肢を狭める制度はおかしい」と現状を批判する。

 一方、卵巣がん体験者の会「スマイリー」の片木美穂代表(36)は解禁に反対の立場だが「問題の本質は、海外で当たり前に使われている薬の保険適用が、遅れていること。海外で効果を上げている薬は、すぐに保険適用される仕組みを整えてほしい」と訴える。

 日本難病・疾病団体協議会も、解禁には反対。坂本秀夫・同協議会常務理事は「治療法もない難病患者は多い。国は新薬や治療法の開発を促し、誰もが必要な医療は保険診療で受けられる原則を徹底すべきだ」と話す。

 がん治療に取り組む東大医科学研究所の上昌広特任准教授は「厚労省は、データを示さないため、議論が水掛け論となっている。併用の基準もあいまいだ」として、情報の公表を求めている。

◆裁判などの経緯 

 健康保険法には、混合診療について明文の規定はなく、厚生労働省が法解釈で禁止している。東京地裁は2007年、「規定がない以上、禁止されていないと解するのが相当」と判断したが、東京高裁はことし9月、「厚労省の制度には合理性がある」として、一審判決を覆した。

 また、2004年、小泉純一郎首相が混合診療の解禁を指示。内閣府の規制改革・民間開放推進会議(現・規制改革会議)が全面解禁を求めたのに対し、厚労省や日本医師会が強く抵抗。保険診療と自由診療の併用を認める例を拡大するなどの対応を取ることで決着した。

 

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