広島・長崎の両市が2020年のオリンピックに立候補する意向が明らかになり、注目を集めている。両市がコンセプトとして掲げているのが、オリンピックを「核兵器廃絶、世界の恒久平和のシンボル」として掲げること。だが、原爆を投下した側の米国では、「原爆投下は戦争終結を早め、結果として多くの命を救った」との主張も根強い。米国では、今回の立候補を、どのように受け止めているのだろうか。
広島・長崎の両市は2009年10月11日、2020年の夏季五輪誘致を目指して、招致検討委員会を設置する、と発表した。
広島・長崎両市が主宰している「世界平和市長会議」(3147都市加盟)では、2020年までに核兵器を廃絶することを目標に活動している。同日広島市内で開かれた記者会見の場では、
「核兵器のない世界の実現を全世界的に記念する年、2020年がそういう年になるであろうということを確信しているわけですが、そのための記念のイベントとして、やはりオリンピックの招致、開催以外にはないだろう、ぜひオリンピックを開きたいという夢を持っております」(秋葉忠利・広島市長)
「広島・長崎でオリンピックを共同開催する可能性があるのであれば、それは私たちがこれまで進めてきた核兵器廃絶に向けて非常に大きな力になる」(田上富久・広島市長)
と、「核廃絶」というメッセージを強く押し出したい考えを強調した。
この発表は、オバマ大統領が核廃絶の目標を掲げたことでノーベル平和賞の受賞が決めたことと時期を同じくするもので、広島・長崎五輪が、オバマ大統領の理念を実行するための追い風になるとの見方がある一方、逆に米国内の世論が割れる可能性もはらんでいる。
例えば、米コネチカット州のキニピアック大学が09年8月に発表した世論調査の結果によると、米国民の61%が原爆投下について「正しかった」と回答する一方、「間違っていた」との回答は22%に留まった。このような状況で、オバマ大統領がオリンピックに関連して、原爆投下に否定的な発言を行ったとすれば、米世論の反発は必至だとも言える。
では、今回の広島・長崎の動きを、米国ではどのように受け止めているのか。米メディアでは、IOCが「1国2都市開催」が困難だという見解を示していることや、東京が2016年五輪の招致に失敗したばかりだということを含めて、概して事実関係を淡々と報じている。せいぜい、ビジネスウィーク誌の
「もちろん、オリンピックを平和と『核のない世界』とを結びつけることはIOCメンバーに受け入れられることだろう。結局のところ、北京五輪の目的の一部は、共産主義の中国で民主主義と人権を推し進めることにあった」
という論評が目立つぐらいだ。
政治系ブログサイト「ハフィントン・ポスト」でも、記事自体は淡々と書かれているのだが、コメント欄での議論が活発だ。内容を見ると、
「少し前に日本が長野で大会を開いたことを思い出そう。日本は鉄道網が発達しているし、夏季大会の開催に問題があるとは思わない」
と、広島開催に理解を示す声がある一方で、否定的な声が圧倒的に多いのが現状だ。
「広島は美しい都市だが、オリンピックに立候補するだけの新しい建物を造る場所がない」
「シンガポールやマレーシアで行われた虐殺や南京大虐殺、従軍慰安婦などについて日本政府が謝罪しない限り、広島で五輪開催はすべきでない」
「米国が広島をホスト都市として支持するとは思わない。トルーマンの(原爆投下)決定の再評価を迫ることになるからだ」 「広島が五輪を取れば、しまいには米国が完全に謝罪させられることになるだろう」
前出の「ビジネスウィーク」のコメント欄でも、状況は同様だ。
「平和を広めたいのであれば、南京で開催すべきだ」
「2008年に中国で行われたので、当分は東アジアでは行われないだろう」
なお、AP通信によると、2020年五輪には、すでにブダペスト(ハンガリー)、イスタンブール(トルコ)、デリー(インド)が立候補の意向を示している。広島・長崎五輪の実現までに、乗り越えるべきハードルは多そうだ。
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