北京五輪

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巨龍はどこへ:五輪後の中国像/上(その2止) 貫かれた中国式自由

 <1面からつづく>

 ◇「成功」の陰に抑圧 神父・デモ拘束、各国の助言機能せず

 紙1枚の「誓約書」には「約束」が個条書きされている。

 《社会に危害を及ぼす行為はしない。違法な集会に参加しない》

 《政府宗教部門の許可を得ていない外国の宗教組織・団体と接触しない》……。

 末尾には、日付とサインを書き込む欄。北京のキリスト教会運営者の多くは北京五輪期間を含む7月15日~10月15日の3カ月間、活動を自粛する誓約書の提出を求められていた。

 人目を避けながら署名を要求したのは住民組織だが、「上」の指示なのは明らか。憲法で「宗教の自由」を保障する中国で、五輪の安全を理由に信者に足かせがはめられた。

 署名を拒否した信者がいる。華慧棋神父(46)。地下教会と呼ばれる非公認教会を運営する。「中国援助協会」(本部・米テキサス州)の傅希秋会長によると7月初め、公安当局者30人が北京市崇文区の華神父宅に押しかけ、一部を壊した。

   ■  ■

 「我々の社会で、キリスト教徒が自由に礼拝するのをご覧になったでしょう」。胡錦濤国家主席は10日、北京・中南海でブッシュ米大統領に語りかけた。

 数時間前、大統領は北京市東城区のキリスト教会「北京寛街経堂」で日曜礼拝を行っていた。礼拝後、大統領は聖堂前で「いかなる国も愛のある宗教を恐れるべきではない」とコメントした。抑圧的と国際的批判を集める宗教政策の緩和を中国に求めたが、その願いに反する事態がこの日、起こっていた。

 大統領の礼拝に合わせ寛街経堂に向かっていた華神父は、兄の慧林さん(52)と共に当局に拘束された。華神父は「中国人権」(本部・米ニューヨーク)に「殴られ、聖書も没収された」との手紙を送ってきた。政府公認の教会に属さない地下教会信者は増え続け、1000万人近いとの推定もある。

   ■  ■

 「チベット人は自由のために死んでいく」。五輪公園に隣接するテーマパーク「中華民族園」に突然、英語で大書された横断幕が広がった。13日の昼過ぎ。あっという間に外国人8人が警察官に連行された。

 拘束されたのは中国からのチベット独立を目指す「自由チベット学生運動」(本部ニューヨーク)のメンバーたち。その一人、ペマ・ヨーコさん(25)は釈放後、ロンドンで毎日新聞の取材に答えた。

 「あの場所を選んだのは『チベット文化に自由が認められている』とウソが展示されていたから」。中華民族園はチベット族を含む中国56民族の文化・慣習を紹介するが、当局の指導を受ける。

 五輪期間中、海外の多くの人権活動家が北京入りし、ゲリラ的に動いた。そのたびに彼らが事前連絡していた海外メディアが取材し、映像や記事が全世界へ流れた。

 ペマさんは1959年に中国チベット自治区を脱出した父と日本人の母を持つ。「海外のチベット人はなかなか中国に入れないが、私はラッキーだった。日本のパスポートを持っているので入国できた」。だが、拘束されてもすぐ国外追放される外国人はいい。

   ■  ■

 北京市豊台区に住む李学恵さんは、母親の呉殿元さん(79)の体を気づかう。「母はほとんど目が見えない。どんなにショックを受けたか」。電話口から不安が伝わる。

 呉さんは近所に住む王秀英さん(77)とともに17日、「公共の場の秩序を乱した」との理由で1年間の労働矯正を命じられた。

 2人は再開発による強制立ち退きを不服として今月に入り5回、市公安局にデモ申請をしたが、当局は受理しなかった。長時間の拘束後に釈放されたが、一度は裁判なしで労働矯正という「再教育」を老いた2人に科した。

 市は五輪中、公園3カ所でデモを許可すると発表したが、77件あった申請のうち一件も認められなかった。「外国の助言を受け入れて実現した」(北京の外交筋)制度そのものが機能しなかった。

   ■  ■

 五輪が後半戦に入った18日、北京五輪組織委員会と国際オリンピック委員会(IOC)による定例記者会見。組織委の王偉執行副会長は「自由」について繰り返し問う外国人記者らに言い放った。

 「あなた方は中国を理解していない。街で市民にたずねるとよい。大多数の人が『暮らしに満足している』と答えるはずだ」

 中国と欧米などの国々との間で広がる摩擦。それが相互理解と調和を目指した北京五輪の結果の一つかもしれない。【北京五輪取材班】

毎日新聞 2008年8月25日 東京朝刊

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