第25回
人口減少社会なんて怖くない
~わが国本来の人口に戻っていくと考えるべき~
経済アナリスト 森永 卓郎氏
2006年4月3日
人口が減ったからといって労働力が落ちることはない
いささか旧聞に属するが、昨年12月22日に厚生労働省が発表した人口動態統計の年間推計によると、わが国の死亡数(自然減)が出生数(自然増)を上回り、予想よりも1年早く2005年から人口が減少に転じたことが明らかになった。
この発表をきっかけにして、人口減少社会を迎えた日本の行く末を案じる議論が盛んになってきた。人口が減少することによって経済活動が停滞し、経済成長率が低下するというわけだ。
しかし、私はそれほど暗い気持ちになることはないと思っている。
人口が減少しても、一人当たりの所得が落ちるわけではない。社会全体の経済のパイが小さくなっても、一人あたりの所得が減らない限り、生活は維持できるのだ。
人口が減っても、経済成長率はほぼ横ばいか、むしろ微増で推移するのではないかと私は考えている。
なぜならば、人の数が減れば、それを補おうとする工夫がこらされるからだ。
現に、OECD諸国で、労働力人口の伸び率と生産性の伸び率を比較してみると、労働力人口の伸びが小さい国ほど、生産性の伸びが高い。
つまり、人が減ったことをきっかけにして、労働力の低下を補うために、機械化投資などが行われて生産性が上昇するのだ。機械でできることは、みな機械にやらせればいい
むしろ、人口が減っていいこともある。
現在の約半分――かつて日本の人口が6445万人だったのは、いつのころだかおわかりだろうか。
それは、1930(昭和5)年である。人類の歴史、日本人の歴史から考えれば、“たった”75年前に過ぎない。
思うに、その程度の人数が、日本の定員ではないだろうか。人口がその程度に減れば、さまざまな社会問題が解決される可能性がある。
通勤の混雑が緩和され、車内で楽に新聞が読めるようになるだろう。
交通渋滞もなくなり、お盆や年末年始の帰省ラッシュも緩和される。夏休みのレジャーで、お父さんがくたくたになることは、もうなくなる。
住宅問題も完全に解決するはずだ。
確かに、人口減は高齢化を伴うのでよくないという意見もある。
2025年には、65歳以上人口比は28.7%になるというから、現在とくらべて8.8ポイントの上昇である。
しかし、現在の時点でこの高齢化率を越えている自治体は、日本に山ほどある。私は、仕事でこうした市町村を訪ねることがあるのだが、けっして悲惨な暮らしをしているわけではない。ほとんどの街で、ゆったりとした幸せな暮らしが送られているのだ。
もちろん、年金の問題は重要ではあるが、これはまったく次元の違うことがらである。
年金については、方式を変えたり、富裕税をかけたりといった方法で解決を考えていく必要があるだろう。年金問題については、回を改めて考えることにしたい。
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