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関西特集

編集長インタビュー

地域の担い手、団塊世代に期待 (07/10/08)

生駒市長 山下真さん

(やました・まこと)1968年山梨県生まれ。92年東大文卒、朝日新聞入社。同年同社退社。98年京大法卒、司法修習生に。2000年弁護士登録。05年市民自治の会「さわやか生駒」設立、代表世話人。06年生駒市長就任。

 関西の旬の話題をキーパーソンに聞く「編集長インタビュー」の第2回は奈良県生駒市長の山下真さんに登場していただきます。山下さんは、市民運動を経て昨年1月の市長選で4選を目指した現職を破り当選、2月に市長に就任しました。就任直後に予算案が否決されたり、前市長や前議長の汚職・背任事件が発覚したり、激動する市政の渦中に身を置きながらも、市政への市民参加を標榜(ひょうぼう)して新しい施策を打ち出しています。今、自治体の直面する課題や情報公開などについて話を聞きました。(聞き手は日経関西コンシェルジュ編集長 中西毅)

大選挙区の議会に苦労

資料を手に熱心に説明をする山下市長
資料を手に熱心に説明をする山下市長
――副市長の人事案が否決されたとか。まだ議会との軋轢(あつれき)が続いていますね。
 「賛成10、反対10となり議長採決で否決されました。昔のやり方が良かったという議員さんの抵抗というのはありますよね」

――当選直後に予算案が否決されるなど議会対策に苦労されていますが、今年4月の市議選では市長の支持者からも当選者が出ました。
 「ただ、私の政策に理解のある議員さんは過半数に至っていません。市議選は全市1つの大選挙区。小泉元首相が刺客を立てた小選挙区制の総選挙や、滋賀県で嘉田知事の支援団体が各選挙区で独自候補や推薦候補を出した県議選と違うところです。大選挙区では同じ考えを持つ候補は支持層がかぶるのでライバルになります。独自の無所属候補を大量に出すのは難しい。政党ならまだ地域割りがしやすいんでしょうが、市民団体ではそこまでできませんね」
 「そのうえ、みんなが推したいし本人も出たい、という候補者はなかなか見つからないですね。市民に市政への関心を持ってもらって『自分がやったろか』という人がどんどん出てきてくれたらよいと思っています」

培ったノウハウ還元を

――市民参加を掲げて、情報公開に積極的ですね。
 「情報公開というのは条例を制定しなくてもできますし、予算もかかりませんので(笑)。情報公開には2つあります。請求があったときに公開するのと、こちらから積極的に情報を提供していくという2種類です。国の財政や施策とは違って、(こちらが)黙ってては新聞やテレビでは報じてくれませんよね。だから情報提供が主になります」
 「市の委員会や審議会も議事内容の公開だけでなく、どなたでも関心のある方にその場で傍聴できるようにしています。あと毎年度の予算のベースとなる、これまでは内部資料として公開していなかった、実施計画書をホームページで公開しています」
 「予算が可決された後は、事業ごとに内容を説明する『生駒市の事業と予算』という冊子を作り、人が集まるところに置いたり、タウンミーティングの際に配ったりしています。タウンミーティングというのは市内を5地区に分けて、私や各部の部長が出向いて市政について説明します。まず私が最初1時間ほど行政改革への取り組みなど基本的な話をして、後は質疑応答で専門的なことは各部長が答えます」

――今、地方自治体に情報公開の必要性が高まっている背景は。
 「市民に知らせなければ、すっと行くことはありますが、見られていると悪いことはできませんし、自分自身を律することにつながります。それと同時に、地方自治は『民主主義の学校』という意味合いもあります。そのためにも住民の方々に情報を持ってもらわないといけません。特にボランティア団体やNPO(非営利組織)に行政と協働というか、地域活動を担っていただきたい。このためにも情報公開は重要ですね。そうでないと少子化して税収の伸びが望めない中、これまでの行政サービスは維持できません」
 「生駒市の特徴としては昭和40年、50年代に移ってこられた世帯が人口構成の中で突出しているんですわ。その主な層がいわゆる団塊の世代の方々です。この人たちが定年を迎え地域社会に大量に戻ってこられます。この世代の方は会社などで組織を動かしたり、人を動かしたりするノウハウを持ってます。また、学生時代は政治というか公というものに関心がたいへん高かった世代です。潜在的な地域の担い手なんですね。この人たちに働き掛けて、地域の活動に参加してもらう。こういうことが大事になってきます」
 「4月の市議選で私の支持団体が応援して当選した方にも、商社を定年退職後に関連会社で勤められていた方も居られます。ほかにも残念ながら落選されましたが、百貨店を1年くらい早く退職して立候補された方もいらっしゃいました」

ボランティアの拠点つくる

団塊世代が地域社会に戻ってくることを期待
団塊世代が地域社会に戻ってくることを期待
――団塊世代の大量退職は市民税など税収が減る一方、福祉をはじめとした行政ニーズが増えて自治体にとっては頭が痛いのでは。
 「これらの人たちが何もしなければ確かにおっしゃる通りです。だからこそ、これまで培ってきたことを地域に還元していただきたい。行政としては、そのための機会をつくらねばいけないと思います」
 「まず、これまで会社人間であった人たちに地域で仲間づくりしていただきたい。『いこま寿(ことぶき)大学』という生涯学習の場が以前からあります。ハイキングや絵画教室などの趣味・教養を楽しんでもらっているんですが、この卒業生がボランティアとして一般の人向けに俳句とか絵画などを指導できるよう、生涯教育ボランティアの指導者養成講座を今年度から始めました。これらの人に登録してもらう人材バンクもつくります」
 「今後の構想ですが、ボランティアの拠点づくりを進めます。そこへ行けば他のボランティア団体の情報を得たり紹介を受けたりできる場所にしたいんです。もちろん情報提供だけでなく、会合場所の提供やコピー機・印刷機の貸し出しなんかもやりたいですね」
 「行政の得意分野とボランティア団体の得意分野がそれぞれあります。行政は広報誌とか市の掲示板でお知らせしたり、補助金を出したりすることですね。具体的な活動はその団体に任せることだと思います」

「まず会わない」通す

――生駒では前市長が収賄や背任で逮捕されました。改革派と言われる知事や市長の中にも談合絡みで逮捕されるケースが続きました。自治体の首長にはやはり誘惑があるのでは。
 「生駒市も開発が進んでいます。開発されるということは工事でお金が動きます、利権ができるということですね。最近までは市民の市政への関心が高くなかったですし、市役所も議会も情報公開していませんでした。市民活動で当時の市の有力者と接していたとき、こういう人に任せていたら食い物にされるだろうな、と感じていました」
 「私自身については、当選前も含めて色々な方から『会わないか』というお誘いはありました。まず会わない、というのが基本です。市に指名願いを出している業者には一切会わない。できる限り議員さんとも個別には会わない。市役所内でも必要がないと会いません。市役所外ではもっと会わないようにしています」

――事件を教訓に、どのような対策を進めていますか。
 「過去の市の落札率を調べたところ、公共工事の件数で4分の3が(談合の疑いがあるとされる)落札率95%以上なんですね。そういうこともあり一般競争入札を増やすよう入札制度改革を進めています」
 「6月の議会で法令遵守推進条例が制定され、11月に施行します。まず市会議員だけでなく県会議員、国会議員、他の自治体の首長やその秘書を含めた公職者から職員に何らかの要望などがあればすべて記録して情報公開の対象になります」
 「もう1つ、職員と元職員を対象にした公益通報制度を設けます。法令違反があれば、内部告発ができるようにします。大学教授と弁護士、公認会計士の3人で構成する法令遵守委員会に原則、実名で通報する仕組みです。通報者を保護するため、何らかの不利益処分があれば、通報に報復したものであるとする推定規定を設けています。処分者が報復ではないことを証明しないといけないようにします」
 「ほかに議員提案で政治倫理条例の制定を議会が審議しています。今までは資産公開を義務付けられていたのは市長本人だけでしたが、市議をはじめ副市長や教育長やその親族にも広げます。それに加えて市会議員本人、その配偶者や親族が経営する企業は市との契約を辞退しないといけない、という内容です」

市役所の文化も変えたい

前市長の汚職・背任事件では市役所に大阪地検の捜索が入った
前市長の汚職・背任事件では市役所に大阪地検の捜索が入った
――市長としての取るべき対策は?
 「事件の事実関係や背景を調査して再発防止策を提言していただく外部委員会を弁護士ら5人で立ち上げました。土地開発公社を通じた土地の先行取得などについても見直ししてもらうことになりそうです」
 「補助金についても見直します。有識者や団体代表、公募の市民で行政改革推進委員会という第三者委員会を設けまして、これまでの補助金を継続・見直し・廃止の3つに仕分けをしてもらいました。またこれまで裁量が大きかった補助金交付の指針も決めていきます。補助金は団体の自立を促す方向で使っていきたいと思っています。これまで1回交付したら既得権益のようになっていたのですが、3年なら3年といった期限を決めていきたい」
 「あと職員の意識改革ですね。上司の指示が違法・不当な場合にその場で異議申し立てができるよう、グループ討論型の研修をしたいと思っています。また市役所の文化を変えていきたい。そのためにも市民に市政に参加してもらいたいんです。色々な基本計画があるのですが、これまでも形の上では住民参加の審議会ですが、実際は市役所職員がコンサルタントに頼んで作ってもらった計画を、そのまま受け入れるだけの存在です。これを魂のこもったものにしたい。計画策定段階から市民が議論して、数値目標を持たせ、その後の進行管理もやっていただく。市民も自分が関わった計画だから関心を持って見てくれます。環境問題なんかは市民の方が知識を持っていることも多いですしね。職員の尻をたたいてもらうことも期待しています。もう10以上の公募市民を含む審議会が立ち上がっています。先ほどの行政改革推進委員会もその1つです」
介護予防の筋力トレーニングを指導するボランティア(左)
介護予防の筋力トレーニングを指導するボランティア(左)
――今後、生駒をどんな街にしていきたいとお考えですか。
 「生駒を関西で一番良い住宅都市にする、ということを訴えてきました。緑豊かで広い家、大都市へのアクセスも良い、という利点を高めていきたい。そのための良好な住環境の提供ですね」
 「それと同時に、これから高齢者にいかに元気になっていただくか、というのも大事な仕事です。寝たきりにならずに、病院の世話にならずに年を取っていただく、生き生きとした生き甲斐を持って暮らしていただくというのが大きな課題です。そういう視点から、市としては介護予防事業に取り組んでいます。特に高齢者ボランティアによる高齢者の介護予防を進めています。マシンを使った筋力トレーニングで寝たきりにならないようにしてもらい、ある程度筋力を付けたら今度は指導の方に回っていただく。指導することで生き甲斐を感じてもらえるし、指導される側も目の前に目標が居られるわけですから、励みになります。これは、職員が考え出してくれましたが、先進的取り組みとして内閣府からも評価されました」
 「あと、生駒のようなベッドタウンは若い人を取り込まないと、税収確保ができないんですよ。自治体の間で若い人の争奪戦になっています。そのためにも子育て支援策にも力を入れていきます」
 「生駒には奈良先端科学技術大学院大学がありますので、企業誘致にも力を入れたいですね。具体策はこれからですが、補助金などの優遇策を検討していきたいと考えています」

【インタビューを終えて】住民の当事者意識がカギ

 山下市長のスタイルに対して、反対派からは「独善的」「独裁」「議会軽視」といった批判が出ています。議会の多数を必ずしも味方に付けているわけでもなく、既存の仕組みを変えていこうとするには、市民の声や専門家の意見などの「錦の御旗」がないとなかなか前に進められません。このため、有識者や住民代表を入れた第三者委員会や審議会で成案を得て、実現を図るという手法は大阪市などでも採られ、首長に対して議会を中心に同じ様な批判がある政治状況も似ています。

 少子高齢化と経済の低成長で税収が伸び悩む一方、福祉などの行政ニーズが増大して借金が多くなる自治体が増えています。従来と同じやり方では、行き詰まることが明らかになったとき、どこで負担と給付の新たな均衡を取るか、国もそうですが、自治体の悩みは深いものがあります。

 その施策が住民のためのものか、首長の独善なのか。カギになるのは、住民の多くが納得できる内容なのか、ということでしょう。そのためにも、情報公開や政策決定過程への住民参加は欠かせなくなってきました。しかし、情報公開・住民参加とも仕組みだけでは不十分です。その仕組みを使って、住民が自身の問題として考える、言い換えれば当事者意識を持つ必要があります。地域の公共問題を自分たちの問題と考えられるか、今、問われるのは住民自身だと思います。そして最も重要な地方自治への参加は言うまでもなく選挙を通じての民意反映です。私たちも自治体選挙の投票率の低さから改めていく必要がありそうです。

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