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インターネットなしの就活は、もはや考えられない。だが、便利になった半面、就活がバーチャル化してミスマッチも生じている。学生と企業。ネットに頼り過ぎない、アナログ回帰が起きている。(AERA編集部 大波綾)
ほめられたことではないが、筆者は昨年10月、いまどきの就活生の気分を実感したくて三つの就職情報サイトに登録した。
就職情報を多方面から提供するこれらのサイトでは、各企業の紹介や採用スケジュール、社員の声、就活体験記など、就職活動向けのさまざまな情報が読める。
会員登録すると、志望業界の企業情報がメールで届き、説明会やセミナーの申し込みなどもできる。就職情報サイトからのみプレエントリーを受け付ける企業もある。就活事始めとしては、サイトの会員登録は「きほんのき」なのだ。
15年ほど前、就職活動をしていた初々しい自分を思い出し、筆者は志望業界を「出版」として登録した。
すると次の日から「メッセージ到着」「更新情報が届きました!」といったタイトルで、メールがじゃんじゃん届く。多い日は1日30通以上届いた。
●毎日、メールと格闘
最初はうきうき気分で見るのだが、何かが違う。出版志望なのに、案内をくれるのはパンフレットの製作を請け負う会社だったり、出版社の子会社の人材派遣会社だったり。いわゆる出版社からはなしのつぶてだ。「なんちゃって就活生」だとバレてしまったということでもあるまい。次第にメールチェックを怠り、受信メールのホルダーが未読メールだらけになる始末。結局、迷惑メール設定にしてしまった。
本物の就活生ならそうもいかない。毎日、毎日、メールと格闘することになる。
10月1日、今年もリクルートの「リクナビ」、毎日コミュニケーションズの「マイナビ」、エン・ジャパンの「[en]学生の就職情報」など、就職情報サイトが一斉に「グランドオープン」した。2011年に卒業予定の大学3年生にとって、いよいよ本格的な就活の幕開けだ。
意中の会社に「応募したいです!」と意思を示すプレエントリー(応募者登録)が順次始まる。エントリーシート(ES)の提出や適性検査までサイトで行うところもある。
就活の基本動作はパソコン上で完結してしまう。加えて、「みん就」こと「みんなの就職活動日記」といった、クチコミ情報サイトまで日々チェックするとなると、まさにネット漬けの就活だ。
「ネットがにくい」
来春、大手損保会社に入社予定のYさん(早稲田大学4年)は、年が明けたころからパソコンに向かうのがおっくうになった。来る日も来る日も就職情報サイトからのメールに追われ、各企業の説明会の申し込みではパソコンに張り付かなければいけない。
メガバンクのセミナーは、受け付け開始直後からインターネットの回線がパンクし、5分後にやっとつながったと思ったら、画面には「締め切りました」と、つれない表示……。
「セミナーで適性検査も受けさせられるので、セミナーに参加できないとスタートラインに立てないのも同然。たった5分で門が閉ざされてしまうなんて、非情です」(Yさん)
銀行に内定しているS君(早稲田大学4年)も、ネットに苦しめられた一人だ。
「リクナビとマイナビと日経ナビに金融志望で登録していたら、一日に50通くらいたまっていた。しかもメールはすき間がなくびっしりと文字があるので、読むだけで1、2時間はあっという間に過ぎてしまう。くたびれてしまって、一通りのセミナーが終わった後は、受信しても即ゴミ箱行きでした」
●いまこそ「就活の3K」
ネット上で行う「適性検査」が立て込んだときは、集中力が続かなくなったという。
「単調な作業なので、検査を受けている感覚がまひしてきて、何かのアンケートに答えている気分になってきました。だんだん、適当になってきて……」
就活は本来、企業の人と学生という生身の人間同士がぶつかり合うもの。ところが、いまの就活はネットが支配している。バーチャル化が著しいのだ。
いまのように、ネット就活が根付いたのはいつごろだろう。
かつてはリクルートと言えば、電話帳ほどに分厚い会社案内本「リクルートブック」だった。
ある時期になると、学生の自宅に無料で届き、学生は綴じこみのはがき一枚一枚に手書きで個人情報を書き、送った。「リクルートブック」にない企業は、会社四季報などを見て、官製はがきで応募したものだ。
インターネットが普及し、現在のような「リクナビ」のシステムが誕生したのは1998年。あっという間に広がり、2003年には「リクルートブック」が廃止され、「リクナビ」に移行した。
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科の准教授で、『就渇時代の歩き方』(主婦と生活社)の著者、小島貴子さんは、ネット就活が避けられない時代だからこそ、「就活の3K」を提唱している。「汗をかく、恥をかく、文字を書く」の3Kだ。
−汗をかく
「最近の就職活動は『足で稼ぐ』場面が少ない。会社説明会に出向く、OB・OGに会って話を聞くなど、文字通り体を動かして汗をかくのもいい。社会人の先輩から礼儀作法や言葉遣いなどで思わぬ指摘を受けて『冷や汗』をかくのもいいでしょう。自分の目で見る、徹底的に物事を調べるなど、ネットから離れて『行動する就活』を目指してほしい」
−恥をかく
「『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』とはよく言ったものです。せっかく汗をかいてOB・OGやリクルーターに話を聞いたのなら、知ったかぶりは禁物。相手は学生だと割り切っています。妙に社会人ずれした態度やそつのない態度はせっかくの学生らしさが損なわれます。礼儀を欠いてはいけませんが、思い切って恥をかくつもりで、たくさんのことを社会人から吸収してください」
−文字を書く
「就活中はESをはじめとして書かなくてはいけない書類が山ほどあります。ESや面接の下準備として自分の過去を振り返ったり、就活日誌をつけたりすれば、頭が整理され、言いたいことが表現できるようになる。書くことが面倒だと、それだけで内定が遠のきます」
●企業側にも違和感が
「就活の3K」とは、脱ネット、アナログ回帰に等しい。
アエラ9月28日号では、「女子を救う就職課力」と題して、不況を背景として女子学生に逆風が強まるなか、「デジタルよりアナログ就活」の傾向が東京都心の有名女子大でも広がっている様子を紹介した。
東京女子大学では、昔ながらの求人票を掲示板に張り出しているが、他校の女子学生も、こっそりのぞきに来ているという。
1学年が1000人程度の昭和女子大学では進路支援センターに12人の職員が常駐し、学生一人ひとりにきめ細かく指導。希望者には面接の練習をビデオ撮影して、具体的にアドバイスする。
「学生はキャリアセンターに必ず足を運びなさい」
と指導しているのは、聖心女子大学。就職情報サイトだけを使わないようにと、くぎを刺している。
もはや「リクルートブック」の時代には後戻りできまい。だが、企業側からもネット就活の違和感は出始めているようだ。
9月15日、リクルートエージェントに大手企業の人事担当者が約90人集まった。
お目当てはリクルートエージェントのフェローで、雑誌「HRmics」の編集長・海老原嗣生さんの講演。
「『新卒と中途採用』リミックスの方程式」
と銘打った内容。中でも参加者がひときわ身を乗り出してメモを取り始めたのが、「人肌合わせ」の重要性に話が及んだときだった。
●「人肌合わせ」の復活
「一昔前なら、学生は企業にはがきで応募しましたが、はがきだと100通書くのは容易ではない。有名企業でも1万人の説明会エントリーはめったにないことでした。ところが、ネットなら100社エントリーすることは簡単。大量の応募が集まりすぎると企業は機械的に選別するしかなくなる。『人肌合わせ』の仕組みが著しく衰えているのです」
かつては、リクルーターが母校の後輩と会い、人柄、性格、雰囲気などの感触を探って逐一人事に報告した。短時間の面接や面談ではつかめない「肌感覚」を重視していたからだ。
海老原さんは、この「人肌合わせ」の復活を唱える。
ある大手商社では、2次試験に残った学生全員を対象に複数の役員が飲み会を開き、語りあう場を設けている。大手流通では、3次試験の代わりに2日間のインターンシップを取り入れ、お茶くみやコピー取りなどをさせて、どのくらい気配りできるかを見ているという。
「かつてはリクルーターが就活の入り口でしたが、人肌合わせにこだわる企業はリクルーターが入る場所を変えてきている。応募者全員は難しくても、採用予定数の10倍程度に絞ったところでリクルーターを徹底的に学生に密着させ、社風に合うかまでを把握して、適材を選考するのに成功している企業があります」
●逆リクルーターが有効
ある大手電機メーカーでは、入社1年目から役員クラスまで約1000人のリクルーターを投入して、出身大学のゼミや研究室を回らせる。しかも、「一人あたり学生100人に会う」というのがミッション。
自社の採用関連のホームページは充実し、就職情報サイトにも情報は載せている。だがこうしてリクルーターが学生に仕事の苦楽を率直に語り、社員と打ち解けられる場の設定を地道に増やすなど、ネットとアナログの併用で「人肌合わせ」をはかった。結果、人気企業ランキングが大幅に上がり、上位を維持するようになった。
教育サービス会社に内定した立教大学のIさんは、就活中、採用情報を集める以外、インターネットはほとんど使わなかったと言う。
「内定した出版社はOB・OGを中心に合計30人に会いました。いろいろな部署があることがわかったし、複数の社員と会うことで社風がわかってきた。ネットからは社風まではわかりませんから」
学生が志望会社の人に会い、社風を徹底的に聞く。「逆リクルーター」もまた、ネット就活時代には有効かもしれない。