「悪口は許さない」…米国系スターを“国外追放”した韓国ネット社会の恐怖
10月11日13時37分配信 産経新聞
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韓国から“追放”されたジェボムさん(JYPエンターテインメント提供)(写真:産経新聞) |
韓国の人気男性グループからリーダーが脱退した問題が韓国で一大騒動となった。リーダーは米国で生まれ育った韓国系アメリカ人。デビュー前に書いた「韓国人が嫌い」とのネット上の書き込みがやり玉に挙がり、「嫌なら米国へ帰れ!」と非難の書き込みが殺到したのだ。実際に脱退・帰国となった後はファンらが帰国を許した所属事務所側を責め立てる事態にも発展した。韓国ネット社会の恐ろしさを象徴している。(ソウル 桜井紀雄)
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■「韓国はムカつく」…きっかけは練習生時代の書き込み
騒ぎが持ち上がったのは、男性7人のグループ「2PM」(ツーピーエム)。昨夏のデビュー以来、きたえ抜いた肉体とダンスパフォーマンスが注目され、「アゲイン&アゲイン」や「お前が憎い」といった曲が相次ぎヒットチャート1位を獲得した。歌番組やバラエティー番組にも引っ張りだこで、男性グループ人気ナンバーワンの座を射止めた。
ところが9月に入って、リーダーのジェボム氏(22)が英語圏最大のネット掲示板「マイスペース」に過去に掲載した書き込みが意外な騒動を引き起こした。
《Korea is gay.I hate Koreans.I wanna come back.(韓国はムカつく。韓国人が嫌い。帰りたい)》
韓国系アメリカ人3世のジェボム氏が2005〜07年、米国の友人あてに英語で記したもので、こんな内容もあった。
《韓国はおかしい。おれはラップが下手なのに皆「うまい」と思っている。バカみたい》《ビジネスのために韓国にいる。一生の幸せのため、何年かは犠牲にできる。必ずアメリカに帰る…》
韓国の有力紙「中央日報」や芸能専門「スターニュース」などの報道によると、ジェボム氏は当時、歌手デビューを目指して韓国に渡り、有名芸能事務所の練習生をしていた。芸能関係者も「本人も書いたことをすっかり忘れていただろう」と話す。
だが、芸能専門サイトが取り上げたこともあって、書き込みは瞬く間にネット中に広がった。
《金だけ稼ぎに韓国に来たのか?》《2PMのイメージはよかったのに失望した》《韓国が嫌いというアメリカ人は米国に住め!》
ジェボム氏の書き込みを取り上げた掲示板は非難の言葉で埋まり、騒ぎは“ジェボム追放運動”と呼ぶ状態にまで発展した。
■わずか4日で出国…ファンは不買運動も
所属事務所側は素早い対応をみせた。ネットに書き込みが広がった翌日には、ジェボム氏が公式ファンサイトに謝罪文を掲載、活動の自粛を決めた。
《私は米国で生まれ育ったので、韓国文化についてよく知りませんでした。いまはそのような文を書いたことを、とても申し訳なく、恥ずかしく思います…》
だが、焼け石に水で、ジェボム氏の書き込みをめぐるネットの炎上は拡大の一途をたどった。そこで青年が下した決断はグループからの脱退、そして故郷の米シアトルへの帰国だった。
《このままの気持ちでステージに立つことは難しい。今日付で2PMを脱退します》
9月8日、ファンサイトにそう書き込み、その日の夕方に韓国をたった。空港にはファン約500人が集まった。ジェボム氏はファンを前に「申し訳ない」と頭を下げ、出国ゲートに消えた。ネットの炎上から出国まで4日とかからなかった。
ネットには、ファンがシアトルの空港で撮影した、母親らしき女性の胸に顔をうずめ、「ごめん」と繰り返しながら涙するジェボム氏の動画が掲載された。
非難の矛先は脱退・出国を許した所属事務所に向いた。
事務所側は「ジェボムの気持ちを尊重した」とコメントしたが、ファンクラブの会員らは、公式ファンクラブからの一斉退会と会費の払い戻しを要求。同事務所が関係する一切の商品の不買運動も表明した。ファン2000人が「返して」と書いたマスクをつけ、事務所前で座り込みデモも行った。
2PMはニューアルバムの発売を控えていたほか、残る6人のうちテレビ番組の司会を務めるメンバーもおり、事務所側は6人での活動再開を決めたが、「1でも欠けると2PMじゃない」とファンらの反発は依然強い。
■あこがれと反感…韓国系アメリカ人への視線
韓国芸能界には、ジェボム氏のほかにも活躍する韓国系アメリカ人は少なくない。米国育ちで比較的体形がよく、英語を自由に操るため、「カッコいい」と映るのだ。
顔立ちが韓国人と同じため、すぐに韓国社会になじむように思えるがそうでもない。
まずは言葉。日本人が韓国語を話すと「お上手ですね」となるが、彼らが話すと「韓国系のわりに下手」となる。それに、彼らは韓国人の交通マナーの悪さなどにしばしば本気で腹を立てる。
韓国系でない外国人は「国が違うんだから」とも考えるが、彼らにとって「同じコリアン」として見過ごせないのだという。書き込みをした当時のジェボム氏にもこのような心理が働いたのだろうか。
彼らを受け入れる側の韓国人の心理も複雑だ。
韓国人の英語コンプレックスは日本人以上で、「英語ができないと就職もできない」と周囲の韓国人学生は次々に米国やカナダに語学留学に向かう。これは序の口で、幼いころからの英語教育が重要だといって、父親だけを韓国に残し、母親同伴で留学する“過剰な英語熱”が韓国最大の社会問題のひとつにもなっている。
母語として英語を話す韓国系アメリカ人は「あこがれる存在」と映るが、裏腹のコンプレックスは、ときとして激しい憎悪として噴出する。
ジェボム氏の出国問題をめぐり、韓国メディアは「韓国人の心の底にはいまだ『米国市民権保持者』に対する反感のようなものが隠れている」(朝鮮日報)、「韓国社会に依然ある敏感で強い愛国主義、民族主義コンプレックスが現れた」(中央日報)と指摘した。
■過去には入国禁止の歌手も「第2のユ・スンジュン事件」
「第2のユ・スンジュン事件」。韓国メディアはジェボム氏の脱退・出国騒動をこう呼んだ。
韓国では02年、米国で生まれ育った人気歌手のユ・スンジュン氏(32)が兵役前に米国市民権を取得したことが「兵役逃れ」との世論の大反発を招き、当局がユ氏の再入国拒否の措置を取り、現在も韓国入国が許されていない。
韓国では全男性に2年間の兵役義務があるが、韓国系アメリカ人に対する反感のひとつに「兵役を逃れている」との感情がある。ジェボム氏への非難の書き込みにも《軍隊にも行かない米国市民権保持者はさっさと帰れ!》との内容のものがあった。
過去の言動が掘り返され、激しい憎悪がぶつけられるのは韓国系アメリカ人に限ったことではない。
16年間、韓国の地方で暮らし、方言を駆使した親しみやすい話し方から韓国のバラエティー番組のコメンテーターなどとして人気を博した日本人大学教授(41)がいた。CMにまで起用され、「知らない韓国人はいない」といわれたが、06年にネット上で大バッシングに遭い、韓国を出ざるを得ない事態になった。
過去の著書での韓国批判が「親韓の裏で悪口を言っている」と非難されたのだ。
ジェボム氏の問題では、彼の出国を境にネットではジェボム氏に同情を示す書き込みが広がった。
討論番組のテーマにこの問題が選ばれるなど、各メディアは、女優の崔真実(チェ・ジンシル)さんら悪質な書き込みを苦にした芸能人の相次ぐ自殺同様、ネットの暴力性を示す問題として取り扱っている。
朝鮮日報はコラムでこう指摘した。
《韓国の歌謡界はとりわけパクリ批判が多いが、それが原因で引退した歌手はいない。麻薬や飲酒運転による人身事故で逮捕されても復帰するタレントも多い。しかし国家、民族、兵役の問題に引っかかると、芸能界を永久追放される》
ジェボム氏出国問題に関する世論の風向きの変化は韓国国際化の新たな一歩とみていいのだろうか。
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最終更新:10月11日13時37分
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