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社説

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天下り―あっせん禁止では不十分

 官僚の天下り問題で、官僚やOBを企業・法人につなぐ政府の「あっせん」を、鳩山政権が禁止した。

 予算や権限をてこに、省庁が職員を押しつけ、受け入れる側は補助金や事業の発注、許認可での有利な取り計らいや情報を期待する。そんな図式のなかで、実際に官製談合や無駄遣いの温床になってきたこの問題に、厳しく対処するのは当然のことだ。

 自公政権は、省庁によるあっせんを官民人材交流センターに一元化するという解決策を描いた。省庁が利害関係のある企業・法人に受け入れを直接求める形をやめれば、「押しつけ」色が薄くなるというわけだ。

 だが、変わったのは形式だけだった。センターが昨年末の発足から8月末までにあっせんした幹部公務員172人のうち、81人は出身省庁が所管する公益法人に天下りしていた。

 鳩山政権は、省庁かセンターかを問わず、あっせん自体をやめるという。厳しく臨む姿勢は評価したい。

 ただ、あっせんは天下りを支える手法のひとつに過ぎない。あっせんを受けず、官僚OBが直接、後輩を呼び寄せる「裏ルート」も存在する。

 仮にあっせんの禁止で「押しつけ」色が薄れたとしても、企業などの側が有利な取り計らいや情報を期待して迎え入れるケースは、今後も続くに違いない。そこに切り込まない限り、天下り問題は終わらない。

 さまざまな工夫が必要だ。たとえば、予算編成や入札の透明化である。随意契約は不公正の温床になっている。公益法人に補助金や委託費を支払い、その多くがOBらの人件費に消える例も指摘されている。

 官僚が天下り先を優遇する道を封じる一方、省庁が外郭団体として設けた公益法人の整理も進めるべきだ。

 もっと根本的には、官僚の働き方を変える必要がある。定年を段階的に65歳まで引き上げ、年金受給開始まで勤められるようにするのもそのひとつだ。ただ、官僚が霞が関にこもるのもよくない。

 官僚が民間で経験を積み、民間から有為な人材が省庁に入る交流を進めたい。省益にとらわれない人材育成は、天下りをなくす土壌にもなる。

 民主党は行政刷新を掲げている。官僚機構のあり方を変えることは、めざす本丸のはずだ。衆院解散で廃案になった公務員制度改革関連法案に代わるどんな法案を出すか。改革の具体案を示してほしい。

 やる気の試金石が独立行政法人と特殊法人の役員人事だ。政府は前政権下で決まっていた42人の人事を一時凍結し、12月末までに公募で選考する方針だ。官僚の応募も認める。「公募の結果、天下りばかりになった」という笑えない事態はごめんだ。

G4構想―日本も柔軟に考えたい

 世界の経済・金融秩序を主導してきた主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)に代わって、米国、欧州連合(EU)、日本、中国のG4をつくる案が浮上してきた。

 米国が非公式に提案した構想で、欧州はひとくくりにされ比重が減ることに反発したようだ。中国も慎重で、すぐにかたちになる話ではなさそうだ。

 だが、グローバリゼーションの新段階を迎えた世界経済や基軸通貨のゆくえを展望すれば、21世紀前半の大転換期に対応する有力な解のひとつにも見えてくる。

 鳩山政権はG7という古い枠組みに固執せず、柔軟に対応すべきだ。

 世界経済にかかわる国際機関や首脳会議の枠組みについては、新興国の台頭や世界同時不況を機に変革が求められ、議論が噴き出した。

 世界の首脳が集まるG20サミットが開かれるようになったことが大きな一歩となった。一方、G8サミットは、日米欧とロシアだけで世界をリードする限界を露呈した。

 G7は、73年の変動相場制への移行や石油危機を機に、米、英、仏、旧西独、日のG5で始まり、86年に伊、加を加えた。先進国が世界経済の安定と成長に向けて政策協調を進める枠組みとして続いてきた。

 だが、米国が不満をあらわにするように、儀式化し、共同宣言をまとめるのにきゅうきゅうとしている現実もある。ロシアを加えたG8も、中国を欠いている限界がある。中国は世界第2の経済規模となることが確実で「世界の工場」から「世界の市場」に飛躍しようとしている。

 米国がG4を言い出した背景には、欧州の変容もあろう。単一通貨ユーロの一般流通や経済危機をテコに欧州経済は拡大しつつ一体化へとうねる。政治統合を一段と進めるリスボン条約の発効も見えてきた。

 米国からすれば、陰る基軸通貨ドルの地位を協調の中で守りつつ、世界の為替・金融市場の安定を図るという含意もあるだろう。

 もちろん、世界にとってもドルの暴落は阻止しなければならないことだ。基本的にはサウジアラビアなどを含むG20による世界規模の政策協調を進めていくしかない。だが、G20は参加国が多いだけに機動性を欠く。

 ドル、ユーロ、人民元といった複数基軸通貨時代がやって来るかもしれない可能性を念頭に置けば、米国は国内総生産(GDP)の規模から日本も入れたG4で貿易などの不均衡や危機に対処していくという道を探りたい、ということではないだろうか。

 G4構想の行方は定かでない。だが、そうした枠組みが世界経済の安定や成長に役立つのなら、日本も積極的に動いてよいのではないか。

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