捨て猫ヨタの物語

     

                           別れ


    そんなこんなで2週間が過ぎた、だいぶ大きくはなったが、恐れていた事が起きた・・・・。

   著しく2匹の大きさが小さいのだ。この2週間、夏も近いのに24時間ストーブでヤカンを炊いて

   部屋を消毒してきた、目覚ましも4つ集めて猫の名前を付けて規則正しくミルクも排泄もした、

   バスタオルは一日に4回交換したくらいである。どうやら初乳を飲んだのはヨタとアソだけらしい、

   あとの2匹はミルクもちゃんと飲むのにどんどん痩せていく、とくにメスの「ふじ」が発育が遅い。

   初乳を飲んでいない子供は末期のエイズ患者と同じでほとんど抵抗力が無い、こればかりは

   何をどうしても仕方がない、生まれたばかりなので自分もこのことが一番怖かった故にストーブ

   でお湯を炊いて部屋を無菌状態にしてきた。19日目、ついにフジは卵2つくらいの重さでしかなく

   なった。最後の希望は親猫である、でも今の状態で外に出せば外は細菌だらけである。間違い

   なくフジは感染症に犯されるであろう、それでもフジの体を拭いたタオルをあちこちに置いて、捨て

   てあった場所の近くにフジを連れて行くことにした。親猫が野良猫であるならもしかしたら咥えて

   連れて帰るかもしれない、親猫が野良猫である可能性は高い、なぜならこの猫達は人間の怒りに

   よって捨てられた可能性が高いのだ。ビニール袋を幾重にも結ぶとこなど明らかに殺意がある。

   飼い猫ならこんなことはしない、そもそも猫が嫌いなら飼う訳が無い。こういうことをする場合に人間

   の心理からすると、日頃から野良猫に手を焼いている人であろう。そして恐らく軒下か屋根裏に親猫

   が入り込んで子を出産したのであろう、自分の田舎などではそんなこと珍しくないのであるが、確かに

   屋根裏から聞こえる泣き声は寝苦しいのではあるが・・・。まあ、それは良しとして生後10日目、ふじ

   を箱に入れて空き地の片隅に置いた、キャットフード、缶詰め、にぼしなどを置いてその場を去ること

   にした、当然ではあるが野良猫は警戒心が強い、隠れても気配で察知されてしまう。長い夜が始まった

   フジは丸まったまま、か弱く呼吸をしてる、「バイバイ。」なぜか自分から出た言葉はそれだった。

    次の日の朝、アソを見に行くとアソはそのままの姿で死んでいた。タオルが首まで掛かったまま。

   猫用の缶詰めとニボシは半分以上食べられていた、「やはり人間の臭いが付いていたからかな・・。」

   などとしばらくは冷静に考えていた。しかし丸く冷たくなったアソを抱いた時、その軽い屍を抱きしめ

   たとき急に怒りが込み上げてきた。「こんな東京なんざ俺一人でぶっ潰してやる!」。ぶつけようの

   ない怒りは「都会」という虚像にむけられたのであった。今思えばかわいいものであるが・・・・。

貴重な一枚。これしかないけど4匹とも元気な

頃の写真。このころは4匹ともスクスク育つと

思っていました。


                           焦り

     その後はまさに毎日が地獄であった、フジの後を追うようにアソが死んだ、これもフジと同じで

    衰弱死であった。私の彼女も泣きながらテッシュの箱にアソと花を入れて一緒に埋めに行った。

    今思えば可哀想なことをしたかもしれない。(Cさんホントにありがとうね!)

     ヨタはスクスクと育っている、しかし、2週間半がたち、とっくに仕事も復帰した時にゲンに異変

    が起きた。げんはヨタより少し小さいくらいで、さして問題は無かった。ある朝起きるとゲンの元気

    が無い、呼吸が速くまるで動かない。急遽仕事を休んで動物病院に連れて行った、先生は険しい

    顔をして、「肺炎にかかっています・・・、もう目を開ける力も残ってません・・・」、「そうですか・・・」

    その場はそんな会話で終ったのだが、待合室で待っている時に先生が来て、「何匹かノミがいた

    けど、あの猫は拾ったの?」と、話しかけられた。私はその先生に今までのことを全部話した。すると、

    「えらいね、君のやり方は何も間違ってないよ。特に最初に死んだ猫を拾った場所に持って行った

    とこなんてね、初乳を飲んでないならそうするしかないし、たとえ死んだとしても親猫の元が一番だ

    からね。人間も一緒だよ、誰から教わったの?」、「ばあちゃんです・・・。」と、答えると、「そうか、

    実は私も子供の頃猫を拾ってきてね、最初はおばあちゃんにすごく怒られたんだけど、最後は全部

    おばあちゃん任せになっちゃってね・・・。」、自分も同じ経験があった、涙が溢れるように出てきた。

    ゲンはミルクが気管に入って肺炎になったらしい、確かに勢い良くミルクを飲むゲンが何度かむせて

    いた時はあった。でもその時はあんな小さかったゲンがあれだけ勢い良くミルクを飲めるようになった

    のがあまりにもうれしかったのである・・・。その日の夜やはりゲンは死んだ。やはり自分の無知さが

    ゲンを死なせてしまったのでは、という罪悪感が離れなかった。ゲンの骸を持って帰る時、動物病院

    の先生が、「ヨタ君に何かあったら何時でもいいからすぐ連れてきなさい、いいね!。」と言われた。

    先生の自宅の番号を教えてもらって帰る時、「もっと早くここに来ていれば・・。」と、後悔しながらゲン

    を埋めに行った、動物病院でキレイな箱に詰められいたので帰りの足でフジとアソの隣りに埋葬した。




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