きょうの社説 2009年10月12日

◎暫定税率廃止 地方減収分の補てん必要
 鳩山由紀夫首相が新政府税調に諮問した道路特定財源の暫定税率廃止が実施された場合 、石川県は県税と国からの補助金を合わせて100億円超の財源を失う。県財政は深刻な打撃を受け、満足な予算が組めなくなるだろう。暫定税率の廃止は民主党マニフェスト(政権公約)の目玉として掲げた政策であり、何が何でも実現したい気持ちは分かるが、地方の減収分を補う新たな知恵が求められる。

 08年度の石川県の県税収入は前年度比4・3%減の1570億5587万円で、5年 ぶりのマイナスに転じた。不況が深刻化した09年度は、さらなる減収が避けられない。こんな状況で、国がドラスティックに制度を変えれば、地方はますます疲弊する。暫定税率は全廃でなく、少なくとも地方分は残すという選択肢もあるのではないか。

 暫定税率は昨年3月末に期限切れを迎え、衆参がねじれ状態の国会で、10年間の維持 ・延長を目指す政府・与党と、撤廃を掲げる民主党の主張が対立し、一時失効した。このときは、失効期間が1カ月だけで、国が失効に伴う減収分を補てんしたため、予算上の問題は生じなかった。

 しかし、全面廃止となれば、影響は計り知れない。昨年4月当時の県の試算では、県税 収入は年間で72億円の減収となり、さらに国税である揮発油税などから県に入る補助金104億円についても55億円が減る。国が何も手当しなければ、その分の歳出見直しを迫られることになる。

 暫定税率が廃止されると、ガソリン価格が1リットル当たり約25円安くなる。車は地 方では「日常生活の足」であり、家計にも企業にもありがたい「減税」だ。今後、原油価格がじわじわと値上がりしていく可能性があり、廃止を求める声は高まるばかりだろう。

 しかし、廃止によって国1兆7000億円、地方9000億円の計2兆6000億円の 税収に穴が開く。温室効果ガス排出を2020年までに1990年比25%削減する鳩山政権の「国際公約」との整合性の問題を含めて、国民が納得いく解決策を提示してほしい。

◎「ゼロの焦点」公開へ 能登一体でブーム再燃を
 かつて能登ブームを巻き起こした松本清張の代表作「ゼロの焦点」が再映画化され、来 月の封切りを前に、ロケが行われた志賀町では、映画のラストシーンに登場する「ヤセの断崖(だんがい)」への問い合わせが相次いでいるという。映画による誘客効果を能登全体に波及させるためにも、映画の舞台周辺だけでなく、映画を切り口にした能登周遊ツアーを提案するなど、一体感のある誘客戦略を練り上げたい。

 最近では、高峰譲吉の半生を描いた「SAKURA SAKURA」のロケが、ゆかり の七尾市で行われたのをはじめ、がんに侵された妻との旅を描いた七尾市の男性の手記「死にゆく妻との旅路」が映画化されるなど、能登がストーリーの中で重要な位置付けとなる作品が相次いで公開される。こうした動きも見据えながら、スクリーンがけん引する能登ブームを再び起こしたい。

 戦後の能登ブームは「ゼロの焦点」第1作と、曽々木海岸などで撮影された「忘却の花 びら」の公開を機に始まり、能登線開通も重なり、昭和30年代から40年代にかけて全国から多くの人が足を運んだ。シーズンになれば、民宿が満杯で民家の軒先を借りて宿泊する旅行者も珍しくなかったという。

 確かに「ゼロの焦点」の筋立ては深刻で重々しく、全国で50万人以上の観客を動員し た「釣りバカ日誌」のように、明るく能登をPRする映画ではない。それだけに誘客の取り組みも鈍いのかもしれないが、ミステリーやシリアスなドラマが似合う風土もまた人を呼び込む力を持つ。

 今回の再映画化は、松本清張の生誕100年記念という点で話題性があり、全編にわた って金沢や能登を中心に北陸が舞台となっている。ヒットした第1作を見て能登に足を運んだ熟年ファンの再訪も期待できよう。

 県をはじめ能登の自治体や観光団体が一体感をもって企画を練り、たとえば冬の外浦を 中心とした多様な海岸線をめぐるコース設定や、大都市圏の拠点上映館で能登のPRコーナーを設置するような取り組みもあっていいだろう。