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きょうのコラム「時鐘」 2009年10月12日
石川県立歴史博物館で開かれている「本願寺展」で、織田信長の起請文(きしょうもん)を見た。北陸の門徒も加わった戦いの終結を宣言した史料である
「信長」の文字の下に、赤黒いにじみがある。指を切って滴らせた血判。紙に残る赤が、あの信長の血の一滴だと思うと、目がくぎ付けになった 以前に別の血判状を見たことがある。一向一揆との戦いに手を焼いた信長が加賀の領地保証を条件に、停戦を誓った史料である。同じように血判があったが、このときの約束は信長の裏切りでほごにされた。血の色にも戦国の非情がある 会場には国宝、重文の寺宝も多く並ぶ。連れ立ったお年寄りが「めったに見られんものや」「ありがたい」とささやきながら鑑賞する姿があった。戦国の謀略を伝える史料と、人々のあつい信仰を集める寺宝とが、ケースを接して並ぶ。不思議な光景だが、醜さも気高さも併せ持つのが人の営みなのだろう 飢えや争乱のない世はありがたい。が、その「ありがたさ」を思う心が薄れる時代でもある。足早に会場を巡る若者も見掛けたが、心静かに頭を垂れるのが作法の展覧会もある。 |